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白髪少女の子守唄  作者: 桜-空狐
魔狩り編
6/11

第5話 金山流の修行 其の弐

 修業は二ヶ月目の二日目に突入し、新たな修業に入る事となった。場所は彦之の家から離れた木々が生い茂る山の中。

 やや斜面のある山中のど真ん中で、二人は向かい合う様に立ち

「刀は腰に下げたね?」

 彦之が確認を取るように言うと、マリは腰のベルトに下げた刀を見せる。


「はい。それで、今回からどんな修業をするのですか?」

「鬼ごっこ」

「またですか?!」

「また。でも前とは内容は違う」


 彦之は何時ぞやレンから預かった刀を放り投げると、両手を二度叩く。

 すると、何処からとも無く二人の女性…否、双子らしき二人が刀を片手に姿を現した。


 白髪のおかっぱで、紅い上着と黒い着物を着た女性は黒い刀を。

 黒髪のおかっぱで、灰色の上着と白い着物を来た女性は白銀の刀を。


 二人は彦之の前に立ち、マリに対して深くお辞儀をすると、彦之の前で跪く。


「二人は私の大事な子。白髪(はくはつ)の子は悠子(ゆうこ)

「初めまして」

「黒髪の子は光子(ひかりこ)

「ご機嫌麗しゅう」

「今度はこの二人と鬼ごっこしてもらう。そして二人の内どちらかに捕まったら、次は貴方が二人を追って捕まえる事」


 次の修業も鬼ごっこ。が、今回は内容が違ったもの。

 マリは只管二人から逃げて捕まらぬ様にする事。

 二人の内片方にタッチされて捕まれば二人を追い掛け、どちらかを捕まえなければならない。


 至って簡単に見えるこの修行。しかし場所は草木が生い茂て、やや斜面の山の中。

 木の根に足を引っ掛けたり、足を滑らせようものなら転んですぐ追い付かれる。

 そして何よりも、一番の障害になるのが…


「それじゃ…初め!」

「行きますわよ悠子!」

「追い付きますわ光子!」

「ちょっ、もう真後ろ?!早過ぎない?!と言うか…!腰に下げた刀が邪魔ァッ!」


 腰に下げた刀が走る度に足に当たるので、非常に邪魔となっている。

 つまりこの修業は体力向上と足腰の強化と、腰に下げた刀に慣れる修行。


 全力で走れば走る程刀は大きく揺れ、とにかく足に当たりまくって邪魔をする。

 当然そちらに気を取られれば…


「刀邪魔…へぶっ!」

「悠子、あの小娘転びましたわ」

「滑稽ですわね光子。それでは…」

「「はい、タッチ」」

「しまっ…!」

「お次は貴方が私達どちらかを捕まえる番ですわ」

「光子、少しは手加減してあげなさい」


 無様に転び、隙を与えてすぐに捕まってしまう。

 その為すぐに起き上がり、捕まらぬ様にしなければならない。それがこの修業の最大の目的である。


 これがもし実戦で転び、立ち上がるまで時間が掛かっていようものなら背後から貫かれて死ぬだけ。

 それだけは何としても防がなくてはならない。


「成程ね…!やってやろうじゃないの!」

 大まかなルールを把握し、如何に捕まらぬ様に走るか。マリは立ち上がり、二人を追い掛けんと駆け抜ける。


 と意気込んだは良いものの、双子の速さは異常で追い付こうにも追い付けず、どれだけ追い詰めようと離されてしまう。


 だが彦之との違いと言えば、二人の速さは彦之に匹敵するものの、気配は残ったまま。

