第3話 半年の猶予
草木が深く生い茂る山の中、マリはこれでもかと言わんばかりに走り続ける。
すると走り続けるマリの背後に彦之が音も無く現れ、豪快な回し蹴りを彼女目掛けて打ち込む。
「きゃっ!」
「死ぬ気で避けて。今のが妖の攻撃なら腕が吹き飛ぶ」
「は…はい…!」
「分かったら走る。そして避ける」
「はい!」
彦之が次々攻撃してはマリはそれを全力で避け、そして走っての繰り返し。
何故こんな山中で鬼ごっこの様な事をしているのか。
それは遡る事、三時間前…。
―…レンと別れ、マリは囲炉裏の前に座る彦之と向かい合うように座る。
まず最初に教えるのは勿論、魔狩りになる為には何をするべきか。
「さて、何も知らない貴方には教えなければならない事が幾つかある。まず一つ、魔狩り適性試験」
「適性…試験?」
「一年に一度、十二月にこの刀厳郷の裏山『天籠山』で行われる試験がある」
魔狩り適性試験とは、読んで字の如く魔狩りになる素質があるかを見定める試験。
それを受け、合格する事で初めて魔狩りになる資格を得る事が出来る。
しかし説明をする彦之にとって、この適性試験について問題が生じている。
「でも適性試験は半年前に行われ、次の適性試験は半年後」
「半年後……って半年後?!」
適性試験は一年に一度の十二月。そして半年前に既に行われ、次の適性試験は半年後。
つまり、次回の適性試験を受けるとしてもたった半年でマリを鍛えなければならない。
そんな急ぎ足のスケジュールにマリは
「その試験受けるの、一年半後じゃダメなんですか?」
そう問い掛けるも、彦之は首を横に振り
「ダメ」
頑なに一年半後に受ける事を否定する。
「ここ千年、魔狩り適性試験を中止しなかった事は無い。けどいつ試験が取り止めになるかも分からない」
「…妖の襲撃…ですか?」
「その通り。この刀厳郷は魔狩り達と長である神によって護られている。でもその加護が無くなれば…」
「一斉に襲われる…」
そう言う事。そう彦之が頷き、より一層険しい表情を見せる。
寧ろ納得する理由だ。幾らこの街が護られていて安全とは言え、他の街や村、国同様に妖の脅威に曝されている。
もし妖の襲撃を受けようものなら適性試験は中止。最悪長期に渡る休止が求められる。
そうなれば魔狩りを目指す所の話では無くなる。
だから彦之は半年後の適性試験を目処に、マリを鍛えて修業をする事を計画していた。
「次に二つ目。貴方は戦いの素人。警戒心が無さ過ぎる」
次に彦之の口から出たのは、マリの戦いへの素人さ。否、彦之が言いたいのは戦いだけでは無い。
「貴方はとにかく警戒心が無さ過ぎる。先刻も私の握手に警戒して無いから投げられた」
「はい…」
「自分が安全と思えば警戒心を直ぐに解く。魔狩りはそんな油断一つで命を直ぐに落とす」
マリの警戒心の無さ。それは先程、彦之がマリをぶん投げた時も実証済み。
これがもし妖相手の場合ならどうか?
