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第39話 占い師の依頼の余波

 占い師である鳴海のばあさんの失せ物に関する依頼は、一応無事に収まったのだが、その影響は少なからず残った。

 第一に、鳴海のばあさんの守護霊が俺の夢枕に出てきやがった。


 俺は多分寝ていたとは思うんだが、その辺は曖昧模糊としているな。

 夢(?)の中で奴が言うには、鳴海のばあさんが体調を崩して病院に入院したので、チョット傍を離れて来たというんだ。


 守護霊ってのは、被庇護者に寄り添っていて邪気なんぞから守ってなんぼの物だろうと思うんだが、奴の考え方には俺の常識とは少しズレがありそうだ。

 奴は、病院で身柄を預かっている以上、守護霊がなすべきことはないと考えているらしい。


 守護霊が治癒師の真似事でもできるならともかく、土御門晴信には邪気の(はら)いはできても病を癒すことはできないらしい。

 そうした法力の類は土御門一門ではなくって、かつての賀茂一族の一部の者が持ち合わせていたようだ。


 従って、土御門晴信が鳴海のばあさんの傍に居てもできることはないので、現代の医師に任せてしばし離れたとのことだ。

 で、そんなことをしてわざわざ俺に会いに来た理由は、鳴海のばあさんの余命がそう長くはないだろうということで、彼女が亡くなった際の土御門晴信の拠り所を俺のところにしたいとわざわざ断りに来たのだそうだ。


 俺の守護霊については、すでにコンちゃん(九尾の狐)がいるわけなので、守護霊はこれ以上は不要と即座にその願いを切り捨てたんだが、・・・・。

 土御門晴信曰く、守護霊として俺の傍につくのではなくって、居候として傍に居たいという話だった。


 なんとも面妖な話なんだが、土御門晴信という人物は江戸時代初期において実在した人物のようだ。

 そうした者が特定の人物の守護霊になるということは、土御門晴信が死した後、間違いなく霊として現世に残ったのだろうと思う。


 守護霊としてすぐに誰かに取り憑いたものかどうかは不明だが、鳴海のばあさんの守護霊として存在する以上、そこには何らかの法則でもあるのじゃないかと思うのだが、その辺を奴さんに聞いても明確な返答がなかった。

 土御門晴信自身が知らないか、若しくは、守護霊を総括する存在がそのルールを詳細に教えてはいないようだ。


 より突っ込んで聞いてみると、土御門晴信自身の記憶では、死して時間経過を覚える間もなく、鳴海のばあさんの守護霊として(よみがえ)ったらしい。

 従って、彼自身の中では当然のように時代格差によるギャップがあって、その情報取得と自らの立ち位置の変化に慣れるまでに相当の時間が必要だったようだ。


 そうして困ったことに、俺とコンちゃんのような意思疎通が鳴海恭子とはできないわけで、何かをなそうとしても本人の意思が確認できないままに動くことになるので種々の齟齬(そご)をきたしているらしい。

