百日後に死ぬ予定の魔王様 最終話
「うぅ……」
「グス……」
「……」
「……本日は、足下の悪い中、魔王様の告別式に足をお運びいただき、まことにありがとうございます。
喪主はわたくし、魔族宰相が務めさせていただきます。
魔王様は魔族と人間の戦争に決着をつけるべく、魔王城にて勇者とラストバトルを行い、帰らぬ者となりました。
魔王様は『皆が笑って暮らせる明るい魔族』を理想に掲げ、人間との戦争を戦いました。魔族の誇りと尊厳を守る為の戦いは、多くの犠牲を生みました。
しかし、魔王様のもとに一致団結することで、魔族の意思と力はひとつとなりました。
人間との戦争は敗北に終わりましたが、こうして我ら魔族は新天地、魔界へと移住することができました。
新たな地での生活には、不安もありこれからいくつも問題が現れることでしょう。ですがもとの世界のように、人間の侵入や空き巣に悩まされることはありません。
魔王様が魔族を統一することで、この大移住は叶ったのです。
わたくし達はこの地で魔王様の意思を継ぎ、ここを魔族の楽園としなければなりません。
魔王様は生前、遊んでいるように見えながらも、誰よりも魔族の未来を憂いていました。
『先ずはこの俺が、生きることを楽しんでみせねばどうする』
と。
生を楽しみ、楽しみながら苦難に挑む姿は多くの魔族を惹き付けました。
魔王城が完成したとき、魔王様は子供のようにはしゃぎ喜びました。俺の城だ、と踊りだしました。
俺の城に務める者が気分良く働けるように、と魔王様は城のトイレやリネン室の掃除を自ら欠かさずに行います。そのようなことは配下にお任せくださいませ、と申し上げても、
『何を言う、長が自ら汚れ仕事をせずに配下の見本となれるか』
と言います。
そうなると魔王城に務める者も、キレイにせねばという意識が高まり魔王城は美しく保たれました。
四天王などは『魔王様は仲間を使うのが上手い』などと言いますが、まったくもって魔族をその気にさせるのが上手いお方です。
魔王様の目指すもののために務めることは、わたくしにとって至上の喜びでありました。
魔王様はたまに凝ったお菓子が作りたくなる、などと言い、月に1度は魔王城で働く者に手作りのプリンやシュークリーム、チーズケーキなどを振る舞います。
バレンタインデーのときには、魔王様が手作りのチョコレートケーキを自ら多くの配下に配りました。
魔王様に恋心と共にチョコレートを渡そうとする魔族の乙女にも、魔王様が、
『なかなか上手くできたのだ。美味しいぞ』
と、チョコレートケーキを先に渡され、その娘はタイミングを見失い呆然としておりました。
魔王様は思い悩む者、落ち込む者には、どうした?と気さくに声をかける、心の機微に聡い方でありました。
ですが、魔王様は日頃からモテたいなどと言いながら、何故か恋心には疎く、自らその機会を潰してしまうところもありました。見ていてモヤモヤしたのはわたくしだけではありますまい。
そんなところもまた、手を尽くしたくなるという奇妙な魅力の持ち主でありました。
……思い返せば魔王様との思い出の話は尽きません。
わたくしは魔王様を復活させるために、『百日後に死ぬ予定の魔王様』計画を行っています。
魔王様の人気が高まれば、続編にて魔王様の復活が叶うだろうと。
そのために魔王様にはマンガを描いていただき、アーティストとして四天王と野外ライブもしていただきました。
現在も魔王様をモデルにしたゲーム『アイドル魔王、D☆ボゥイ』が開発中でございます。
マンガも歌も好評で、これでさらに広く魔王様のファンを増やすことはできました。
しかしながらこの話、このような勢いとパロディばかりのいいかげんな話に続編が描かれることは期待できず、魔王様の復活は望み薄であります。
ですが、
それでも、
魔王様に会いたい、
魔王様の笑顔が見たい、
魔王様の描くマンガの続きが読みたい、と、
そのように願っていただけるのでありましたら、
この下にある祭壇より魔王様へと、御献星(★)を捧げていただきたくお願い申し上げます。
このようなクレクレなど魔族として実に恥ずべき行いではありますが、魔王様復活祈願のお気持ちを星に代えて捧げていただきたく存じます。
いかほどに星が集まれば魔王様が復活できるのかも分かりません。
それでもわたくしは、この一縷の望みに賭けたく……
グス……
また、魔王様の描かれたマンガ。
週刊ヤングボコボコで連載中の『百日後に死ぬフリ〇ザ』は、作者である魔王様が亡くなられたため連載は中止。未完の作品となることを魔王様に代わりお詫び申し上げます。続きを望むファンの皆様、まことに申し訳ございません。
本日は……
グス……
本日は、足下の悪い中、魔王様の告別式に足を運んでいただき、まことに、まことにありがとうございます」
【百日後に死ぬ予定の魔王様 完】
読了感謝