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第五話 この世に残すもの


 黒々と聳える魔王城。その主は魔王。

 魔族の長たる偉大なる魔王は、執務室にて書類を前に端正な顔をしかめる。


「……まったく四天王のやつらめ。有給休暇は年度内に消化しろとあれほど言ったではないか」


 魔王はサインが必要な書類の山を処理しながらブツブツと呟く。


「確かに四天王は優秀だ。だからと言って他に任せられる人材がいないからと、四天王が仕事を抱え込めばどうなる? 病気や事故が起きたとき四天王の代わりができるものがいるのか? そうなったときのために後進を育てるのも、現場を仕切る四天王の努めだろうが。何より職場の上司が率先して有給を使わねば、部下も遠慮して有給を申請しずらくなるだろうに。魔王城は見た目は黒いが中身はブラックでは無いのだぞ」


 魔王は書類の処理をテキパキと続けながら、魔王城で働く者の環境改善に頭を捻る。


「ここは四天王を呼びつけて魔王勅命でムリヤリ有給を取らせるしかあるまい。世の中には娘の幼稚園の運動会のために、人間の国への侵略作戦を断念する魔王もいるというのに。だいたい休みが取れない程の無茶なスケジュールでは無いはずなのだが」


「魔王様ー!!」


「なんだ騒々しい」


「魔王様! 魔王様! 魔王様! まお!」


「変なところで区切るな宰相。それでは暗黒魔王が、あんこ熊王になってしまうではないか」


「しあわせ〇かたち、とは懐かしいですが、それどころではありません。魔王様!」


「何があった宰相? もう勇者の一行が来たか?」


「アンケートの結果は好評でファンレターも来ました。大人気でございます」


「は? 宰相、何を言ってるのかわからん。落ち着いて説明せよ」


「は、申し訳ありません。わたくし興奮してしまいまして。何があったかと申しますと、魔王様の描かれたマンガが好評でございました」


「楽しんでもらえたならいいのだが」


「雑誌に掲載したところ、読者アンケートでも人気が高く、是非とも続編をと編集部が」


「雑誌? 掲載? 編集部?」


「そこから説明すべきですな。魔王様は週刊ヤングボコボコをご存知ですか? 魔族の若者に人気のマンガ雑誌ですが」


「ボコボココミックの青年版だろう? しかし、子供に人気のマンガ雑誌、ボ〇ボ〇とコ〇コ〇にあやかってつけた雑誌名というが、ヤンキー雑誌のようなタイトルになっているな」


「編集部では、ボコボコかボロボロのどちらにするかと会議がありましたが、ボコボコの方が元気があって魔族らしいと、ボコボコになったそうです」


「それで、その週刊ヤングボコボコが?」


「この雑誌に魔王様の描かれたマンガ、『百日後に死ぬDI〇』が掲載されました」


「ばふうっっっ!?」


「大好評でございます」


「ちょ、おい、ちょっと待て宰相!? お、お前、何をした!?」


「おもしろいマンガですから、多くの魔族に見ていただきたいと思いまして」


「いや、待て、待て宰相。まさか、その、魔王の描いたマンガだから載せろとか、権力で捩じ込んだりとかしてないだろうな?」


「そのようなことはしておりません。勝手ながらペンネームをでっち上げて付けさせていただきました。無名の作家の持ち込みという形でございます」


「それで通るのか? ネームバリューも無い作家の作品が?」


「これも『百日後に死ぬ予定の魔王様』計画のためです。魔王様が正体を隠してマンガを描いていた。実はあの人気マンガの作者は、なんと魔王様だった。バン!と公表したときには、マンガ家を副業にしていた魔王様と一躍話題になることでしょう」


「うむ、副業でマンガを描いてる同業の魔王というのは俺も知らない」


「これで魔王様の人気が高まるかと。そのためにワタクシが魔王様のマンガを持ち込みいたしました。週刊ヤングボコボコの編集にわたくしのもと同級生がいまして、話もトントン拍子で進みまして」


