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ヤンデレ-100(仮)  作者: もずく酢2022号
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ヤンデレはお嫌いですか?

 高校に入ってから自分の人生が急激に上向いて来たという実感はある。

 劇団でも少しずつ重要性のある配役を割り当てられるようになってきているし、数カ月前に始めたモデル活動も順調そのもの。

 中学時代とは比べ物にならないほどに交友関係も広がり、学業もそこそこ満足のいく成績を出せている。

 にも関わらず。

 自分でも信じられない位に恵まれた毎日を送っているはずなのに、何の脈絡もなくどうしようもない悲壮感に襲われる時がある。

 それは数日の間を置いて訪れることもあれば、一日の内に何度も現れることもある。

 ––––––こんなこと誰にも言えない。

 ––––––誰にも知られたくない。


 だけど何故か「矢野」くんと話している時だけは、心が少し軽くなったような気がした。

 理由は自分でも分からない。


 今になって思えば、高校入学初日に「矢野」くんに話し掛けられた時から何もかもが変わり始めたような気がする。

 こんなわたしを慕ってくれる大勢の人達に囲まれて、ほんの数カ月前には想像したことすらなかった。


 だからかも知れない。

 初めにわたしを見てくれた「矢野」くんだから、一緒に居ると心安らぐのかも知れない。

不慣れな家事を彼のためにしているだけで、自然と心が温かく満たされていくような気分になった。

 一方的にでも彼と会話してていると思えるだけで、幸せを感じることができた。

 きっと私は「矢野」くんさえ居てくれれば、今日も「普通」に生きていける。


 ––––––そのはずなのに。

 どうして、わたしの胸はズキズキと痛むのだろう・・・・・・?

 今もこうして、彼の家で、彼のために、今度こそ美味しい手料理を作っているというのに、なんでこんなにも胸が苦しいのだろう・・・・・・。


 まただ。

 正体不明の悲壮感で胸が一杯になっていく。

 頭にモヤがかかり、身体中の血の気が引いていく感覚があった。

 視界が極端に狭くなり、心臓の鼓動音が異常なまでに喧しく聞こえてきた。

 あっ、やばい・・・・・・。


 違うの。わたしはそんな・・・・・・!

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 思考が堂々巡りして延々とまとまらない。

 頭の中がグルグルと掻き混ぜられていくみたい。

 駄目だ、ダメだ、だめだ・・・・・・。

 寒い・・・・・・。凍える・・・・・・。

 身体の震えが止まらない。

 立って居られない。

 目を開けて居られない。


「そうじゃないの。本当はわたし––––––!」


 身体がグラリと大きく傾いた。

 そしてわたしはどうしようもなく、力無くその場に座り込んでしまった。

 もう何も見えない。

 何も聞こえない。

 不気味なほど静かな真っ暗闇の中で指一本動かすことすらできなかった。

 でも、「これで良かったのかも知れない」と思うと心が少し軽くなったような気がした。

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