第67話 シンガポール その二
アクタルさんから教えられた電話番号に電話をかけるとすぐにラザムさんが出たよ。
こういうときにはまず英語で話してみる。
マレー語も一応シンガポールに居た複数の霊から教えてはもらったけれど、結構方言があるようで面倒なんだ。
ラザムさんはマレー系らしいけれど英語も流ちょうに話せるお人のようだ。
で、俺は英語で構わないかと了解を得てからこれまでの調査結果概要を伝えたよ。
無論、霊から情報を貰ったなんて一言も喋らないぜ。
あくまで俺独自の海外ネットワークを使って調べた結果と前置きしている。
シーマリアン号というコンテナ船に載せられて現在インド洋を西に向けて航行中の可能性が大きいこと。
航行中に例えば、タイやインドネシアなどで瀬取りされている可能性もあり得ることから、現段階で洋上で捕獲してもミアちゃんが救出できなければ意味がないので公海上での手配は避けた方が望ましいこと。
独自の調査網でさらに突っ込んで調べているので、明日の昼過ぎ頃まで更なる情報を待っていて欲しいこと。
明日の昼過ぎ頃までにミアちゃんが当該コンテナ船に載せられている可能性が大と判明した場合、事後の救出作戦をご相談したいこと。
要はそんなことを報告したわけだ。
ラザムさんは明らかにびっくりしていたようだ。
これまで5日ほどの間、警察を始めラザムさんが雇った私立探偵その他を使っても一切手がかりが得られなかったものを、シンガポールに到着してまだ6~7時間ほどしか経っていないはずの日本人の探偵が手がかりを掴んだというのだ。
まぁ、普通こいつは眉唾物じゃないのかと疑うよね。
実は、ラザム氏、念のために俺に尾行を付けていたらしい。
ラザム氏にとってアクタル氏は信用できても、その知人が信用できるかどうかは別なので、シンガポールの知己の探偵に頼んで俺を尾行させたようだな。
従って、今日のチャンギ空港を出たところから俺の行動はラムザ氏に筒抜けだったようだ。
まぁ、友達の友達は必ずしも友達じゃないというような他人を簡単には信じないという人生訓が彼の会社を大きくしたのだろうが、それにしても、それならばお孫さんにボディガードを付けなかったのは何故なんだろうね。
普通、海外の大金持ちってのは妬みや恨みを買うことが多いから、自分の大事な身内にはその警護のために相応の経費をかけているはずなんだが、彼の場合、そういったことが一度も無かったのかも知れないね。
ミアちゃんの学校から家までの間も自家用車で送っても良いぐらいの距離なんだが、通学は普段から徒歩らしい。
天候が荒れ模様の際は流石に車で送迎していたようだけれど・・・。
まぁ、俺の報告に対する彼の反応はそれなりだったね。
「君は、シンガポールに着いてまだ半日も経っていないはずだよな。
それに、君が動いたのは、空港から小学校、更には誘拐現場らしき場所、そうしてそこから何故か周辺にあったライドシェアのレンタル自転車で西方向に向かったようだが、・・・・。
自転車で移動しながら、時折、止まって周囲を見渡しながら、最終的にTuas Boulevardのコンテナふ頭にまで辿り着いたと聞いている。」
うん、尾行させて、俺の動向を探っていたと暗に言っているぜ。
「その間、君が誰かと話をしたのは皆無だったとも聞いている。
普通、探偵が調査をするにあたっては、情報収集の為に聞き込みをするのが普通じゃないのかね。
君が英語に不自由ならば別だが、アクタル君からは君が英語に堪能だとも聞いていた。
それに、今いるホテルのレストランではマレー語で話もしていたようだね。
ならば、なぜに聞き込みもなしにミアの居所を突き止めたのか教えてはくれまいか?