害の無い味方だと安心して警戒心を解き、背中を見せてしまう恐れがある。
その際は背中から引き裂かれ、死に至るのみ。
だからと言って四六時中気を張って警戒していれば気疲れし、満足に休息も取れないだろう。
更に彦之は刀を手に取り、ゆっくりと鞘から抜くと
「そして貴方の最大の欠点。相手の攻撃への反応に遅過ぎる」
目にも止まらぬ速さでマリの顔スレスレに刀身を向け、攻撃への反応に遅過ぎる事を指摘する。
やはりと言うべきか、マリは刀身がスレスレに近付くまで反応出来ず、ギリギリで止まる瞬間にようやっと反応した。
これもカナミとの戦闘、宿屋でのレンの刀を向けた瞬間にも実証済み。
ならどう鍛え上げるのか?彦之はある修業をマリに持ち出す。
「まずこれら二つを鍛え上げる。その為にもこれから一週間、私は就寝時、入浴時、食事時以外は常に貴方を攻撃し続ける」
「一週間?!じゃあ私は…」
「全力で躱し、避けて、防御する事」
一週間の間、彦之がマリを常に攻撃し続ける修業。
マリはそれを常に警戒し、避けて、躱して、防御して攻撃への反応速度を身体で覚える。
そうすれば自然と警戒心が付き、どのような時でも身構える事が出来る。
また、マリは異能が使えるだけの平凡な女性。体力も男性や魔狩りと違って全く無い。
そこで彦之はこの修業にもう一つ、警戒心と反射神経以外にも鍛え上げる内容を付け加える。
「もう一つ、貴方は体力が無さ過ぎる。ここに来るまでに息を切らしていた」
「じゃあ私がこの一週間受ける修業は…」
「基礎体力作りと、反射神経、警戒心強化の修業。貴方がこの家から一歩踏み出した瞬間に始める」
彦之の攻撃を警戒して避けて躱しつつ、基礎体力を付ける訓練だ。
俄然やる気が出て来たマリは立ち上がり、すぐにでも修業を始める準備を整える。
「待って」
すると彦之がマリを呼び止め、彼女を指差す。
「貴方は異能持ちだと聞いた」
「あ、はい。それが何か…?」
「修業期間中、異能は使用禁止」
「えぇーっ?!」
「当然でしょ。異能と言う事は妖にとっても脅威。最後の切り札として使うのがセオリー」
異能使用禁止命令に戸惑いはしたが、妥当な理由にマリは頷く。
即座に異能を使う。それ即ち自分の切り札をバラすという事。
最も使うべき所を見定め、最後の切り札として使うのが異能持ち魔狩りの鉄則だ。
何より、異能を使うという事は妖にとって自身が相手を追い詰めていると言う確証を与えてしまう。
切り札を明かしてしまっては打つ手も無くなれば斬る好機を失う。
それだけは何としても避けなければなない。
「分かりました。以後気を付けます」
「分かればいい。それじゃ外で待ってて」
「はい!」
そしてマリが引き戸を開け、家の外へと足を踏み出した瞬間…
「そこ」
「へっ…?へぶっ!!」
いつの間にか背後に居た彦之による強烈な右手の掌底が、マリの背中を直撃した。
この時、マリの頭から既に彦之の「家の外へと一歩足を踏み出した瞬間修業開始」と言う言葉が忘れ去られていた。
そして見事彦之からの一撃を喰らい、派手に吹き飛んだマリは立ち上がって背中を抑えるも…
彦之の無慈悲な蹴りや掌底、手刀と言った攻撃が次々と降りかかり、全力で避ける様に駆け出した。
こうしてマリは走り込みの最中や会話の最中、彦之の襲撃を全力で躱し続ける鬼の様な修業を始める事となった。
時には派手に転び、服が泥や土塗れになり、綺麗な白髪も枯葉や泥で汚れ、手足は転んだり彦之の攻撃を受けた事で青痣だらけ。
何時しか疲労で足が震えるようになり、彦之の攻撃を満足に避ける事が出来なくなった。
自分が見るに堪えないくらいボロボロなのが分かる。だがまだ初日。
これでも生易しい方だろう。
そしてこの鬼ごっこの様な修業を初めてから実に六時間が経過し、日が沈み始めた。
「はーっ…!はーっ…!」
「大分警戒心と反応速度も身に付いて来たね」
