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第43話 テロリストへの対応等

 俺が難波警視正と長嶋一佐に関連情報を伝えた翌日の夕刻に防衛省と警察が一斉に動いた。

 狙撃実行犯であるクァンとリンの二人が、買い物のために連れだってアパートを出たところを公安警察が路上で拘束した。


 職務質問などの本来の手続きは一切無視している。

 暴力団担当(以前は確か捜査四課今は暴力団担当課)のところで押収していた海外製の30万ボルトのスタンガン二丁を借り出して、そいつでいきなり昏倒させたんだ。


 流石に人の多い街中であったから、クァンとリンもすれ違っただけのはずの男二人が、いきなり振り向いて、首筋にスタンガンを突き付けられるとは思ってもいなかったようで、一言も発せずにその場で崩折れたわけだ。

 その上で、すかさず救助を装って近くに待機していた特殊車両に引き込んだわけだ。


 この間わずかに十秒未満だ。

 車に引き入れる際に、耳に着けているイヤホンマイクと胸ポケットに入っていたスマホを確実に押収している。


 国家の一大事ともなれば警察もやることがけっこうえぐいな。

 俺は二人につけたカラスから情報を得ているから、その状況を逐一知っているんだが、別に人に漏らすつもりもないぜ。


 もう一人防衛省に潜り込んでいたスパイである生田二尉は、わき役か主役かよくわからない人物だが、同時刻頃執務室で執務中に情報保全隊の手により拘束されたようで、後日長嶋一佐がら連絡を受けた。

 別に律義に俺のところへ報告はいらないのだけれどな。


 同じ時刻頃、生田二尉の両親とされる二人の潜入スパイが警察の手により拘束され、その実家、生田二位の宿舎、クァンとリンの住まいであるアパート、勤務先の会社等が大規模な捜索差押を受けた。

 因みにロッカーに預けられていたライフルはその1時間前に確保され、指紋採取や弾道検査鳴ろが行われたようだね。


 当然のことながら、ミャンマー系列会社の幹部社員らが、強制ではないもののほぼ拘束されて取り調べを受けている最中だ。

 任意同行とはいえ、殺人未遂ほう助の疑いで即座に逮捕できる状況であるようだ。


 まぁね、実体のない社員を形式上雇っていたことだけでも色々と問題がある。

 この会社も公安の手で実質潰されるのは間違いないだろうね。


 心配していたクァンのスマホ等の情報も抑えられたので一安心だが、国外の存在には如何に警察や自衛隊でも手が出せない。

 で、その日のミッドナイトに、俺は居候達にゴーサインを出した。


 アイツらが物凄く逸り立っていたからねぇ。

 それこそ、徒競走のように一斉に飛び出していったよ。


 その所為か、俺の気力のようなものが一瞬でごっそりとかすめ取られたような感覚がして俺は身震いをした。

 その日、日本時間では23時55分から翌日の0時15分の間に色々なことが、中華国内とその衛星国内で起きた。


 参謀本部第二部所属のIT部隊の国内外17の支部で一斉に火事が起きた。

 十分な防火設備が施されていたはずなのに、この火災では最新の防火設備が一切機能しなかった。

 

 また、万全の保安設備があったはずなのに、電源が遮断され、扉が閉まって手動では開閉できないようになってしまったために、中で働いていた者は避難ができずに重要機材とともに全員が焼死したのである。


 これらの支部で働いていたのは交代制三部隊のうち一部隊だけであったのだが、それ以外の二部隊の隊員全員が一斉に行方不明になった。

 しかしながら、当初、参謀本部は事態を掌握できずにいたためにそのことは知ったのは大分後のことだった。


 次いで参謀本部第二部にあるIT部隊の司令部でも、各種IT機器が一斉に火を噴くと同時に、別の場所に保管されていたサーバーから大量のデータがインターネットに流出したのである。

 この中には中華国が長年にわたりハッキングによって入手した外国の秘密情報もあったのだが、それよりも問題が大きかったのは、中華国内部の機密情報が垂れ流しになったことだった。


 機密情報の中には、軍事データはもちろんのこと、新疆民治区や西蔵民治区における種々の民族差別や宗教差別の実態、更には人体実験や断種実験のデータも含まれていたし、何よりも〇ロナウィルスの実験データや中華国が秘匿していた〇ロナ関連情報が白日の下に晒されたのである。


