表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/78

第69話 十三湊

 もうすぐ暑い夏が訪れるであろう水無月(みなづき)の下旬である。

 ウチの探偵事務所の中は空調が効いているんで暑くも寒くも無いんだが、俺の目の前に妙な奴が現れて、一瞬ゾクッとしたな。


 念のためPCで確認したが、事務所内に数か所取り付けられている高精細の監視カメラにはその姿が映っていないんだ。

 ウチの事務員の塩崎紀子嬢も俺の目の前にいるであろう異様な風体(ふうてい)の男に全く気づいていない様子なのだ。


 俺の目の前にいる男は、(かぶと)こそ被っていないが、おそらく戦装束(いくさしょうぞく)なのだろうなぁ。

 胴丸と言うか腹巻と言うか、木の板を多数くっつけた厚手の布で半身を覆っているし、肩袖も似たような防具が覆っている。


 手甲(てっこう)脚絆(きゃはん)(きゃはん)(脛あて?)に、上は多分合わせの和服で、下は(はかま)だろうが、脚絆部分で絞られている形だな。

 足元は草鞋(わらじ)だし、頭には烏帽子(えぼし)を乗っけていて、腰には大刀をぶら下げているんだ。


 俺の記憶からすれば、多分この格好は、室町時代の前期辺りの武士の戦装束じゃないのかと思う。

 で、塩崎さんがその姿に気づかず、監視カメラにも映らないとなれば、こいつは霊という事になるよな。


 これまで依頼人の背後霊が一緒に事務所に来たことはあっても、霊自体が単独で俺の事務所を訪ねてきたことは一度も無いんだぜ。

 これは間違いなく面倒ごとの予感がするよ。


 で、目の前の武士らしき霊が(念話で)俺に言った。


(それがし)安藤(あんどう)康季(やすすえ)が家臣にて、吾妻(あずま)伊八郎(いはちろう)と申す者にてござ候。

 本来であれば、主の康季がこちらへ参るべきところ、地に縛られて出向けぬ故、かく、拙者が代理にて出向いて候。

 貴殿がことは、恐山がイタコである坂上ノブ殿より聞き参らせ候ものなり。

 恐れ入り奉るが、我が主より貴殿に依頼の筋有之(コレアリ)

 種々問題はあろうが、主の願い聞いてはもらえまいか?

 さもなくば、主命により、我はここにて居座り続けねばならぬ。

 我にとっても苦行なれど、貴殿にとっても迷惑となるであろう。

 どうか、主の願いを聞いてもらえまいか?」


 おいおい、霊なんぞに居座られると困るし、脅しをかけられたぞ。

 霊の中には、自分の意にそぐわないと色々と嫌がらせをする奴もいるからな。


 所謂、悪霊(あくりょう)って奴だ。

 居候の陰陽師あたりに言って、お(はら)いをしてもらうのも一つの手なんだが、この霊の主に対する臣従度合いで結果が変わってくるはずなんだ。


 先般、シンガポールに赴いて暇があった際に土御門(つちみかど)晴信(はるのぶ)に色々聞いてみたんだが、背後霊(守護霊?)に従者が付く例は非常に稀だが無いわけではないと言う。

