第64話 犯罪の陰に女あり?
俺は、メルヴィン・トバイアスさんの捜索依頼に関連して、彼が来日した際に、バートランドさんが会ったという都内の某ホテルからの足取りを掴むための調査を開始したよ。
来日して既に到着しているであろう別荘への連絡が付かないとなれば、どこか別の場所にいる可能性があり、その場合、東京から始めるしかないと思うからだ。
メルヴィン氏が来日したのは、1月21日のことで、その日豪州から成田へ到着、成田から東京に出てきて都内のホテルで一泊したようだ。
バートランド・ゴッドウィンさんとメルヴィン・トバイアスさんは、某ホテルのロビーで会っている。
従って、そこから調査はスタートになる。
俺も、当初は、北海道に飛んで直接別荘に向かうことも考えたんだが、メルヴィン氏と連絡がつかないというのは、彼が別荘に居ない可能性が高いんだ。
バートランドさんの話では、メルヴィン氏の別荘には二年前に一度訪問したことが有り、別荘に固定電話は無いようだが、連絡は専らスマホ、SMS、若しくはメールでやっていたようだ。
但し、そのスマホやメール等もなしのつぶてなので俺に依頼に来たと言う訳だ。
バートランドさんの話では、メルヴィンさんの別荘にはノートパソコンが有って常時使用できるはずと言っている。
念のためエレック君にお願いしてメールアドレス等からIPアドレスをチェックし、ノートPCの様子を探ってもらったが、昨年2月中旬に使われたのを最後に、ここ一年近く使われた形跡が無いという。
従って、彼はそもそも別荘に到達していないので、連絡がつかないのではないかと考えたわけだ
念のため、俺も都内の某ホテルで一泊し、メルヴィン・トバイアス氏が泊った9階の部屋をお願いした。
事前にフロントの宿泊データをエレック君にチェックしてもらっているから、部屋番号はわかっているんだが、同じ部屋は取れなかったのでその周辺の部屋になった。
ホテル内に入り込めば、メルヴィン・トバイアス氏の泊まった部屋の前の通路で、ちょっと壁に手をついて居付きの霊達に情報を貰うことができる。
間違いなく彼が泊ったことを確認し、部屋の中では特段の異常が無かったことを確認した。
翌日の1月22日には、間違いなく彼がチェックアウトしている。
ホテルのフロントがよほどしっかりしていないと別人がチェックアウトしても男だったら見分けもつかないケースもあるから、念のためにチェックアウト時の防犯カメラもチェックしてもらったよ。
俺も同様に泊まった翌日にチェックアウトして、某ホテルから彼の足取りを追う。
で、ほっかいどうにゆくのだから、当然飛行機に乗るために羽田に向かうのかと思ったら、彼が向かったのは何と東京駅だった。
普通の外国人なら、長距離の国内移動なら飛行機を利用するよな。
余程日本国内を旅慣れているのか、どうも鉄道でのんびり旅を楽しむつもりなのかもしれない。
彼の足取りを追って、俺は東北新幹線に乗るべく、東京駅にやって来たよ。
そうしてエレック君に新幹線各駅の監視カメラ映像をチェックしてもらった。
その結果、小山駅、宇都宮駅、新白河駅、郡山駅、福島駅、新花巻駅、八戸駅、七戸十和田駅、新青森駅、函館(北斗)駅でそれぞれ乗降していることが分かった。
念のため俺も小山駅で降りて足取りを調べたんだが、どうも彼は城郭の遺跡を見に行ったようだ。
小山駅付近では、壬生城址と祇園城址があるんだが、祇園城址の方はあまり見るものが無い本当の城址公園だ。
壬生城址の方には石垣、掘割、大手門が遺されているので、彼はこちらの壬生城址公園に行ったようだな。
