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最終話 そして僕は考え、答えを持ち出した。

 ※



 港には、ルドベキアと彼の剣と盾の(シュヴェルトシルト)騎士(リッター)、あの姉弟、それからアリアの姿があった。人混みの中でも目立つその集団は、立ち入り禁止となっている柵が施されたその先にいた。

 自分たちが(イスト)に来る時に乗った船とは比べ物にならないほど大きな、それでいて立派なその船は、見ただけでそれが王族船だということがわかる。

 ルドベキアは「よう」と軽く挨拶を済ませると、先に騎士2人と姉弟を船に乗せ、ハヤトたちににやりと笑いかけた。

「これに乗るんですか……?」

「いや、俺様の船は(サウス)行きだ。神柱を元に戻さなきゃならん。それぞれの村も、先代神官は全て降り、次代を急遽決めるとかで騒がしいしな。あの2人はもう決まっちまった、可哀想だがな」

 そう王族船を振り返り、ルドベキアはわざとらしく肩をすくめてみせる。

「可哀想だってんなら、早くなんとかしてやれよ。王サマなんだろ?」

 嫌味ったらしくゼロが舌を出してみせるが、ルドベキアは豪快に笑っただけで何も返そうとはしない。代わりに懐からひとつ封筒を取り出すと、それをルエに差し出した。

中央(セントラル)のお姫様、いや、サガレリエット家第一王女、ルエディア様。我らは長らく、西(ウェス)との交流を断ってきた。しかし神柱の件、(ノウス)の封印の件、それらは大地(ガイア)一丸とならなければ解決は出来ぬだろう。我ら(イスト)西(ウェス)との架け橋になってはくれまいか?」

 ルエはその封筒と、ルドベキアの顔を交互に見る。封筒には、満月をバックに何かの花が描かれた装飾が施してある。それがピオニー家の紋であることは、さすがのルエでも理解ができた。

「……はい、確かに受け取りました」

 その封筒をしっかりと、両手で包むように確かに持つと、ルエはルドベキアに笑みを見せる。それにルドベキアもまた笑みを返すと、王族船とは反対の港に入ってきた船に視線をやり「お」と腕を組み眺める。

「迎えが来たみたいだな」

 その船は(イスト)の王族船と遜色ないほどに立派で、それが同じ王族船ということがすぐにわかる。しかし(イスト)でないならばどこの船なのか、ルエが不思議そうに船を見つめていると。


「あーん、やっとついたー!」

 明るい声と共に降りてきた人物を見て、ハヤトとゼロは同時に顔をしかめる。ルドベキアは「懐かしい顔だな」とまじまじと眺め、ルエは嬉しげに顔を綻ばせる。

「あー!ルドちゃん、久しぶりー!」

「よう、幼子殿。相変わらず成長していないようで何よりだ」

「ルドちゃんもあんま変わってないねー!」

 その人物、レイナはルドベキアに駆け寄り抱きついてみせる。ぱっと見は大人と子供だが、中身はそうでないことを、ここにいる全員が知っている。ルドベキアは慣れた手つきでレイナを持ち上げると、さらに降りてきた人物に向かってにやりと笑った。

「ルドベキア殿下……いや、陛下。此度は」

「あー、気にすんな。それより、俺様が即位することを予想した上で、海上で待ってたらしいな?御苦労なこって」

 ルドベキアの視線の先、船から降りたジェッタは疲れたような顔をしつつも、それでもルエの元へと歩き、そして跪いた。

「ルエディア様、迎えが遅くなり申し訳ありませんでした」

「い、いえ……。あの、この船は……?」

 ジェッタは跪いたままで顔だけ上げ、そして自分たちが降りてきた船を見上げる。

「貴方様の、サガレリエット家の王族船です。民間へ卸していたのを、ウィンチェスターのほうで先日やっと買取が決まったのです。勝手ながらこうして使わせて頂いたこと、この場を借りて謝罪を」