 特に主従が揃って亡くなったような場合には、主従がワンセットで背後霊として出現することもあるのだそうだ。


 但し、百万件に一度くらいのレアケースだそうだから、滅多に遭わないらしいぞ。

 で、その主従の結びつきが強いと、陰陽師の呪術をもってしても、お祓いができない場合があるそうな。


 従者の方が消えてお祓いができたと思っても一日もすればその従者が復活するんだそうだ。

 これは晴信が現役の頃にそんな事例にぶつかって、主従の臣下をいくら倒しても復活するので、大元の主を叩かねばならなかったそうだ。


 それにこの吾妻伊八郎さん、さっき俺のことを恐山のイタコから聞いたと言っていたな。

 何で恐山のイタコが俺のことを知っているのかは知らんが、イタコと言えばやっぱり青森県だろう。


 そこの地縛霊から派遣されて来たと考えれば、この吾妻伊八郎なる霊と、大元の主である安藤康季なる霊との結びつきはかなり強い絆があると思わねばならんだろう。

 この時点で、ほぼ逃げ場がないと思われるぜ。


 まさか霊から既定の料金が取れるわけも無いので、自腹の出費になるんだろうが、いずれにしろ用件を聞いてみなければならんだろう。

 頼まれてもできないものはできないからな。


『依頼の内容がわからないまま受けることもできませんが、どのような依頼なのでしょうか?』


『実は、我が主が守護霊となっていた安東(あんどう)啓二(けいじ)なる男子が、二日前、我らの眼前で突然に姿を消したのでござる。

 場所は津軽の十三湊とさみなと、啓二殿が学校帰りのことにござった。

 依頼は、その啓二殿を探してほしいという事でござる。』


『十三湊って・・・。

 確か五所川原市だっけ?』


『あいや、某は、津軽の十三湊として知っておりますが、今の地名は承知してござらぬ。

 十三湖(じゅうさんこ)(ほとり)にある町にござる。』


 ふむ、青森県五所川原市の飛び地になる十三湊で間違いなさそうだ。

 依頼に生身の人間が絡んでいるとなれば、動かざるを得まいな。


 俺が探偵を始めることになった切っ掛けは、消息不明になった人を残された家族や知り合いの元へ無事に返したいという思いからなんだ。


『その啓二君はいくつなのかな?』


『啓二殿は数えで11歳にござる。』


 数えで11歳という事は、小学校の4年生ぐらいかな

 心配している家族も当然にいるだろうしな。


 背後霊の前で突然姿を隠したとなれば、あるいは神隠しの類か?

 神隠しのような事件は、都内のホテルで一度、茨木県の古墳で一度、これで三度目か?


 ホテルの奴は、俺や居候達ではどうにもならなかった奴だったな。

 それと、ヒトではないが、相続すべき巻物が紛失したのも神隠しのような事例だったな。


 正直言って、余り手を付けたくない一件ではあるんだが、子供の命がかかっていることを考えればそうも言ってはいられまい。

 行方不明の場合、例外はあるけれど飲まず食わずなら72時間(三日間)が一応の限界なんだ。


 早急に動かなければ、生きたまま探し出すことができないかもしれない。

 但し、神隠し自体が不思議現象だから、ホテルの一件では、長期間にわたって行方不明になっていても、ほぼ行方不明になった状態のまま無事に戻って来たからな。


 神隠し状態のままでほとんど時間が経っていないケースもあるんだ。

 古墳の場合は、駄目だったな。


 相応に時間が経過した状態で、行方不明者は餓死していたよ。

 それにしても五所川原の十三湊って、この事務所からだと、直線距離で600キロほど、車で行けば東北自動車道を使っても10時間は間違いなくかかるだろう。


 遠いよなぁ。

 空路を使っても、待ち合わせ時間なんかが有って、4時間じゃ着かないんじゃないかな


 どちらかというと時間はかかるけれど、待ち合わせの時間の少ない新幹線利用の方が便利かもしれないな。

 仕方がないんで、俺は青森県にでかけることにしたよ。

 

 一応の経路チェックをすると渋谷駅からJR湘南新宿ラインで大宮駅へ、大宮駅から新幹線で新青森駅へ、新青森駅で駅レンタカーを借りて十三湊まで行くのが一番早そうだ。

 取り敢えず現地へ行って調べないと始まらん。


 行方不明者が何らかの原因で異界に囚われているにしても、その出入り口は現地にあるのだろう。

 まずは。そこを調べてからの話だな。


 コンちゃんやダイモンは勿論なんだが、晴信他の居候達にも手伝ってもらうつもりでいる。

 PCで切符を手配して、11時半には事務所を出たよ。


 一応、事務所には急ぎの場合にも対応できるように、出張用のパックで旅行トランクが二つほど用意してあるんだ。

 三泊用と五泊用の二つなんだが、今回は念のため五泊用を持って行く。


 11時40分過ぎのJR湘南新宿ラインに乗って、最終的に新青森駅着が15時半の予定だ。

 駅レンタカーを借りて、そこから1時間ちょっとで十三湊だ。


 因みに俺を訪ねて来た吾妻伊八郎は、俺が青森向けの切符を手配したら、十三湊でお待ちしますと消えやがった。

 まぁ、室町時代の霊に新青森駅から十三湊までの道案内をしてもらうのは、ちょっと無理だろうから仕方が無いんだけれど。


 自宅には、青森行きと出張期間未定という内容で電話を入れておいた。

 事案の詳細は知らせないでおくしかない。


 そもそも正規の依頼じゃないからなぁ。

 記録にも残せないんだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  12月11日、一部の字句修正をいたしました。

  

    By サクラ近衛将監



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