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第68話 シンガポール その三

 翌朝、目覚めたのは朝の8時半だな。

 シンガポールと日本の時差は1時間なんで、時差ぼけはほとんどないんだが、流石に夜遅くまで仕事をすると、その分堪える。


 別にそれほど歳を取ったわけでは無いんだが、環境が変わるとそれなりに疲れはあるみたいだな。

 9時には食事をとって、ホテルで待機だな。


 フロントにはもう何日か連泊するかもしれないと昨夜の時点で伝えている。

 シンガポールに居る間は少なくとも根城が居る。


 Citadines Science Park Singaporは、17階建ての四つ星ホテルで、中々景色も良いし、設備も整っているからね。

 最上階辺りはそれなりに高いらしいけれど、俺が泊っているのは中層階でお値段は270シンガポールドル(日本円で3万円程度)だからびっくりするほど高いわけじゃない。


 俺の場合、海外ではセキュリティの問題もあって、できる限りグレードの高いホテルを選ぶようにしている。

 探偵になる前の海外旅行では、質よりも量と言う訳ではないんだが、安価な宿泊施設を選んでできるだけけちけち旅行をしていた時期もあったんだが、メキシコとカリブ海でお宝を引き当ててからは、あぶく銭がびっくりするほどあったので、セキュリティ重視にしたと言う訳だ。


 俺が寝ている間にも、居候達が色々と動いて情報集めをしてくれている。

 人身売買組織は、シンガポールで二つあった。


 そのうちの一つが東欧の人身売買組織ともつながっていて、東南アジア一帯に根拠地を持っている大きな組織だ。

 もう一つはどちらかと言うと新興組織だし、タイやマレーシアなどの売春組織とつながっているようだ。


 元陰陽師の土御門(つちみかど)晴信(はるのぶ)は、外国語なんぞ全く知らないわけだが、彼の場合、人の心を盗み見る呪術が有って、そちらの方面から組織の情報を色々と割り出してくれたわけだ。

 晴信は同時に人の意思も操れるから、それをも併用して証拠になりそうな書類やデーターも色々と集めてくれた。


 文書化するのは俺の仕事なので、手間はかかるんだが、昨夜に引き続いて、ホテルの一室で俺はデータ整理と書類づくりをしているよ。

 ダイモンの調べてくれた東欧圏の人身売買組織で、エレック君の調べた電話番号にヒットするものがあり、同じく晴信が得た情報からもその組織が今回のミアちゃん誘拐事件に絡んでいることが判明した。


 大枠のあらすじとしては、シンガポール及びその周辺国界隈で集めた婦女子を、シンガポールからコンテナ船に載せて密輸しているようだ。

 受け入れ先は、東欧C国のコンテナ港がメインでそこから需要のある先へと陸送されるようだ。


 人身売買には30歳までの婦女子が扱われており、12歳未満の少女も1割程度含まれているようだな。

 データから見ると、今回の輸送ではミアちゃんを含めて8名の婦女子が運ばれているようだ。


 船内でどのように扱われているのかは今のところ分からない。

 空飛ぶ妖蟲に運ばれているカラスがシーマリアン号に到着すれば、その辺も判明するだろう。


 到着時間については上空の気流が西風の為に少し遅れ目になりそうだな。

 おおよそではあるんだが、カラスの到着は13時から14時の間になりそうだ。


 その日13時半過ぎに空飛ぶ妖蟲(ようちゅう)がコンテナ船シーマリアン号に追いつき、カラスが船内に潜り込んだ。

 船内捜索は結構時間がかかったよ。


 被害者たちは、所謂居住スペースじゃなくって、密室に閉じ込められていたんだ。

 8人の被害者は、船底に設置されてあるバラストタンクの中に造られた密室区画の中に閉じ込められていた。


 船底のバラストタンクの中に密室を造り、その中に被害者を閉じ込めているらしい。

 食事は、密室の中に準備した非常食を食べさせているようだ。


 一応簡易トイレなんかもあるんだが、貯め置(ためおき)式のようだから、臭気が(こも)る?

 いや、密室ながらも一応簡単な換気装置はついていて、機関監視室の冷気が一部取り込まれているようだから、密室の中で窒息する心配はなさそうだな。


 但し、その後の時間があった際にカラスの視点で種々調べたところ、どうもこの換気装置はコンテナ船がどこかに入港したり、洋上で官憲のチェックが入る際には遠隔で停止できるようになっているらしい。

 換気装置が停止すると、吸排気とも二重のダンパーで遮断され、密室内の音は外部には漏れない造りになっているようだな。


 従って、もしも長時間にわたって換気が止められると、中にいる被害者たちが窒息する恐れもありだな。

 官憲等が乗り込んだら、真っ先に換気装置が止められそうなんで、関係者には何らかの形で周知する必要があるよな。


 14時半過ぎになって、俺はラザム氏に状況を簡略化して報告した。

 救出の方策なんだが、ラザム氏でも簡単に外国政府を動かすのは難しいようだ。


 何よりラザム氏が心配していたのは、シンガポールを含めた警察組織に早めに相談することでその情報が万が一にでも組織に漏れるとミアちゃん達が証拠隠滅で殺害される恐れもあることだった。