 中華国は、世界保健機構(WHO)に対して嘘の情報を提出していたことが完全にばれたのである。

 俺の居候達の活動がこれで終わるはずもなく、当初の俺の伝えた予測通り、中華国及び北〇鮮の関係者が次々と処断されて行ったのである。


 国家主席が脳梗塞で半身不随となり、政務を続けられないことや、その他の凶事はその一切合切が一時的には伏せられたものの、データー流出による国際的反響で中華国は叩かれた。

 広報担当官が必死に抗弁しようともその一切が無視されている。


 このおかげで中華国は一気に国際信用を失い、中華国の通貨「刓」は暴落した。

 それらの事件が発生してから、一月後、膨大なデータを解析し終わった各国の研究機関から中華国の様々な犯罪が暴かれるに及んで、大規模な賠償請求国際訴訟が起きたのである。


 個人が起こした訴訟もあるが、その多くは政府が中華国に対して請求をなした事案である。

 〇ロナウィルスは、中華国から発したものであり、それを伏せたことで初期対応が遅れて世界中に蔓延させたことが明らかになったからである。


 中華国政府は必死に否定したが、自国のサーバーから流出した情報を偽物だと否定しても信用はされなかった。

 民族差別を追及していたマスコミは、特に自前で入手していたデータと突き合わせて、これは間違いなく真実のデータであると公言したことが拍車をかけた。


 国際司法裁判所は異例の勧告を発した。

 国際司法裁判所では賠償請求等民事の当事者の一方が裁判を望まなければ、裁判が成り立たないという原則がある。


 しかしながら、中華国がこれに応じなければ、以後一切の中華国が提起する国際司法裁判の訴訟を受け付けないとする声明を発表した。

 因みに各国が起こした〇ロナ関連の損害賠償額だけでも数百兆ドル規模になると見込まれている。


 これに個々の死者への賠償請求などが加算されるとその十倍ほどにもなるだろう。

 中華国はこれを支払わねばならないとすればおそらくは破産することになる。


 だが、この大事に主導権を発揮しなければならない国家主席は不在であった。

 国家主席が死亡すれば別なのだが、存命中は政務ができないとしても、全人代で罷免されるまでは国家主席なのである。


 為に副主席が矢面に立って火消しに努めたが、一旦落ちた国際信用をもとの戻すのは困難の極みであった。

 また、参謀本部二部では貴重な人材を数千人規模で失っており、IT部門の強化を再発動せねばならなかった。


 何しろこれまで培ってきたハッキング技術を教えられる人材が根こそぎいなくなったのだ。

 焼死した隊員は別として、失踪した隊員は依然として見つかってはいない。


 実は失踪した隊員については南シナ海の海底に沈んでいる。

 俺の居候達が生きたまま海底に放り込んだせいだ。


 大気圧からいきなり百気圧を超える深海に放り込まれたら人間はどうなると思う?

 周囲の水圧に押し込まれて、人体はぺっしゃんこなんだぜ。


 水深10メートルで1平方センチあたり、1キログラムの圧力がかかるんだが、百メートルの水深だと百キロがかかるわけだ。

 肺が一気に潰されてしまうし、いかに強靭な骨や筋肉でも潰れるぜ。


 17支部の非番の隊員数百名が、圧壊されて海底に沈み魚のえさになっているようだ。

 もちろん俺がその現場に立ち会ったわけじゃない。


 俺の居候から結果を聞いただけの話だ。

 人の命を奪うということに何だか不感症になりそうだ。


 やっぱり、俺って魔王なんかいなぁ?


