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第52話 埋蔵金? その三

 警察から色々と事情を聴かれたんだが、遺体の件を俺に訊かれても困るよな。

 四十住(あいずみ)さんも、白骨となっているほかの人達も、影空間と呼ばれる異空間の結界異常の所為でたまたまここに迷い込んだのだろうけれど、俺が警察に表向き言うならば、どうやってここに入って来たのかは不明だと答えるしかない。


 馬鹿正直に俺の守護霊から教えてもらったとか、異空間が有って新月の際に黄昏時のほんの一時だけ入り口が開いて、そこに被害者が落ち込んで飢え死にしましたと言っても信じてもらえるはずがない。

 まぁ、新月の時に試してもらうと言うのも一つなんだが、・・・・。


 そもそも埋蔵金の隠し場所と影空間は隣り合っていても、本来は別の空間であったそうだ。

 しかしながら、自然崩落というのかある意味で勝手に埋蔵金の隠し場所と影空間がつながってしまったらしい。


 また、影空間への入り口というのも、当初はここに棲みついた(あやかし)物の怪(もののけ)だけが開けられる代物だったものを、偶然陰陽師が見つけ、妖を追い払った後で、ここを隠し蔵として使うことを思いついたようだ。

 それを利用したのが、下総結城氏の初代当主である結城朝光だ。


 彼は奥州藤原氏を滅亡させた際に大量の黄金を持ち帰ったようであり、その量は一説によれば380トンもの黄金ともいわれる。

 仮にそれだけの黄金であれば、鎌倉幕府を開いた頼朝が簡単に恩賞として認めたのかどうかも若干怪しいと俺は思うから、おそらくはネコババ半分、嘘半分で黄金の量を誤魔化した可能性もあるし、その後の伝承の方が大きく膨らませた可能性もある。


 仮に380トンもの24金であれば、5兆円近い金額になるんだが、まぁ、鎌倉時代初期の鋳造技術から言えば不純物もかなり混ざっていたのだろうな。

 18金いや12金であっても、時価で2兆4千万円ほどになるから、巨額の財宝という事だ。


 但し、第17代当主結城(ゆうき)晴朝(はるとも)までの間に。かなりの財宝を使ったとの記録もあって、それがために家康、吉宗などが財宝探しに手をかけたと言われる由縁だ。

 但し、今回発見された財宝はそれほど多くは無いんだろうと思うよ。


 いずれにせよ、ここは代々の結城家当主が自ら開けるか陰陽師を使って開け閉めしていたんだろうと思われるけれど、結城秀康の移封とともに、晴朝も越前に移ったためにそれが使えなくなったという事だろう。

