第50話 埋蔵金? その一
なんだかんだと言いながらお上の仕事が増えて来たよね。
別にこちらからお願いしているわけじゃないのに、内調さんとか、公安とか、警視庁とかが人探しという名目を付けては依頼に来るんだ。
月に一回から二回はお上の仕事だよ。
お上ってのは組織力もあるし経費もあるんだから、原則お断りなんだけれど、多数の命がかかっていたりする場合には協力せざるを得ない。
まぁ、報酬はいいんだけどね。
お上の仕事を受けると何故か相場以上の礼金が入るんだが、俺は別に金儲けのために探偵稼業をしているわけじゃない。
それと例の亡くなった女占い師関連の依頼人も結構多いんだよね。
原則的に彼女がやっていたような占いめいたことはできないから断っているのに、それでもやってくる。
断ったら怒り出す奴もいるから本当に困るんだよね。
サービス業ではあるけれど、だからと言って来客全てにイエスマンの対応をする必要はない。
本来、依頼は個別契約であり、依頼する方も依頼される方も対等の立場なんだ。
だから、依頼を受ける受けないは、こちらの判断次第のところがある。
一旦受けた以上は、その義務を果たす必要があるけれど、絶対の成果を約束するものじゃない。
俺が交わす依頼契約書にはきちんとそのことも謳ってあるよ。
行方不明者の捜索なんて、本来は中々見つかるものじゃない。
ある程度期待されるのは仕方がないけれど、見つけられると確約できるようなモノじゃないんだ。
その意味で結果報告をした際に結構なトラブルがあるんだよな。
見つけられなかったからお前には金を払わんとかの、文句をつける奴がいる。
こういう連中にはお仕置きが必要なので、その都度裁判所に契約不履行の申し立てをしている。
請求費用以上に経費がかかるけれど、ここで引き下がっていると俺の仕事はできない。
ゴネ得は絶対にさせない主義なんだ。
相手には法外な裁判費用か弁護士費用の二択を迫ることになるな。
裁判になれば弁護士を立てないと、手続きが進まないからね。
俺は弁護士資格を持っているから対応できるけれど、相手は弁護費用をかけた上に和解になっても訴訟費用が負担になるんだ。
裁判に掛からずに和解するのが一番経費が掛からないけれどね。
全てが終わった後で意趣返し的な懲罰を俺の居候が勝手にやっているけれど、それは見ないふりだな。
大概、道端ですっころんで軽い怪我をするという奴なんだが、二度、三度とそういうのが続くと大抵の奴はお払いに行くようだね。
ふむ、日本では未だに神仏の御利益を期待する輩もいるようだぜ。
ところでそんな面倒が絡む話は置いといて、またまた毛色の変わった依頼が持ち込まれたよ。
埋蔵金を探しに行った家族が、行方不明になったので探してほしいという話だ。
俺としては、埋蔵金の話には興味は無いが、事務所を訪ねて来たのがすこぶる上品な感じのお嬢さんだったので話を聞いてみた。
いや、美人でなくとも家族を案じているからちゃんと聞いたけどね。
美人、不美人で差をつけるつもりはないが、やっぱり目の前で眺めるなら美人の方がいいよね。
ついでに言っておくと、この美人さんにお茶を出してくれたのは、新たにウチの事務所の常勤になった荒井弓香さん、23歳で、我が妻女孝子の後輩らしい。
勿論、孝子も面接を行って採用を決めたんだが。彼女も美人の口だよ。
募集の際の広告は、孝子や藤田さんを雇った時と同じ条件で実際に支給する額よりも少なくしている。
報酬につられてくる人じゃない方が良いからなんだが、弓香さんは孝子の在学中に顔見知りであったようで、その伝手もあってウチに応募してきたようだ。
彼女の元就職先は派遣ではなかったようだが、会社内部でのパワハラが横行している雰囲気に嫌気がさして転職を希望したようだ。
孝子と同様に語学に堪能だし、事務系の仕事はきちんとこなす女性だよ。
まぁ、弓香嬢の話はまた別の機会にすることとして、今は依頼人の話を進めよう。
依頼人は、四十住沙也加さん28歳で、実家は茨木県の筑西市のようですが、彼女は東京の大学を卒業して、都内の某アパレルメーカに勤務、二年前に結婚して現在は専業主婦のようです。
で、探すべき失踪者は、彼の兄である四十住雅彦さん30歳で、職業は一応不動産業なのかな?
