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第56話 家出少女 その二

 相変わらず下手な尾行者四人がついている。

 交代要員が居ないのかも知れないが、野木町に行くところからずっと張り付いているな。


 公安とか警察なら絶対交代要員を出しているはずなんだが、内閣官房なんてところはそんなに人を出せないのかも知れない。

 但し、各省庁を(あご)で使うほどの権勢は持っているはずだ。


 今回の場合、所謂(いわゆる)国の方針を決めるのに必要な占い師を探すという妙な仕事ゆえに、他省庁に依頼すること自体ができないのかも知れないな。

 まぁ、ご苦労さんと言うしかないな。


 俺の方は、本来は休むべき時間なんだろうが、何となく先行き不安なんだよね。

 放置しておくと十代の娘一人が、闇社会に落ちそうな気がするんだ。


 だから無理をしてでも早めに葵嬢の行く先を掴んでおきたいんだ。

 エレック君に頼んでいた片桐葵嬢の連絡先がようやく掴めたようだ。


 どうも本来の所有者と異なる人物が使っていたようで、ある意味回し飲みならぬ、使用の度に使用者が変わるような違法性の高いスマホのようだ。

 そもそもがプリペイド携帯などは、色々と問題が有って日本ではサービスが終了しているんだが、外国では未だに主流になっているところもある。


 プリペイド携帯を犯罪等に使われると追跡が困難になるという問題が有るんだ。

 日本でそうした物が無くなると、次は違法に開設した口座で他人名義のスマホ等を使う奴が出て来た。


 こういう奴らは犯罪等ヤバイ事案に使ったりするとすぐに手放すか捨てるかするんだ。

 中には公衆電話の様に共同で使用するという形態もあり得るわけだ。


 エレック君が追跡した電話番号はどうもこの共同使用のものらしく、都内千代田区神田にある某マンションに辿り着いたようだ。

 使用していたのは全部で五人ほどいたようだ。


 その内三人が東南アジア系の外国人で、二人が日本人のようだ。

 東南アジア系の女性三人はマンションの一室を三人でルームシェアしているようだ。


 マライ、ウェン、ジュンタの三人である。

 その友人でもある奥山(おくやま)美由(みゆ)置戸(おけど)沙織(さおり)に二人が、時折彼女たちの部屋にお邪魔して共有電話を使わせてもらっているようだ。


 このスマホ、闇ルートを使って入手しているスマホであるから、彼女らもヤバイものという事を承知で使っている。

 そのために2週間から3週間で電話自体が変わっているのである。


 その電話番号を何故葵嬢が知っていたのかは不明だが、奥山美由の素性を住民登録等で確認したところ、過去に野木町に住んでいたことが判明した。

 従って葵嬢とつながりが有るのはこの奥山美由嬢という事になりそうだ。


 深夜にこんなことを調べられるのはエレック君のおかげだけれどな。

 そんな作業を陰でやっているとは四人の尾行者も知らないでいるだろう。


 早速、俺は奥山美由嬢のマンションに出向いたが、生憎と彼女は不在だった。

 それでも居つきの霊から情報は得られるんで、いろいろ探ってみた。


 奥山美由嬢は20歳、秋葉原のメイドカフェで働いているらしいが、バックにどうも住吉会系のヤクザが絡んでいる店のようだ。

 居付きの霊の話では、このマンションに葵嬢が訪ねてきたことがあるようだ。


 二人の会話からして、奥山美由嬢と葵嬢は幼馴染のようだ。

 三つも年上だが、美由嬢が面倒見が良かったので「おねぇちゃん」と呼んで葵嬢が慕っていたようだ。


 但し、美由嬢が中学一年生の時に家の事情で東京に移転したようだ。