 走る音もするし、動いた際の草木が揺れる音もする。空気の揺らぎを含め、それを聞き分ければ何処から出て来るかも把握は出来る。


「遅いですわ!」

「それでは私と光子を捕えられませんことよ!」

「ほらほら、死ぬ気で二人を追わないと捕まえられないよ。異能使ったらダメだからね」

「いやいやいや!こんな足場の悪い所で鬼ごっことか普通無理だからね?!」


 だからと言って二人も彦之同様甘くは無く、どれだけ速く走っても木々が邪魔で追い付けず、一度捕まると中々捕まえる事が出来なくなる。

 更に足場も悪く、気を付けなければ転んで突き放されてしまう。

 それを分かった上でマリは死ぬ気で走り、とにかく二人を追い掛けた。


 こうして再び地獄の様な鬼ごっこが始まり、二日間鬼ごっこをして、次の日は刀の素振りと鍛錬を。

 そのまた次の二日間は鬼ごっこを…。


 そんな日々が一週間続いた。





ー…一週間後。


「やっ…!せいっ…!」

「うん、上出来。この一週間でかなり癖が抜けて上手くなって来たし、構えと斬り方も完璧」

「ありがとうございます!」


 何度目かの刀を使った巻藁での練習にて、マリは遂に刀の扱い方を物にした。

断面も荒くも無ければ美しく、癖も無い。


 そのまた翌日。悠子と光子との鬼ごっこ。

「では、今日も二人と鬼ごっこしてもらう」

 彦之がそう言いつつ刀を放り投げて両手を二度叩くと、二人はまた何処かから現れ、ふわりと地面に着地する。


「それじゃ、初め!」

 と息をつく間も無く彦之が右腕を振り払うと、二人はマリに向かって駆け抜ける。


 するとマリは自身に向かってくる二人を前に、あと少しで捕まると言った距離になると、その場に伏せて二人の手を躱したのだ。


「あらま?」

「少しはやるようですわね!」

(よし…!)


 直ぐに立ち上がり、山を駆け出すマリ。勿論二人も彼女を追い掛け、木々を避けて走り抜ける。


 そしてまた捕まりそうになると、マリは右手で木を掴み…走っていた速度を利用して向きを変え、百八十度の方向転換をして二人の真横を通り抜けて走り去ったのだ。


「埒が明きませんわ!光子!二手に別れますわよ!」

「承りましたわ!」


 今までと違うと分かると、二人は二手に別れ、別々でマリを追いかけ始める。

 当然空気の揺らぎと走る音が二つに別れた事で、マリもそれを把握している。


 が、そこまでなら良い。


「見付けましたわ!」

「光子さん…!?」


 瞬く間に追い付かれ、目の前に現れた光子。

 彼女の手を避けるべく大きく反れると、マリはその反動で転んでしまった。

「今ですわ悠子!」

 光子の掛け声と共に、木の影から悠子が飛び出して捕まえんと手を向ける。


 しかしマリは慌てる事もせず、横に転がりつつ悠子の手を回避し、その勢いを利用して起き上がったのだ。


「この一週間でそこそこ成長された様ですね」

「私も光子も喜ばしい事ですわ」

「ですが…」

「「まだまだ詰めが甘いですわ!」」


 だが悠子と光子の猛追は止まらない。何せ彦之と変わらぬ速さの二人が迫って来るのだ。

 しかも今まで使っていなかった刀も使いだし、刀を必死に避ける事で難易度は急に高くなるばかり。


 勿論悠子と光子が持つ刀は本物。掠ることはまだ多少良くても、斬られれば大怪我では済まされない。

 なんて考えつつ走っていると


(刀を腰に下げたまま走るのは慣れたけど…!)

