1、序章
夜。人々が寝静まり物音一つしない中。山越麻亜奈は博物館にやって来た。
(また来ちゃった)
山越麻亜奈は現在予備校に通う18歳。去年私立の名門M大学を受験して失敗した。柔道が得意でインターハイに出場経験がある麻亜奈は、いくつか大学の推薦があったがそれを全て蹴っ飛ばして難関と言われるM大学を受験した。そこまでしてでもM大学を受験したかった理由があったからだ。そのためか、受験に落ちてもM大学を諦められなく、親に無理を言って今は来年の受験目指して予備校に通っていた。
しかし、予備校に通って勉強するのは予想以上に辛いことだった。その辛さからか、麻亜奈は何度も挫折しかけた。そのたびに麻亜奈は夜ある場所へ行っていた。
それが、この昔の乗り物博物館だった。麻亜奈の父はこの博物館の館長だった。勉強に挫折しそうになるたび麻亜奈は、その父が持っている鍵を持って夜中博物館に行っていた。博物館にある昔の自転車や舟などの乗り物の展示物のうち麻亜奈は特に「飛行船」が好きだった。博物館の一室に展示物されている飛行船や飛行船の模型を見ると不思議と気持ちが楽になる。昔から飛行船に憧れていて、飛行船の出てくる話を見ては心をときめかせていた。どうして好きなのかは分からない。でも麻亜奈は飛行船が好きだった。
その日も、勉強に行き詰まった麻亜奈は飛行船を見に博物館へやって来た。こっそり中へ侵入し飛行船の展示室へ行きドアを開ける。けれども中へ入った瞬間麻亜奈は違和感を感じた。
(何だこの違和感?)
部屋を見渡して見ると違和感の正体はすぐに分かった。展示室の一画の空気が揺れていたのだ。空気が揺れていた場所は、シルバーウィンド号という、今から100年ほど前に活躍した大型飛行船の10分の1のサイズの模型が飾られている所だった。
麻亜奈はゆっくりその場所に近づいてみた。確かにその場所の空気は不自然に揺れている。
(一体どうして空気が揺れているの?)
麻亜奈がそっとその空気に触れた時だった。突然麻亜奈が手を触れた空間が真っ二つにわれ、麻亜奈はその中に吸い込まれていった。
(きゃああああああ)
麻亜奈が吸い込まれた後割れ目は閉じ、何事もなかったようにその場所は静まりかえっていた。