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ヤンデレ-100(仮)  作者: もずく酢2022号
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四日目。

こちらのアカウントのサークルで現在制作中の短編ビジュアルノベルのシナリオになります。

元々ゲーム用のシナリオなので、いくらか読みにくい部分があると思いますがご了承ください。

https://twitter.com/monster_torrent

 高校入学から早一か月。

 五月も半ばに差し掛かり、温かく過ごしやすい時期になってきた。

 帰宅部特権の生温い放課後を満喫してから、のんびり家路につく今日のこの頃。

 俺は鼻歌交じりに鞄の中から鍵を取り出して玄関の扉を開けようとして、奇妙な手応えに気付いた。

 俺が鍵を差し込む前からすでに扉は開いていた。


「・・・・・・今日もか。」


 俺は心底辟易しながら我が家へと一歩足を踏み入れた。

 この後の展開は俺からすると火を見るよりも明らかで、容易に想像できた。

 タッタッタッと軽快な足音が台所の方から近付いて来た。

 そして俺が外履きを脱ぐよりも早く、駆け寄って来たソイツはやたら嬉しそうな笑みを浮かべながら一人勝手に捲し立て始めた。


「お帰りなさい、泰志くん♡!


 ご飯にする? お風呂にする?

 それとも・・・・・・わ・た・しにする♡?

 きゃっ♡! このセリフ、一度行ってみたかったの。

 ごめんね。本当は、晩御飯まだ作っている途中なの。

 お風呂はもう沸いているから、そっちの方を先に済ませてもらえるかな?

 今日はね。手作りコロッケに初挑戦中なんだよ♡

 手間が掛かる分、愛情もたっぷりと込められるかなと思って♡

 うふふ、これでも料理は得意なのよ♡?

 楽しみに待っててね、泰志くん♡

 あっ。それと冷蔵庫の中にあったドレッシング、賞味期限が切れてたから処分して置いたよ。

 もう五月に入って温かくなってきているから小まめに賞味期限のチェックをしておかないとダメだよ?

 お風呂は沸かしたてだから泰志くんの好きな入浴剤を入れてね。

 脱衣所の棚の上に整頓して置いてあるから。

 さーってと、泰志くんがお風呂に浸かっている間に残りのコロッケを揚げちゃおうかな♡♪

 少し時間掛かるから、ゆっくり温まって来てね♡」


 恐ろしい早口で長台詞を喋りきると、学校の制服の上に自前のエプロンを着込んだソイツは慌ただしい足取りで台所の方へと戻って行った。

 ちなみに俺の両親は現在揃って海外に短期出張中であり、また俺に姉妹(きょうだい)は居らず、そのため俺は一時的な一人暮らしを堪能しているはずの身の上である。

 さらに補足すると、俺には両親不在時に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるような近所の幼馴染女子や面倒見の良い彼女が存在している訳でもない。

 もっと言うと、この家の鍵は合鍵を含め三つしか存在しておらず、それらを両親と俺が一本ずつ保有しているため、家族以外が俺の知らぬ間に家に上がり込むことなど本来不可能なはずである。

 要するにあらゆる点から見ても、現在進行形で晩御飯を作っている「アレ」の存在はどう考えてもおかしい訳である。

 しかし確かにおかしな状況であるものの、彼女とは見ず知らずの赤の他人同士という訳でもない。

 俺は、彼女の名前をよく知っている。


 本名、小谷恭子。

 そして芸名、茅野翼。

 今の高校のクラスメイトであり、中学からの同級生でもあると同時に、女優・モデルとして最近そこそこ活躍している芸能人でもある。

 この春から高校のクラスで偶々一緒になった同じ中学の出身者同士で、もう一人を含めて三人で会話するようになったのだが・・・・・・何故か今となってはご覧の有様である。

 俺の方から告白したこともなければ、無論小谷の方から告白してきたということもないし、それらしい好意を向けた・向けられたという記憶もない。

 四日ほど前から突然、彼女は俺よりも俺の家に帰って来ては我が家の炊事掃除(洗濯だけは阻止した。ただのクラスメイト女子にパンツを洗われては堪らない)を担当するようになったのである。

 もう一人の方に比べれば随分と落ち着いた感じの性格であったはずなのだが、どうしてこんなトンチキな行動を取るようになったのか皆目見当も付かない。

 本当、何なんだ・・・・・・?

