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【実話怪談】レガシー -遺されたうんことその考察-  作者: 七宝


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3/3

邪教の遺うんこ

 2つ目のうんこは実は以前にも紹介しているのだが、今回はもっと詳しく書こうと思う。


 その日私はお盆休み真っ最中で、暇を持て余していた。同棲している彼女が花火を見がてら友達の家に泊まるとのことで暇になったのだ。


 しかし、そんな暇なひとりぼっちの私にお誘いの電話が掛かってくる。彼女のお兄さん(以降お義兄(にい)さんとする)からだ。お義兄さんは私に電話でこう言った。


「お盆暇ならうちに泊まりに来いや! 美味いもん食わせたるで!」


 え、1人で彼女のお兄さんの家に泊まりに!? とは思ったが、お義兄さんとの付き合いも大事だと思った私は2つ返事で泊まりに行くことにした。この2泊は世界的に見ても中々珍しいのではないだろうか。


 お義兄さんは両親の家を継いだらしく、とても広い屋敷に住んでいる。長男だからということで仏壇もあった。


 夜はお寿司の出前をとって、ビールもたくさん飲んだ。ワイワイやっている間に11時になり、皆寝ようということになった。お義兄さん家族は2階のクーラーがついた部屋で寝るらしい。


 私はというと、1階の仏壇の前で扇風機のみ。暑いし怖い。泣きたいよ。まぁ文句を言っても始まらないので寝ることにした。







 ⋯⋯寝られるか! 怖いよ! 怖いんだよ! なんで俺だけ仏壇の前なんだよ! そう思った私はしばらくゲームをして時間を潰した。


 いっぱい飲んだせいでトイレに行きたくなってきた。でもこわい。今私がいる仏間からトイレに行くには廊下を1つと部屋を2つ通らなければならないのだ。


 廊下は大丈夫だが問題なのはその先、まずはキッチンだ。ここは電気のスイッチの場所が分かりにくく、暗闇の中手探りで電気をつけなければならない。だがこれだけならば私は何も戸惑うことなくトイレに行くだろう。しかし、この次の部屋はキッチンとは比べ物にならないのだ。


 キッチンとトイレの間にあるその部屋は、部屋というより倉庫で、誰でも侵入出来るようになっている。もちろん倉庫からキッチンに入るには鍵を開けないといけない。つまりキッチンまでは安全ということだが、倉庫には人がいる可能性がある。しかも、あろうことか、電気がない!


 などと考え事をしていたら、猫の鳴き声のような声が聞こえた。家の中からだ。1人で来るのは初めてだが、彼女と来たことはある。この家に猫はいないはずだ。


 でもなぜ猫の声がする? 幻聴か? 私はそっと仏間の戸を開けて廊下を覗き込んだ。


 キッチンの電気がついている! なぜだ! みんな寝たはずだろう!


 恐る恐る行ってみるとそこにはお義兄さんがいた。


「お義兄さん! 寝たんじゃなかったんですか!」


「驚かせちゃったか? ごめんな、YouTube見てたんや。今流行りの猫ときゅうりの動画」


 なるほど。怖がって損した。


「明日焼肉連れてくから、許して! な?」


「やった! ところでお義兄さん、トイレ行きたくないですか?」


 怖いのでついてきてもらおう。


「怖いんか?」


「いや、そんなわけでは」


 怖いなんて言えるか!


「いいよ、ついていってあげるよ」


 お義兄さん! あなた大好きだ!


 少し涙が出そうになる。が、ここはグッとこらえて。


 暗い倉庫の中を進み、ようやくトイレに着いた。私がしっこを済ませるとお義兄さんが「俺うんこするわ」と言ったので待つことにした。


 ⋯⋯長いな。


 私は暇だった。トイレの電気を消してみた。しかし反応がない。


「お兄さん! 大丈夫ですか!」


「大丈夫や。電気消したやろ」


 この人は暗くなっても怖くないのか。


「昔よく妹にやられてて慣れたわ」


 そういうことか。私はひとりっ子だから分かんないや。


「おやすみ」


「おやすみなさいませ、お義兄さま」


 私は仏壇の前に戻った。やっぱり扇風機だけだと暑い。だがまあ、寝てしまえば気にならないか。







 ⋯⋯怖くて寝れん! なんで仏壇の前やねん!


 さっきのゲームで時間を潰すことにした。そして途中であることに気づいた。


 俺、焼肉嫌いやん!


 私は2階に行って兄を起こした。


「うなぎでもいい?」


「あ〜、はいはい」


 急遽うなぎに変更! やったぜ! 明日の昼はうなぎだ! 特上頼んでやる!


 私は兄の横で寝た。





 次の日の昼は、ひつまぶしを食べました。


 夜は、そうめんを食べました。


 夜中は、トイレに行きたくなりました。


 お義兄さんについてきてほしいと頼んだが、昨日電気を消したことを根に持っていたようで、断られた。


 どうしようううううう。


 一人で行くのは絶対に無理だ! だって真っ暗じゃないか! それに、トイレに辿り着けたとしても手を洗うついでに鏡を見てしまう! 鏡こわいよぉぉぉお!


 帰り道だって絶対背後に何か気配を感じて、振り向くと何かがいるってパターンだ。


 もう無理だ、家のトイレは。諦めよう。


 そうだ、コンビニに行こう!


