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第60話 インド人(?)の依頼 その一

 俺にはストーカーがついている。

 俺のことをしつこく付け狙う奴らではあるが、多分、ストーカー行為等の規制等に関する法律には該当しないんだろうなぁ。


 これがストーカー規制法に該当してしまうと、公安警察なんかの張り込みや動静監視もストーカーに該当してしまうからな。

 ちゃんと法律の目的と定義で正当業務行為については外しているような気がするよ。


 第一条で、

<この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。>


 また、第二条において、

<この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一、つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくは通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

二、その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

三、面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。

四、著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

五、電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。

六、汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

七、その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

八、その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。

2 前項第五号の「電子メールの送信等」とは、次の各号のいずれかに掲げる行為(電話をかけること及びファクシミリ装置を用いて送信することを除く。)をいう。

一、電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。次号において同じ。)の送信を行うこと。

二、前号に掲げるもののほか、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為をすること。

3 この法律において「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

一、その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係る位置情報(地理空間情報活用推進基本法(平成十九年法律第六十三号)第二条第一項第一号に規定する位置情報をいう。以下この号において同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。以下この号及び次号において同じ。)(同号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること。

二、その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること。

4 この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(第一項第一号から第四号まで及び第五号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう。>


 まぁ、単純に言えば、独りよがりの恋愛感情からくる迷惑行為を防止するものであって、付きまとう者を全て排除するものじゃないということだ。

 だから警察は張り込みも尾行もできるわけだし、俺のような探偵稼業のものもそれなりの仕事ができることになるわけだ。


 ただなぁ、四六時中付きまとわれると迷惑なのは間違いないぜ。

 うっとおしいったらありゃしない。


 こっちの仕事に差し障るようなら状況により威力業務妨害の訴えもできるかも知れないんだが、そこまでには至っていないからな、俺としては放置するしかない。

 相も変わらず四人編成のチーム二組から三組が俺を張っているぜ。


 有名人とかアイドルなんぞは、マスコミやファンから似たようなことをされているんだろうな。

 最低限度のプライバシーだけは守ってくれよ。


 さもなきゃ、俺の居候のおもちゃになってもらうぜ。

 あいつら暇だし、そんな機会が有れば飛びついてくる奴が多いからな。


 俺が声をかける時はできるだけ厳選しているんだぜ。

 今日も今日とて、俺の仕事は続く。


 ◇◇◇◇


 ある日、肌の黒い外人さんがやって来た。

 黒人ではないが、黒檀のような黒い肌を持ったインド人だ。


 色の薄い人も居るが、インド人でも本当に真っ黒な顔立ちの人も居るんだ。

 似たような黒い肌でも、アフリカ系の黒人とは違って、アーリア系の人種は顔の作りが違うな。


 今日の客は、アクタル・ラスナヤークさん、1965年生まれの65歳、インド系のIT企業Cybernetics Technology Solutions Corporation(CTSC)の日本支社で顧問をしている人物だ。

 CTSC日本支社の社長は日本人なのだが、まぁ、彼はお目付け役的な役割をもった実質的なナンバーワンなのだろうな。


 彼の依頼はかなり面倒と言っても差し支えないだろうな。

 1970年に勃発した東パキスタンでの独立運動の動きを警戒した政府が、軍を使って同地の独立を封じ込めようとしたことに起因して内戦が勃発したんだ。


 当時のパキスタンは西パキスタンと東パキスタンに分断された一つの国家であり、政府は西パキスタンに有ったんだ。

 ベンガル湾の奥に位置する東パキスタンは低地が広がっており、サイクロンで大きな被害を受けた際、政府の無策に激高した民衆が独立を叫び始めたんだ。


 この内戦が始まったことにより、大勢の難民が発生し東パキスタンからインドに流入し始めた。

 現在のインドと異なり、当時のインドは極貧にあえいでいたから当然のことながら難民を受け入れるような余裕は無かったんだ。


 業を煮やしたインドは、西パキスタンと戦争状態に入った。

 第三次インド・パキスタン戦争という奴だ。


 このインドの参戦によって、西パキスタンは地の利が悪いために、1971年12月には東パキスタンが独立してバングラディッシュとなった。

 この紛争のあおりを受けて、インドへ難民として流れたのが、依頼人であるアクタル・ラスナヤークさんの一家だった。


 当時のアクタルさんは5歳程度だったから両親に連れられて一緒に動いただけで本人の意思は無かったとも言えるだろうな。

 但し、当時の混乱状態の中で、ジカルガッチャから西へ向かい、国境を越えて何とかインド側へ避難したラスナヤーク一家だったが、国境近くで政府軍の襲撃に遭遇して、父に連れられた妹のジェファリさん(当時三歳)が、母に連れられたアクタルさんと離れ離れになってしまったのだ。


 お父さんは生きていれば80代も後半だから、順当に考えるともう亡くなっているだろう。

 アクタルさんの母親、カリニカさんも20年以上も前に亡くなっている。


 アクタルさんの依頼は、難民としてインドに逃れたであろう妹のジェファリさんの消息を得ることだった。

 単純に言って60年も前に生き別れた妹さんを当時の写真一枚で探せって云うんだから、とんでもない無理ゲーだよな?


 アクタルさん自身は、母カリニカさんの頑張りもあってコルカタ(旧カルカッタ)にて高等教育を受けて、所謂勝ち組になったわけだが、幼い頃から妹と父の行方は気になっていたらしい。

 インドにいた頃から種々手配はしていたのだが、それがなぜ日本の探偵風情に声をかけて来たかと言うと、彼が日本で滞在中の宿舎が、たまたま俺が松濤の自宅を手に入れる前まで入居していた広尾の賃貸住宅だったからなんだ。


 例によって、ご近所さんとの交流パーティの中で俺の話を聞いたようだ。

 だれが吹聴したか、俺のことを随分と高く評価していたお隣さんが居たらしい。


 アクタルさん曰く、十日間のインド若しくはバングラディッシュ出張で、妹ジェファリさんの消息を探してほしいというものだった。

 そもそも60年も前の話なので、流石に安請け合いはできないから、やんわりと断ったんだが、アクタルさん曰く、40代半ばの頃ヒンドゥー教のシャーマンに近いような人物に予言をされたことがあるそうだ。


 『極東の仮住まいに関りある者』が妹の行方を捜してくれるやもしれぬというお告げだったようだ。

 うーん、霊に関わるような話をされると困るんだよな。


 俺自身が仕事の上で随分と霊や精霊に頼っているから、霊界で何某(なにがし)かの因果関係が有るのなら俺もそれに従わざるを得なくなる。

 因果律と言うのは、そういうところで決まっていると思っているからな。


 仕方がないな。

 インドとバングラディッシュのビザを申請する羽目になりそうだが、その前に事前情報を得るために、居候の賢者の助力を願うとしよう。



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