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第71話 十三湊 その三

 福島城址の現場で転移先と思われる位置を確認したものの、啓二君がここにいるとは限らない。

 今一つ、史跡でもある福島城址を勝手に掘り返して良いかどうかの問題がある。


 福島城址は必ずしも国指定や県の指定を受けた史跡ではないらしいんだが、歴史上の史跡としてはかなり重要な物らしいんだ。

 前回は茨木県結城市内にある古墳のすぐ近くの遺跡で有って、表層に歩道が有ったので市役所にお願いしして発掘許可をもらったが、今回は掘り返す理由が何も無い。


 そもそも俺は学者でもないし史跡を掘るような理屈もそうそうつけられないぜ。

 まぁ、理由はあるっちゃぁ、あるんだが、啓二君がここに入っているかもしれないということをどう説明する?


 一般の人に霊の話をしたら絶対に馬鹿にされるし、信用してもらえないんだ。

 それに市役所なり県庁なりの発掘許可なんぞを申請していたら、許可が出る前に助かる命が助からなくなる可能性がある。


 何せ行方不明から丸々三日72時間が過ぎようとしているんだ。

 こういう時は、公権力をうまいこと利用するのが一番だ。


 人命救助なら、警察?病院?消防だろう。

 警察はちょっと面倒そうだし、病院もなぁ、簡単に動いてはくれそうにない。


 因みに、福島城址のある相内(あいうち)地区には本格的な消防署なんてものはなさそうだ。

 ネットで調べたら、相内地区には北部中央消防署市浦分署があるようだ。


 福島城址の最寄りには五所川原市消防団市浦(いちうら)地区第一分団があるようなんだが、調べたら此処は無人で消防機材が置いてあるだけの場所のようだ。

 今の時間なら分署の方には人が居そうなので、取り敢えずそちらに向かうことにした。


 そもそもの話、安東啓二君が学校帰りに行方不明になったことについては、既に相内地区界隈では有名になっていた。

 そりゃぁな、10歳児が学校から帰ったはずなのに家に戻って来ないとなれば家族や知人が心配もする。


 それが三日目ともなれば関係者は焦燥もしているはずだ。

 家族や知り合いが総出で探しているようだが、今のところ何の手がかりも得られていないようだ。


 そこへ俺が啓二君がいるかもしれないなんて話を持って言ったら、結構な騒ぎになるよな。

 九分九厘、俺が誘拐犯ではないかと疑われるのがオチだろうな。


 とは言いながら、幼い子の命がかかっている以上すぐにも動かねばなるまい。

 仕方がないから、必殺『奥の手』を出すことにした。


 今の時点では居候達の協力が有っても、古代呪術の所為で地下牢獄に囚われているのが啓二君かどうかはわからないが、ヒトが生きたまま土の中に閉じ込められているという事実を告げてくれた霊が俺の夢枕に立ったことにするんだ。

 この際だから、事実に即して『安藤康季』の名を出すことにしたよ。



 曰く

<一昨日の夜に東京渋谷の自宅に安藤康季の従者が現れ、十三湊まで来て助けてほしいとのお願いがあった。>


<そのために半信半疑ながら昨日新幹線で新青森に到着した>

<新青森からは五所川原市までレンタカーでやって来た>


<昨日は十三湖大橋の近傍にある旅館に泊まった>

<そこで安藤康季とその従者が夢枕に立ち、ヒトが福島城跡の大地の下に埋まっているので助けてくれと言われた>


 以上を手短に説明し、史跡を掘らせてほしいとお願いしたのだ。

 流石に人の命がかかっているとなれば、半信半疑でも消防団員の人は動かざるを得ないらしい。


 ましてや消防団員の耳にも安東啓二君の行方不明については報告が来ており、特段の用事の無い団員は捜索に当たっている最中なのだ。

 そこに、コンチャンやらダイモンら居候勢が何某かの魔法ををかけて団員の意思を誘導したかもしれんが、それは俺が唆したことではないから知らん。


 俺の話を聞いた消防団員も、『或いは?』と言うような堪も働いたのかも知れないな。

 いずれにしろ、俺のつたない説明に何とか納得して、俺の案内で消防団員が車で福島城址の現場にまで出向いてくれたんだ。


 場所は、城址の門構えがあるところから50mほど離れたところの林の中にある。

 時間が無いから俺が掘ってもいいかと尋ねると、やっぱり不承不承ながらも認めてくれたな。


 俺は、消防団でちゃんとスコップを借りて来ていたから、すぐに特定の場所を掘り始めたぜ。

 時ならぬ労働で少々汗をかいたが、60センチかそこらを掘ると、厚手の木材にぶつかった。


 で、穴を広げると木材の床のようなものが出現したんだ。

 それを見るなり、コンちゃんを先頭に俺の居候どもが一斉に言った。


『この天井の板材に結界が張ってある。

 主の力でぶち破れ!』


 もちろん、側にいる消防団のおっさんにはその声は聞こえていない。

 まぁ、そう言われたので、おもいっきし、スコップを突き立ててみたが、全然歯が立たないぞ。


 呆れた声でコンちゃんが言ったなぁ。


『主ぃ~、スコップなんぞで結界が破れるはずもあるまい?

 主の念を込めて手で叩け。』


 俺の居候って、主である俺を結構こき使うのな。

 まぁ、文句を言っても仕方が無いから、(こぶし)でやってみることにしたぜ。


 良くはわからんが、拳に精神力を込めて思いっきり板に叩き込んでみた。

 そうしたら驚くべきことに、パンと乾いたような高い音がして、同時にメリッと厚手の板が折れたぜ。


 見た感じでは、折れたのは4センチから5センチほども厚みのある板だぜ。

 古いけれど、さほど傷んでいる様子も無いんだが・・・、何でこんな板が俺の拳で折れたんだ?


