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第48話 結婚・その他 

 『結婚は悲しみを半分に、喜びを二倍に、そして生活費を四倍にする』とは、イギリスの諺らしい。

 また、『伴侶とは一生話し合える人かどうかを確かめて選ぶべきもの』という話も聞いたことが有る。


 俺の場合、結局孝子を選んだのは、人柄とその賢さだったような気がするな。

 彼女と話していて、飽きが来ないんだ。


 だから彼女から迫られた時、俺のリビドーのままに抱いちゃった。

 後悔はないぜ。


 だから速やかに既成事実をちゃんと形にすることにした。

 一週間後には彼女の実家を訪ねて、昔ながらの慣例に則って、「娘さんをください。」とご両親にお願いしたよ。


 しがない探偵だけどな。

 これまで一度もやったことは無かったけれど、孝子の父親が番号のつく地方銀行に務めていたので、名刺代わりに俺の持っている某銀行のブラックカードを見せたんだ。


 俺の持っているカードは一応二千万円までの買い物ができる奴だ。

 当然のことながら、お父さんもそのステータスを知っていたんだろうな、胡散臭い探偵から資産家の御曹司にまで評価が爆上がりしたようだ。


 いや、でも、俺の親父は左程の資産家じゃないからな。

 でも、それを言うと色々と収入源を勘繰られるから、その辺は曖昧(あいまい)にしておいた。


 孝子にはきちんと俺の財産の説明をしてあるから、うまくごまかしてくれるだろうと思っている。

 で、その後は、俺の実家にも孝子を連れて帰り、俺の家族にも紹介し、結婚の日取りを勝手に決めた。


 田舎の風習に染まっていると、やれ顔合わせだの結納だのと面倒なことをしなければならないが、そんなものは全部すっ飛ばして、式場を予約し、結婚式の日取りを決めた。


 式場選びも結構なんだかんだと問題はあったが、田舎から出て来る両家族のために宿泊できるホテルを選び、松濤地区の我が家からは少し遠いけれど、マンダリン・オリエンタルを選んだ。

 招待客は両家50名までとして、華燭の典(結婚式)は房総の旅から三か月後だったな。


 オーダーメイドのウェディングドレスが、何とか間に合った。

 孝子は着飾るととても綺麗で、惚れ直したよ。


 一生に一度の結婚だから、ちょっとの間、探偵業もお休みして新婚旅行に出かけたな。

 行く先は孝子の希望で東南アジアへの旅だった。


 タイのバンコック、マレーシアのクアランプール、シンガポール、インドネシアのバリ島、そうしてオーストラリアのパースに寄って、日本に戻ってきた。


 各地が二泊ずつなので、十泊十二日の旅行になったな。

 取り立てて言うこともないんだが、まぁ、ハネムーンという奴だからな。


 甘い、甘~い時を二人で過ごしたと言って置こう。

 別におかしなことはしていないぜ。


 房総の旅から戻ってからは、松濤の我が家でも俺のベッドにはいつも孝子が居たからな。

 その時点で事実上の夫婦だったから・・・。


 だから呼び方も「孝子」に変わった。

 新婚旅行中に少々物騒な場面に出くわしかけたんだが、そっちの方は俺の居候達が陰で動いてくれて何事もなく終わったよ。


 インドネシアのバリ島で、イスラム過激派が爆弾騒ぎを起こしかけたんだが、そいつを未然に防いでくれたんだ。

 人目にはつかないよう、犯人達をとっ捕まえてバンダ海に沈めていたようだな。


 事前の通知も了承も何も無かったぜ。

 全部終わってから俺に念話で伝えて来たからな。


 折角の二人のハネムーンを邪魔する奴は許しておけなかったんだそうだ。

 俺達の泊まっていたKuta Beach Club Hotelが狙われて、食堂に爆弾を仕掛けようとしていたらしい。


 どうやら、コンちゃんが悪意を持った男を見つけ、ほかの霊に追跡してもらって犯行計画を知ったらしい。

 事件の関係者は、爆弾ともども全員海の底で魚の餌にでもなっているだろうから、当該犯罪が行われようとしていたことさえ誰も知らずにいる。


 彼らの狙いはオーストラリアからのとある旅行客にあったようだ。

 その旅行者とは食事の際に偶々顔見知りになった人でもあったので、随分と彼も運の良い奴だと思うぜ。


 いずれにせよ新婚旅行から帰って、当面は孝子も俺の事務所で働くことになっているんだが、いずれお腹がでかくなるだろう。

 コンちゃんの見立てでは、新婚旅行中に精子と卵子がドッキングして、着床したようだ。


 このまま順調に育てば十月(とつき)後には俺たちのベビーが生まれることになる。

 従って、新たに毎日通える事務員さんを募集することにした。


 今回の事務員の面接には、孝子も立ち会うことになったな。

 ついでにお手伝いさんも募集だな。


 松濤の我が家は広いんで、お手伝いさん無しでは孝子も大変になるのは目に見えている。

 妹の加奈も居候でいるんだが、加奈の家事手伝いは余りあてになりそうもないからな。


 日本人のお手伝いさんも居ないわけでもないんだが、そのほとんどが家政婦の派遣業になっているから、結構面倒なんだよね。

 一応の身元は、派遣会社が保証してくれているんだろうけれど、滅多に住み込みという方法はとらないようだ。


 それで法規制の穴をかいくぐって、フィリピンの家政婦さんを雇うことにした。

 それも二人ね。


 一人の日本人家政婦さんを住み込みで雇うと、最低でも四十万円以上も費用が掛かるようだ。

 で、人件費の安いフィリピン人メイドを月25万円で雇うことにしたんだ。


 確か数年前の法改正で、日本の雇用主が確定していて労働協約書を締結していれば、就労ビザを貰えて、フィリピン女性達も俺の家で住み込みメイドができることになっている。

 最低賃金については月額20万円以上という縛りが確かあったはず?