そのほか、色々と下車駅を調べたが、同じ新幹線の停車駅でありながら、例えば仙台、盛岡などにも城址はあるけれど、彼の場合、例えば天守や櫓、城門、掘割などが無いと興味を示さないようだ。
そのために単なる石垣だけや山城などで建造物などが無い(例えば空堀だけ?)ところはそもそも彼の行く先からオミットされているようなんだ。
因みに、福島駅では北海道行きのルートを外れて、わざわざ米沢城にまで行っているし、同様に新青森駅では横道して弘前城にまで行っているんだ。
お城巡りなんて、暇とお金が無いとなかなかできないものなんだが、メルヴィンさん、余程お城が好きなんだろうね。
取り敢えず、函館(北斗駅)まで行っていることは監視カメラで確認できたので、俺も小山駅からは新幹線で函館へ向かうことにしたよ。
念のため函館五稜郭の監視カメラを見てもらったら、彼は、やっぱり五稜郭には行っていたな。
但し、五稜郭には、所謂櫓や天守は無いんだぜ。
そもそも洋式城塞を日本で初めて取り入れて造ったものだから、星型の城郭構造と周囲を取り巻くお濠が有名なんだ。
その形を高い所から眺められるように五稜郭タワーという高さ百メートルを超える展望塔が造られているんだぜ。
函館(北斗)から先のJR駅の監視カメラでは彼の姿が見つからなかったので、あるいはこの函館で消息を絶っているのかも知れない。
俺は、函館(北斗駅)到着後の彼の足取りを追ったよ。
エレック君が函館市内の監視カメラから彼の消息を追ってくれた。
最初は、五稜郭駅に行ったようだ。
五稜郭を見物してからさらに在来線で函館駅に向かったようで、宿泊先は函館市豊川町にある四つ星ホテルのラ〇スタ函館ベイだった。
こいつはエレック君が宿泊者名簿のデータから割り出してくれたものだ。
但し、それまでの新幹線の旅は一人だったはずなのに、ホテルのフロントロビーにある監視カメラには、何故か金髪美人を同伴しているメルヴィン氏が映っているようなんだ。
ホテルの宿泊データでは、彼とブレンダ・レスリーという名が乗っていたな。
メルヴィン・トバイアスさんは御年52歳、ブレンダという女性は34歳と記載してあるから、まぁ妙齢の女性だよね。
彼女の国籍欄にもオーストラリアと記載されていた。
ホテルの場合、宿泊ごとにパスポートを確認しているから偽造でない限りはオーストラリア人なのだろうな。
異国でのアバンチュールを互いに楽しむのかも知れないが・・・・。
しかし、最初から約束でもしていない限りは、商売女でもない限り、中々旅先でホテルに女性を同伴できるようなケースは余り無いような気もするんだが、彼氏は名うてのプレーボーイなのか?
念のために霊達に確認すると、その夜二人は、ベッドの上でしっかりとくんずほぐれつのプロレスごっこをしたようだな。
翌朝は二人でホテルをチェックアウト。
何故かそのまま二人でタクシーで在来線の函館駅に来て、在来線でニセコ駅に向かっているようだ。
当日偶々函館駅の監視カメラが不調だったために当初は彼らの姿が見つからなかったんだが、コンビニや売店の監視カメラなどを当たってもらったら、彼らの動きが分かったんだ。
そうしてニセコ駅で二人が降車し、車が迎えに来ているのも駅前の監視カメラで確認できた。
ここまで来たなら、まぁ、彼の別荘に向かったのだろうな。
と言う訳で別荘に向かったのだが、生憎と彼の別荘には誰も居なかった。
別荘の居付きの霊も、昨年の春先は別として、今年に入ってからは彼の姿を見ていないというし、もちろん、ブレンダ・レスリーなる女性も見ていないようだ。
仕方がないんでニセコ駅周辺から捜索のやり直しだな。
監視カメラの映像から車両ナンバーを追いかけたんだが、生憎と三年前に名義変更がなされていてその際は千歳在住者になってはいるんだが、そちらを調べると所有者は一昨年に故人になっており、現在の使用者は不明であったのだ。
