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第26話 ある日の我が家

 12月も下旬に入って、事務所が休みの木曜日の21日に小室孝子嬢が松濤の我が家に引っ越してきた。

 独身女性だが荷物は結構多かったな。


 彼女に与える部屋は、一部屋だけだがウォークインクローゼットがついているし、地下にある八畳分ほどの倉庫一つを割り当てているから、余裕で全部の荷物は収まった。

 彼女も事前に下見して、不用品は整理してきたようだ。


 妹の加奈も、たまたま振替休日だったようで引っ越し荷物の整理を手伝っていたが、俺は遠慮しておいた。

 独身女性の持ち物なんぞ見てはいけないものもあるだろうと思うからだ。


 その代わりに地下室の倉庫に運ぶような段ボールでしっかりと封をしてあるようなものの運搬は手伝った。

 俺の邸にはホーム・エレベーターがあるからな、荷物の運搬には便利なんだ。


 その日から我が家には居候が一人増えた。

 加奈はお姉さん的な孝子嬢が来て喜んでいるようだ。


 気安いとはいえ、兄貴という存在はやっぱりとっつきにくいらしい。

 その夜は、小パーティを開いたよ。


 簡単なものを造り、メインは出前だな。

 (タマ)にしかできない小金持ちの贅沢だよ。


 うん、24日(イブ)にも似たようなことをせにゃならんな。

 加奈は30日まで仕事、俺の事務所は官公庁に準じていて一応28日で仕事納めなんで、小室さんは正月三が日まで郷里に帰るそうだ。


 俺の方は、ナイチョーさんから年末年始は東京に居てくれと特に頼まれている。

 よくわからんが、ナイチョーさんの関りで、首都圏で俺に依頼をするような何らかの動きがあるかも知れないので待機しておいてほしいのだそうだ。


 待機だけで日当二十万円が支給されるから、まぁ仕方がないかな?

 正直なところ、俺の方は報酬が目当てでンマイチョーさんからの仕事を請け負うつもりは余り無いんだがね。


 困っている一般人が居たり、被害者が出そうな状況で、真摯に頼まれればなかなか拒否できない性格なんだな。

 そういう意味では損な性分(しょうぶん)だと思うぜ。


 特に()()()()()()()に関わる仕事は危険性も高いしな。

 米軍中尉の拉致事件の後で、向かいのビルに潜んでいた外人二人組をはじめとして、俺の周囲に入れ代わり立ち代わり某中華組織に関わりありそうな連中が出没しているんだ。


 ナイチョーさんや、警視庁の神山さんに通報して早めに対処してもらっているが、表沙汰にならない部分で実はダイモーンを含めた『蔵』の住人に結構世話になっているんだぜ。

 中には()()()()()で、俺に断りもなく、数人がこの世から姿を消したみたいだ。


 ダイモーン曰く、『お前さんは知らんでも良いじゃろう。これは居候の役目じゃ。』と言い、俺の守護霊の九尾の狐もその傍でしっかりと頷いている。

 彼らが本気を出せば、多分都市の一つや二つは簡単に消し飛ぶからな。


 正直言って、俺がどうにかできるような居候じゃないんだ。

 小室孝子嬢と同様に、俺は彼らの家主にすぎんのだ。


 加奈は郷里のH県に帰省したから、年末年始は俺一人がお屋敷に残った。

 尤も、塩崎紀子嬢も含めて、『蔵』に入っている連中が、加奈や孝子嬢が居なくなると、一斉にワラワラと蔵から出てきて俺の邸内をうろつきまわっていたな。


 彼らは基本的に自由なんだ。

 危ない連中は俺が滅多に呼び出せないというだけの話で、彼らの自由を縛っているわけじゃない。


 俺に()いているのも彼らの自由で、いつかは離れて行くのかもしれんな。

 まぁ、これまでのところ数は増えても減ってはいないようなので、余程居心地が良いのかもしれん。


 結果から言うとナイチョーさんの依頼については、待機だけで特段の仕事は無かった。

 2029年1月4日から仕事始めだ。


 流石に正月早々から仕事は来ない。

 小室孝子嬢と藤田幸子嬢が、揃って新年のご挨拶だ。


 晴れ着じゃないが、一応余所行きなんだろうね。

 ウン、どちらも美人だと思うぜ。


 藤田幸子嬢については、昨年晩秋には、都内にある外資系企業二つから内定通知が貰えたらしい。

 何事もなく来年大学を卒業できれば、彼女もオフィス・レディになることになる。


 内定があったことを報告してくれて、大学卒業まではお世話になりますと言って元気に挨拶していたね。

 無事に卒業できたなら卒業と就職のお祝いを上げることにしよう。


 1月6日、田舎から俺の両親がやってきた。

 6日から8日までは、世の中三連休とあって、親父も休みなので二人して上京してきたようだ。


 息子と娘の住んでいる場所を確認しに来たとだけ言って、敢えて上京の目的を言わないが、どうも加奈から孝子嬢が一緒に住んでいると聞いて、孝子嬢との仲を探りに来たようだ。

