第三話 最後の戦いに向けて
黒々と聳える魔王城。その城の主は魔王。その頭からは二本の長い角が黒曜石のように煌めいて、魔族一の美丈夫と呼ばれた顔は不機嫌そうに眉を顰める。
魔王の私室で魔王と宰相はソファに座り優雅に紅茶を楽しむ。魔王は端正な顔をしかめて宰相をジロリと見る。
「宰相、あの資料だが」
「何かありましたか?」
「あったから言っている。なぜベル〇ルクが1巻から20巻まであるのに、13巻が抜けている?」
「あれは、以〇略というマンガに紹介されました、ヤクザをオタクにする手法を真似してみました。魔王様はベル〇ルクは未見でしたか?」
「一番肝心なところが無いではないか。14巻ではガ〇ツは片腕が無くなってるし、グリフ〇スは魔王になっているし、キャ〇カは頭クルクルパーになっているし。いったい13巻で何があった?」
「気になりますか?」
「気になって気になって仕方が無い。黄金の〇編がおもしろいから尚更だ」
「このように気になってしょうがないという状況に追い込むことで、オタクに染めることができるという手法、なのだとか」
「平野〇太は天才か」
「ではベル〇ルクの13巻を注文しましょう。魔王様、届くまでお待ち下さい。では資料に目を通されたのでしたら、ちょっと練習してみましょうか?」
「あぁ、ラストバトルでの勇者との会話のことか? 重要なのは分かる。俺も〇〇83の、ガト〇とコ〇ウラキの戦いの中で交わす言葉に熱くなったものだ」
「あれは良いものです。そして魔王様もまた心に残り記憶に残る名セリフを発しなければなりません」
「それが難しい。台本が有るわけでなし、勇者が何を言い出すかわからん。それをアドリブで上手いこと言え、というのは無茶振りではないだろうか?」
「その無茶振りに応えることができてこそ、一流でありプロであり人気へと繋がります。なので練習が必要かと」
「やってみるか」
「では始めます、勇者が一行が玉座の間に現れて言います。コホン。『魔王よ。今こそ人と魔族の因縁に終止符を打つ!』では魔王様、勇者に返答を」
「なんでこうなった!?」
「魔王様、それは転生した幼女が言うからおもしろいのです。魔王様はダメです」
「俺はダメか。幼女では無いからか」
「はい、幼女では無いのでダメです」
「いや、男でも似たようなこと言った者はいるだろう。例えば黒い仮面の軍師とか」
「あぁ、あの高度な誓約ですか。あの者は頭はいいのに運が悪くて、なかなか作戦通りにいかなかったりしますから」
「運が悪いというか、因縁のある白いのがメチャクチャしてくれるというか。計算外の突発的なことに恵まれるというか」
「頭はいいのに時々バカですからな。では次に行きましょう。魔王様が変身したときです。ラスボスと言えば一度倒されてから真の姿を表すのがお約束ですから」
「うむ、ちなみに俺は変身を二つ残している。PSP版リメイクの悪魔城ド〇キュラXのラスボスのように強いぞ」
「PCエンジン版でラスボスよっわー、と笑っていたものですが。笑ってすみませんでした、と土下座したくなるほど強くなって帰ってきましたな」
「だが、あれでこそラスボスだろう。リメイクに時間がかかったから、見た目も声も耽美な青年からおじ様になって老けていたが。しかし、いつからラスボスは変身しなければならなくなった?」
「変身しないと、あれ? もう終わり? と逆に驚かれたりする逆転現象が起きてますからな。常識の変化とは不思議なものです」
「用意するのも大変なのだがな。変身後には背景に音楽も変えねばならんし」
「では魔王様が勇者に攻撃され、ついに魔王様が二段階目に変身したとき。勇者が言います。『これが魔王の真の姿? くっ、なんという力だ!』はい、魔王様どうぞ」
「もっと俺を褒めろよお!」
「魔王様、それでは女の子の胸を揉んで巨大ロボットを呼び出し、挙げ句にその力で正義の味方に酔うダメダメな主人公です」
「あれはあれで強烈な個性だと思うのだが」
「悪い意味で印象に残りますな。主人公というのもスク〇ル・デイズのマ〇トまで行くと、主人公なのにラストでぶっ殺されるところを見てスッキリしてしまいます」
「あれはまさしく、ナイスボートであった」
「では次に行ってみましょう。勇者が魔王様と剣を交わしながら言います。『魔王よ! これまで何人の人を殺めてきた?』はい、魔王様どうぞ」
「勇者よ、お前はこれまでに食べてきたコ〇ラのマーチの数を憶えているか?」
「魔王様、パクリ過ぎです。ですがコ〇ラのマーチと言い替えたことで、魔王様がチョコ菓子と可愛いものが好きだというのがバレてしまいました」
「うむ、コ〇ラのマーチは良いぞ。あれを見ると、和むのだ」
「魔王様、もしも最終決戦でそんなことを言えば、」
「言えばどうなる? 宰相よ」
「魔王様の言葉切っ掛けでコ〇ラのマーチの売り上げが上がれば、ロ〇テからお礼にとコ〇ラのマーチ1年分が箱で贈られて来るかもしれません」
「それは楽しみなことだ。しかし1年分は困る」
「何故でしょう? 毎日コ〇ラのマーチを楽しめますが?」
「宰相よ、俺はあと百日以内に死ぬ予定なのだぞ。1年分のコ〇ラのマーチは食べきれんではないか」
「おお、そうでしたな。しかも勇者とのラストバトルの時ともなれば、コ〇ラのマーチが送られてくるのは魔王様が死んだあとでございましたか」
「うっかしりしていたな宰相。まあ、そのときは俺の墓にコ〇ラのマーチを供えてくれればいい」
「一周忌まで毎日、コ〇ラのマーチでよろしいですか?」
「ハハハハハ、毎日供えられるのか? せめて何か飲み物をつけてくれ。口の中が渇いてしまう」
【魔王様が死ぬまであと98日】