「は、はい…!」
「しかし体力が無いせいで集中力が欠けて、反応出来なくなってる」
反論出来ない。確かに途中で疲労が見られ、今のマリは見るに堪えないくらい疲労している。
まるで搾った雑巾の様に顔から汗が垂れ、脚は走り込んで鉛の様に重く、身体中は痣や傷だらけ。
そのせいか彦之の攻撃を躱す事が出来なくなった。
だがカナミやレンはこれを常に行っている。移動中も何時何処からでも妖が襲って来ても良いように。
そう考えると自分の体力の無さや反応速度の無さに腹ただしさを感じる。
「それじゃ、今日はここまで。私は先に帰ってお風呂の準備をする」
「はい…」
「明日まで私は攻撃しないから、ゆっくり休むように」
「は、はいぃ…」
「それと晩御飯には妖についても説明する。知識はあっても困らない」
「分かり…ました…」
疲れきって何かに掴まっていないと立てないマリとは対照的に汗一つ掻かない彦之はスタスタと歩き、まるで何事も無かったかのように家の中へと帰って行った。
自分以上に動いていた筈なのに疲れすらも見せない。本当に何者なのだろうか。
なんて考えても致し方ない。
泥だらけと痣だらけの身体を引き摺りながらもマリは彦之の家に戻り、脱衣所で服を脱ぎ捨てて浴室へ足を踏み入れる。
そこそこ広く、人が二人も入れそうな湯船。すぐにでも身体中の泥を落とそうと桶で湯船のお湯を掬って頭から掛けた…のだが…
「あーーーーーーーーッ!!!」
お湯を被った途端、身体中に出来た痣が染みて痛み、悲鳴にもならない声が浴室に響き渡る。
しかし一番驚くべき事は、これが初日に受けた傷と言う事。
ほんの六時間弱の修業で、本来なら女性がなるべきでは無い痛々しい痣が身体中に出来ているのだ。
この調子で上手くやっていけるのだろうか。
徐々にマリは不安になり、身体を洗う手を止める。しかし我に返り
「って、弱気になっちゃダメダメ…!」
まだ始まったばかり。両手で両頬を叩いて気合を入れ直す。
そうマリが気合を改めて入れた時だ。浴室の引き戸が音を立てて開くと、白い素肌を一切隠さぬ裸の彦之が入って来た。
一瞬マリは硬直するも、状況把握をするや否や
「ぬえぇぇ?!」
と声を荒らげつつも即座に胸元を隠し、驚く。
「そんなに驚かなくてもいいでしょ。私だってお風呂に入る」
「そりゃまぁそうですけど…」
「あと同性なんだから、隠す必要ないでしょ」
「いや普通驚いて隠しますよ?!いきなり入ってくるんですから!」
「警戒心が身に付いたのはいい事。でも身構えなくても良い。私は明日まで攻撃しないから」
「は、はい…」
どうにも表情が無表情故か、考えている事が読みにくい。
一緒に暮らして修業していく内に分かるとレンは言ったが、些か分かりにくすぎる。
すると彦之は桶を持ちつつ湯船の前に立つと
「どうやら効果は出てるようだね」
桶に湯船のお湯を汲み取り、マリの背中に遠慮無く掛ける。
当然ながら何の事前報告も無しに傷だらけの身体に掛けられた為に、再び浴室にマリの悲鳴にもならない声が響き渡った。
「いぃったぁい!何するんですか!」
「身体、見て」
「え?身体って…って、あれ?青痣…こんなに薄かったっけ…」
「この湯船のお湯は薬草の成分を混ぜてある。最初は染みるけど、治りは早くなる」
「だからあんなに染みたんだ…」
「背中向けて。流してあげる」
「あ、はい。お願いします」
長い髪の毛を纏め、痣だらけの背中を見せて彦之に向けると、彦之は泡ただせた布でゆっくりと彼女の背中を撫でるように汚れを拭き取る。
泡が擦り傷に染み、布が痣に擦れると痺れるように痛む。
粗方汚れを拭き取り追えると、湯船のお湯を桶で救い取り
「お湯、掛けるよ」
と、マリに声を掛け、勢い良く彼女の背中にお湯を掛ける。
「んっ…!」
お湯が傷に染みる。だが薬湯が効いているのか、先程の痺れるような痛みは無く、多少声は出るものの我慢出来る程であった。
