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第46話 面倒な奴? その二

 翌日の夕刻になって、宅配便で奥さんの貝原(かいばら)由美子(ゆみこ)さん名義で近江秘書あての依頼書が俺の事務所に届けられた。

 無論、こいつが真っ赤な偽物だという事は引き続き監視を続けているカラスの霊からの報告で分かっている。


 一つの方法としては、何もせずに1週間後ぐらいに『手掛かりなし』という報告書で済ます方法もある。

 その場合は多少の整合性を図るために、それなりに活動しましたよという報告書をつけて、日当分を請求しなければならないのだろうね。


 そっちの方も面倒なんだが、放置していると貝原さんの命ももしかすると危ないかもしれないから、須藤組の動きについてもチェックをしておく必要がある。

 高木・近江の密談から察するに、貝原氏の身柄確保を第一に、表に出ては困る文書とやらの回収を図っているのだろう。


 高木議員にとって足枷になりかねない秘密文書を仮に須藤組が入手したなら、それを恐喝のネタにするかもしれないのに、危ないヤクザに頼むこと自体が思慮に欠ける行動なんだが、・・・。

 これは須藤組とは余程ズブズブの関係なのかもしれないな。


 いずれにしろ、登場人物がいずれも灰色か真っ黒なわけなんだが、最初に手がかりを見つけるために、先ずは、失踪(しっそう)している貝原健司なる人物について調査だな。

 エレック君に頼んで、戸籍及び住民台帳から貝原氏の住所を確認、俺の軽四駆で行ってみた。


 松本なので結構な遠出にはなる。

 中央自動車道を使って、渋谷の事務所から3時間半ほどかかったかな。


 長野県松本市里〇辺にある貝原氏の自宅は、道路に面したなまこ壁の土蔵が目立つ、築45年の古家だ。

 もしかする以前は武家屋敷だったのかもしれないが、土蔵と囲壁がいずれもなまこ壁で、ちょっとした城壁を思わせる。


 門構えもなかなかのものだが、今は母屋も無人で誰も住んではいないようだ。

 居付きの霊に訊くと、1年近く前から不在になっており、電気、水道、ガスも停まっているようだ。


 一年前までここに住んでいたのは、貝原健司さんと奥さんの由美子さんに間違いなく、とある深夜、夜逃げのように自家用車で出て行ったそうだ。

 ナンバーを確認して、エレック君に警察のNシステム等を使って、古い記録を調べてもらったが、新潟までで追跡は途切れている。


 新潟に潜伏しているのか、あるいはここで車を捨てて別の交通機関に乗り換えた可能性もある。

 エレック君、全国各地の防犯カメラ等を駆使して、顔写真から夫妻を捜索してくれているんだが、なかなか時間がかかりそうだ。


 因みに貝原夫妻は、新潟で数回にわたり自分の銀行口座から現金を引き出している。

 その総額は二千三百万円ほど。


 口座にまだ残額はあるけれど、その後は銀行もクレジットも使っていないようだ。

 つまりは現金をもって、いずこかへ消えたわけというわけだ。


 この両名、生まれてからずっと松本に住んでおり、当然のように地元民とのつながりも大きいようだ。

 高田議員は貝原さんを私設秘書にすることで、その知名度と顔を使って地元票を得ようとしたのかもしれない。


 エレック君に顔写真からの捜索を引き続きお願いしつつ、最寄りの空き地につながる路肩におれの四駆を駐車して、チョット幽体離脱の真似事をしてみる。

 離脱中は無防備になるからこの方法は余り使わないんだが、取り敢えず車の中に居れば安全だろう。


 俺の身体は自動車の運転席に残したまま、幽体が宙に浮いて、屋敷の中を捜索だ。

 ついでに残留思念を探る。


 人が使ったものは愛着が強かったものほど、その人の残留思念が残るものなんだ。

 また、さほどの愛着は無くとも、日記などはそもそも記録に残そうとする意図が働いているために本人の残留思念が残りやすい。


 書こうか、書くまいかを迷っている場合などは、特にその傾向が強いんだ。

 薄暗い屋敷の中を幽体で探してみて、書斎の机に引き出しにあった万年筆に、その思いが残っていた。


 別にご本人が今現在生きていようが死んでいようが関係なく、残留思念はその時のまま残っている。

 但し、こいつは読み解くのに時間がかかる。


 三時間半かけて読み取ったのは三つ。

 一つは高田議員が松本の土建屋崩れの野田組を使って、地上げの真似事で暴利を得た際に地権者の一家を強盗に見せかけて殺害したことを貝原さんがたまたま知ったこと。


 その犯罪を裏付ける電話記録と野田組の幹部と交わした秘密文書のコピーを入手したこと。

 二つ目は、貝原健司氏には、一時期孤児を引き取り養育していたことがあり、養子にはしていないがその人物とはそれなりに連絡を取っていたこと。


 但し、この孤児であった人物については、貝原氏によほど親しい人物でも知る人は少ない。

 三つ目、当該人物は、今現在は北海道の北見に住んでいることが分かった。


 北海道まで調査に出かけるのはやぶさかではないが、俺が北海道にまで出かけたりすると、場合によっては高木達や須藤組に気づかれる可能性もある。

 実際に松本市に巣くう野田組の手の物が、屋敷の周囲に張り番を置いていたし、見慣れぬ俺が屋敷の周囲をうろついたことで、松本の野田組から東京の須藤組に連絡が行ったことを確認している。