「そこです!」

「あぶっ?!」


 突如として前に現れた悠子がマリの足元向け、手に持つ赤黒い刀を横に薙ぎ払う。

 その攻撃を躱すべくマリが咄嗟に飛び跳ねた時だ。

 背中を軽く押された感触と共に、マリは地面に転がってしまう。


「鬼さんこちら、ですわ」

 光子がそう言うと、二人は瞬く間に森の中へ走り去る。


「ぐぎぎ…!刀使うなんてズルい…!」

「順調みたいだね」

「何処がですか?!」

「ほら、速く追い掛けないと見失うよ」

「分かってますよ!」


 とにかく走り、追い掛け、捕まえたら走って避けて、二人の猛追を躱し続ける。


 この鬼ごっこと刀の素振りと練習。

 一週間続くと、次第にマリは二人の動きが読める様になり、不意で放たれる攻撃を躱せるようになった。


 刀を振るった時に現れる空気の揺らぐ音。つまり風を切る音だ。刀を握り、振るって行く事で揺らぐ音の感覚を覚えたのだ。


 そして彦之の下で修業を初め、一ヶ月と二週間が経った頃。修業は更に過酷なものとなる。

 と言うのも、その内容が…


「ほらほら、速く逃げないと追い付かれるよ」

「私も悠子もまだ序の口の速さですわ!」

「お急ぎになられないと彦之様がお捕まえになりますわよ!」

「いや…!あのね!三対一は卑怯でしょッ!」


 マリが二人に追われるのに慣れた頃を見計らって、悠子と光子に加わり、彦之もマリの追跡に加わったからだ。

 たった一人加わるだけで難易度は跳ね上がり、走って逃げるだけでも精一杯。


 何より彦之は気配を消してマリを追い掛け回すので、双子の気配に気を取られればすぐ捕まる。

 かと言って彦之の空気の揺らぎを探って気を取られれば二人に捕まる。


「はいタッチ」

「わぷっ…」

「次は貴方が私達三人を捕まえる番ね」

「は、はいぃ…!」


 捕まる度に強く押され、転ぶ日々。当然それもすぐ立ち上がって臨戦態勢に入る為の修業。

 とことん転び、とことん追い掛け、とことん走って避ける。


 そんな日々が三週間続き…彦之の下で修業を初めてから、遂に二ヶ月が経とうとした…。





「マリ、申し訳ないけど今日は修業を見られない」

 その日の朝食の最中、彦之に突如そう告げられたマリ。口いっぱいに頬張るご飯を飲み込み

「何かご予定ですか?」

 と問い掛ける。


「少しね。今日はお休みと思ってくれればいいから」

「分かりました。じゃあ、刀の素振りと走り込みだけでもしてますね」

「身体を鈍らせない様にするのは良い。けれど休める時に身体を休める様に」

「はい!」


 休める時に休む。当然だ。魔狩りになれば休む暇など無くなる。

 その為、どんなに忙しくても、時には身体を休める間を挟む事も重要。


 彦之はそう言って食事を済ませ、食器を片付ける。

 そして肩下げ鞄を肩に掛け、外出の準備を済ませ

「じゃ、行ってくる。夕方には戻る」

 と言って家を後にした。



 さて、二ヶ月ぶりに修業も稽古も無い日だ。どの様にして休みを取るべきか。

 そう考えながらもマリの手は自然と刀を手に取り、外に出て刀の素振りを始めた。







 刀厳郷(とうげんきょう)