 俺は小谷の勧めを全部無視して台所の方へと後を追った。

 晩御飯を準備中のその後ろ姿は前情報なしで見れば素晴らしき新妻感が出ているが、実体を知っている身からすれば変人ストーカー女の奇行にしか見えなかった。


「あっ、泰志くん。もうちょっと時間掛かるから、ダイニングの方で待ってて––––––」


 言動と容姿だけで判断すれば実に見目麗しい新妻にしか見えない小谷恭子の口を、俺はすでに揚げ上がっていたコロッケの一欠片でもって塞いだ。

 普段と変わらない優等生然とした彼女の頬が俄かに赤く染まり、瞳が色っぽく潤んでいった。

 彼女はそっと口を小さく開くと、そのまま菜箸で差し出された一欠片分のコロッケを受け取った。

 火が出るんじゃないかと思う程さらに顔を真っ赤にさせつつ、俯きがちにゆっくりと味わうように咀嚼してから、コクリと恥ずかしそうに喉を鳴らしながら飲み込んだ。


 パチパチと残りのコロッケが揚げられていく油の音だけが聞こえる時間が五秒ほど経過した。

 そして––––––

 彼女は白目を剥いて口から泡を吹き全身を小刻みに痙攣させながら、ほぼ直立姿勢のまま真っ直ぐこちらの方へ向かって倒れ込んできた。

 そのまま床に頭から激突させる訳にもいかず、俺は倒れ込んできた彼女の身体をどうにか受け止めた。

 モデル業もやっているスレンダー体形とは言え、俺に小谷をお姫様抱っこして運ぶ腕力はなく、仕方なく羽交い絞めするような感じで気絶した彼女の身体をどうにか居間のソファまで運び込んだ。

 それにしてもこれで四日目ともあって、俺も慣れたものであった。


「しかし、この威力、即効性・・・・・・。

 今度は何の薬物を仕込んだんだ?」


 初日に味わった味噌汁の衝撃的な味とその直後の強烈な眠気を、俺は一生忘れない。

 というより、忘れたくても忘れられない。

 両目を大きく見開き、引き攣った表情のまま固まっている顔はとても女優とモデルを兼業している美少女のソレとは思えないほど酷いものであった。

 あまりにもあんまりだったので、ぬるま湯で湿らせたタオルで顔を拭いて筋肉を解きほぐし、ついでに目を閉じさせておいた。

 それで多少マシな見栄えになったが、コイツが自分で仕込んだ薬物で気絶したという事実に変わりはない。

 それにしても、コイツ。

全てを分かっていた上で食べたんだよな・・・・・・。

 自分で薬物を仕込んだ食べ物を躊躇なく口にするか、普通?

 どういう神経してんだ?

 この効き具合だと、丸々一個食べてたら致死量に達してたのでは・・・・・・?

 ・・・・・・。

 日に日に行動がエスカレートしている気がする。

 冗談抜きで明日は我が身となっては、笑うに笑えなかった。

 しかしながら慣れと言うものは怖いもので、そんな生命の危機を紙一重を回避した直後でありながらも、俺は落ち着いた精神状態で台所に残された「危険物」を後始末することができた。

 最早この程度のことでは慌てふためくのも面倒に思うようになってしまった自分自身に深い同情を覚えずにはいられなかった。

 当分の間、未開封の缶詰とペットボトル飲料だけで凌いでいくしかないようだ。

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