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第十三話 ラストバトル 最後の戦い


 黒く聳える魔王城。その城の主は魔王。

 魔王城地下の研究施設。そこには異界へと繋がる門がある。

 宰相と冥王、そして魔族の研究家が作り出した異界への門。別の世界へと繋がる魔族の魔導の研究成果の結晶。

 虹色に揺らめく門を前に魔王と宰相は並んで見つめ合う。

 宰相は震える声で言葉を紡ぐ。


「……勇者の飛行船が城下に降りました」


「いよいよか。ちょうど百日、満月の日と予定通りだ。宰相、もう城には誰もいない筈だな?」


「はい、飛行船に遠距離攻撃をかけた翼王配下は全員、門を抜け魔界へと行きました。現在、魔王城にいるのは私と魔王様の二人だけです。防衛には、わたくしと冥王の作ったゴーレムを起動させました」


「では、宰相も行くがいい。その後、この装置を破壊する。人間たちが異界の研究を進めねば、これで魔族に手を出すことはできないだろう」


「ですが、その前に魔王様に渡すものがあります」


「む? なんだ?」


「魔王様を満月の夜に倒せばシークレットアイテムをドロップする、と噂を流しましたが」


「アイテムコンプリートを狙う勇者を嵌めるデマだな。それが?」


「シークレットアイテムが出なければ勇者が怒り狂うかもしれない、と心配した冥王がそれっぽいアイテムを作りました」


「その心配があったか。冥王もマメな奴」


「これが冥王の作ったそれっぽい杖です」


「ほお、豪華な装飾がつき派手な杖だ。なかなかの魔力があるところに冥王のこだわりを感じる。しかしこの杖、何か見覚えがあるような?」


「この杖の名前は『ロッド・オブ・ゴインズ・ウール・アウン』と言います」


「言いづらい、そして、そこはかとなくヤバい。見覚えのある理由も分かった。いいのかコレ?」


「アイテムコンプリートを狙う勇者が満足すれば、なんでもいいのではないですか?」


「そうかもな。では俺が死んだときにドロップするように設定しておくか」


「魔王様……」


「宰相、頼みがある」


「なんでございますか?」


「魔界にて暮らし、宰相と共に歩むことのできる伴侶を見つけ、家族を作るのだ。俺のことは忘れて」


「それはできません。私は魔王様を復活させます。例え何年何十年かかろうとも」


「この話がシリーズ化して続編で俺が復活、というのは難しいのだろう? この作者も、過去に気合い入れて書いたのがネット小説大賞二次選考落選ばかりで、今では書く意欲を失いつつあるし」


「いいえ、魔王様の復活の為には何事も覆しましょう。わたくしは諦めません」


「むう、宰相、この頑固ものめ」


「魔王様ほどでは御座いません」


「……宰相とのデート、楽しかったぞ。弁当も美味かった。料理が美味いではないか」


「料理は魔王様の方がお上手ではないですか」


「いや、俺はたまに凝ったお菓子を作りたくなるだけで、日常的に料理を作るのとはちょっと違う。毎日、口にするなら宰相の作る料理がいい」


「どうして最後の日にプロポーズじみたことを言うのでありますか?」


「プ、プロポーズ? いや、その、あ、毎朝俺の味噌汁作ってくれ、とか言うのがあったか? 『やはり俺の青春ラブ〇メはまちがっている』で? するかそんなプロポーズ、今どきに昭和のような言い回しのような」