「はい、あとはゆっくり湯船に浸かってね。出る頃には痕も無くなってるから」
「ありがとうございます!お先に湯船、失礼しますね」
身体を洗い、髪の毛も共に洗い終えたマリはゆっくりと湯船に足を入れる。
全身がズキズキと染みるものの、ある程度癒えたのか程無くして肩まで浸かれる程に痣の痛みなどが癒えていった。
暫くすると身体を洗い終えた彦之が湯船の前に立ち
「隣、失礼するね」
ゆっくりと湯船に足を入れ、肩まで浸かりつつマリの隣に座る。
しかし彦之が湯船に入ってからと言うものの、会話と言える会話は一切無く沈黙が続き、湯船から零れ落ちる水音だけが浴室に響く。
何を話せば良いのか分からない。
それよりも彦之自体が何を考えているのかも分からないので、会話すらなままならない。
「ねぇ」
すると、沈黙が続いていた中で彦之が口を開く。
「は、はい?」
「貴方、母親を探す為に魔狩りになりたいんだって?」
「そ、そうですけど…やっぱりそう言う理由で魔狩りをやるのは…駄目ですか…?」
「そんな決まりは無いから大丈夫。だってカナミも同じ様なものだから」
彦之の口から出たのは意外な事実。
あのカナミも、同じ様な理由で魔狩りをして各地を回っていたから。
その時マリはレンの言葉を思い出す。
「魔狩りになる人間には色んな奴がいる」と。
何よりあのギルドは色んな事情で入る者が居る。
だから自分の魔狩りになりたい理由は不純な動機では無いと言う事が改めて分かった。
「貴方は貴方の理由で魔狩りになればいい。私はそれを全力で支援する」
彦之はそう言うと、湯船から上がって浴室の扉に手を伸ばす。
「それじゃ、私は先に上がる。さっきも言った様にご飯食べながら妖について話すから」
「はい!」
先程までは打ちひしがれそうな気分であったのに、自然とやる気が漲り、マリは彦之の期待に応える様に強く返事をした。
●
湯船から上がり、彦之が作った晩御飯に箸を次々伸ばしては頬張るマリ。
「美味しい?」
「はい!」
「それなら良かった。それじゃあ食べながらで良いから、妖について説明するね」
「ふぁい!」
頬張りながら間の抜けたような返事をし、耳を傾ける。
「妖。古の時代より存在する畏怖する存在。最初に発見されたのは今から千年前」
すると彦之は一枚の紙を衣服から取り出して
「まず、妖は大きく二つの分類に分けられている」
と言ってマリの前に静かに置く。
「夜型の妖と昼型の妖。夜に出現する妖は弱く、昼に出没する妖は強い」
「えっ…でも妖って朝日に弱いって聞きますけど…」
「それは迷信。夜にしか出ない妖は昼型に恐れ、そして“空亡”を恐れているから」
「そらなき…?」
「この世の凡百妖を生み出し、妖を統治する存在」
全ての妖は朝日に弱い訳では無い。
昼に出没するより強力な妖と、妖を生み、統治する総大将である「空亡」に臆して姿を隠している。
その昼型も夜型に比べて数と出現率が極端に低い。なので昼に妖の被害報告が滅多に見られないのだ。
「知らなかった…」
「当然でしょ。高天原が民の不安を煽らないように新聞に規制をかけているのだから」
「…どうしてですか?」
「貴方本当に知らないのね。妖は人の発する負の力、“穢れ”によって生まれているの」
「穢れ…?」
「強い欲望、絶望、嫉妬、不安…人から溢れ出る負の力が穢れ。その穢れから空亡は妖を生み出している」
人々からは負の力が出ている。
絶望する事や不安…それが穢れ。穢れは凡百負の感情から生まれ、溢れている。
妖はそんな穢れから生まれ、そして穢れを喰らう事で強くなって行く。
人が穢れを出し続ける事で妖は永遠に、無限に生まれてくる。
なら人が穢れを出さなければ妖はもう生まれないんじゃ…。マリがそう言うも、彦之は首を横に振って否定する。
「それは無理。それが出来てたら千年の間に魔狩りは存在しない」
「そんな…」