 天籠山(てんろうざん)と呼ばれる大きな山の麓にて創られ、刀鍛冶が集まり、己の腕を磨くべく刀を只管打ち続ける街。

 その下町の更に麓近く、一際目立つ大きな屋敷の窓から藍色の着物を胸元が見える程に着崩し、赫灼の髪を白い襷で纏める女性が街を見下ろしていた。


「今日も平和だねぇ…」


 まるで妖の驚異など感じ無い程に平和な街の雰囲気だ。

 女性は手元に置いてある一升瓶を手に取り、豪快に瓶ごと酒を飲み出す。

 すると屋敷の門を彦之が潜るのが見え

「お、来た来た」

 嬉しそうな顔をし、待ってたと言わんばかりに身体をウキウキに揺らす。


「失礼します。金山様が御目見で御座います」


 襖の奥から小間使いの声が聞こえると、女性は

「通しな」

 と勇ましく答え、小間使いはそそくさと立ち去る。


 数分後…

「入るよ」

 彦之の声と共に襖が開き、真顔でありながら我が物顔で部屋に入る。


「アンタねぇ…呼んだ身としてアレだが、少しは遠慮っての無いんかい?」

「別に土足で入ってる訳じゃないからいいでしょ。減るものでもないし」


 そう言う問題では無い。女性は深く溜息を吐き、右手で頭を抱える。


 ここは私の家で、私の屋敷で、私の領域だ。少しは遠慮しろ。

 なんて女性が文句を垂れる様に言っても、彦之は聞いているのか分からず鞄を畳の上に置いて座布団を敷き、正座をして座り込む。


「ったく…これが金属技巧と鍛冶を司る金山神の本来の姿と知ったら、此処以外の奴らはどう反応するのやら…」

「オマケに夫婦和合に安産もね」

「ホンットお前みたいな奴が安産とか夫婦和合とか、似合わなさ過ぎるだろ!」

「仕方ない。産まれた所が過酷なのだから」

「悪かったな吐瀉物産まれの神様!そして頼むから我が物顔で煎餅食うんじゃねぇよ!」


 こうして騒ぎ、彦之の事を金山神と呼ぶにも関わらず何の躊躇いなく怒鳴りつけるこの女性こそ、この「刀厳郷」を治める長であり…

 八百万の神にして八咫鏡(やたのかがみ)を創り、鏡の神として司り、魔狩りの鍛冶屋として刀厳郷を守護する神。

 その名も「石凝姥命(いしこりどめのみこと)」。


 そして今マリに修業を見ている彦之こそ鍛冶を司り、金属技巧を司り…

 火之迦具土神(ひのかぐつちかみ)を産む際、苦しむ伊邪那美(いざなみ)吐瀉物(としゃぶつ)から産まれた神。

 金山彦神と金山姫神の化身、金山神(かなやまのかみ)である。


 その彦之は煎餅を口に頬張り

「それで?私を呼んだ理由は?」

 と多少ながら苛立ちを見せながらも呼び寄せた理由を問い掛ける。


 勿論その苛立ちは忙しい時に呼ばれたからだ。

 ただでさえ時間が無く、マリの修業を見なければならないのに呼ばれた。

 これを苛々するなと言われても無理な話。


「いやさ、アンタ最近顔見せないからどうしたのかと思ってね」

「別に何かあった訳じゃない」

「…お前って分かり易いよなー…」


 表情は変わらずとも、オーラは思いっきり機嫌悪いのが分かる。


「にしても、そろそろ魔狩り適性試験の時期だなぁ…」

 石凝姥が話の流れを変えるべく、話題逸らしでそう言うと彦之は日付を見て

「もう四ヶ月後なのね」

 と言って煎餅を再び口に運ぶ。


「たまには変わってくれよ彦之。もう五百年くらい担当私だぞ?」

「やだ。平気で受剣士の刀をへし折る貴方と違って私は刀を折りたくない」


 反論のしようがない。と言うのも、金山彦之は大の刀好き。

 なので魔狩り適正試験の担当を却下するのも、自分の打った刀を折りたくないと言うのもあるし、綺麗な刀を折るのも嫌だから。


 実を言うと石凝姥も俗に言う刀オタクだが…

 彦之と違う点があると言えば、鈍刀や下手な打ち方をした刀は嫌いな方。なので遠慮無くへし折れる。


 しかし彦之が今回の魔狩り適正試験の担当を拒否する理由はもう一つある。


「それに…今年は面白い子を育ててるから」

「……へぇ。アンタまた魔狩り志望者を育ててんの?どんな子だ?」


 一瞬にして石凝姥の表情が目の色と共に変わる。

 あの彦之が育ててるのだ。どのような逸材でどのように育成しているか。興味が湧かない筈が無い。

 しかしそれを見越してか、彦之は湯呑みに注がれたお茶を啜り

「秘密」