「だが、あれはパロディばかりのマンガで、あれを公開したら著作権侵害になるのではないか? 身内で楽しむ同人誌ならともかく商業となれば」


「魔王様、我々魔族は現在、人間と戦っております」


「うむ、そうだな。かなり一方的にこっちがやられているが。あの勇者の奴にボッコボコにされてるが」


「なので著作権とか、人間の作った法律など知ったことではございません」


「言われてみれば、それもそうか」


「なので魔王様、マンガの連載を始めましょう」


「いやまて宰相、一発ネタがウケたからと連載してもコケて悲惨なことになる気がするぞ? あれは連載を考えたものでは無いのだぞ」


「魔王様ならそう言うと思ってましたので、わたくしがいくつかプロットをお持ちしました」


「プロット? 宰相は何かネタがあるのか?」


「こういうのはいかがでしょう」


■百日後に死ぬラオ〇

■百日後に死ぬフリ〇ザ

■百日後に死ぬ戦争が大好きな少佐

■百日後に時計の針に潰される伯爵

■百日後に死ぬ青く光るランドセルを背負った準皇太子

■百日後に死ぬコスモ貴族主義の実現を企む鉄仮面

■百日後にマミられる〇マミ


「宰相、これは俺が読みたいぞ」


「いえ、魔王様は読む側では無く描く側です」


「宰相は俺をパクリ作家にするつもりか?」


「いえいえ、魔王様にはこうしてマンガを描きながら、人気のあるラスボスについて考察を深めることもできます」


「む? マミさんはラスボスだったか?」


「あの作品のラスボス的存在の白いケダモノは、殺しても死なないようですから。なので代わりに死に様が印象的なマミさんを候補にしました」


「印象的過ぎて記憶に焼きついてはいるが、アレを参考にして俺にどうしろと? 俺が勇者にマミられるのか?」


「勇者が怖すぎます。げえっ! 勇者!? と取り乱してしまいそうです」


「なんで人間のくせにあんなに強いのか。勇者のくせになまいきだ」


「とりあえず魔王様、どのラスボスなら百話描けそうですか」


「百日分の百話を描かねばならんのか? 俺が先に百日以内に死にそうだというのに」


「1日3話ぐらいでどうでしょう?」


「魔王の業務もしながらか? ハードスケジュールだな」


「魔王様のことを皆の記憶に留めるためにも、魔王様の描かれたものを少しでも多く世に残そう、と考えていたのでございますが」


「そうか……、俺がこの世に最後に書き残すもの、か。皆が笑って暮らせる明るい魔族、それを目指して俺は魔王として立ち、戦ってきたのだ。それが想い半ばで勇者に倒される予定になったが」


「魔王様の描かれたマンガを読んだ者は、皆、笑顔になりました」


「マンガ家になるにはオリジナリティが足りないと諦めていたのだがなあ。まさかこうして捨てた昔の夢が甦るとは」


「魔王様、マンガ家を目指していたのですか?」


「いっときマンガ家になりたいと描いていた。同人誌はやってて、二回ほど新人賞に応募したこともある。だが、箸にも棒にも引っ掛からんようでな。諦めた。しかし、俺の描いたものを見て喜ぶ者がいるなら、再び描いてみるか。辞世の句代わりに」


「では私がマネージャーとして編集部に対応します。魔王様にはここぞというタイミングで正体を明かす為に覆面マンガ家をしていただきます」


「うむ、分かった。もちろん配下には秘密だろうな?」


「前回、魔王様のマンガを見せた四天王には口止めしてあります。また編集部には私が話しますので、魔王様は好きに描いてください」


「そうか、担当編集にも会わないのか。描く上でのアドバイスなど欲しいところなのだが」


「四天王の冥王がアシスタントを希望していますので、冥王と相談してはいかがですか?」


「あいつ多才だな」


「冥王はサポートするのが得意で遣り甲斐を感じるタイプですから」


「死者の霊のサポートしてるうちに死霊術師を極めた男だからな。もとは死んだ音楽家の霊に楽器を教えてもらうため、だったというが」


「フィギュアに霊を降ろしてMMDとかやらせたりしてました」


「テーブルの上で踊る人形が、ハレハ〇ダンスかと思って見てたら、キル〇ーベイベーのエンディングだったのは衝撃的であった」


「なんというセンス。才能の無駄使いの天才かもしれませんな」



【魔王様が死ぬまであと84日】


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― 新着の感想 ―
[一言] えーっと……どこからツッコめばいいのやら。o(_ _;) ちょっと待て、もう11日も経ってますけど! Σ(゜o゜) もっと他にやることあるんじゃない!?
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