 それと言葉の問題も多少あるんだけれどね。

 俺も孝子も英語は大丈夫だから、我が家に関する限り問題はない。


 但し、日本で生活する以上は、日本語を理解していないと留守番でさえ困ることになる。

 取り敢えず日本語については、向こうで覚えてもらうしかないだろうな。


 マニラには、日本語学校が結構あって、そこで学んでいる人も多いんだ。

 そんな生徒さんの中から選び出すわけなんだが、ダイモンにお願いして現地で人定をし、各種能力を確認した上で、特定の人を狙って俺が直接ウーマン・ハンティングだ。


 勿論、盗癖なんぞあっては困るから、その辺のチェックは抜かりないよ。

 その上で事前にお手紙を出し、マニラ空港で直接会って、その場で契約書を交わし、旅費その他の準備金を渡して俺は東京へ戻った。


 朝早く東京の羽田を発って、夜には戻る強行軍だったけれど、メリッサとソフィアという二人のメイドをゲットした。

 二人ともに19歳だが、家族が多く生活は困窮しているようだ。


 面接で聞いたら、給与を貰ったら半分は家に仕送りするそうだ。

 彼女たちは、二か月後には日本に来ることになる。


 未だにフィリピン国内での年収は少なくて、マニラで平均年収が20数万円であり、年収50万円を超える人はかなり少ないはずだ。


 そんな中で、月に25万円、少なくとも手取りで20万円以上を貰える勤め先はまず無いだろう。

 因みに、豪州やシンガポールなどにもフィリピン人のメイドはいるが、概ね月額で10万円まで行かないことが多いようだ。


 マニラ市内のメイドは、月額4万円未満とも聞いているから、それに比べると日本の賃金は高いよね。

 我が家の場合、二人で月に50万円の出費は大きいけれど、30年雇っても総額で2億円を超えないわけだから大丈夫。


 念のため、彼女達には見えないカラスと猫の霊を付けておく。

 彼女達は善良だと確認はできているが、何事も弾みというものがあり、周囲に流されて罪を犯す者も少なくないんだ。


 いずれにしろ二月後には我が家の住人が増えることになるし、一年後にはさらにベビーも増えていることだろう。


 ◇◇◇◇


 フィリピンから帰った俺を待っていたのは大学時代の友人だった。

 横浜市内で某弁護士事務所に入って民事専門の弁護士をやっている男だ。


 高尾(たかお)裕也(ゆうや)31歳で、俺より二つも年上だが、法学部の連中は結構浪人生が多いんだ。

 その上、司法試験もなかなか合格せずに浪人している奴もいるんだが、この高尾は一回で合格した口だな。


 従って、司法修習生も同期だった。

 弁護士、検事、裁判官といういわゆる法曹界の連中で俺の事務所を訪ねて来たのは、こいつが初めてだな。


 俺と孝子の結婚式で友人として呼んだ中にこいつもいた。

 司法修習生以来、余り会ってもいなかったのだけれど、SNSやメールでは連絡も取り合っていたから結構式に招いたんだ。


 実は大学同期で結婚している割合は少ないんだ。

 法曹界は晩婚が多いのかな?


 同期のうち既婚者は二割まで行っていないんで、この高尾も独身だ。

 まぁ、だからと言って恋人を探してくれと来たわけじゃない。


 相続問題で彼の務める弁護士事務所に依頼人が現れたようだ。

 依頼者の被相続人(実父)が現在行方不明となっており、遺言状めいた書状が見つかって親族内で()めているらしい。


 彼の依頼人の親族が別の弁護士を立てて、相続財産を巡って係争中のようだ。

 残念ながら遺言状めいた書状が、本物かどうか確定できないために、長引いているようだ。


 高尾が俺の事務所に来たのは、行方不明となっている父親を見つけられないかという事だった。

 問題となっている相続財産は、神奈川県相模原市近傍の山林なんだが、その一部に大規模な宅地造成計画が持ち上がっており、その土地の帰趨(きすう)を巡って争いがあるようだ。


 因みに行方不明となっている親父さんというのが橋野健作さん、66歳で、依頼人曰く殺しても死なないような頑健な山男だったそうだ。。

 二年前に南アルプスへ行って、そのまま消息不明になっているようだ。


 二年も音信不通であれば、山で遭難というのが普通の解釈だろうな。

 でもその依頼人は親父さんが生きていると信じているようで、何とか探せないだろうかと言ったことが俺の事務所を訪ねて来た発端だったようだ。


 同期の法曹界の連中に俺の仕事をPRしたつもりはないんだが、結婚式で俺の仕事を改めて確認したものだから、場合によっては事務所所属の調査員として使おうという下心もあるらしい。

 一応、ウェブでは『行方不明者の捜索専門』と唄っているし、まぁ、受けざるを得まい。


 時間的には左程かからないだろうと思っていたんだが、実は結構苦労する羽目になったな。


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