 裏街道を歩いている奴らもそれなりに頑張っているんだなと思うよ。

 これを探ってくれたのは俺の居候の黒猫ちゃんだ。


 俺から見える見かけは生後半年かそこらの子猫だな。

 無論、常人には見えんから、野田組の幹部連中に子猫の霊五体を張り付けておいたんだ。


 須藤組のみならず野田組も貝原氏の行方を追っているようだ。

 因みに地上げに伴う殺人が有ったのは五年前の話だから、こいつが表に出れば確かに問題だろうね。


 高田議員が殺人に直接関与したわけじゃないんだが、地上げと嫌がらせについては、明確に指示若しくは教唆しているもんな。


 殺人はともかく地元暴力団とのつながりが暴露されただけで政治生命は無くなる。

 北海道行きは断念して、やむを得ないからダイモーンにお願いして、貝原夫妻の所在と現状確認をお願いしたよ。


 九尾の狐(コンちゃん)もいるんだが、コンちゃんは俺の守護霊なんで、とにかく俺の周辺から離れることを嫌う。

 その限界距離は、概ね40キロから50キロ前後かな?


 その範囲内ならコンちゃんも動いてくれるが、圏外は駄目なんだ。

 で、信頼性の高いダイモーンが一番使いやすいという事だ。


 結局、貝原夫妻は北見市在住の菅沼洋一氏の家に匿われていた。

 この菅沼さん、北見郊外で酪農家を営んでおり、自宅は街から離れているので訪れる人もさほど多くはない。


 貝原夫妻はこの菅沼さんの家の離れに籠っている。

 銀行から降ろした金の半分を菅沼さんに生活費として渡しているようだ。


 菅沼さんには奥さんがいるが、その奥さんも貝原夫妻が菅沼さんにとって両親同様の人物と知って、かいがいしく面倒を見ているようだ。

 従って、須藤組や野田組の手が伸びない限りは貝原夫妻も大丈夫だろうが・・・。


 因みに証拠となる資料は、金属製のアタッシュケースに入れたまま、しっかりと防水処理をして菅沼牧場内のポプラの大木の根元に埋めてある。

 貝原氏は高木議員を見限っているものの、自らその犯罪を告発するまでの気持ちは無いようだ。


 長年連れ添った古女房のような気持ちなのかもしれないな。

 さてさて、俺の方はどうするかだが。


 貝原氏の所在についてはこのまま不明としておいてよいだろう。

 但し、高木と近江の二人を含めて、須藤組と野田組を放置はできまい。


 私的な制裁もありなんだが、ここは警察にお願いしようか。

 そのために、俺のところの居候達に一働きしてもらったよ。

 

 高木議員及び近江秘書と須藤組、高木議員と野田組との関連で所謂非合法な事案を山ほど見つけてもらった。

 意外と証拠ってあるもんだね。


 段ボールに三つほども集まったんだが、こいつを須藤組と野田組が使っている事務所の押し入れの中に入れておいて、警察に匿名のメールで御注進。


 容疑は麻薬及び向精神薬取締法違反と覚醒剤取締法違反、それに銃砲刀剣類取締法違反容疑だな。


 いずれも証拠の在り処をメール内に明記してあるから、捜索差押をかければ間違いなく出てくる代物だ。

 その中に高木議員との癒着を示す証拠が有れば、否応なく警察も動くことになる。


 特に5年前の地上げがらみの殺人事件もその中に入っているからね。

 野田組は長野県警、須藤組は警視庁がそれぞれ動くことになる。


 俺の方は、依頼を受けて一週間後に、所在不明で依頼主(?)の近江秘書に連絡を入れ、長野松本までの調査と合わせて5日分の調査日当を請求して仕事は終わり。

 そのレポートを出して二日後にはちゃんと入金してくれていたので俺の方は終了だ。


 但し、その三日後に須藤組と野田組に警察が覚醒剤取締法違反等の容疑でガサ入れに入り、関連した証拠を押収、その三日後には高木議員と近江秘書らが逮捕された。

 容疑は地上げに絡む暴行・脅迫事件の共犯だった。


 高木議員はもちろん容疑を否認している。

 一方の近江秘書は自分が関与した種々の案件について証拠資料を突き付けられ、色々言わなくても良いネタまでバラし、高木議員を追い詰めてしまったようだ。


 最終的に高木議員は各方面から叩かれて、議員を辞職することとなり、現在は起訴拘留で収監されている。

 裁判はまだだが、圧倒的に不利な状況で有って、どんな有能な弁護士がついたにしても、有罪判決は免れないだろう。


 一応、この案件はこれで終了なんだが、須藤組と野田組については俺の居候達がかなり暴れまわって物理的に構成員をぶちのめしているみたいだ。

 ある者は、階段の頂上からいきなりこけて転がり落ち、腕と足の二か所に骨折の大怪我を負ったし、また、ある者は自動車事故を起こし、その際にアルコール血中濃度が異常に高かった(ご本人は飲んだ記憶が無い)ために、酔っぱらい運転で逮捕され、ついでに自動車にあった(持ち込んだ覚えがないもののパケにはしっかりと指紋がついていた)薬物を押収されて、そのまま刑務所送りになった。


 少なくとも高田議員が逮捕されてからわずか一カ月の間に、組員の7割程度が大怪我を負ったり、警察につかまったりしていたので、彼らは災厄の年と恐れて、最寄りの神社に揃って厄祓いに行ったようだね。

 まぁ、確かに災厄がらみの霊なんかが引き起こしたものだけれど、生憎と神社で厄祓いをしても効かないよ。


 だから、くれぐれも悪いことはしなさんな。

 ご愁傷様でした。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 7月6日、一部の字句修正を行いました。


  by サクラ近衛将監

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