そもそも、君が電話をかけるのもこれが初めてじゃないのかね?」
「はぁ、まぁ、概ね仰る通りですね。
でも、私の調査手法についてはお教えできません。
仕事上の秘密ですので大金を積まれてもお教えできないんです。
私の仕事は、貴方の代理人であるアクタル氏に頼まれて、ミアちゃんの行方を突き止めること、そうして可能であればミアちゃんを救出することです。
その過程の調査手法の公開については、請負かねます。」
「ふむ、止むを得まいな。
仕事を遂行する上での対外的な秘密というものは誰にでもあるものだ。
で、明日の昼過ぎ頃までにはミアの居所が判明するという事なのだな?」
「はい、多分当該コンテナ船に乗船しているかどうかについては九分九厘確認ができるのではないかと思います。
そのころに当該船はモルディブの北側環礁の西側海域に到達しているはずですので、その時点では正直なところ打つ手は少ないと思われます。
貴方のお力で、仮に、インド海軍や傭兵部隊を動かすにしても海軍艦艇が接近した時点でミアちゃんを殺害されても困るでしょう。」
「ふむ、確かに傭兵部隊は準備してはいるんだが、海外とは思っていなかったのでそこまでの準備はしていないな。」
「途中での瀬取りが無ければ、当該コンテナ船の行く先は東欧の某国ですから、スエズ運河が一つの救出ポイントになるかもしれません。
但し、中東のいずれかに売り渡すような場合には、スエズでは間に合いません。
おそらくは東欧にある人身売買組織に引き渡される可能性が高いとみていますが、その辺も明日夕刻までには凡そのことが分かるのじゃないかと思っています。
いずれにしろ、私の独自の情報網ではミアちゃんは、既にシバポールにはいません。
ミアちゃんの居所について確度の高い情報が無い現時点では動きようが無いんです。
但し、万が一の場合を想定して、私をシンガポールまで運んでくれたジェットを待機させておいていただけるとよろしいのではないかと存じます。」
「ふむ、何もかもが信じられないような情報ではあるのだが、取り敢えずガルフストリームは準備させておこう。」
それで、一応の報告は終わったんだが、どうもラザムさんは俺のことを信用していないようだね。
一応、彼が無茶をしないようカラスを張り付けることにしたよ。
彼に下手に動かれるとミアちゃんの命が危ないからね。
◇◇◇◇
今夜は、Citadines Science Park Singaporeで一泊することになったんだが、部屋に入ってからダイモンにお願いした。
東欧ならギリシャに居たことのあるダイモンの縄張りだろうし、彼も色々勘所を知っているはずだ。
彼には東欧にあるらしい人身売買組織について調べてもらう。
もう一つは、エレック君にお願いして、シーマリアン号の船舶電話及び乗員のスマホ等のチェックをお願いした。
今のところは船ぐるみの犯行の可能性が高いんだが、一部乗員だけで動いている可能性もある。
その辺を探るのはカラスが船に着かないとどうにもならない。
だから、今の時点で可能な脇固めをしておくつもりなんだ。
ダイモンとエレック君は連携しながら動いてくれそうだ。
エレック君が乗員と思われる発信源のスマホの来歴を、シンガポールの中継設備から拾っていた。
特に消去されているようなメールなどを重点的に調べてもらっている。
エレック君の場合、消去されたデータを復元することも朝飯前なんだが、当該データが古くなると追跡できなくなる恐れもある。
幸いにして、とあるシンガポールのゴーストカンパニーに行き当たったようだ。
一応商事会社の看板を掲げているんだが業務の実態は無い。
電話が置いてあるだけの場所で、転送される仕組みになっているらしい。
その転送先については、居候の土御門晴信に調べさせたら、どうもシンガポールに巣くう人身売買組織であることが分かったよ。
元陰陽師だった晴信は、呪術に長けているからね。
まぁ、闇魔法のようなもので人の意思をある程度は左右できる能力を持っている。
彼曰く、色々弊害もあるから滅多には使わない呪術だそうだが、悪投相手ならば遠慮はいらないとばかりに動いてくれたよ。
少なくとも、当該組織と連携しているのは該船の船長と一等航海士、それにボースンがメインのようだが、乗員16名の内12名のリストが、この組織にあるようなので、まぁ、そのリストに載っている全員が関わっている可能性はあるよね。
晴信は、そこから派生して関連するシンガポール及び近隣諸国の人身売買組織の構成人員やアジトなども探り当ててくれたよ。
お陰で俺は、シンガポールでも残業だ。
晴信の調査結果は、俺に伝えてくれるんだが、生憎とこ奴は霊だからタイプはできん。
つまりは、文字にするのは俺の仕事なわけだ。
俺は持参したNote PCを使って、その日の夜の1時半まで報告書作りだよ。
8ギガのUSBメモリーに保存して、ラザム氏に渡すつもりだ。
それで、シンガポール警察なりICPOなりが動くかどうかは別の話だし、俺は情報提供だけで犯罪そい木の摘発にはできるだけ関与しないつもりだ。
その意味で如何なることが有っても情報源については秘匿すると報告書には明記してある。
情報から犯罪の物証を集めるのは警察の仕事だよね。




