第65話 神様じゃないよね?
4月、俺は仕事で京都に出かけた。
依頼は家を出て行った妻を探してくれという奴だ。
結婚して半年の新婚さんの旦那である房野昭夫が依頼人であり、一応、仕事を始めるにあたり、アパートの居つきの霊から、旦那や行方不明の妻の日頃の行いも確認したけれど、特にDVじみたことをしていたようでも無いんだな。
置手紙も無く、急に家を出て言った感じ・・・・。
依頼人の旦那も家出の理由に全く心当たりが無いという。
調べ始めてすぐに新幹線の東京駅に辿り着いたぜ。
行方不明の妻の名は、房野佳代、26歳。
結婚前の苗字は古野城という珍しい名前だ。
彼女の実家は群馬県にあって両親も健在だが、家出後に、この両親を含め親戚等に連絡をした形跡は無いようだ。
こちらの方も念の為一応当たったんだが、連絡が無いのは事実のようだ。
いつも使っていたスマホが家に残されていたので、そこから交友関係を探り、念のために当たったが、いずれも彼女から連絡は無いことを確認している。
現代人というのはスマホ無しじゃ、中々生きて行けない連中が多いはずなんだが、この佳代さんは違うのかねぇ。
やむを得ないから依頼を受けた三日後には新幹線に乗って京都に出張だ。
頼りになるエレック君が、新幹線駅の監視カメラ映像から佳代さんが京都駅で降りたことを見つけてくれたからだ。
京都に行って例によって佳代さんのシュプールを追いかけて、辿り着いたのは京都市下京区亀屋町近辺のアパートだ。
どうもこの三階に住んでいる男と同棲しているようなんだだ。
詳しく調べると、同棲している男とは現在の旦那と結婚する前からの付き合いだったようだ。
戸籍上の旦那である房野昭雄とは、親の勧めで結婚したようだが、その後も元カレとは付き合いを続けていたようなんだな。
しかも佳代さん、スマホをもう一台持っている。
こいつは、自動車の運転免許証に記載された名前を使っている。
結婚前の戸籍上の名前は『古野城佳代』なんだが、免許証に記載の名前は『古野城かよ』だ。
多分どこかの手続き上のミスで『かよ』という名で登録されてしまったのだろう。
佳代さんは、結婚後に『房野佳代』の名前で別のスマホを新規登録し、以前から持っている『古野城かよ』名義でもスマホを持っているというわけだ。
データ上は、『佳代』と『かよ』は明確に区別されるから、余程のことが無い限り『古野城かよ』名義のスマホには気づかないことになる。
おまけに彼女、この名義で銀行の口座まで持っているからね。
エレック君が調べても簡単には出て来なかったよ。
さてさて、アパート周辺の霊からの聞き込みで、捜索対象の佳代さんであることは確認済みなんだが、どうすべえかねぇ。
どうもこの三月初めに東京勤務だった元カレ?(いや、今カレなのか?)の泉水忠雄が京都支社に転勤となって、彼の後を追いかけて来てそのまま同棲となったようだぜ。
無論、今カレも佳代さんが旦那持ちの人妻であることを承知の上だな。
こういう恋愛感情のもつれと(?)いう奴は、俺の一番不得意な分野だぜ。
どうも元旦那の房野昭夫が嫌いと言う訳じゃないようなんだが、今カレの方が好きなんだろうな。
外見上は不倫で間違いないんだが、このままでは房野昭夫氏の元に戻ることはあるまいな。
京都に泊まって一晩、俺も色々悩みもしたが、結局は所在不明として終結させることにした。
佳代さんの居場所を旦那に通報してやっても双方に良いことは何もない。
いずれ不倫の子をなして、後で苦労するのはわかりきっているはずだが、本人たちが望んだことならば自分たちでなんとかするだろう。
俺はそこまで面倒は見切れない。
京都での二日目、調査を打ち切って東京へ戻る前に、ホテルの近傍にあった神社が目について一応お参りしたよ。
俺の場合、神社への参拝という奴は、年始の参拝以外は極めて珍しいんだぜ。
神社ってのは、鳥居の先の境内に神域を持っている場合が多いんだ。
俺の場合、俺の感性がその神域に過敏に反応してしまうこともあって、余り参拝には行かないようにしている。
別に神様からのお告げがあるわけじゃないんだが、天津神や国津神が居るかもしれない場所ってのは、俺の居候達にとっても結構居ずらい場所のようなんだ。
だからあんまり用事も無いのに境内に踏み込むことはしないんだが、その日は何かに引き付けられるように参拝しちゃったな。
参拝したのは京都五條天神社だ。
『天神』と名がついていても、天神様の菅原道真公とは全く関りが無いんだぜ。