 現時点では、組織の方の情報データでも瀬取りの予定はなく、スエズを抜けてリマソール(キプロス)、ペラマ(ギリシャ)を経て、C国のR港に入港する予定のようだ。


 救出作戦の方だが、一番着手が早いのはスエズ運河だろうな。

 問題は、エジプト政府がラザム氏の要請に応じてくれるかどうかだ。


 ラザム氏によれば、キプロス政府の方に伝手が有って、そちらでの対応の方が確実という事らしく、最終的にガルフストリームを使ってキプロスまでラザム氏自身がミアちゃんの母親と一群の傭兵たちと共に出向くことになった。

 俺はラザム氏の要請もあって、救出までシンガポールに居残ることになり、連絡はミアちゃんの父であるはナズリ氏に引き継がれた。


 勿論、ラザム氏からの連絡もあるかも知れない。

 まぁ、俺の方はカラスを使って、その状況を見ながら適宜アドバイスするしかないな。


 シーマリアン号は、概ね5日後にスエズに到着する。

 スエズ運河の場合は、10隻から15隻ほどの船団を組んで通過することから航過するだけで半日(11時間から16時間)を要する。


 これは高速で走ると航走波が沿岸を侵食するので、速力を8ノットに制限されているためである。

 そうしてスエズ運河のポートサイド港からキプロスのリマソールまではおよそ10時間を要するので、シーマリオン号のキプロス到着は、6日後になるはずだ。


 俺は作戦終了までシンガポールに滞在しなければならないわけだが、まぁ、仕方がないな。

 こちらはこちらで、キプロスで救出作戦が開始されると同時にシンガポール警察と連携して犯罪組織の摘発に当たることになっている。


 俺ができるのは情報提供だけなんだが、ラザム氏からシンガポール警察でも信用のおける人物を紹介されており、その人物と救出作戦開始後に接触して、シンガポールでの捜査に協力することにしている。

 勿論、情報源は秘匿することになる。


 日本でだって説明のできない話を、シンガポールで御開帳と言う訳には行かないからな。

 その後の6日間も、ラザム氏やその息子のナズリ氏と一日一回の情報交換をしながらシンガポールに滞在していた。


 俺の動きを隠れて監視している同業者もいるから、隠れ蓑じゃないんだが、それなりにシンガポール市内を動き回っているんだぜ。

 俺の周囲を嗅ぎまわっても何もわからないはずなので、依頼を受けているとは言ってもご苦労さんなことだ。


 ◇◇◇◇


 俺がシンガポールに着いてから7日目、ついに救出作戦が発動した。

 リマソールに入港したシーマリオン号には、CIQとともに現地の捜査機関20名余りと、ラザム氏が率いる傭兵12名が乗船して始まったんだ。


 普通民間人なんかは、こんな作戦には立ち合わせたりはしないんだろうが、ラザム氏の場合はキプロス政府に余程の貸しがあるんだろうね。

 まぁ、その辺はラザム氏に任せているから俺は知らん。


 因みにミアちゃんの母親シャリナさんは、コンテナふ頭の上で警察車両に乗って待機している。

 ミアちゃんが見つかったらすぐにでも引き取るつもりなのだろう。


 ラザム氏や官憲が乗船してから概ね二時間後、船底のバラストタンクのマンホールが解放され、ミアちゃんを含む被害者の女性8名が無事に救出された。

 この時点で、ラザム氏からのキプロス官憲に対しての依頼案件は完了しており、傭兵と共にラザム氏は下船、後の捜査については現地警察に任されることになった。


 因みに俺の方も、現地での救出作戦発動と同時に、シンガポール警察の重大犯罪課のチャン課長に連絡を取り、シンガポールでの捜査に着手してもらった。

 事前に集めていた情報で参考になるようなものは全てチャン課長に渡している。


 その日キプロスとシンガポールで大捕り物があったこの事件は、大いにマスコミを騒がせた。

 俺の方は、依頼を受けた案件も無事に片付いたから、ナズリ氏に面談して別れの挨拶を済ませ、ラザム氏にも電話で連絡をしてからシンガポールを発ったよ。


 但し、今度のフライトはプライベートジェットではなくって、JALの航空便だぜ。

 成田には、到着に合わせて事務員の荒井弓香嬢が俺の軽乗用車で迎えに来てくれた。


 事前に連絡を入れておいたんで、彼女が迎えに来てくれることになったんだ。

 彼女も俺が居ない間は開店休業も同様だから暇を持て余していた様だな。


 何はともあれ、無事に依頼が完了してよかったよ。

 そうしてこの件は、ラザム氏、ナズリ氏、シャリナさん、ミアちゃんを含む2人のお子さんがわざわざ来日して俺のところに挨拶をしに来て最終的に終わった。


 日本には来たことの無いナズリさん一家の慰労休暇を兼ねての日本旅行だったらしいが、ラザム氏は礼金だと言って俺の請求額に500万円を上乗せして置いて行ったぜ。


 ウーン、こいつはまたまた税務対策が大変だぞぉ。

 言っておくけど、俺は脱税なんかしていないからね。


 但し、税務署のオジさんは、()()()()()()と言うのを中々信用してくれないんだ。

 まぁ、最終的には相応の税金が取れれば税務署は文句が無いらしいんだが、こうした例金の額が大きいと何かと勘繰るのが税務署のようだな。


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