ふと思いついて、彼の口座をエレック君に調べてもらったのだが、案の定、来日以来、かなりの金額が引き出されているようだ。
尤も、一日の引き出し限度額が50万円に設定されているようで、連続24日1200万円もの金がネットで引き出され、別の海外口座に移し替えられている。
ふむ、こいつは、ほぼ間違いなく悪質な美人局なんだろうな。
この状況では、ご本人が果たして生きているかどうかが怪しいことになる。
俺は動ける居候全ての手を借りて、大規模な捜索を開始したよ。
取り敢えずは、ニセコ近辺に限定しているんだが、場合により周囲にも広げるつもりではある。
その夜遅くなって、何とか彼氏を見つけたよ。
どうやら彼の現在地は、同じニセコでも比羅夫のはずれにある一軒家のようで、彼氏は薬漬けになってはいたが生きていたな。
早速に、警視庁のお偉いさんに連絡を取って、道警に動いてもらうことになった。
俺の場合渋谷署とは顔なじみの人も居るけれど、道警さんとはつながりが無いからね。
こういうときは警視庁のお偉いさんが役に立ってくれる。
最終的には、匿名情報に基づく警察のガサ入れで、容疑は覚醒剤等取締法違反になるだろうな。
実は、かなりの量の薬物が秘密の屋根裏部屋に隠してあることを、俺が霊達に訊いて確認している。
従って、その具体的な場所を記載したメモのメールを警視庁経由で道警に渡してやれば、俺の仕事は完了だ。
翌日の昼頃には、メルヴィン・トバイアスさんは警察によって無事に保護され、ニセコ町内の医院に収容されたよ。
長期にわたって違法薬物を使われたことから、一月程度の入院が必要だと警視庁のお偉いさんからは連絡が来ていたよ。
因みにブレンダ・レスリー他二名の共犯者は、覚醒剤等取締法違反、監禁罪、窃盗の罪で逮捕されている。
どうも、ニセコ周辺の外国人専門の美人局のようで、余罪もある常習犯のようだ。
その後の道警の調べによれば、拉致した被害者の一人を死亡させていることもわかって、その遺体も供述から発見できたので、殺人罪でも鋭意捜査中のようだ。
メルヴィンさんの後遺症の方が若干心配ではあるんだが、今回は対象者を無事に救出できたので良かったよな。
俺の方は、折角ニセコまで行ったんで、半日だけニセコのスキー場でスキーを楽しんだよ。
ウェアから道具まで全部レンタルな。
ニセコには若い人もたくさん来ていて、ゲレンデや休憩施設などは中々に賑わっていたが、特段のアバンチュールは無しだぜ。
何だか二人連れでコナをかけて来た女達も居たが、相手の気分を害しないように丁寧にお断りしておいたよ。
今のところ、俺は孝子一人で間に合っているし、美人局の実例にお目にかかったばかりだからな。
流石に腰が引けちゃうよ。
因みに声をかけて来た女はいずれも二十代前半で美人だったぜ。
所帯持ちでなければ、あるいは、ほいほいと付き合っていたかもな。
そうして、スキーを楽しんだその夜には、千歳から飛行機で東京に戻ったよ。
事後、バートランド・ゴッドウィンさんには、北海道までの旅費と日当三日分を請求したんだが、それ以外に謝礼金として二十万円を追加してくれたな。
また、三か月後には、メルヴィン・トバイアスさん自身が俺の事務所に現れて、礼金として50万円を置いて行ったぜ。
まぁ、彼の命も危なかったわけだし、メルヴィン・トバイアスさんという人は、オーストラリアでも結構名の知られている資産家のようだったから、俺は遠慮なく受け取っておいたよ。
仕事に関連はしているものの、完全なあぶく銭なんで予期せぬ臨時収入だな。




