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しょうもない殺人事件~推理を披露できない探偵と犯行を自白する犯人~

作者: 青水

「私が犯人です」


 館内にいる全員を呼び集め、探偵が自らの推理を披露しようとしたそのとき、館の管理人である犯川人志が言った。


「今から推理を披露しようと思ったのに……自白しないでくださいよ……」


 名探偵――家達シャーロックは、不満そうに言った。


「そ、そんなっ……どうして!? どうして、太郎と幸子を殺したの、犯川さん!?」


 館の持ち主である夢子が驚きの声を上げた。


「どうして? どうして、か……。まあ、大した理由はないんですがね、強いて言えば、あなたの息子さんと娘さんがむかついたからですかね。だから、ぶっ殺してやったんですよ」


 推理小説において大事なフーダニットが冒頭で明かされ、ホワイダニットも適当でしょうもない理由である。後はハウダニットなのだが……。


「クソッ! むかついたからって、殺すことはないだろ!」


 夢子の夫である宗太郎が憤慨の声を上げた。


「それにしても、どうやって二人を殺ったんですか?」


 ワトソン役の息川ワト子が尋ねた。


「二人の死体に外傷はなかった。一体、どんな手段で……?」

「ああ、それはですね」犯川は言った。「包丁で刺し殺してやろうと襲い掛かったところ、二人は恐怖とショックのあまり、心臓発作で勝手に死んでしまったのです」

「「「「な、なんだってっ!?」」」」

「ですから、厳密に言うと私は二人を殺してはいないのです」

「ふっ……ぼ、僕はすべてわかってましたよ……」


 ショックを受けた様子の家達は、震える声で強がった。実際は、自分の考えた推理がまったく合ってなかったのだ。


「さて、私は一体どんな容疑で逮捕されるのでしょうか?」

「えーっと……おそらく、殺人未遂とかですかね?」


 ワト子は困惑しながらも、冷静さをいち早く取り戻そうとした。


「なるほど。ですが、私は二人を殺すつもりだった。この手で、自ら! それなのに、勝手に心臓発作で死にやがって。ふざけるなよ! こっちはフラストレーションがたまっているんだ! こうなったら、貴様ら全員殺して、鬱憤を晴らしてやる!」


 犯川は懐から真新しい包丁を取り出して、奇声とともに名探偵家達シャーロックに襲いかかった。

 家達は名探偵とは思えない情けない声を上げて、犯川から逃げた。夢子・宗太郎夫婦の後ろに回り込むと、犯川は二人に襲いかかった。家達は二人を盾代わりにしたのだ。


「死ねえっ!」

「きゃあああ! あなたああああ!」

「夢子、逃げろ……」

「次は貴様だ、奥さんんん!」

「いやあああ! 助けて……うぎゃあああ!」


 館は阿鼻叫喚と化した。

 必死に逃げ回る名探偵を、軽蔑に満ちた目で見つめるワト子。


「そんな目で僕を見ないでくれ」

「あなた、それでも名探偵ですか……?」

「僕は頭脳派名探偵なんだ! ハードボイルド探偵じゃないから、戦闘なんてできないよ! ワト子くん、奴をなんとかしてくれ!」

「私、女の子ですよ?」

「女の子って言ったって、空手と柔道と合気道とテコンドーとムエタイと少林寺拳法とその他諸々の武術の達人じゃないか! 僕より断然強いんだから、なんとかしてくれ!」

「やれやれ、仕方ないですね」


 ワト子はカーディガンを脱ぎ捨て、腕をまくると、犯川に接近し、


「あたーっ!」


 蹴りを放った。

 とんでいった包丁が家達の頬をかすめて壁に突き刺さった。


「あ、危ないじゃないか!」

「そーい!」


 ワト子の正拳突きが炸裂。犯川の臓腑を破壊しつくし、彼は血反吐を撒き散らしながら崩れ落ちた。


「ふう、助かった」家達が頬の汗を拭う。「これにて一件落着だね」

「どこがですか」


 ワト子は夫婦の死体と死にかけの犯人を見つめながら言った。


「館の住人、全員死んじゃいましたよ」

「でも、まあ、フーダニット、ホワイダニット、ハウダニットすべて明らかになったし、それに僕たちが生きてるんだからいいでしょ」

「この腐れ外道め」


 しばらくして、クローズドサークルとなっていた館の前の橋が直って、警察官たちがわらわらとやってきた。犯人の犯川人志は殺人容疑で逮捕され、事件を解決した家達シャーロックの名声はますます上がるのだった。


 完。






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