五日目。
朝、目が覚めた頃には「小谷恭子」の姿は消えていた。
本当、どういう経路で家の合鍵を手に入れたのだろう?
・・・・・・。
あんまり深く考えるのは止しておこう。
余計に怖くなってくる。
「よーっす! どうした、どうしたー。
朝っぱら辛気臭い顔して?」
バチン!
デリカシーを微塵も感じさせないセリフと共に、背中を結構な力で叩かれた。
「鈴川・・・・・・! お前は、いちいち人の背中を叩かないと挨拶できないのか!」
「はっはっはっ! ごめん、ごめん! ほら。スキンシップ、スキンシップ!」
これだよ。
個体名「鈴川舞流」。
「小谷恭子」と同様に同じ中学校出身のクラスメイトの女子である。
正確は明朗快活、サッパリとした性格・・・・・・と言えば聞こえは良いが、実際のところはデリカシーに欠けている上に大雑把なだけだ。
このクラスに同じ中学校出身のクラスメイトが「小谷恭子」含め三人しか居らず、それがキッカケで高校からよく会話するようになったという関係性なのだが。
それがどうしてこうなった・・・・・・。
「いや、ホントどうした?
まじで痛かったの? 骨イッちゃった?」
本気で心配してるのなら、まずそのニヤニヤ笑いをやめろ。
俺が憎々し気な視線を向けていると、それに気付いた「鈴川舞流」は余計に上機嫌となった様子でニカリと笑った。
どうなってるんだ? この惑星に生息する女子の性格は・・・・・・。
「いや。どちらかと言うと、どうかしてるのは鈴川の方だろ・・・・・・。」
「ほえ? なにが?」
「その背中に背負ってる何なんだよ!?」
「何って、ギターだけど?」
「お前、軽音部じゃないだろ!」
「ふふっ、実は文化祭でバンド組んでみようと思い付いてね! これでアタシもクラスの人気者よ!」
「ほう・・・・・・。
そう言えば、一昨日は将来スパイになるとか言ってなかったけ?
それでいざという時のために暗号解読の勉強をするんだって、暗号パズルの入門書みたいなの買って来てたよね?
その前は、超能力に目覚めたかも知れないとか言い出して、俺と小谷は催眠術の実験に付き合わせられた記憶があるんだけど。
これって気のせいか?」
「うぐっ・・・・・・!
こ、今度こそ本気になれるものを見つけたんだってば!」
嘘つけ。
毎回そう言ってるじゃないか。
意外と器用万能でごく短い期間である程度の成果を上げる癖に、飽き性なせいでやることをコロコロ変えているのがパターンじゃないか。
いや、今はそんなことどうでも良い。
当人が来る前にさっさと情報収集を済ませて置かないと。
「ええっと。それで、そのバンドには「小谷」も誘うつもり?」
「えっ?
いや、まさかぁー。
本物の芸能人を文化祭のステージに上げられる訳ないじゃん。
仕事として依頼するならともかくさぁ。
というか、実際にやったら体育館に人入りきらなくなりそうだよね。」
「そんなに有名なんだっけ?」
「矢野泰志」の記憶ではそこまで知名度のある芸能人って訳ではないはずなのだが・・・・・。
「芸能人として有名ってよりかは、ほら、普通に美人じゃん? 小谷ちゃん。
すんごいモテるのよ。あの子。
学年一の美少女どころじゃ済まないレベルで。」
「・・・・・・やっぱり男には困らないはずなんだよな。」
「?」
「あっ、話をしていれば・・・・・・!」
そう言って、「鈴川舞流」は廊下の方を指差した。
釣られて見て、私は思わず呻き声を漏らしそうになった。
登校して来た「小谷恭子」の周りに大きな人だかりが出来ていた。
学校に来るだけでこのお祭り騒ぎ。
この惑星はどうなっているんだ。
「すごいよねー。
大人気。
毎日いつもニコニコ爽やかで、まさに八方美人って感じ。
しかも小谷ちゃんの悪口を言う人も全く居ないんだよねぇ。
あんなに美人で、勉強も出来たら普通目を付けられるのにね。」
容姿端麗、成績優秀、八面玲瓏。
ここまで恵まれた人間もそうは居まい。
こう言っては何だが、どうしてただのクラスメイトに過ぎない「矢野泰志」にあれだけ執着しているのか理解に苦しむ。
「今更だけど、矢野くんも小谷ちゃんに興味持つようになったんだ・・・・・・。
やっぱり同じくらい有名人だと気になる?」
「えっ!?」
「えっ?」
「いやいやいやいや!
俺、何もしてないじゃん!
特別良いこともしてないけど、悪いことだってしてないよ!?」
「いやー、だって。
あの「変人生徒会連中」や「暴走族(笑)のおバカ(爆)たち」とか、うちの学校が誇る奇人変人共とまともにコミュニケーション取れてるの矢野くんだけじゃん。
そもそも小谷ちゃんが校内で有名になったキッカケ作ったのも、矢野くんでしょ?」
そんなこと言ってる「鈴川舞流」も十分、奇人変人の類だろうということはさておき。
ど、どうも「矢野泰志」の記憶に出て来る人物たちのアクが強いなとは思ってはいたのだが・・・・・・そうか、やっぱりこの星の常識から見てもおかしいのか。
「二人とも、おはよう。」
「おはよー! 今日もモテモテだねぇー。小谷ちゃん♪」
「やめてよ、もう。
そういう言い方。
皆、普通の友達なんだから。」
「・・・・・・おはよう。」
「鈴川舞流」にからかわれて恥ずかしそうに反論している「小谷恭子」の姿は非常に可愛らしい美少女であるという点を除けばごく普通の女子高校生にしか見えない。
しかしその内面にどれほどの鬱屈とした感情が溜め込まれているのか、地球外生命体である私には塵ほども推し量ることが出来なかった。
それからホームルームが始まるまでの間、私たちは3人だけで取り留めのない会話をして時間を潰した。
この瞬間だけを切り取れば、それはいつも通りの一日の始まりであった。