 合うつもりなど無かったのだが、葵嬢の家出の四日前に偶々(たまたま)古川市内の商店街で出会ってしまい、その際に連絡先として電話番号を聞いたようだ。


美由嬢も自分のスマホを持っているのだが、おそらく一週間ほどでまた別のスマホに変わるであろう電話番号を教えたのは彼女なりの配慮だったかもしれない。


 いずれにしろ、彼女が伝手になって、メイドカフェを紹介し、今はそこで働いているようだ。

 時刻は翌日の午前1時をまわろうとしているんだが・・・。


 メイドカフェってのは、そんなに遅くまでやってはいないはずだが、念のためタクシーで勤め先のメイドカフェに行ってみた。

 案の定、メイドカフェは閉まっていたし、メイドカフェのあるビル自体に入れなかったよ。


 さりながら、俺がビルの建物に手を当てて探ると、いろいろな霊から情報がもらえるんだ。

 で、それをやったら、一刻を争う緊急案件になってしまったよ。


 午後11時でメイドカフェは終了したんだが、今日は葵こと「のぞみ」ちゃんの歓迎会という事で、周辺の飲み屋で飲むことになっているらしい。

 おまけに、ヤクザがらみのお兄さんが、のぞみちゃんをお持ち帰りする計画を立てているようだ。


 俺が葵ちゃんの純潔を守ってやる義理は無いかもしれないが、知った以上は放置はでき ん。

 俺は、もう手遅れかと思いつつも、歓迎会の飲み屋に急いだのだ。


 ◇◇◇◇


 私は、奥山美由。

 とある事情から身を持ち崩した女だ。


 そんな私でもお姉ちゃんと慕ってくれる葵と久しぶりに古河で出会ってしまった。

 世間話のついでに東京で働いていると教え、おそらくはつながらないであろう電話番号も教えた。


 私と関わり会うと、あるいは怖いお兄さんが出て来る恐れが多分にある。

 だから、7日もすれば使われなくなるはずの電話番号を教えた。


 仮にかかって来ても、その時私がその近くに居なければ、電話を取れないし、その場合はこちらからかけなおすつもりもない。

 だから、お別れのつもりで教えた番号だったのに・・・。


 それでもこの子が私と関りを持とうとするなら、それも運命なんだろうなと漠然と思っていた。

 但し、私が関わるとしたなら、普通の暮らしは期待できないだろうことは自分が良く知っていた。


 だから、わずか7日かそこらの間に葵が美由を頼って来なければ、この縁はこれまでと切り捨てるつもりだったのだ。

 でも、生憎と葵から電話が来て、偶々そこに居た私と連絡がついてしまったのだ。


 葵が東京に出てくると言うので止むを得ずマンションの住所を教えた。

 マンションで話を聞くと、結局葵は家出をしてきていて、東京で自活したいと言う。


 未成年の家出娘がそうそう簡単に働けるほど世間は甘くは無い。

 でも頼られた()()()()()としては放置もできないので、伝手(つて)を頼って、偽のバイク免許証を入手してあげた。


 免許証には「高橋のぞみ、19歳」として、偽の住所で登録してある。

 この偽造免許証が有れば、住民票が無くてもメイドカフェに就職は可能だ。


 但し、ヤバイお兄さんに目を付けられると、少女を卒業しなければならなくなる。

 それが気がかりではあるけれど、私が取れる手立てはそれしか無かった。


 美由自身も東京に出て来てから両親が借金まみれになって自殺し、一人で生きて行かねばならなくなったので、18歳でメイドカフェに務めだしたのだ。

 彼女が変な道に入り込まないようにと思いながら、別のスマホの番号を教えたのに、そのスマホが有効な短い間に私に連絡してくるというのは、そうなっても仕方がない運命だったともう諦めるしかない。