 ◇◇◇◇


 私は防衛省情報本部総務部長の長嶋一佐だ。

 内調から情報を得、警視庁からも確認を取って、渋谷に事務所を構える明石大吾なる人物に国家機密に関わる調査依頼をした。


 会ってみて特段に凄腕の探偵とは見えなかったのだが、少なくとも、過去の実績では成果を上げている人物なのだ。

 どのみち、ダメもとの依頼でもあるんだが、依頼してから4日以内という制限があれば、かなり厳しいとは思っていたんだ。


 まして、探偵事務所に多数の人材を抱えているのかと思いきや、当人曰く一人でやっているというのだから恐れ入る。

 多分、腕利きであっても一人ではまず無理だろうと思っていた。


 しかしながら、頼んだその日の深夜には私のスマホに連絡が入った。

 情報が有れば何時でもかけてくれと言っておいた電話だからやむを得ないが、それにしても夜の11時過ぎにかけて来るとは思ってもいなかったな。


 さりとて国家の一大事ではあるわけなので、いつ何時であっても動かざるを得ない。

 明石探偵からは、関連情報を得たが、電話での伝達は機密保持上問題があるので渋谷の事務所まで来てほしいと言った。


 私が、防衛本省にもあるジープを出させ緊急灯火をつけて渋谷に急行した。

 私がこうした緊急車両で移動するのは初めてのケースだな。


 事務所前に到着すると事務所前の道路にパトカーが一台止まっていた。

 うん、難波さんが先についたところのようだな。


 接近するとちょうど難波さんがビルに入って行くのが見えた。

 私も急いで車を降りて後を追う。


 まぁ、一分か二分の差なんだろうな。

 探偵事務所に入ると、明石君と難波さんが応接室で待っていた。


 私が応接室に入ると、明石君がドアを閉め、そうして何かのスイッチを入れた。

 ブーンという低周波の音がかすかに聞こえるようだ。


 明石君が言った。


「取り敢えず盗聴防止用の音波発生器を作動させています。

 低周波と高周波の音波4種類を発して、ガラスやコンクリートを介して盗聴するのを防ぐ機材です。

 一応、内装に防音材は使っているんですけれど、最新のレーザー機器では遠くからでも盗聴ができるらしいのでその予防です。

 ですから、この室内での会話は一応安全です。」


 ひと息ついてから明石君が、情報源は明かせないとしながらも、機密情報を次々に披露してくれた。

 驚いたのは灯台下暗しで、防衛省本省勤務をしている者の中にスパイがいたことだった。


 自衛隊員になるには日本の戸籍が居る。

 従って、入隊する前には一応の現地調査まで行って、身元確認をするものなんだが、そこに重大な漏れがあったらしい。


 まさか戸籍まで盗用されていたとは知らなかったよ。

 立場上全ての自衛隊員の身上調書を見ているから、明石君が言った生田正憲という尉官も知っている。


 防大を優秀な成績で卒業した人物だ。

 卒業時の席次は、確か五番以内だったと記憶している。


 だから本省勤務にもなっているわけなんだが、そんな男に限ってまさかという思いが強い。

 だが、用意周到な舞台を整えてから自衛官に潜り込んでいるわけなので、流石に見つけるのは至難の業なのかもしれない。


 親まで北〇鮮の潜入工作員で30年以上も日本に滞在しているとなると、通り一遍の調査ではわかるはずもない。

 但し、明石君の話によればその二人の実子がどこかで入れ替わったわけなので、その時点で気づけば良かったのだが、生憎と血液型まで同じであれば、見つかりにくいわけである。


 DNA検査まで行えば親子でないことがわかるだろうな。

 今後は、新入隊員にDNA検査も導入することも考えねばならんかもな。


 狙撃実行犯の所在、名前、ライフルの隠し場所まで探り当てたことには本当にびっくりだ。

 明石探偵自身が仲間じゃないのかと勘繰りたくもなるほどだ。


 裏で手を引いているのは、やはり中華国参謀本部第二部のIT諜報部隊のようだ。

 明石君がどうやって突き止めたのかはわからないが、防衛省でも防諜部隊が懸命にメールの発信元を追跡したんだが突き止められなかったんだ。


 従って、明石君若しくはその周囲にいるかもしれないIT専門家はかなり優秀なのだろう。

 それにしてもまさか依頼をしたその日に結果を出すとは思わなかったな。


 狙撃実行犯の二人の身柄、それにその二人の滞在に手を貸していると思われる外資系会社については、警察に任せざるを得ない。

 大戦前のように陸軍法や海軍法でスパイ罪が規定されていれば、防衛省でも捜査はできるんだが、今の法体系では警察に頼るしかない。


 但し、現役の自衛官がスパイ行為を働いていたのであれば話は別だ。

 防衛省内の内規等により捜査が可能であり、処罰も可能だ。


 従って、生田二尉の一次的捜査は防衛省で行うことにした。

 一方で、北〇鮮の工作員である、二親については警察に任せざるを得ない。


 隊舎のガサ入れはウチ主体だが、実家のガサ入れは警察主体だな。

 難波さんと話し合い、どちらにも警察・自衛隊双方の捜査員ができるだけ立ち会って情報交換をスムーズにする方針にした。


 残念ながら国外の犯罪者については、捜査自体が及ばないだろうな。

 取り敢えず、やれるところから始めるしかない。


 いずれにしろ、これほど早くに犯人たちを突き止めてくれた明石君には感謝、感謝しかない。

 この一件が終わったら、難波さんを誘って一杯やりたいもんだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 6月17日、一部の字句修正を行いました。

  

  By サクラ近衛将監



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