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第72話 失踪者と誘拐

 俺の事務所に依頼に来る案件では、やはり行方不明者の捜索がダントツで多い。

 特に最近は、認知症の疑いのある高齢者の捜索依頼が増えたな。


 ここ3カ月で、高齢者の行方不明に関する依頼件数は20件を超えているんだぜ。

 多分、同じような悩みを抱えた人達のネット・サークルでもあるんじゃないかと思う。


 そんなところで紹介されると、流石に遠方の人は来ないけれど、近隣の人達はモノは試しとやって来るわけだ。

 決して依頼料金は安くは無いんだぜ。


 それでも来るというのはやはり困っているからだろうと思う。

 因みに、全国の行方不明者約8万人から10万人の内、約2万人が認知症関連の行方不明者数であり、東京都の場合、認知症関連行方不明者数の1.5~2%前後なので、まぁ、比較的少ない方だろうな。


 統計上で数が多いのは、何故か関西方面で、兵庫県と大阪府が特に多い。

 この二つの府県だけで約2割の4千人を超えているんだぜ。


 都内の認知症関連の行方不明者数は300件前後だから比較的少ないと言えるだろうが、実際のところ、届け出が出ていないうちに解決したような事例はもっと多いのかも知れないな。

 人口密集地の場合、人が多い分、周囲の人が異常を発見し易いんだ。


一方、過疎地では、普段の人づきあいで良く知っている人が異常に気付く可能性も高いのだが、その一方で当該高齢者が一旦遠方に出かけてしまうと、発見が難しくなる。

 認知症関連で行方不明となった人(届け出のあった分)で約95%強の人が無事に発見されているんだが、約3%弱は死亡しており、また約2%弱は1年以上経っても未発見のままであるようだ。


 最近はGPSの普及などで、そうした高齢者の失踪時に役に立っている場合もあるんだが、全ての人がGPS機能を利用しているとは限らない。

 GPSで位置特定のできるスマホを持たせても、スマホを持たずに外出してしまえば役には立たないだろう。


 また、中敷(なかじき)のように靴に設置できる特殊なGPS端末のレンタルを行っている地方自治体もあるようだが、例えば対象者が別の靴やサンダル履きで出かけたような場合には役に立たないんだ。

 俺の事務所へこうした案件での依頼がある場合、概ね三日後から四日後に依頼がなされる場合が多いんだが、行方不明となった自宅から追跡をかけて、22件中21件は無事に保護できたな。


 但し、残念ながら1件は、身元不明のまま病院で亡くなっていたよ。

 この人物は、自宅から百キロ以上離れた場所で倒れていたところを通行人が見つけたんだが、余り人通りのない場所だったことから発見が遅れたようだ。


 発見当時にはまだかろうじて息があったようなんだが、救急車で搬送中に呼吸停止、病院に運ばれた時点で心停止状態、医師が蘇生を行うも生き返らなかったようだ。

 この人物については、行旅死亡人として自治体が行政解剖に付し、某大学の法医学部で預かっていた遺体を俺が探し当てた。


 警察や行政庁間でも一応情報伝達が行われていたんだが、行政側が身元特定手続きをしている間に俺が見つけたということであって、多分俺が動かなくても、いずれ家族には死亡通知がなされただろう。

 遺体は、一応遺族のもとに返すことができたけれど、残念な話だよな。


 仮に、失踪から24時間以内に俺のところに依頼が来ていたなら、無事に家族の元へ帰すことができたかもしれない。

 いずれにしろ、認知症の疑いのある対象者への接触には、結構注意を払わねばならないこともある。


 特に、ご本人が認知症を認めていない場合は、プライドを傷つけられたと感じたら、ヒトの言うことを聞かない頑固さが表面に出てきたりするんだ。

 だから俺の場合は、発見した時点で見守るだけに留め、できるだけ家族に現場に来てもらうようにしている。


 手間はかかるんだが、それが一番良い方法なんだ。

 但し、命の危険がある場合は、すぐに干渉するんだぜ。


 その辺は、俺の居候に承朗(しょうろう)(和風薬神の孫)が居るからな。

 そいつに現状で危ないかどうかを、その都度判断してもらっているよ。


 仮に当人に守護霊がついて居るような場合には、当該人物の現況確認もして貰っているんだぜ。

 体調が普段とどの程度違うのかは守護霊が良く知っているからな。


 ◇◇◇◇


 ある日の日没時、久方ぶりに渋谷署の大山さんから電話連絡があったぜ。

 その日の午後二時半ごろ、都内港区で幼稚園児が誘拐されるという事件が発生したようだ。


 問題は、当該幼稚園児が小児性糖尿病の患者であって、インスリン注射を欠かせないという事だ。

 樋口(ひぐち)洋一(よういち)君、6歳の場合、未だ症状は軽度ではあるけれど、インスリン注射を一日に二回打つことが必要なんだそうだ。


 症状が重くなると毎食後の注射に加えて、さらに一度、計4回以上のインスリン注射が必要になる場合もあるらしい。

 誘拐されたその日は、朝に一度、幼稚園を出る前に一度と、二度のインスリン注射をしているんだが、明日の昼までに再度注射をしなければ症状が悪化することになり、もしインスリン注射がその後も行われないような事態になれば、重度の高血糖状態に陥り、意識を失ったり、合併症が起きる危険性があるようだ。


