手作りお菓子
主人公が彼女から呼ばれる時におれくんと呼ばれてますが手抜きです。考えるのがめんどくさかったんです。すみませんがご了承ください
「おれくーん! 一緒にかーえーろー!」
下駄箱で待っていたら、廊下からそんなゆきの声が聞こえた。ゆきとは俺の彼女のことだ。
「…………」
トテトテと走る音がする。けれど俺は反応しない。ちょっとしたいじわるだ。
「聞こえてるでしょー! おーい!」
そんな大きな声を出さなくとも聞こえている。が、やはり反応はしない。
少ししてゆきが目の前に来る。しかし俺は寝たフリをして、反応しない。
「寝たフリしたってダメなんだから! はやくかーえーろー!」
ペチペチ、トントン、ドスドス。
何とか起こそうと、俺を叩いたりしている。が、これでも俺は反応しない。
「んーー? 本当は寝てるのかな?」
吐息が顔に触れる距離まで近づいてきた、瞬間。
ベチン。
「はにゃ!?[#「!?」は縦中横]」
俺はゆきの頬を両手で挟む。
「にゃ! にゃにしゅりゅにょよ!」
「お前、なんで遅れたか言ってみなさい」
「とょ、とょりあえじゅはにゃちて」
このままでは聞き取りづらいので、仕方なく拘束を解く。
「ふぅ〜、全くびっくりしたよいきなり」
「そんなことは聞いていない! 何故遅れたか言いなさい!」
怒り口調になったが、内心少し楽しんでいる。少しな。
「……それは〜えっと、ほら、あれだよあれ」
「どれだよ」
「…………勉強サボってすいませんでした! もうしないので許してください!」
すごい勢いで土下座をした。
「いやぁ、ほんとだよね。成績やばいから勉強教えて! って言っときながら勉強サボったあげく、一緒に帰ろ! とか言っときながら補習で待たすとか、ないわーまじないわー」
「お願い許してよぉ! もうしないから!![#「!!」は縦中横]」
「…………はぁ、仕方ない。新学期までの期間、勉強漬けで許す」
「……はぁ! それはおかしいよ! せめて一週間」
こいつ、この期に及んで許されるとでも思っているのだろうか。答えは、
「ま、いいけど。進級できないどころか俺と同じ大学行けなくてもいいならね。俺はどっちでもいいけど」
「……ぐぬぬぬ」
「ほら、帰るぞ」
立ち上がり固まった体をのばす。長時間座っていたせいで腰と尻が痛い。
「あ! 待ってよー」
校舎を出ると、雪が降っていた。太陽が沈んでるのもあって、制服だと割と寒かった。
ガシ。いきなりゆきが腕に抱きついてきた。
「えへへー。これで寒くないね!」
「歩きにくいぞ」
「えっへへー」
満面の笑みを浮かべている。一瞬、可愛すぎて雪の妖精かと思った。だが俺は鬼なので、新学期までの期間、勉強漬けにすることを固く誓ったのだった。
ピンポーン。
「…………はーい! ちょっと待ってね」
トテトテトテトテ。
インターホンから歩く音が聞こえる。数秒してガチャと、音がして玄関の扉が開いた。
「おれくん、こんにちは。うわら外寒いね。中、どーぞ」
「おう、お邪魔します」
家の中は温かく、少し甘い匂いがした。
ゆきの後をついて行き、彼女の部屋に入る。
「適当に座ってて、飲み物取ってくるから」
「おう」
なんか今日はゆきの様子が少しおかしいような気がする。が、だいたい察しがついているので触れないでおくことにした。本人が言いたくないことを無理やり言わせるのはよろしくない。それに今日は勉強を教えに来たのだ。今は関係ないことはいいだろう。進級出来なくても困るし。
ガチャ。
そんなことを考えていると、ゆきが帰ってきた。
「おまたせ、はい、お茶」
「サンキュー」
「さて、どの教科からやる?」
「……その前におれくんに言わなきゃいけないことがあるの」
ゆきが真面目な声色でそんなことを言う。そして何やら後ろから取り出す。
「……ごめんね。上手く作れなくて、失敗しちゃった」
申し訳なさそうな顔でゆきが渡してきたのは、可愛くラッピングされた手作りクッキーだった。しかし、市販のと比べると形が歪だったり焦げていたりと、どう見ても失敗したやつだった。
「色々調べて頑張ったんだけど、これ以上上手く作れなくて……。ごめんね、せっかくのバレンタインなのに」
泣きそうな顔になっているゆきを尻目に、俺は中身を取り出し一つ食べてみた。
「無理して食べなくていいからね!」
食べ終えてからお茶を飲んだ。
「…………どうだった?」
「……うむ。まぁ、美味しくはなかった」
「……………………だよね。ごめんね」
明らかにしょんぼりしている。
「だけど、ゆきが俺のために頑張って作ってくれたのは分かる。俺はこのクッキー、好きだぞ」
「…………ほんと?」
「あぁ。ぶっちゃけこれを隠して市販のをくれてたら、受験が終わるまで勉強漬けにするところだった」
「そんなに! ……でも良かったぁ」
ゆきが胸を撫で下ろす。嘘だ。こいつは甘くするとすぐサボるので、受験まできっちり勉強はさせる。
「ねぇねぇおれくん、私が食べさせてあげるから、あーんして!」
良かった。いつものゆきだ。俺は言われた通りに口を開ける。だが、何故かゆきは手に取ったクッキーを自分で食べようとしている。
「おい、食べさせてくれんじゃなかったのか?」
「そうだよ。口移しでね!」
何言ってんだこいつ。
「動かないでね」
いきなり俺を押し倒し、馬乗りになる。
「はい、あーーん!」
ゆきの顔が目の前まで来た瞬間、俺はゆきの頬を両手で挟んだ。
「はにゃぁ!」
俺は衝撃で落ちたクッキーを口でキャッチして食べる。もぐもぐごくん。うむ、美味しくはないが幸せな気持ちになる。だかそんなことは口に出さず、代わりに他のことを言う。
「お前、もしかしたらこのまま勉強サボれるとか思ってないよな」
「! ……しょんにゃわけにゃいじゃにゃいじゃん」
「そうだよねぇ。あなたのせいで俺は自分の時間を割いているのに。まさかそんなこと思うわけないよな」
「しょ、しょんにゃわけにゃいにゃい」
「じゃ、まずどこうか。そして勉強道具を出しなさい」
「……………………はい」
ゆきは観念した様子でどいた。正直嬉しかったが進級できない方が困るので仕方ない。そして俺は追い打ちをかけるように言った。
「今後俺がいいと判断するまで、デートとかイチャイチャするのとか、彼女っぽいこと禁止な」
「そんなぁ〜! 許してください何でもしますからぁ〜!![#「!!」は縦中横]」
「何でもなら、俺の言ったことをしっかり守るように。守らなかったらお前からお前の好きなことを一つ取り上げる」
「おれくんのばか! あほ! まぬけ!」
ゆきが子供のように怒る。
俺は改めて、ゆきが彼女で良かったと実感するのだった。