 と答える。マリの容姿や今の状態など教えてしまったら、試験で目を付けられる。だからこそ答えなかった。


「ケチだなぁーお前」

「言ったらつまらないでしょ。でも、強いよ」

「そりゃお前が育ててりゃ強いだろ」

「うん。でもあの子は才能がある」

「へぇー…」


 名前や詳細こそ彦之が頑固として教えようとしなかった為に聞けなかったものの、彦之の育てていると言う魔狩り志望者について聞くと、石凝姥の顔はニヤリと笑う。

 その表情は正しく、今すぐにでも戦ってみたいと言う顔。


 石凝姥の表情から察した嫌な予感。

「お願いだから、適正試験なのだから本気にならないでよね」

 彦之は釘を刺す様にそう言うと、腕を組んで石凝姥にこれでもかと痛い視線を向ける。


「高天原からは、唯でさえ近年は合格者か少ないって口酸っぱく言われてるから」

「わ、分かってるよ…」


 本当に分かっているのだろうか。

 心做しか不安が彦之の中で渦巻くが、本人が分かっているというのなら大丈夫なのだろう。


 二人がそんな他愛も無い会話をし、石凝姥に酒が周り初めると瞬く間に時間は経ち、日が沈み始めた。

 ふと彦之は袖から懐中時計を取り出すと蓋を開き、時間を確認して立ち上がる。


「悪いけどもう帰る…。今年の適正試験、頼んだよ」

「はいよ~。おーい!彦之が帰るってさぁ~!」

(我ら八百万は揃いも揃って酒が好きだ事で…)


 そして酒瓶を一向に離そうとせず抱き続ける石凝姥は小間使いに彦之が帰る旨を伝えると、その場に倒れて眠り始めたのだ。

 勝手に飲み初めて勝手に酔い潰れて寝出す。これには同じ神である彦之もドン引きだ。


 そう思いつつ屋敷の玄関前で草履を履いていると、案内をしてくれた小間使いが隣で正座し

「彦之様。本日はお忙しい中、お越し下さいましてありがとうございました」

 と深々と頭を下げる。


 当然その言葉には「めちゃくちゃ忙しい時に石凝姥の我儘に付き合ってくれて申し訳ない」と言った意味も込められている。

 それもそうだ。呼ばれたので何か用があるかと思い来てみれば、ただ単に暇潰しで呼ばれた様なもの。

 だからと言ってその程度で怒っていたらキリが無いが。


「別に構わない。アイツとは長い付き合いだから気にしてない。あとそこまで畏まらなくて良い」

「で、ですが…」

「私は確かに八百万。でも堅苦しいのは嫌い。必要最低限敬ってくれていればいい」

「か、かしこまりました!それでは、夜道の妖にはお気を付けてお帰り下さいませ」


 あぁ、これは次回来ても忙しく対応されるな。

 彦之はそう思いながらも玄関を潜り、完全に日が沈んだ夜の刀厳郷を後にした…。







 マリが彦之の下で修業を始め、二ヶ月が経った。

 刀の扱いも上手くなり、身体能力も出会った頃に比べて格段に向上した。

 しかしまだまだ鍛えるべき点は幾つかある。

 その中でも特に鍛えるのが難しく、魔狩りになる身として確実に会得しなければならないのは…


 “穢れを産まない強靭な精神力”


 だがこの二ヶ月、マリと過ごして来た彦之はある事に気付く。

 これだけの厳しい修業を行い、どれだけ己の力の無さに打ちひしがれようと、マリは決して負の感情を生まない。


 本来人間であるからには穢れを生むもの。


 修業が厳しい。嫌だ。逃げ出したい。

 やってけない。辛い。もう沢山だ。

 無能だ。無力だ。才能が無い。


 その様な思いが穢れとなり、妖を産むキッカケになる。

 しかしマリはどうだ?それらを見せる素振りはあっても、穢れが出る気配も見られない。

 これも異能力を持つ人間故の体質か?否、例え異能を持つ人間であろうと、負の感情を持てば穢れを生む。

 それが気掛かりになった彦之はマリの髪の毛を指差して問い掛ける。


「ねぇマリ。その髪色は生まれながら?」

「え、まぁそうですけど…」


 美しく、一切の汚れの無い綺麗な白髪は生まれながらにしてこの色なのか。

 その質問にマリは答えると、彦之は考え出す。

 まさか…。と彦之はある仮説を立てるも、その仮説が確信に至るのは…まだ当分の話。



―…目標である魔狩り適正試験まであと四ヶ月。

 マリは刀を手に取り…再び修業に身を投じる…!

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