 その中で彼女がどう生きるかは彼女自身が決める問題だ。

 そう思うことにした。


 そうして今日はのぞみ(葵)の歓迎会をするという。

 歓迎会とは名ばかりで、マスターたちは、葵を酔わせて身体を奪うことを考えているはず。


 恐れていたことが現実になりそうだが、私にできることは無い。

 葵が自分でその魔の手から逃れられなければ、私にはどうにもできない。


 嫌だなぁ。

 妹のような葵が(けが)されるのが分かっていて見過ごすしかできないなんて・・・。


 ◇◇◇◇


 俺は急いだが、既に飲み屋を出た後だった。

 行く先は不明だが、最寄りの霊たちにお願いしてとにかく後を追いかける。


 夜更けの繁華街の町は明るいものの人通りは少ない。

 俺はそこをダッシュで走ったぜ。


 尾行の連中もついては来ているが、多分途中でついてこれないだろうと思うぜ。

 何せ体育会系の奴が一人も居ないみたいだからな。


 百メートル弱を走っていたら、既に四人が四人とも遅れ始めている。

 左角を曲がって、50m先を右に曲がるとホテルの入り口だ。


 連れ込みホテルなんだろうな。

 フロントに人はいたが、無視して中に入る。


 後ろで何か言っているようだが、聞こえない。

 行く先は、3階の32号室。


 5階に止まっているエレベーターを待っていると時間がもったいないから非常階段を上る。

 階段を急いで登ると息が切れるところを見ると、俺も相当に運動不足だな。


 ドアはオートロックなんだが、コンちゃんが先回りして外したと教えてくれる。

 ドアを開けたら、まさしく修羅場だった。


 男が二人がかりで葵嬢の手足を押さえつけている。

 葵嬢の左頬が赤く腫れあがっているのは、多分抵抗して、殴られた跡だろう。


 これだけで傷害罪が成立するな。

 男の一人が怒鳴った。


「てめぇ、どこのどいつだ。

 鍵はかかっていただろうが。

 どうやって入って来た?」


 俺も大声で怒鳴り返した。


「その娘は17歳だぞ。

 それを手籠めにしたら間違いなく務所入りだが、それでもやるか?」


 男達が一瞬で白けたようだ。


「馬鹿な。免許証には19歳と・・・。」


「そんな偽物がいくらでも手に入ることは裏稼業のお前たちの方が良く知ってるだろう。

 免許証も、住所、氏名、年齢も偽物だ。

 さて、それを知った上で、なおかつ御乱行に及ぶなら、警察を呼ぶぜ。

 ちょうど俺の後を付けてきている役人が四人ほど居るからすぐに呼べるぜ。」


「くそっ、そこまで言われちゃ何もできん。

 今日は退()いとく。

 だが次の機会があると思うな。」


 男達は、そう言って苛立ちながら引き上げて行った。

 遺されたのは、ブラジャーを引きちぎられて上半身がほぼ裸、下半身もパンツ一枚で、左頬を赤く腫れさせている女の子と俺だけだ。


 しかも、ここは連れ込みホテルだよな。

 こんなところを例の尾行者たちに見られたら何を言われるかわからない。


 早く、葵嬢を連れて出なけりゃならん。

 すぐに葵嬢に言って、散らかっている服を着させた。


 所々破れちゃいるが、何も着ていないよりはましだろう。

 俺の革ジャンを葵嬢に被せ、フロント前を通ったが、フロントに居た女性が俺達を見て何か言いかけたが、やめたようだ。


 破れた服の女の子の姿を見て、犯罪の匂いを嗅ぎつけたんだろうな。

 だから、何も咎められずに出ては来たんだが、後で警察に呼ばれるかもしれん。


 通りに出てすぐにタクシーを拾ったよ。

 この際、やむを得ないから自宅へ連れて帰ることにした。


 タクシーの中から家に電話をかけて、孝子に事情を話し、家へ連れて行く了解をもらった。

 まぁ、それでも最悪の結果は避けられたんじゃ無いかな。


 当然のことながら、葵嬢も今の勤め先には戻れないだろう。

 今夜襲ってきた連中とどうしてもお付き合いをしたいというなら別だがな。


 その辺は、明日の朝にでも話し合おう。


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