第1話 計画始動、死亡予告
「おい、宰相」
「なんでしょう? 魔王様?」
「なんだこのタイトルは! この俺が百日後に死ぬ予定だと? いったいどういうことだ!」
「ですが魔王様。もはや魔王様のお命は風前の灯火でございます」
「なんだとお!?」
黒々と聳える魔王城。その城の主は魔王。黒い鎧に身を包み玉座に座る。その頭からは二本の長い角が黒曜石のように煌めいて、魔族一の美丈夫と呼ばれた顔は不機嫌そうに眉を顰めて宰相を睨む。
「勇者の一行がヤバイとは聞いてはいるが」
「あの勇者はヤバすぎます」
側に控えるは魔王の片腕。魔族の宰相はスッポリと赤いローブで身を包み、フードの奥に隠れた顔は下半分を仮面で隠した姿。頭を垂れ恭しく魔王に告げる。
「魔王様、あの勇者はヤバイを超越したグレートヤベエ勇者でございます。既に魔族の拠点は砦に城にダンジョンと、全て制圧されてしまいました。残すはこの魔王城のみとなります」
「ぬう、なんで人間のくせにあんなに強いのかな? あの勇者は。それで勇者はこの城に攻めてきたのか?」
「いえ、勇者の一行は現在、飛行船で世界をあちらこちらへと飛び回っております」
「奴はいったい何をしている?」
「偵察で解ったことは、勇者は攻略本片手にミニイベント、隠しダンジョン、シークレットアイテムなど探しているようです」
「あー、いるな。ラストダンジョン攻略前におまけ要素を全部やっておこうって奴が」
「どうやら勇者はアイテムコンプリートを目指しているようです」
「まったく、勇者ならば攻略本に頼るな。その身で体当たりで己が知恵と力で挑んでこそ真の勇者だろうに」
「ですが、その攻略本から逆算することで、勇者一行が全てのミニイベントを終わらせ、隠しボスを全部倒し、アイテムコンプリートを終わらせるのに百日ぐらいかかるだろう、と解りました」
「それで百日なのか。では、その百日の間にあの勇者を撃退できる戦力を魔王城に結集すれば」
「それは難しゅうございます魔王様。あの勇者はあちこちの隠しダンジョンで無駄に経験値を稼ぎ、今ではレベルもステータスも魔王様を遥かに凌駕しております」
「なんでそんなに強くなった?」
「最近の隠しボスは魔王様より強いので、その分、経験値も多くございます」
「なぜ、魔王より強いボスが辺境のダンジョンで本編にも絡まずひっそりと暮らしているのか」
「さて? 昨今流行りの追放されてからのスローライフでしょうか?」
「それで、俺はあの勇者に勝ち目は無しか?」
「はい。例え勇者の装備がひのきの棒でも魔王様コテンパンでございます」
「ひのきの棒でタコ殴りでやられたくは無いなあ」
「カマボコの板でもコテンパンでございます」
「今さらカマ板血祭りとかやめてくれ。泣きたくなってきたぞ」
「魔王様、男は涙を見せぬもの、見せぬもの、です」
「うむ、ただ明日へと、明日へと、未来のことを考えねば」
「そして涙は見せず、孤独な笑みを夕日にさらし、背中で泣いてるのが男の美学です」
「その通りだ宰相。しかし勇者がそこまで強いとは、もはや我ら魔族には打つ手が無いか」
「だからこそこのタイトル、『百日後に死ぬ予定の魔王様』なのです」
「いったいどういう策略だ? 説明しろ宰相」
「は、魔王様は、DI〇という人物をご存知でしょうか?」
「……宰相、様をつけろ」
「は? わたくしはデコ助ではありませんが?」
「宰相、DI〇様と呼べ。かの者こそは奇妙な冒険に置ける悪のカリスマ。セリフの端々に強烈な個性を見せ、思わず真似したくなるほどの悪役ぶり。この魔王、DI〇様のことは同じラスボスとしてリスペクトしているのだ」
「は、失礼いたしました。かの者、DI〇様は圧倒的な悪役振りにて主人公達を苦しめ、しかしついには主人公との戦いに破れ海に沈みました」
「だが、DI〇様はそれで終わらなかった。第三部では復活し、かつての主人公の孫と、三代に渡る血の因縁の決着という壮大な物語を描いた」
「そこです魔王様。なぜDI〇様は復活したのでしょう?」
「む? それはDI〇様が人間をやめた不死の吸血鬼だからであってだ」
「魔王様、それは設定です。設定とは理由の後に考えられたもの。DI〇様が第三部で復活したのは、ズバリ、人気があったからです」
「むう、人気か」
「そうです。悪のカリスマとしてのDI〇様の人気こそが、DI〇様が第三部で再びラスボスとして甦った真の理由でございます。ならば、我らが魔王様も人気があれば、例え今回の勇者に倒されることになろうとも第三部で復活しうる芽が生まれます。それがわたくしの策謀『百日後に死ぬ予定の魔王様』計画でございます」
「この俺も人気を高めれば続編で復活できるというのか? だがこのタイトルで俺の人気が上がるのか?」
「魔王様、なんの変哲も無いただの平凡なワニが、百日後に死ぬと予告されただけで人気を得て映画になったのです。百日後に死ぬ、この前情報があるだけで魔王様を見る目が変わります。このタイトルにすることで、きっと誰もが魔王様の魅力を違う視点で再発見することになるでしょう」
「なんという深謀遠慮だ。この俺を復活させるためにそこまで考えていたのか。さすが宰相、この魔王の信頼する魔族の知恵者よ。その知略に感服したぞ」
「お褒めいただき感謝の極み。そしてわたくし、憎き勇者が現れるまで、なんとしても魔王様の人気を高めるべく様々なアプローチを行う所存であります」
「うむ、わかった。今回の勇者には逆立ちしても勝てぬとして、ならば未来において俺が復活できるように、やれることをやらかすとしよう」
「その意気でございます魔王様。では参ります。『百日後に死ぬ予定の魔王様』開幕でございます」
【魔王様が死ぬまであと100日】
魔族宰相
「この物語についての評価は最終話を見てからにしていただきたく、よろしくお願いいたします。これも全ては『百日後に死ぬ予定の魔王様計画』のために。最終話は2022年1月13日に投稿予定となっております」