 私は車を出してコンビニへ行った。男女兼用の広めの洋式トイレに入り、便器を見た私は驚愕した。


 便器には異様に細長いうんこと大量のトイレットペーパーが詰まっていた。そして便器の周りの床にはトイレットペーパーが散乱しており、全てびしょびしょに濡れていたのだ。


 近づいて見てみると、床に落ちているトイレットペーパーが少し黄味がかった色をしていることに気がついた。恐らくこれはしっこだろう。


 つまりこのうんこをした犯人はしっこは別で出るタイプだったということだ。でも、もしそうだとしたら怖すぎるな。


 それにしても本当になんなんだこれ。便器の中に入ってる細長いうんこが綺麗にぐるぐる巻きになっている。棒付きぐるぐる巻ウインナーのようだった。


 さらにそのうんこは健康とは程遠い黒みがかった色をしており、臭いも強烈だった。トラウマ確定レベルの光景だった。


 しかし私の目的はしっこをすることなので、遠くから飛ばせば問題なく済ませることが出来るはずだ。私は1mほど離れて用を足した。勢いが弱くなると床にこぼれてしまうため、残り10%くらいのところで一気に止めた。


 その結果しっこは零れることなく全て便器に収まった。そして、膀胱に残った10%のしっこのせいで私ななんだか落ち着かない。ああ落ち着かない。オチのない話だけに、オチつかない、なんてね。いいね、これでオチがついた。


 トイレだけ借りてそのまま何も買わずに出るのも悪いのでからあげ棒とプリンでも買おう。


 プリンを片手にレジに向かう。からあげ棒はレジで注文するのだ。


 レジには丸い眼鏡をかけた白い顔の青年が立っていた。


「からあげ棒くだちゃい」


「かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 高校生くらいだろうか。偉いなぁ。こんな深夜二時に。いや、時間的に大学生か?


 車に戻り、家に帰ろうとしたところでまた怖くなった。車鏡いっぱいあるしこわい。やだもう。

 

 妄想はさらに加速し、おばけに足を掴まれるような気がして運転席に正座状態。


 それに、来る時は気にしていなかったが、ミラー見れねぇ! 怖い!


 私は唐揚げとプリンを正座で食べた。


 さて、どうしたものか、足を下ろすと掴まれるし、ミラーを見ると赤ん坊の顔がどアップで映りそうだし、どうすればいいんだ!


 怖いよ〜怖いよ〜! もう嫌だこんな人生。


 今までこんなことなかったのに。全部お義兄さんのせいだ。トイレについてきてくれないから! ゲームでもして時間を潰すしかない!


 そうこうしてるうちに、三時になった。そろそろ帰らないと。ゲームをして気が紛れたのか、私は元気になっていた。


「よし、帰るか! 後ろに人はいないよな」


 ルームミラーを見ると、自分の目が見えた。


 やっぱり怖いよぉ。


 振り出しに戻る。


 電話でお義兄さんを呼んで、お義兄さんが歩いて迎えに来てくれて、帰り道運転してくれたらいいのに。


 そうだ、ミラー見なければいいんだ! でも外暗いから外が怖いよー!


 もう嫌だ。自害しよう。変な勇気が出てきた。


 その勇気のおかげで帰ることが出来た。


 仏壇の前の布団に戻る。なんで仏壇の前なんだよ! 怖いよ! 散々だ!


[以下考察]


 便器の中にぐるぐる巻きの黒くて細長いうんこ。大量に投入されたトイレットペーパー。そして床に撒き散らされたトイレットペーパーとしっこ。これほどまでの悪意を私は見たことがない。


 悪意のある個室利用選手権なら確実に優勝するだろう。前回登場したうんこは霊的なものだと結論づけたが、正直怖さはそこまでなかった。しかし、今回のうんこは怖い。幽霊より生きた人間の悪意の方が怖いというパターンだ。


 人がこのような個室の使い方をする時とはいったいどういう時なのか。私は考えた。考えに考え抜いた。


 店員に迷惑をかける為というのはどうだろうか。以前から店員と仲が悪かった犯人が腹いせにトイレをできる限り汚した。または借金のトラブルで店員を殺しそうになったが、何とか抑えて嫌がらせにとどめた。


 あとはどんな理由が考えられるだろうか。店員への嫌がらせ以外に思いつかないが⋯⋯


 もしや、次に私が使うのを知っていた何者かの、私への恨みによる犯行か? いったい誰が? いや、確かに私は人から恨みを買いやすい生き方をしてきたが、ここは私の家の近所ではなく、お義兄さんの家の近所だ。こんな時間にばったり出くわす可能性も低いだろう。


 するとやはり店員への嫌がらせか。いや、よく考えたらもう1つあったぞ。


 妖怪『うんこちらし』だ。妖怪うんこちらしは私が今考えた怪異で、あらゆるところでうんこを撒き散らすのだ。なのであれは特定の誰かへの恨みではなく、いつも通りのことをしていただけに過ぎないのではないか。


 どこのコンビニのトイレもうんこちらしによってあのような惨状にされたことが1度はあるのではないだろうか。


 いや、待てよ。うんこちらしはうんこを撒き散らすだけで、しっこは専門外だ。それに妖怪はトイレットペーパーなんか使わないだろう。また振り出しだ。いや、もう出尽くしているか。諦めよう。

これにて完結です! 長い間ご愛読くださりありがとうございました! 猫大長老七宝先生の次回作にご期待ください! あと感想ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! ていうか義理の兄優しすぎるし仲良すぎる。義理なのに。トイレ急に真っ暗になってもギャッて言わないのもすごい。
[良い点] なかなかのクソ話ですね(良い意味で) ウンコの幽霊には笑わしてもらいました!
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