 加奈は、昨年の4月から広尾の俺の家に同居していたのだから、それまでにいくらでも機会があったはずなのに、昨年は来なかった。


 俺と加奈が松濤の邸に引っ越したのは、昨年の夏場だったから、その時にも機会はあったはずだ。

 おふくろについては、少なくとも孝子嬢がどんな人物なのかを見定める気が満々だとおふくろの背後霊が教えくれたよ。


 やれやれ、そんな風に恋愛に進展するような女性が居たら、ちゃんと田舎へ連れて行って紹介するってのに・・・。

 親というものはいくつになっても子供が心配と見える。


 まぁ、こればかりは仕方がないか?

 親父の方は、久方ぶりの上京で東京見物が楽しみでやってきたようだ。


 新幹線で来れば左程の時間はかからないから便利ではあるしな。

 退職したら、二人で全国を旅行して回ると言っていたから、その予行練習も兼ねているのだろう。


 地方公務員の親父も65歳の定年までまだ5年以上あるし、その後も再任用とかで70歳くらいまでは余裕で働けるらしいから、まだまだ先の話ではあるけどな。

 そう言えば俺も今年の誕生日が来たら30歳だな。


 親父は28歳で結婚して、29歳の時には姉が生まれたらしいから、今の俺なら子供が一人いてもおかしくないわけか。

 金はあることだし、ウム、身を固めることもそろそろ考えるべきか?


 で、孝子嬢?

 ウーン、余り気にはしていなかったんだが、一応身近にいる嫁候補の一人ではあるな。


 検討の余地は十分にあるかな?

 俺の場合、それなりの資産家ではあるから、下手をすれば灯りに群がる夜の蝶のように女が群がって来る恐れはいつでもあるんだ。


 実際の財務情報をそれなりに知っている女性はわずかではあるんだが、昨年の長者番付では俺の名が出たので、実は俺の大学時代の知り合いなんかから色々と問い合わせが来たりもしている。

 『明石大吾』という名前はかなり珍しいからな。


 俺を知っている者は、もしやあいつかと合点が行くようだ。

 尤も、司法試験に合格してから二年以上も外国を放浪していたから、その間は音信不通だったので半信半疑の奴も多いんだ。


 大学時代に親しかった知り合いは、その八割が法曹界に入っているしな。

 俺も法曹界の人間ならば、奴らも何かと俺の情報が得られるだろうけれど、しがない探偵業界のことは左程知られていないはずなんだ。


 だから長者番付に名が乗ると、気になって念のため調べたと言う奴がほとんどだな。

 一応、俺も同窓会には連絡先を知らせているから名簿を見れば電話番号ぐらいはわかるわけだ。


 生憎と広尾から松濤への住所変更は今のところ同窓会にも知らせていないんだが、同窓会名簿の職業欄には探偵事務所の名が乗っている。

 まぁ、本気で調べるつもりなら、わかるんだろうな。


 高校の同窓会については、卒業以来一度として顔を出したことが無いし、名簿には多分C大学在学中の住所が乗っているはずだ。

 当初は家に来ていた同窓会からの通知も最近は来なくなっていると聞いている。


 まぁ、そんなところは俺もずぼらだなと思うよ。

 人と人のつながりというものは(そば)に居て初めて継続できるものだ。


 距離が離れてしまうとどうしても疎遠になりがちになる。

 そうは言いつつも、中学・高校時代の親しい友人の一部とは今でも連絡は取れるけれどね。


 歳を経るごとにその連絡回数が減っていることは間違いない。

 一方で、広尾の賃貸住宅から引っ越しても、そこの住人とのつながりは今のところ切れてはいないな。


 二月に一度ぐらいは、パーティへのお招きがあるので,余裕があれば出かけているし、松濤に移ってから、昨年11月には我が家で小パーティを開いたよ。

 広尾の賃貸マンションの四家族のうち三家族が招待に応じて我が家を訪問してくれた。


 気の良い人たちだから、彼らが日本に滞在中はお付き合いが続くのだろうと思うよ。

 春先には再度の小パーティを開いても良いかなと思っている。


 外交官や外資系の会社の駐在員の家族だから、彼らはいずれ間違いなく故国に戻って行くはずだ。

 その意味では一過性のお付き合いなのだけれど、接点がある限りは継続したいものだと思っている。


 1月8日に両親は目的を果たしたのかどうか、二人揃って田舎に戻っていった。

 我が家に滞在中、おふくろはかなり孝子嬢にご執心だった。


 孝子嬢が仕事を終えて戻ってきてからなので、どうしても夜の時間帯になるんだが、色々とおふくろが孝子嬢と話をしていたことは俺も知っている。

 おふくろの背後霊曰く、おふくろは孝子嬢にはかなりの好感を抱いていたとの情報だ。


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