 因みに晴朝は結城に戻りたがっていたそうだ。


 そうして、おそらくは晴朝は、血のつながっていない秀康(家康の次男、庶子)には秘密を教えなかったんだろうな。


 但し、長年使わなかった隠し蔵故に、入り口の封印が経年劣化して新月の際に開くようになってしまったんだろう。

 そうして俺が物理的に隠し蔵に穴を空けたことで、入り口の封印そのものが壊れてしまったようだ。


 まぁ、確かに隠し蔵としての機能は失われたよな。

 でも、そんなもろもろのことをお巡りさんに話しても信じてもらえるはずもないから、俺は、言えることだけ言って沈黙を守ったよ。



 尤も、俺にはちょっとした弱みもあるよな。

 俺は、四十住雅彦さんの行方不明を捜索する依頼を受けた探偵だからな。


 四十住沙也加さんから事情を聴けばすぐわかる話だ。

 だから、その件は遺体が見つかった時点で俺の方から警察には言ってある。


 まぁ、偶然にしては出来過ぎているから疑われても仕方がない。

 行方不明者の捜索依頼を受けた探偵が、たまたま財宝探しの発掘作業の責任者で有って、その作業中に行方不明者を見つけるなんてのは普通はまずありえない。


 それでも、検視の結果、雅彦氏の死因は餓死と判明し、それも死後三か月以上も経っているので、俺への疑いは晴れたようだ。

 洞窟の中には土木会社が開けた穴以外に出入り口は無いことが確認されているからな。


 俺が依頼を受けたのは二か月ほど前で、それまで結城市や筑西市には来たこともない。

 勿論、四十住雅彦氏とは一面識もない。


 結局は、謎の事故死としてお宮入りになる事件だった。

 現代の科学捜査では絶対に解き明かせない謎だから仕方がないだろうな。


 ところで埋蔵金の方だが、一応、一旦は警察預かりになったんだが、二つの家紋が竿金(さおがね)には彫られていた。

 どちらも金塊なんだが、一つの山は「さがり藤」の刻印がついていて、多分こいつは奥州藤原氏の家紋なんじゃないかと思う。


 もう一つは、「右三つ巴」の刻印なので、多分結城家の家紋だろうな。

 「さがり藤」の方は、鎌倉時代に奥州藤原氏を滅ぼした際に分捕ったモノだろうな。


 前述したように、この乱取りの結果について、鎌倉に居た頼朝に対して正直に報告したかどうかは不明だが、本当にかなりの量が有ったようだな。

 今現在の金相場は、1グラム12500円前後をうろうろしている状況だ。


 さがり藤の家紋がついている奴だけでも、重量にして1630㎏ほどあったので、24金ならば203億円、18金でも153億円ほどになるだろう。

 右三つ巴の家紋がある奴が約160㎏だったので、こちらも24金ならば20億円、18金でも15億円ほどになる。


 あくまでも推測なんだが、結城家は代々かなりの大工事等に資金を投入しているらしい。

 その際にこの竿金を切り売りしたのかも知れないな。


 その際に歯切れの金を集めて「右三つ巴」の竿金に鋳直したのじゃないのかと個人的には思っている。

 それとも朝光の子孫で商才のあるやつが居て、金もうけや蓄財分を金塊にしたかだな


 資産家ではあっても、結城家で金山を保有していたという記録は無いからな。

 この金の最終的な落ち着き先なんだが、隠したのは結城氏だけれど、第17代当主結城(ゆうき)晴朝(はるとも)を最後に結城家の血は途絶えている。


 家康の次男(庶子)であって、秀吉の養子にもなった秀康が、養子になって結城家を継いだんだが、彼は越前に所領替えとなって松平姓になった。

 だから本来の意味で結城氏の財産を受け継ぐ子孫はいないはずなんだが・・・。


 まぁ、後は市役所なりにお任せだな。

 少なくとも俺には5~20%程度の謝礼金ぐらいはもらえるんじゃないかとは踏んでいるんだが、正直なところ分からない。


 だが少なくとも今回の発掘にかかった費用については、弁護士の俺の名前で市役所に報告しておいたので、少なくともそれぐらいは出してくれるだろうと思うよ。

 舐められては困るから一応探偵事務所ではなくって弁護士と銘打った俺の名を出しておいた。


 結果はそれから概ね半年(七か月)後になって通知文書が届いた。

 結果は、色々混迷したようだが、拾得物として扱われるようになったようだ。


 埋蔵文化財ならば自治体預かりになるんだが、埋蔵文化財は保存しなければならないことになっており、単純に言えば換金ができないのである。

 色々と市役所や県庁でも協議したうえで、埋蔵文化財には当たらないと判断され、拾得物として取り扱うことになり、6カ月の公示の上で拾得者に渡すことに決めたようである。


 時価で168億円~223億円相当の金塊が俺の手元に入ることになったわけだ。

 但し、俺の住居所在地で一時所得の税金を支払うことになるから、所得税は国へ、地方税は東京都に入ることになるだろうから、このままではおそらく茨木県等には全く金が入らないことになる。


 それで、ふるさと納税ではないけれど、俺に金が入ったなら茨木県に20億円、結城市に20億円の献金をすることにしたよ。

 その分は、おそらく今回の雑所得の税額から控除されるはずだが、その辺は会計事務所に任せている。


 何せ所得税と地方税で所得の55%が持って行かれるからな。

 最終的には、1.8トン余りの金塊は、金地金として某貴金属工業に売却され、俺のところには200億円強の金が入って来た。


 これこそ不労所得なんだろうね

 別に俺としては、少なくとも発掘に要した費用を充当してもらえればそれで良かったんだが、まぁ、多くもらう分には文句は無いよな。


 俺の資産がまた増えたな。

 小金持ちから中ぐらいの金持ちになった気分だな。


 今回の案件では、残念ながら、生きたままの雅彦氏は見つけられなかったけれど、遺体は妹さんの沙也加さんに渡せたからね。

 今回はこれで勘弁してもらおう。


 俺が無理をして()()に穴をあける工事をしなければ、絶対に見つからないはずだった。

 そのうち公共工事の一環で偶然発見される可能性もあるんだが、それが何年五あるいは何十年後になるのかは誰もわからない。


 ◇◇◇◇


 お役所からの依頼がまたまたやって来たぜ。

 但し今回は少し様相が違うな。


 事務所にやって来たのは、外務省中近東アフリカ局中近東一課の補佐官で代市(しろいち)芳次(よしつぐ)、それにもう一人内閣官房副長官補の矢野正平というお人だった。

 外務省の方はともかく、内閣官房は官房長官の下に副長官三人がおり、その下に副長官補という補佐官クラスが多数いるようだが俺も詳細は知らない。


 この二人の顔ぶれからすると外事関係での揉め事のようだな。

 正直言って組織のデカい国家組織なんだから探偵事務所になんぞ来るなよと言ってやりたいんだが、そうもいかんな。


 で、用件はと言えば、端的に言って、ヒズボラに傾倒しているイエメンのフーシー派に囚われている日本人の救出交渉に伴って、アラブ語に堪能な俺の力を借りたいという事の様だった。

 どうも例の某国の王子に関わる案件で俺がアラブ語に詳しいという情報を聞き付けたようだ・


 だが、何故、そこに内閣官房の副長官補が出て来るんだ?

 外交交渉ならば外務省の所掌事務だろう。


 矢野氏から出て来たのは少し意外な話だった。

 人質交渉の対象とされている人物は、三人いて、そのうち二人が日本籍タンカーの船長と機関長、そうしてもう一人が外務省中近東一課の職員としての身分を持つ棚瀬(やなせ)敬之(のりゆき)という人らしい。


 某国の港に寄港する予定の日本籍タンカーに乗り合わせていたのが柳瀬氏らしい。

 この人物については、詳細は不明だが外交機密に深く関わる人物であったようで、この人物を最優先で救出しなければならない事態になっているという。


 うーん、こいつは、行方不明じゃないだろう。

 おまけにアラブ語の通訳なんぞ、それこそ外務省にはたくさんいるだろう。


 しがない探偵に過ぎない俺のところへ余計な仕事を持ち込むなよ。

 俺は面倒ごとの請負人じゃねぇぞ。


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