2.領地で魔物討伐
「分かった。エミリアには長い間苦労をかけたな。後のことは任せて、しばらく領地ででものんびりするといい」
ユリウス・ランガスターは意外な程あっさりと認めた。
「いずれこうなるような気がしてた。ルーカス殿下は気が弱すぎる。陛下から頼まれたから仕方なく婚約させたが、向こうから破棄してきたのだからもう気にすることはない。エミリアの好きなようにすればいい」
元々ルーカスの母親は子爵の出で後ろ盾が弱かった為にエミリアと結婚させることでランガスター公爵の後ろ盾を得て立太子させる予定だった。
本人がぶち壊したが…。
「ありがとうございます。お父様。もうゴタゴタには巻き込まれたくないので、明日にでも早速領地に引っ込みます」
お父様はちゃんと私の努力を認めてくれた。それだけで、ちょっと報われた気がするわ。
もう面倒なことは丸投げして、やりたいことやろう!
翌日、エミリアはランガスター家の領地エクスニアにいた。
「お嬢様、どうしてもやるんですか?」
侍女のアメリが呆れたようにエミリアを見た。
「もちろん!」
「魔物退治などお嬢様がする必要ありませんよ。何かあったらどうするんですか」
「だから、アメリやケインも連れてくのよ」
アメリは狙われることもあったエミリアの護衛兼侍女で、ケインはランガスター家指折りの騎士だ。
「大丈夫よ。私は魔法も剣もその辺の騎士より腕は確かなんだから」
エミリアは王子妃教育の合間に趣味の魔法と剣を学んでいた。自分とルーカスの身を守るために。
自信満々に答えるエミリアにため息をついて
「分かりました。ケインに声をかけておきます」
アメリはようやく折れた。
最近、森の奥でしか見かけることのなかった魔物が村の近辺までやってくるらしい。
作物が荒らされたり、人が襲われることもあり、今、問題になっているのだ。
三人は馬で魔物が出たという村に向かっていた。
「お嬢様は昔からおてんばですよね。王都で大人しくなったかと思っていたら、小さい頃のままですね」
ケインは懐かしむように言った。
エミリアはルーカスと婚約するまで領地で過ごしていたので、ケインは小さい頃のエミリアのおてんば振りをよく知っているのだ。
「ケインこそ、結婚して丸くなったのかと思ったのに、口は悪いままね」
口を少し尖らせるエミリアをケインとアメリは慈愛を込めて見つめていた。
今回の婚約破棄騒動で少なからず傷ついたであろうエミリアの元気な様子に密かにほっとしていたのだ。
「この辺りですね」
あともう少しで村に入るというところで、悲鳴が聞こえてきた。
慌てて三人は悲鳴の聞こえた方向に馬を走らせた。
そこには十歳くらいの女の子とその母親らしき女の人が座り込んでいて、視線の先にはジルウルフが三頭いた。
なんでこんなところにジルウルフが…。
ジルウルフは素早い動きで氷を飛ばしてくる厄介な魔物だ。
エミリアは親子の前に結界を張り、ジルウルフに炎の魔法を飛ばした。
怯んだところを、ケインとアメリが剣で斬り倒していく。最後の一匹を炎を纏わせた剣でエミリアが切り裂いた。
「ありがとうございます。畑の様子を見に行こうとしたら、いきなり現れて。助かりました」
女の子を抱きしめながら、母親が頭を下げた。
「あのジルウルフが最近、この辺りに出現してる魔物ですか?」
「そうです。でも、最近、他の魔物も森の入り口付近によく現れるらしいです」
ジルウルフは本来なら森から出てこない。
森の中に何か異変があるのか…。
エミリアが考えに耽っていると
「ありがとう。お姉さんたちすごく強いんだね。かっこいい!」
女の子にキラキラした目で見つめられた。
嬉しいけどなんか恥ずかしい。
「森の方はまた、調べてみます。それまでは近づかないようにして下さい」
赤い顔を誤魔化すようにエミリアが真面目な口調で言うのを、微笑ましそうに見ているケインとアメリの視線に気付くことはなかった。