親から受け継いだアパートの大家さんをやっているようです。
このアパートというのが、四階建てで8戸が入居できるRC棟が六棟もあって、この全部を某会社の社宅に当てているので、毎月かなりの定常的な家賃収入が入るのだそうです。
管理については従業員を雇っているので、ご本人は余り仕事をしなくても良いのだとか。
で、ある意味で趣味の域で色々やっていたのが、結城家の埋蔵金探しだったのだそうです。
日本の三大埋蔵金の一つに数えられる、結城家の埋蔵金は、鎌倉時代に端を発するそうで、義経討伐軍が藤原三代の平泉を滅ぼした際に、結城家の始祖である結城朝光がその戦功として源頼朝から褒美としてもらい受けた財宝が、その埋蔵金の根拠であるようです。
実はこの財宝を探すために、将軍である家康、吉宗までもが発掘に関り、更には幕末の老中「阿部正弘」も発掘を手掛けたと云う記録があるそうです。
その場所は、結城家発祥の地である茨木県結城市であり、沙也加さんの実家のある筑西市の隣町なんです。
結城家の居城であった結城城は、家康の次男(庶子)である結城秀康の越前転封に伴い、廃城となって取り壊されています。
この結城城取り壊しの際に、動いたのが家康でしたが、生憎と財宝は見つかりませんでした。
この後の吉宗や阿部定弘の際も同様で手がかりはありません。
結城家埋蔵金の話は某有名作家の小説のネタにもされるぐらいなので、本当に有名な話なのでしょうね。
で、雅彦君がこのネタに嵌ってしまったみたいで、事あるごとに結城城址に行っては、金属探知機を使って探し回っていたそうです。
まぁ、生活に困窮していない暇人だからできることでしょうか。
ところが、一月ほど前に、筑西市の自宅を出た切りで消息不明になったようです。
彼は独身で有り、親兄弟も離れて暮らしていたのですぐには気づきませんでした。
アパート管理の事務をやっている女性から、「オーナーが三日ほど出勤してきません。」という連絡を受けて初めて雅彦氏の失踪が発覚したのです。
それから家族総出で心当たりの知己等に連絡して所在を確認しましたが行方不明のままでした。
雅彦氏はバンタイプの自家用車に機材を積み込んで埋蔵金探しに行くのが常らしく、この時もその自家用車がありませんでしたので、おそらくは埋蔵金探査に出かけたのだろうとは推測しても、これまでこの手の探索に泊りがけで行くことは無かったので、沙也加さんを含めて親兄弟は心配していました。
一週間も音信不通となるとただ事ではないので、警察に捜索願を出しました。
その結果、結城市内のディスカウントスーパーの無料駐車場で雅彦氏の自家用車が発見されましたが、当の雅彦氏は行方不明のままでした。
それから特段の進展もないことから、東京在住の沙也加さんが周囲から評判を聞きつけて、ウチの事務所にやってきたという事のようです。
失踪から一カ月も連絡が無いという事は犯罪にでも巻き込まれたか、橋野健作さんのように何かで記憶を失ったまま生きているか、最悪では死亡している線も考えられるよなぁ。
身代金目当ての誘拐ならば、一月も待たずに連絡を寄越すだろう。
因みに雅彦氏がトラブル等を抱えていなかったかどうかを沙也加さんに聞いたが、沙也加さんは知らないと言う。
多分、乗用車が発見されていることから、俺の場合はそこから足取りは追えるとは思うのだが、結城市は結構遠いぞ。
高速道路を一部使っても二時間近くはかかるんだ。
何せ結城市は、茨木県ではあるんだが栃木県との県境付近だからな。
それでも、車が有れば、茨木県内ならば二時間程度でどこにでも到達できるから、随分と便利になったもんだよ。
前回の橋野健作さんを捜索する依頼では、長野県の赤石荘まで車で行くのに4時間近くかかったうえに、渋谷を出てから戻るまで丸々八日もかかったからなぁ。
今回は山登りにはならないとは思うんだが・・・、さてどうなんだろうね。
因みに雅彦氏が乗っていた車の写真、それに雅彦氏のスナップ写真を入手しておいた。
金属探知機以外に雅彦氏が持って行った機材までは、沙也加さんも親御さんも知らないらしい。
スマホを常時持ち歩いているはずなので、電話がつながる限り連絡はできそうなものなんだが、生憎と『電波の届かない場所か電源が切られています。』というアナウンスがされて連絡がつかないそうだ。
俺が、最初に試したのは、エレック君に頼んで、スマホの痕跡を手繰ってもらう事だった。
〇コモの中継局データから割り出した最後の確認地点が、どうも自家用車が放置されていた近傍のようだ。
電源が入っていればGPSでより正確な位置が確認できるはずなんだけれど、現時点ではそれが分からない。
従って、中継局データで確認された地点の周囲百メートルから数百メートル前後が最後に居た地点という事になる。
自家用車が残っていた駐車場は、結城城址から南西に直線距離で2キロ半ほども離れた場所であり、ディスカウントスーパーに買い物に来たにしては遠すぎる嫌いがあるよね。
結城城址からなら、もっと近い位置に二軒ほど大型スーパーがありますから・・・。
もしかして、ここでしか売っていないものがあった?
まぁ、現地に行って調べなければ今の時点では何もわからないな。
一応契約書を作成して、この依頼を受けることにはなりましたが、消息を絶ってから一カ月もたっての依頼なので、あまり期待をされないようにという念押しはしておきました。




