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第73話 コロシ?呪い?

 長らくご無沙汰しております。

 概ね半年ぶりの投稿になりました。

 実のところ、今年正月に急病となり、救急車で病院に運ばれる事態になり、その後概ね一月の入院となりました。

 退院後、入院生活の影響なのか一向に創作意欲が湧かず、自宅療養と長めのリハビリをしておりました。

 一応、普段の生活に戻ったのは三月に入ってからのことでしたが、一向に執筆の意欲が生まれず、このように半年の御無沙汰になってしまいました。

 徐々に、創作活動に復帰しようとは思っていますが、すっかり『何もしない』という怠惰な生活に慣れてしまい、戻るのにはかなりの努力が必要なのです。

 少々復帰が遅くなりましたが、温かい目で見て下さるとありがたく存じます。


 By サクラ近衛将監



 久方ぶりに大山さんから連絡が入った。

 大山さんも渋谷署で結構長いんだが、生憎と叩き上げなので昇進は中々しないようだね。


 でも上司や本庁からは、物凄く信頼されているようだ。

 まぁ、そんな話は別として、大山さんからの依頼はかなり面倒な話だった。


 事件そのものは、殺人(ころし)なんだが、鑑識でも全く手がかりが得られないという特殊な事件なんだ。

 事件が起きたのは管内でも松濤(しょうとう)地区と同様に豪邸が立ち並ぶ広尾地区だ。


 その広尾2丁目にある約560平米(約159坪)ほどの敷地にあるお屋敷での殺人事件だった。

 亡くなったのは、同屋敷の当主である中峰総一郎さん、63歳で、某不動産会社の社長だったらしい。


 亡くなっていたのは、屋敷の庭に造られた緊急避難所とでもいうべき地下のパニックルーム(地下シェルター)なんだ。

 ここに入るためには、屋敷の地階から専用通路を使って入らなければならないんだが、その専用通路の入り口に一か所、パニックルームの入り口に一か所と、二か所もの分厚い金庫じゃないかとも思われるような油圧式扉を開けなければ入れない。


 そうしてこのパニックルームに誰かが一旦(こも)ると、内部からしか開けられない仕組みになっているらしい。

 つまりは二重の扉によって封鎖された密室での殺人と言う訳だ。


 この状況で渋谷署が何故殺人と断定したかと言うと、当該パニックルームの床にうつぶせに倒れている中峰氏の背中に刃渡り30センチを超えるククリナイフが突き刺さっていたからなんだ。

 自殺の場合、背中に刃物を突き立てる方式は、まず取らない。


 仮にそんなことをしてからうつぶせに倒れるとすれば、刺された場所にも血痕が残るはずなんだが、鑑識ではうつぶせになった状態で刺されたものという結論が既に出ているらしい。

 ナイフが天井から落ちてきたぐらいでは為し得ないような刺し傷のようだから、間違いなく第三者が介在したのだろう。


 凶器について言えば、日本ではこんな刃渡りの大きなナイフを無断で所持することは許されていないから、昔の刀剣類と同様に個人が所持するためには銃砲刀剣類取締法によって地域の公安委員会から許可をもらう必要がある。

 で、問題のククリナイフについて確認したところ、いずれの公安委員会でも許可がなされていない代物であったらしい。


 その出自が不明なところが大きな問題で、家人から事情を聞いてもそんなナイフは見たこともないそうだ。

 因みに亡くなった中峰氏の御母堂がいまだ健在で、記憶もしっかりしているのだが、そのご母堂ですら中峰家にはそんなものは無かった筈と断言している。


 もう一つ大事な話として、三か月に一度は、家族でパニックルームの備品点検等があるようなのだが、その際に長男夫婦が立ち会ったけれど、備品の中にククリナイフなんぞは無かったことが判明している。

 内部面積が5坪ほどのパニックルームだから、備品と言っても大したものはない。


 衣類と保存食料、それに医薬品が主である。

 刃物類は、精々果物ナイフと保存食量の開封用の食品用ハサミが置いてあるだけのようだ。


 因みに点検記録用のリストが残されていて、家人の証言にほぼ間違いが無いと判断されている。

 従って、このククリナイフは屋敷外から持ち込まれたモノと断定せざるを得なかったようだ。


 まぁ、密室での殺人事件だからね。

 『明〇小五郎』氏か『コ●ン』君あたりの出番になるわけなんだが・・・・。


 困った時の神頼み宜しく、俺が呼ばれちゃったわけだ。

 中からしか開けられないはずの密室をどうやって開けたかって?


 そりゃぁ、中に籠ったまま一週間も出て来ない当主を(おもんぱか)って、家族が建設会社に依頼して二重の扉をぶち壊したからに他ならない。

 中峰氏が使用中という記録が家族にしかわからない方法で残されていたので、中峰氏のパニックルーム入室していることが分かったらしい。


 因みに専用の有線電話でパニックルームとは連絡ができるのだが、心配した家族の呼び掛けにも中峰氏が応じないので、業を煮やして最終的な手段に踏み切ったようだ。

 このため最初に内部に入って遺体を発見した者は、依頼を受けた建設会社の作業員である。


 鑑識の調べでは、死因は背中からの刺殺による失血死であり、死亡推定日時は発見日時の8日前から10日前頃とされている。

 つまりは中峰氏がパニックルームに入ってすぐ若しくは二日以内に殺害されていたことになるわけだ。


 前置きはともかく、先ずは現場確認だよな。

 で、大山さんの依頼により広尾に在る中峰家のお屋敷にお邪魔したわけなんだが、我が家よりも小さ目ながら二階建て(一部地階あり)の立派なお屋敷だぜ。


 形ばかり家族から事情を聴いた後で、例によって、最初に中峰氏の動向について、家の居付きの霊に事実確認だ。

 少なくとも、パニックルームに入る前までの行動に不審な点は無かったよ。


 但し、家の霊もパニックルームが後で新設されたために、パニックルームと地下道は居つきの霊が違うみたいだ。

 パニックルームに入ってからの出来事については家の霊が知らないらしい。


 ある意味でこれはちょっと珍しい現象だね。

 普通ならば、居つきの家の霊が、家屋の一部が新設されようが修理されようが、敷地内のことは全部把握しているはずなのに、把握できない部分があるというのがそもそもおかしいんだ。