 俺は、護身術で合気道は習ったけどな、拳法や空手は習ったことが無いんだぜ。

 いずれにしろ、居候達が小躍りして喜んでいた。


『主、でかした。

 結界が破れたぞよ。』


 その声に励まされるように、俺は折れた板を更にぶん殴って、中を覗けるように天井に穴をあけた。

 空洞の中は暗いんだが、俺がいつも持ち歩いているLEDのペンライトで中を照射すると下の床に倒れている子供の姿が見えた。


 俺は消防団のおっさんに向かって叫んだぜ。


「子供が中に居ます。

 生死不明。」


 途端に付き添って見ているだけだった消防団員も慌てて駆け寄って来て、中を確認、それから関係先に電話をし始めて、30分後には警察官やら消防団員が集まり、更には建設機械なども繰り出して大騒ぎになった。

 発見から50分後には俺が開けた穴を更に拡げて、地上から縄梯子をかけ、消防団員が中に降りて、バケットストレッチャーで子供を引き上げることに成功した。


 子供はまだ生きており、その場で啓二君と確認された。

 この後、啓二君は待機していた救急車で最寄りの病院へと運ばれた。


 おそらくは、行方不明から三日間、絶食状態だったので、水分補給と栄養補給を施療すれば元の元気に戻れるだろう。

 問題は後始末な。


 お巡りさんが出て来て、俺に対してあれこれと犯罪ではなかったかと疑ってかかるんだ。

 まぁな、俺でも霊の夢枕の話なんか嘘くさいと思いながら話しているんだから、お巡りさんなんか絶対に信用しているわけがない。


 仕方が無いからその日の夜までお付き合いな。

 そうは言っても、ほかに消防団員のおっさんの証言があって、そもそも俺が何も痕跡の無いところを掘り出したことがはっきりしているからな。


 お巡りさんも追及するネタが無かったんだよな。

 夜の8時半まで付き合わされたけれど、当然に無罪放免だよ。


 本来ならば、その日のうちにも東京へ戻れたはずなのに、結局、その日は五所川原市田町(たまち)にある三ツ星ホテルに泊まったよ。

 翌朝、東京に戻ろうとしてチェックアウト手続きをしていたら、安東啓二君の両親と祖父母が揃って挨拶にやって来た。


 仕方が無いから出発を後らせてホテルのロビーで30分ほどお話をしたぜ。

 要は安藤家御一行は、啓二君救助のお礼に来たんだが、わざわざ二十万円の小切手の入った封筒を持参して来ていた。


 銀行はまだ空いていない時間の為に失礼かとは思ったが小切手で用意したと言う。

 安東さんの家は商売をしているので小切手を使うこともあるらしい。


 安東さんから正式な依頼を受けたわけでは無いから、一旦はご辞退したのだが、なおも受け取るようにお願いされたので、やむなく受け取ることにした。

 その際に、啓二君の守護霊として『安藤康季』とその従者である『吾妻伊八郎』がついていることを夢枕に立った霊として名前だけ紹介しておいた。


 仮に傍に居ても彼らには見えるはずもない霊だからね。

 守護霊ではどうにもならない事態になったので俺に救いを求めたこと、当初はその居場所さえ掴めなかったけれど、色々探し回って古代の遺跡に関わって、啓二君が神隠しにあったこと事実だけを知らせておいた。


 女真族(じゅるちんぞく)の呪術の話をしても仕方がないだろうし、守護霊が探偵に依頼をすること自体も本来はあり得ないから、余計な話として省いている。

 但し、この守護霊の有無の話は、外に漏れると、話をした方が信用されなくなるので、一族限りとした方が良いとは告げておいたよ。


 因みに啓二君が囚われていた牢獄らしき場所には、何体かの白骨死体が発見されていたようだ。

 警察で身元調査をしているが、おそらくは該当者を見つけるのはかなり難しいだろう。


 俺が例の結界を拳でぶち壊した所為で、居候達にもその仕組みが一部わかったようなのだが、12年に一度、月の満ち欠けによる決まった時刻に罠が発動するらしい。

 本来は、もっと短い時間で作動する仕掛けだったようだが、時間の推移と共に時の部分の刻印が薄れ、長期の時間に落ち込んだものらしい。


 啓二君の居なくなった場所にある石碑がキーとなり、その周辺4間四方の生き物が牢獄に転送される仕組みだったようだ。

 そうして、どうもその始まりは6世紀の古墳時代より前になるようだ。


 大陸から渡って来た渡来人が呪術で狩猟をしていたのかも知れないな。

 いずれにしろ、俺が呪術結界をぶち壊した所為で、急速に牢獄の木材はへたって行くらしいが、青森県の遺跡関連担当課が動いて早急にこの牢獄(檻?)の調査を始めるようだ。


 同位炭素の分析等で使用木材の年代が分かれば、多分またまた大騒ぎになるんだろうが、俺は関わらないことにしよう。

 ただ、重要なことは、俺が呪術結界をぶち壊した所為で、呪術を発生する石碑そのものの転移能力が失われたらしい。


 従って、どんな学者さんが出てきて調べようと、この呪術については何もわからないはずだ。

 取り敢えず、十三湊(とさみなと)安藤氏の一件は片付いた。


 十三湊と言うよりも、相内集落の事件が主だったんだが、依頼主が十三湊安藤氏だったから、この一件には『十三湊』と表題をつけても良いだろう。

 霊が絡んだ事件だったが、幸いにして報酬がもらえた。


 今回は黒字だったよ。

 新幹線、レンタカー、宿泊代に日当を含めても倍以上の収入になった。


 赤字覚悟の出張だったけれど、行方不明者は無事に助けられたし、めでたしめでたしで終わって本当に良かったぜ。



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