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知りもしないのは正にこれ。

 ※



 薄闇の中、足早に向かう影が3つ。

 港へ着く頃にはうっすら夜が明け始め、辺りには霧がかかっている。船を探し歩き回ろうとして、盛大な音が聞こえ、先頭を歩くハヤトが振り返った。

 赤くなり俯くルエを見て、そういえば何も口にしていなかったと思い出す。船旅も長くなりそうだ。ハヤトは受け取った袋から銅貨を何枚か取り出すと、残りをゼロに持たせる。

「何か見繕ってくる。先に船の手配を頼む」

「おー、任せとけって」

 ははっと笑顔を見せたゼロに不安を覚えはしたが、急いでいる為、あまり言及せずにその場を離れた。



 目の前の少し古い船を見上げ、ハヤトはため息と共に激しく後悔していた。

 そうだった、この2人は船に乗ったことがないも同然だったのを忘れていた。乗船券も手配などしたことがないと、なぜ自分は気づかなかったのか。

 初めて乗る船に少し嬉しげなルエの前で水を差したくはないが、さすがにこれは追求したい。

「ゼロ、なぜこれにした……」

 悪びれもなく、むしろ誇らしげに胸を張るゼロに、やはり聞かなければ良かったと思う。

「とりあえずさー、その辺にいたおっちゃんに(イスト)行きたいって頼んだら、これ案内されてさー。金貨1枚で3人分足りたか?」

「足りただろうな」

 むしろぼったくられている。

 しかもこれは、民間船ではない。

 王族が所有する王族船。民間の乗る民間船。商人たちの商人船。その下に、訳ありな者が乗る船、異民船がある。

 もちろん個室はないどころか、取り仕切る船員たちも訳ありで、どこの国にも所属していない所為か、誰も取り締まることはできない。

 最悪だと頭を抱える。

「今から違う船を……」

 乗船券をくしゃりと握り潰し、ハヤトは振り返って固まった。

 ニコニコ顔の男が立っていた。しかも3人。しっかりとついた筋肉と、日に焼けた肌から、この船の船員だろう。腹を括るしかないようだ。

「さっきの兄ちゃんだろ?船は出るぜ。早く乗りな?」

 騒ぎを起こしたくはない。

 ハヤトは小さく舌打ちし、握り潰した乗船券を広げ直すと、真ん中の男に差し出した。




 船に乗り込み、後ろから男たちにせっつかれながら案内されたのは、ハヤトたちのようにローブを被った者や、身なりが綺麗ではない者たちが集められた場所だった。ここまで来て、やっとゼロは危ない乗船券を買ってしまったのではと気づく。

「隅に座ろう」

 ハヤトを先頭にし、ゼロはルエの手を取り用心深く見渡しながら、隅に座ろうと歩く。出入り口の扉が閉められると、ひとつだけある明かりが微かに中を照らすだけになる。

 間にルエを挟んで座り、改めてよく見てみると、どうやら女子供もいるようで、それにゼロが悲しげに目を伏せる。

 2人にだけ聞こえる声で、ハヤトが俯いたまま口を開く。

「いいか、この中ではフードを取るな。目を合わせるな。俺たち以外と話すな」

「……女子供でもか?」

「そうだ。自分たちを守りたいなら、迂闊な行動をするな」

 それだけ言うと、ハヤトは何も言うことなく黙り込んでしまう。言いたいことはわかるし、確かにその通りかもしれない。それでも納得できず、しかし何かできるわけでもないゼロは、同じように黙って俯くしかできなかった。




 どれくらい経っただろうか。

 窓もないここは、時間の感覚がよくわからない。

 隣からルエの寝息が聞こえてくるのが、ゼロにはここが現実だと告げる唯一の証だ。

「ハヤト、どれぐらいで着くんだろうな」

 親友に話しかけるが、しばらく待っても返事がない。

 ゼロは少し体を動かし親友を見る。寝ていたわけではないようで、ハヤトは口に人差し指を当て静かにと訴えている。

 目だけで何かを伝えようとしているようだが、生憎、こういう時の勘は当てになったことがない。さらに体を動かし辺りを見ると、自分たちとは対称に座っている2人組に気づいた。様子から見るに、どうやら親子らしい2人は、子供がぐずりかけているようだ。

「どうしたんだ……?」

「腹を空かせたんだろう。1日に3食出るような場所ではないからな。まぁ、もうしばらく待て」

 ハヤトの言葉の意味がわからず、それでも黙って様子を伺っていると、激しい音と共に扉が開いた。びくりと肩を震わせ、ルエが驚いたように目を開く。

 入ってきたのは、先程の3人とは別の、さらに大柄な男だ。背負う大剣からして、かなりの腕力の持ち主だろう。

「おめぇら!飯の時間だ!出やがれ!」

 声の大きさに、船が壊れるのではとひやりとするが、さすがにそこまでボロくはないらしい。

 扉近くにいた者から順に外へ出され、隅にいたハヤトたちや親子は最後のほうになってしまう。子供が嬉しそうに駆けていくのを諌めながら、親はハヤトたちに会釈して出ていった。

 男は最後に残った3人に目配せし、にやりと笑うと自分の腹を叩いて豪快に笑いだす。

「最後まで残るなんてバカか、おめぇら!飯は早いもん勝ちだぜ!」

 そのまま出ていく男を見送ると、焦ったようにゼロが扉に駆け寄る。

「早いもん勝ちとか聞いてねーし!ハヤト、早く行くぞ!」

 ルエを優しく立たせ、慌てる様子もないまま、ハヤトはゼロの横を通り過ぎ扉から出ていく。困惑するルエがゼロをちらりと見るが、彼のことだ、何か考えているのだろう。

 腑に落ちないが、ゼロも仕方なくハヤトに続き廊下へと出た。

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