「そうですな。『プロポーズの言葉コンテスト』では『ボクに毎朝、お味噌汁をつくらせてください』が最優秀賞でありましたか」


「逆になっただけではないか? そいつヒモではないのか?」


「主夫を求める女性には良いのでは? ヒモであっても」


「まあ、夫婦円満であれば良いのだが」


「では、わたくしは理想の家庭を目指し、魔王様復活を目論見ましょう」


「ならば、俺は復活を待つとしようか。そろそろ行くがいい宰相。俺も勇者を迎え撃つ用意をせねば」


「はい、魔王様……、悔い無き健闘を」


「俺は俺の生きざまに悔いなど無い。宰相のおかげだ」


 魔王は一歩、宰相に近づきその肩に手を置く。


「魔界で幸せに暮らせ、宰相」


「魔王様! わたくしは!」


 宰相の言葉が途切れる。魔王がその手で虹色の門の向こうへと宰相を突き飛ばした。赤いローブの宰相の姿は倒れるように異界の門の中へとすいこまれていく。

 魔王は虹色の門を見つめ、薄く笑む。


「つくづくカッコ良く決まらんな、俺は」


 漆黒の剣を構え、虹色の門と部屋の魔導装置を一刀のもとに破壊する。粉砕され虹色の輝きを無くしガラクタと変わる魔導の品。

 魔王は振り向き黒のマントを翻す。


「……忘れられた方が宰相の為、忘れられたくないとは俺の女々しさ、か。まったく未練じみてカッコ悪いな」



◇◇◇◇◇


 

 魔王城、玉座の間。


「さて、派手な杖は宝箱に入れてドロップの設定は完了、と。あとは勇者を待つだけか」


 魔王は黄金の玉座に座り優雅に足を組む。


「処刑を待つ、というのは落ち着かんな。だが不思議と穏やかな気分でもある。妙に安らいだ心持ちだ。

 俺のやらかしたことに悔いは無い。敗けは敗けでそこは悔しいが。だが、俺の一生をやり直せるとしてもどうなるか。

 そのときそのときで選んできたことが、間違いだったとは思えん。

 勝てば正義、などと言う者もいるがな。しかしそのような輩が治めるところで暮らす者は幸福か?

 勝てば正義なら負ければ悪。正義を名乗る為には弱そうな者を悪とし、常に勝ち続けなければならん。そんなところで暮らす者は平穏か?


 正義を名乗る戦いをする者が、卑劣な策や卑怯な手段など取れようか? 手段と行いから我は正義と誇れるのか? 勝つために手段を選ばんというのはやり過ぎれば気に入らんものになる。

 負け惜しみ、かもしれんがな。群れの長とは勝てば良いでは足りんのだ。勝ったあとのことも考えねばならんのだ。


 俺は敗けた。これから勇者に勝てぬ戦いをする。

 だが、そんな王に多くの魔族がついて来てくれた。俺の信念に賛同してくれた。有難いことだ。

 気持ちのいい奴等ばかりで、あいつらが平和に暮らせぬ世など許せるものか。

 勝てぬ戦いでも、挑まねば負け犬のまま生きねばならぬ。ならば戦わねばならない。誇りを示すためにも。

 まあ、できれば勝ちたかったがな……


 振り返れば、充実した生であった。

 愉快な仲間、優秀な配下に恵まれた。

 宰相とはイチャイチャもできたし……

 ピクニックデート、楽しかったな。宰相は後で翼王になにやらからかわれていたようだが。


 俺は思い残すことは無い。俺の意思は仲間達が継いで行く。それを知るからこそ敗北の見えるラストバトルで戦える。


 だが勇者よ、人間たちよ、お前たちは何のために戦う? お前達は、これから魔族のいなくなった世界で、次は何者を悪とするのだ?」


 魔王の呟きに応えるように、玉座の間の扉が大きく開く。扉の向こうに立つのは、勇者。

 白銀の鎧に身を包む勇者は、一歩一歩と鎧を鳴らし進む。

 魔王は玉座に座ったまま、足を組み勇者を見下ろす。玉座の間に仕込まれた魔導具が作動し荘厳な音楽が流れ始める。魔族活性唱歌、獣王作詞、冥王作曲の『魔王様応援歌』

 録音された歌が奏でられる玉座の間の中で、白銀の勇者は魔王に近づく。無言のまま剣を抜く。

 漆黒の魔王は堂々と、悠然と、泰然と勇者を見下ろす。その口が厳かに言葉を紡ぐ。


「よくぞここまで辿り着いた、人間の勇者よ」



【魔王様が死ぬまで、あと――】


次回 最終話

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