第九話 宰相の願い事 後編
【前回のあらすじ】
ついに長く胸に秘めた想いを告白した宰相。愛を告げる言葉は魔王の胸を貫く。突然の告白に驚天動地の魔王。
魔族の長たる魔王、その片腕にして魔王の補佐たる宰相。職務に忠実なる宰相が職場でまさかのオフィスラブ。平穏に続いてきた魔王と宰相の関係にヒビが入る。いや、この関係性を壊すことを怖れて、宰相は想いを秘めたまま務めを果たしていたのだ。
恋心を潜め巧妙に隠し誰にも気付かせ無いままに過ごした日々。しかし魔王の残り時間が少なくなるこの時、宰相の告白から二人の世界は新たな時を刻む。
魔王が死ぬまで、あと30日。
「あ、ありがとうあらすじ! ちょっと整理できて混乱が静まってきた」
「魔王様?」
「あ、宰相、その、だな。いきなりこう、なんだ? いや宰相がこう、突然好きとか言うとは思わず、ちょっと待て」
「魔王様、もしやわたくしが女ということをお忘れだったとか?」
「いや憶えている。憶えているとも。だが宰相は、宰相と俺の付き合いというのは男と女というものでは無かっただろう?」
「はい、職務の上では性別など無関係ですから」
「それに宰相はいつも赤いローブで全身覆い、性別を意識させない格好ではないか。顔も下半分は仮面で隠しているし」
「ほうれい線が気になるのです。老けて見えると言われる顔なので」
「翼王のようなビキニアーマーを着たことも無いではないか」
「スタイルに自信がありませんので。あの翼王と比べられたくありませんので」
「むむ? もしかしてそれか? 側近の女魔族の装備が極端なのは?」
「なんのことですかな?」
「以前から疑問に感じていたのだ。俺の側近の女魔族の装備、というか服装についてなのだが。翼王のようにやたらと肌が出て身体の線を強調したり、下着が見えそうな防御力の無さそうな装備をしている女魔族がいる」
「おりますな。胸の谷間を見せつけるような鎧だったり、異様にスリットの深いスカートだったり。エロ系のソシャゲの広告のような」
「寒い季節には風邪をひくのではないかと心配していたのだ」
「女のお洒落は時に我慢が必要なのです」
「かと思えば宰相のように全身を隠すような衣装だったりする。宰相はいつも赤色で厚着をした銀河鉄道〇〇〇のメ〇テルみたいな格好だし」
「わたくしはあのように細くはありません」
「暑い季節には熱中症にならないかと気にしていた。なぜ、女魔族はやたらと薄着かやたらと厚着で間が無いのだ? 流行りか? それとも何か決まりでもあるのか? 男の魔族はそういうことも無い。それぞれが好き勝手な装備をしているではないか」
「それは、魔王様に気のある女魔族でスタイルに自信のある者はアピールしているからです。そしてそんな女魔族と比べられたくない、私のように見た目に自信の無い者は隠したくなるからです」
「なんだと? まさか俺のせいだったのか?」
「魔王様、もしや魔王様がモテているのにお気づきでは無かったのですか? 今どき鈍感主人公だったのでありますか?」
「まて宰相。言い訳をさせてくれ」
「魔王様の言い訳、聞かせていただきましょう」
「俺は魔王だ。魔族すべての長だ」
「存じております」
「その王が、自分がモテていると勘違いした、いけすかない野郎では威厳が無いではないか。さらに部下から見て上司が、『俺ってモテモテなんだぜー』という無自覚セクハラ男となっては最悪ではないか」
「それはなんともウザイ上司でありますな。屋根より高く吊したくなります」
「なので俺は自分がそのような嫌われる魔王となってはならないと、常に己を厳しく戒めていたのだ。肌も露な女魔族が妙に近くに来ても、こんなことで俺に気があるなどと思ってはならない。ちょっとパーソナルスペースの感覚が近いだけかもしれない。勘違いしては魔王の威厳が保てない。と己に言い聞かせていたのだ」
「なんという無駄な努力を」
「無駄なのか? む、む、無駄無駄無駄無駄ァ!」
「魔王様、もしや恋愛面では経験も自負もお持ちでは無いのですか?」
「あ、う、む。経験と言われても。魔王になってからは恋する暇も無かったというか。そうか、俺は本当にモテていたのか。薄々そうではないかとはちょっぴり感じたりもしたことあるが」
「魔王様のこのように絶望する姿は初めて見ました。なにやら進撃してきた巨人を発見でもしたような有り様ですな」
「宰相、俺がモテていると知っていたなら、なぜ教えてくれなかったのだ?」
「……魔王様がモテモテだと気がつき、近寄って来る女魔族を『面倒だな、くっちまうか』と考えるようなクズ男になったら嫌だな、と考えておりました」
「宰相!?」
「魔王様に真実をお教えしなくて正解だったと、たった今、確信しました」
「ぐむうぅぅ、宰相ぉぉぉ、」
「そんなにモテたかったのでありますか? 必死ですか?」
「男に生まれたならば一度はモテてみたいと考えるものだろう。俺がモテていると知っていれば、あのときのセイレーンのガハラも、あのときの猫獣人のサネカワも、セントールのツルガも、ヴァンパイアのヨシノも、いつぞやのハーフリングのヤチクジも、俺に気があったということか」
「いろいろと機会があったようですな。何物語ですか」
「だが、魔王がクズ男になる訳にはいかん。地獄を見てちょっと心が乾いたが、宰相の気遣いに感謝する。そうだな、魔王が威厳の無い、寄ってくる女を片っ端から食っちゃうようなクズ男であってはならんのだ」
「魔王様のそういうところが、好きです。側でずっと支えたくなるのです」
「あ? え? 話が告白に戻った?」
「どうやら魔王様は男が女にモテる理由を知らないようですな。私がお教えいたしましょう」
【次回、男が女にモテる方法】