 明らかに間違っていることや危険に遭遇する蓋然性が高いにもかかわらず、それらを止める効果的な実現手段を晴信が持たないことに大きな原因があるようだ。


 先ほども言ったように、奴は邪気の祓いなどは可能だが、守護すべき生身の彼女には祈祷師や除霊師としての能力はほとんど無い。

 彼女が可能なのは占星術によるきわめて狭い範囲での未来視ができるだけのようなのだ。


 その予言めいた未来視の確率も6割程度と必ずしも高いものではないのだが、それにより恩恵を被った人にとっては、救いの神に近い奇跡の占い師なのだ。

 彼女のこの能力に関して土御門晴信が貢献できることはほとんどない。


 仮に生前の土御門晴信が八卦で占ったにしても彼女ほどの結果は出せないはずだ。

 そうしてこの鳴海のばあさん、不治の病とされる自己免疫性後天性凝固因子欠乏症であるらしい。


 この病気は、血液凝固因子が自己抗体の有害作用によって後天的に減少するために、出血が止まらなくなる病気である。

 今のところは病院での検査で疑われている程度の段階であるらしいが、土御門晴信の素人的な観察記録によれば、徐々に血液凝固ができにくくなっているらしい。


 担当医師も明確な根拠はないのだが、カルテの一部に『自己免疫性後天性凝固因子欠乏症の疑いあり』とのメモを残している。

 病院でも相応の検査は行っているが、急激な変化がないために医師も特定できていないようなのだ。


 賀茂一族のように治癒の能力を持っているわけではないので、土御門晴信が病名の断言はできないのだが、保って5年から7年の余命だろうと感じているようだ。

 鳴海のばあさんもさほどの高齢者ではないのだが、血が固まりにくくなれば、不意の外傷や、脳内出血などで大事に至る可能性は確かに増えるだろうと思う。


 彼女が死ねば土御門晴信の現世における役割は終えると判断しているようだ。

 で、そうなったときに依り代に近い形で俺のところに居候で厄介になりたいと言いに来たようだ。


 正直に言って俺に霊界のルールなんぞわかるはずもない。

 耳をそばだてて居たであろうコンちゃんにも聞いてみたが、しかとした返事はもらえなかった。


 コンちゃんの場合は、これまで守護霊となったことが幾度かあるそうだが、その間が途切れていることもあったそうだ。

 で、その間は勝手気ままに活動していたかと言うと、そうではなく、格別には何もしていなかった状況のようだ。


 従って、土御門晴信が鳴海のばあさん以外の守護霊を務めた記憶が無く、その自由な期間(彼が死んでから現世で守護霊となった時までの間)に何をしていたのかがわからないという状況は、同じ守護霊の立場でありながらコンちゃんにとってはよくわからない状況のようだ。

 場合によっては、守護霊によっては経験そのものが異なるのかもしれない。


 例えば、記憶を引き継がない(よみがえ)り的な場合では、霊が前世の記憶や霊界での記憶を引き継げない可能性もあるとのことだった。

 元々、土御門晴信は陰陽師ではあっても普通の人であり、コンちゃんの場合は、(あやかし)(たぐい)なわけで、持っている能力も特性も違うはずの存在だった。


 で、今の土御門晴信は鳴海のばあさんが仮に死んでしまえば、自分は守護霊と言う拘束から外れて自由になると思い込んでいるのだが、必ずしもそうではないかもしれない。

 まぁ、自由になれるのであれば、奴の自由にさせても構わないとは思っているんだが、今は判断がつかないからそんな時期が来たら再度話をしてみてくれと言って置いた。


 ◇◇◇◇


 それから一月も経たないうちに、俺の元にやってきた守護霊が居る。

 晴信から情報を得たという守護霊は、聖獣の白虎(びゃっこ)だった。


 真っ白な子猫のように可愛いく見える虎が俺の夢枕に出て来たんだ。

 そいつが念話で、俺の居候にしてくれと言ってきた。


 これまで海外でもどちらかと言うと『来る者拒まず』で受け入れて来たからな。

 和風であろうが中華風であろうが、ここで拒めば差別になってしまいそうなんで受け入れたんだが、一応の条件付きではある。


 俺の『蔵』に居ついている連中ともめ事を起こすなよということ、また、現世で面倒を起こすなよということと、更には、俺の『蔵』に居つくことで俺の身体に何某かの異常が起きるようならば、場合によっては出て行ってもらうかもしれないという条件だ。

 そんなわけで俺の蔵の居候に白虎が加わったんだが、その後十日に一度ぐらいの割合で和風もしくは中華風の強力な守護霊が俺の夢枕に立つようになっちまった。


 全く土御門晴信の奴、余計なことをしてくれるぜ。

 今のところ特段の不具合は生じていないんだが、俺の『蔵』がこれまで以上に魑魅魍魎の巣みたいになりつつあるのでちょっと心配しているんだ。


 まぁ、おかげさんで良いこともある。

 守護霊をやってきた連中なので適度な手心を加えることを知っているし、意外と義理堅くって、見返りを求めないのが増えた。


 おまけに白虎を始めとしてかなり能力的には優れた存在が多い。

 コンちゃんやダイモンは俺の頼れる味方だったのだが、それに勝るとも劣らない勢力なので、重宝しそうだということだ。


 俺もむやみやたらとお願いしたりはしないんだが、本当に困ったときは頼れる存在になってくれそうだ。


 ◇◇◇◇


 もう一つは、やはり政治・経済の中枢に属しているであろう者からの依頼が少し増え始めたことが気になっている。

 俺とはこれまで接点がなかった自〇党政調会長の秘書という奴が俺に接触してきたんだ。


 依頼内容は、困ったことに人探しじゃない分野の調査だった。

 俺の方は仕事も詰まっていることから断る方向で動いたんだが、この手の連中は簡単には引っ込まないよな。


 自分のボスである代議士の名前を出せば何とかなると思っているようだ。

 俺自身の仕事に対するモットーや、時間的な制限もあって、丁重にお断りしたんだが、この秘書さん切れて捨て台詞を置いてゆきやがった。


「うちの先生の頼みごとを聞けない輩はろくなことにならないぞ。

 覚えて置け。」


 そう言って、成山何某と言う秘書が俺の事務所を出て行った。

 何か仕返しが来るかなと心配していたが、そんな話にはならなかった。


 その秘書さん、その夜、どこやらのエライさんとの飲み会の帰り道、当該秘書に恨みを抱いていた暴漢に襲撃されて、あえなくお亡くなりになったそうだ。

 成山何某の捨て台詞にあったような、俺の事務所に対する自〇党あたりからの干渉はその後もないんだが、何となくこういう手合いが増えるのは困るよね。


 まぁ、小市民らしくおとなしくはしているけれど、仮に危害を加えて来るような動きがあれば、遠慮なく対抗処置をとるつもりではある。



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