京都五條天神社で祀られているのは、主祭神で少彦名命、配祀神で大己貴命(大国主命)と天照大神の古い神社なんだ。
平安京遷都の際に桓武天皇の命で造られた神社で有り、当初は「天使の宮」とか「天使社」と称したようだ。
その後、後鳥羽上皇の時代に「五條天神宮」と呼ばれるようになったようだな。
病気退散・厄除け・農耕・医薬の神として地域に密着しているようだぜ。
主祭神の少彦名命は、記録により名称が異なる場合もある。
少名毘古那神、少彦名命、宿奈毘古那命、須久那美迦微、須久奈比古、少日子根命、小比古尼命、小彦命、小日子命、小名牟遅神、久斯神、少名彦命、天少彦根命などの記載があるようだ。
記紀では常世の国からガガの実に乗ってやってきたとされており、大国主命とともに国造りを行ったとされる一方、身体が小さかったので御伽噺の一寸法師のモデルと言われている。
神格としては、国造りの神、農耕神、薬神、禁厭の神、温泉の神のようで、全国各地の神社に祭られている。
因みに大阪の少彦名神社や、茨木県の大洗磯前神社、各地にある粟島神社若しくは淡島、粟嶋神社等が有名であるようだな。
ところで出張先で訪れた神社の話を何で持ち出すかと云うと、此処で、また俺に取り付いた奴が居るんだ。
力量から言うと、神獣クラス以上だろうな。
つまりは、コンちゃん(九尾の狐)や白虎クラスに匹敵する奴だと思うんだ。
姿はまぁ頭に角の生えた鬼だな。
ただ、幼い感じがする。
中学生男子が頭に角をのっけて、行者姿で錫杖を持たせたら祖奴の姿になりそうだ。
顔つきからして優し気な感じなので鬼ではないと思うんだが、自分では薬神の孫で承朗と名乗っている。
薬神というのは中国大陸の神農のことかと問うと、いや、少彦名命の係累だと言ったよ。
ありゃまぁ、日本神話にでてくる神様の子孫が俺の居候になったみたいだぜ。
なったみたいだというのは、特段俺の了承もなしに勝手に『蔵』に居付いたからな。
家主?の俺は追い出すこともできん。
で、薬神の孫というからには、薬師のようなことができるのかと云うと、あっさりと言ったもんだ。
「おぅ、薬師の真似事はできるし、医師の真似事もできるぞ。
まぁ、医療系統の話ならば俺に任せとけ。」
承朗が胸を張ってそう答えていたな。
で、東京に戻ったら早速に奴の出番があったぜ。
娘の瑠衣が39度近くの高熱を発していたんだ。
俺が帰宅して半時間もしないうちに、孝子が真っ赤になって発熱し、小さな咳をしている瑠衣を見つけて大騒ぎになった。
医者を呼ぼうにも夜中なので無理、で救急車を呼ぼうという話になりかけたんだが、そこで俺が待ったをかけた。
早速承朗に診させたら、『マイコプラズマ肺炎』だと診断して、すぐに奴が処方した。
古式の神様の係累なんだが意外と現代の病気にも通じているようだな。
マイコプラズマ肺炎なんて言葉自体を知らない人が多いはずだ。
この病気は意外と放置していても治る可能性が高いらしいんだが、高熱を発すると色々と後遺障害が残ることもありそうなんで、俺が頼んで治癒をお願いしたんだ。
承朗は、なんでも自ら症例に合わせた薬を作り出すことができるんだそうで、それを瑠衣の体内に肌から浸透させると劇的に症状が改善したよ。
いやぁ、実にグッドタイミングだったよな。
但し、その後で、孝子に説明するのが大変だった。
何せ孝子は俺の居候が見えないからな。
どうして瑠衣の熱が急に下がったのかは母親として知りたがるのは当然だろう。
止むを得ず、俺にいろいろな霊や精霊がついていること、その中に医療のできる半分神様みたいな精霊が居ることを説明したよ。
その精霊が瑠衣を診断し、適切な処方を行ったことで瑠衣の熱は下がり、今現在は何の心配も無いという事を納得してもらうのにそれから3時間ほどかかったな。
俺がやったという事にしても良いんだが、それだと孝子の実家とかで病人が出た時に助けてやって欲しいと頼まれた時に断りにくいよな。
その点、憑き物の精霊がやっていると言えば、都合が悪い時には精霊の所為で断ることもできる。
まぁ、ちょっとした処世術だな。
少なくとも責任の半分は、別の奴に押し付けられるからな。
探偵以外に潜りの闇医者なんかを始めた日には、俺の身体がいくらあっても足りゃしねぇよな。
半分神様のような承朗(略してショウちゃん)の能力は素晴らしいが、それを第三者に知られると俺の自由が無くなるぜ。
それだけは勘弁してほしいな。
人助けは良いけれど、リミットレスは絶対に無理だし、否だ。