 当然に管轄する港区の警察が非常線を敷いて犯人を追っているはずなんだが、警視庁全部の警察にも号令がかかっているらしい。

 その過程で警視庁のお偉方から、俺への捜索依頼話が出てきたようだ。


 樋口洋一君は、港区白金台3丁目に豪邸を構えるTOTO Trading Co.のCEOの孫らしい。

 その被害者宅には、洋一君が誘拐されてからおよそ二時間後には、身代金要求の脅迫電話が届いているようだ。


 『子供は預かっている。取り敢えず、1億円を用意しろ。』と言われ、『金の引き渡し等については明日正午に連絡を入れる。』と、一方的に言われて、電話を切られたようだ。

 従って、洋一君にインスリン注射が必要なことは犯人達に通知されていない。


 尤も、知らされたからと言って、医師の処方箋無しにインスリンが簡単に手に入るわけもないから、犯人が注射を打ってくれる可能性はほとんどないだろう。

 大山さんからは、例え10分でも20分でも早く洋一君の身柄が確保できるなら、非常に助かると言われている。


 そうして大山さんからは、別途メールで陽一君の顔写真や誘拐された現場写真等のデータが送られてきていた。

 俺は、早速に電動バイクで現場に向かったよ。


 現場は、幼稚園から自宅に向かうわずかに300m内外の道路上だ。

 犯人は、大胆にも白昼に帰宅途中の子供を引っさらって軽乗用車に押し込んで逃走したらしい。


 幼稚園から自宅までの帰宅路は、狭い道路であまり車両が入らない場所なんだが、軽乗用車ならかろうじて侵入ができる道路なんだ。

 多少騒がれるのを覚悟の上での犯行のようで、犯人は誘拐そのものを余り隠そうとはしていない。


 目撃者情報では、犯人は中肉中背の男二人、鳥打帽を被り、サングラスにマスクを着けていたので顔はわかっていない。

 後に防犯カメラで確認された軽乗用車(S社のジムニー)のナンバーは、盗難車のものとわかっているが、車種が全く異なるので、車を盗んでナンバーだけ別の軽乗用車に取り換えたものと警察は判断している。


 いずれにしろ、俺は犯行現場に電動バイクで乗り入れ、周辺の霊から聞き込み調査を開始した。

 その結果、犯行現場から東へ向かう道路を進み、1号線に入って一旦南下、道路沿いにある某病院の地下駐車場に入り、そこで車をS社ジムニーからH社のボックスカーに乗り換えて、犯人達は出庫している。


 因みに、この際に取り付けていた盗難車のナンバーを取り外しているから、警察は当該地下駐車場にある車両を発見しても、犯行車両だとはすぐには気が付けないだろう。

 俺は、さらに乗り換えたボックスカーを追っかけ、首都高環状線から首都高5号線に乗り換え、板橋区中台1丁目の古家にまで概ね3時間で辿り着いた。


 最初から分かっていれば40分かそこらで到着できるんだが、要所要所で行く先をになるので時間がかかったんだ。

 辿り着いた古家は、ひょっとして、人は住んでいないのじゃないかと思うようなボロ家だったぜ。


 夜だというのに、電気(照明)もついていない風なんだ。

 但し、庭が結構広くて、逃走に使ったと思われるボックスカーが奥にまで乗り入れているのは確認できた。


 このボックスカーが日没前に中に侵入し、男二人が車から袋詰めの何かを家に運び入れているのを、この家の門柱の霊が確認しているぜ。

 急ぎなので、お馴染みのカラスの霊を使って家の内部を確認、犯人二人と子供が一人いるのが確認できた。


 家の中は暗いながらも、カラスの霊の目で見ると、情報で貰っていた人相風体から子供は洋一君と断定できた。

 洋一君は眠り薬でも嗅がされたのか、ぐったりとしているようだ。


 この時点で俺は渋谷署の大山さんに電話をかけ、犯人二人と洋一君が所在する家を通報した。

 一応、念のため、最寄りの場所で見張りはしているんだが、俺自身はできるだけ古家には近づかないようにしている。


 その代わり犯人達と洋一君の動静監視は居候達に任せている。

 万が一の場合は、犯人達を取り押さえ、洋一君を救助するつもりではあるが、異常が無ければ後は警察に任せるつもりだ。


 大山さんを通じて警視庁本庁から情報が伝わり、板橋署が動いて古家を密かに包囲、夜中の11時になって、一斉突入が敢行された。

 犯人達の若干の抵抗はあったものの、洋一君は無事に保護され、日が変わる頃には無事に自宅へ送り届けられたよ。

 

 もし、万が一にでも犯人達が洋一君を盾にして抵抗するような気配があれば、俺も居候達を介入させるつもりでいたけれど、案ずることもなく無事に死んでおり、特に子供が無事で有ったのが何よりのことだった。

 犯人二人の身柄が警察に確保された時点で、俺の役目は終わり、俺は渋谷の自宅へとバイクを走らせた。


 後日、この事件では警察からかなりの謝礼金を貰い、また、警察から知らせがあったために俺の功績を知った樋口家からも多額の謝礼金をいただいたよ。

 あとは、塩崎紀子嬢に収支計算をお願いし、所得税の計算を会計事務所にお任せするだけだな。


 いつものように月で見れば赤字決算ではあるんだけれど、なにがしかの所得税はとられるんじゃないのかな?

 俺の事務所のタリフに無い所得は、どうもその一部が一時所得や不労所得と見做される場合があるとのことで、特に明細が無い報酬については、税計算の際に結構決行不利になるらしい。


 まぁ、そっちの方に文句をつけても、泣く子と税務署には勝てないらしいから、やっぱり会計事務所に一任だよね。


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