「人間はね、如何な理由でも穢れを放つの。真っ当に生きてる人間が居てもそれを妬むし、何かに成功した人間を啄く人間も居る」
穢れは何処でも現れる。何処からでも湧き上がる感情。
誰かが賞を取った。それを妬む者は居る。
誰かが有名になった。それを啄く者は居る。
誰かが普通に生きてる。それを叩く者は居る。
どの様に生きたとしても、必ずそれらを妬み、絶望し、不安になる人間が居る。
そうして心の隙間から穢れが生まれてくる。
「誰かを疎ましいと思わない限り、人間が穢れを生まない事は決して無い。だから高天原は規制し、余計な穢れを生まない様に不安を煽らない様にしてる」
じゃあ私もそのうち…。マリが左手を胸に当て、不安な表情を見せる。
人間はどんな時でもどんな負の感情を産む。どれだけ平常心で居ようと、必ず産んでしまうもの。
例え魔狩りと言えど、武器の扱い方や人間関係を間違えれば穢れる。
「平気。そうならない様に穢れを生まないよう鍛え上げる。魔狩りはそんな不安を取り除く存在だから」
不安な表情に曇るマリに対し、彦之はそう言うとマリの不安を和らげる。
「もう一つ、妖の中でも非常に危険な存在がある」
「危険な存在…?」
「八百万の神々が穢れに侵され、非常に危険な存在になる。その名も鬼神」
「鬼神…?」
この世界の神々、八百万の最大の毒とも言える穢れ。
その神々が穢れによって身を侵され、完全に穢れた際は特別危険な存在に生まれる。
それが「鬼神」。
「普通、八百万の神々は穢れに取り憑かれる事は無い。けどその身から穢れが生まれた際は別。更に穢れを引き寄せて鬼神となり、非常に危険な存在と化す」
「それ程危険なのですか?」
「神である八百万が妖になるの。熟練の魔狩りでも命を落とす」
何より、鬼神は八百万の神が妖となった姿。
幾ら穢れた神と言えど、戦う事になれば命の危険が普通の妖の倍になる。
だから並の魔狩りは相手をせず、ギルドマスターを務める魔狩りの増援を待つ事も多い。
一通り説明を終え、彦之は湯呑みのお茶を飲んで一息付くと
「さて…こんな所かな。何か質問ある?」
と言ってマリからの質問を受ける。
そう言われても今のマリには妖の種類に穢れの存在に鬼神と、沢山の情報量で精一杯だ。
何か質問が無いかと言われても、いきなりは出て来ない。
そして導き出した質問は…
「えっと…妖って何か階級とかは無いんですか?」
「無い」
妖に階級は無いのか。と言う質問。勿論この質問は彦之に即答されてしまう。
当然だ。次々と湧き、無数に出没する妖にそれぞれ階級なんて付けていたら切りが無い。
しかも階級を付けた所で魔狩りがすぐに狩って行くので、他の魔狩りや情報が余計混乱するだけ。
この回答にはマリも確かにと頷き、己の無知さが恥ずかしくなって顔を隠す。
「特に無いって事で良いのね」
「ふぁい…」
「無理して今すぐ覚えようとしなくていい。少しずつ覚えていけば良いから」
「分かりました…」
折角色々教えてくれたのに物凄く申し訳ないし、物凄く自分の学力の無さが恥ずかしい。
だが彦之が少しずつ覚えていけばいいと言ってくれたのは嬉しかった。
お陰で翌日の修業を折れずに行える。
「それじゃあ今日はゆっくり休んで。明日からは今日よりも激しく行くから」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして彦之による修行一日目は静かに終えた。
その晩…マリは机の前に座り、彦之に教えてもらった妖や穢れについてをメモ帳に書き記し始めた。
人間から穢れが生まれ、穢れから妖が生まれる。
妖の種類は大きく二つに分けられ、昼型の妖と夜型の妖。
それらを生み出す大いなる存在、空亡。
そして…穢れによって堕ちた神、鬼神の存在。
一字一句忘れぬ様にと事細かく書き記し、全て書き収めたマリは大きく伸びをして布団に入って眠りに就いた…。