 或いは、パニックルーム自体が元々あった古い施設を改装したのかも知れない。

 例えば戦時中の防空壕(ぼうくうごう)施設なんかの場合、家が全焼して防空壕のみが残ったような場合は、その施設だけの霊が居残るようなこともあり得る。


 以前、欧州を旅行していた際にカタコンベを見学したんだが、カタコンベの地下施設と地上の建物の霊が違っていたことが有るからね。

 カタコンベ自体はローマ時代のモノで、地上の建物は第二次大戦後の代物だったんだ。


 まぁ、そんな話はともかく、ぶち壊された地下の分厚い扉二つを抜けて、問題のパニックルームに入り、当該居つきの霊から情報を収集した。

 結果として、どうも怨念(おんねん)による殺人とわかったんだが、さてどうすべぇか・・・?


 こいつは、大山さんにも中峰氏のご家族にも説明ができない事案だぜ。

 事件捜査をして事案の解明をしなければならない大山さんが困るのはわかりきっているんだが、真相をぶちまけても現代の科学捜査では絶対に証明できないだろうなぁ。


 その後、大山さんにお願いして凶器であるククリナイフを見せてもらって、由来を辿ってみたんだが、事件の発端はどうも20年ほど前に(さかのぼ)るようだ。

 英国に観光に行った中峰氏が、困窮しているグルカ族の傭兵のお願いを、一旦は引き受けていながら放置したのがどうも原因のようだぜ。


 中峰氏とグルカ傭兵の出合いの端緒はともかく、ロンドンで中峰氏と知り合ったグルカ族の傭兵が、お願いしたのは病気になっている妹を病院に入れてほしいということだった。

 そのために5万ポンド(当時の相場で言えば750万円超)の金を中峰氏に預けたのだが、単純に言って中峰氏がネコババしたわけだ。


 当のグルカ族傭兵サガンは、スリランカ内戦に派遣されて、2002年にスリランカで戦死している。

 また、その妹メリナも翌年に兄からの支援が止まったことから病気が悪化して亡くなっている。


 中峰氏はおそらく助けようと思えば助けられる立場に居たので、一旦はお願いを受けてインド北部に向かう予定であったらしい。

 或いは、最初からネコババするつもりで金を預かったのかも知れないが・・・。


 そこまで調べるのは骨が折れるから現地での調査はしなかったんだが、いずれにしろサガンとメリナの怨念がサガンの所持していたククリナイフに籠っていたよ。

 もし彼岸(ひがん)があるとすれば、そこで落ち合った二人の魂が怨念となってこの世に顕現(けんげん)し、ククリナイフに籠ったのかも知れないな。


 スリランカで戦死したサガンのククリナイフが、日本まで運ばれたのはインド海軍の空母が極東まで出張ってきて自衛隊や在日米軍と交流を行ったからだ。

 このインド海軍の空母が横須賀の米軍基地に停泊した際に、インド兵が艦内で所持していたサガンのククリナイフが紛失した事実がある。


 スリランカにあったククリナイフがインド兵の手に渡るまで色々な変遷があるのだが、いずれにしろ日本国内でククリナイフが紛失し、その後数日で中峰氏のパニックルームに出現したことになる。

 怨念がよほど大きかったのだろうが、死体検案書では刃渡り32センチのククリナイフが根元まで中峰氏の胸部に突き刺さり、心臓を貫いて、刃先が反対側に突き出ていたらしい。


 で、やむを得ないから、俺も困った時の神頼みじゃないんだが、夢枕に立ったグルカ兵士の話を翌日に大山さんに話したよ。

 大山さんも絶句しながらも、不承不承、米海軍を通じて在日中のインド空母に問い合わせ、ククリナイフについて問い合わせをしたようだ。


 因みに当該ククリナイフを所持していたインド人兵士は横須賀滞在中、一度も上陸しておらず、この兵士が中峰氏を殺害したという嫌疑は消えていた。

 なお、中峰邸には監視カメラが出入り口を含めて数台設置されており、パニックルームの入り口にも設置されていたのだが、過去二週間以内で中峰氏以外の人物が中に入った記録はない。


 従って、夢枕に立ったグルカ兵の自白によれば、当該怨霊がククリナイフを使って中峰氏を殺したということを俺から大山さんには伝えたわけだが、大山さんが警察内部でどのような結論にするのかは、彼次第だな。

 俺の方は一応依頼の仕事は終えたんで、手付金と一日分の出張料を請求しておいた。


 多分、夢枕の話では事件解決にはならんだろうとは思うが、少なくともククリナイフの出所だけは確認できたはずだ。

 後の警察内部での判断については、俺も責任は持てないよねぇ。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様でした。 ご無事で何よりです。 カクヨムの方も合わせてこれからも楽しみにしてますので、のんびり更新をお待ちしてます。
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