「もー、ジェッタ様固いー!」

 ルドベキアの腕から飛び降りたレイナは、ルエの手を取りくるくると回りだす。つられてルエも回り、足元がふらつき出したところでやっと止まった。

 ふらつくルエを支えてやりつつ、ゼロも船を見上げ、そういえばこんな船だったかと記憶を辿っていく。幼き日に乗ったきりのあの船は、昔と変わらずその存在感を放っている。

「じゃ、皆早く帰りましょー!」

 レイナが手を上げ元気よく言うが、ジェッタの視線の先にいる青の彼女の姿に気づき、なんとも言えぬ表情でその手を下ろす。それを知ってか知らずか、ジェッタはアリアから少し離れた位置まで歩き立ち止まると、苦笑しその姿に目を細めた。

「君は変わっていないようで何よりだ」

「貴方はだいぶ変わったかしら?」

 くすりと笑ったアリアの目が同じように細められ、次の瞬間、ジェッタは腰に差した剣をアリアに向かって薙ぎ払った。それは息を飲む間もなく、アリアの身体の中心に向かうが、それをアリアは凍らせると、ふわりふわりとジェッタの周りを歩きだす。

「やっぱり変わってなかった、貴方は弱いまま」

「全く……」

 パキン、と氷が割れるとジェッタは剣を腰に戻す。その表情は、本気でアリアに刃を向けたわけではないことがわかる。

 ジェッタは俯いているレイナの隣に並び「レイナ」と顔を上げさせる。泣きそうな、それでも堪える姿に、アリアは困ったように眉を潜めた。

「ジェッタ、様……。あの、あの」

「紹介が遅れてすまない。妻のレイナだ」

「え?ジェッタ様?」

 何を言っているのかわからず、レイナは口を開けたままジェッタを見上げる。とんだアホ面だろうが、今はそれどころではない。何故なら、彼が好きなのは彼女のはずなのに。

「ジェッタ様は、あの、アリア様のことを今でも、好いておられるんじゃ……」

「お前は何を言っているんだ」

 それを黙って聞いていたアリアは、我慢出来ないというように吹き出し、ジェッタに向かって小さく手を振り、(イスト)の王族船へと駆け込んでいく。その背はあの日と違い、寂しさも後悔も感じられない。

「……レイナ、覚えているか?私が、ハヤトを連れ帰り、それからずっと勉強させていたのを」

 レイナだけでなく、ハヤトも顔をしかめる。あの日々は辛く、なるべくなら思い出したくないことだ。

「私はハヤトを神柱にさせたくはなかった……、それはアリアも同じだった。神柱として、神官としてではなく、ウィンチェスターの人間として育てると誓った。そんな時、私はハヤトに、母親は何をしていたんだと言ったことがあったな」

 それはよく覚えている。あれからジェッタのことは父親として見なくなったし、人前では特に父親と呼ばないように気を使ってきた。それでもレイやルエの前では隠せず、父親として話してきたのだが。

「ハヤトを床に押し付けているのを見た君は、私からハヤトを奪うようにして抱き締め、こう言ったな。母親は私だ、私の責任だ、と」

「あ、あれ?そう、だった、かな?」

 本当に忘れたのか、レイナは視線を宙に彷徨わせ、それから気まずそうにハヤトをちらりと見る。ハヤトも初耳だと言わんばかりの表情(かお)でレイナを見ている。

「あの時の君の目はよく覚えているよ。だから私は、君にならこの子を任せても大丈夫だと思えたし、君しかいないと思ったんだ」

「じゃ、じゃあ、ゲームは?私を好きになったら家族になるってやつ……」

 ジェッタははて、と顎に手をやり考えると、少しの後、ふ……と笑みを浮かべた。

「もう家族じゃないのか?君は。あぁでもそうだな、もう少し人目は気にしたほうがいい」

 それだけ言い、乗るぞと言いたげな背中が向けられ、ジェッタは振り返ることもせず船へと乗り込んでいく。それを慌てて追いかけ、レイナも乗る寸前でハヤトたちに振り返り、早く早くと手を振っている。

「早く乗るといい。俺様たちは暇ではないのだからな」

 そう言い、ルドベキアも自分の船に乗ろうとし、何かを思い出したように立ち止まる。

「従妹殿、よければ次からは砕けた呼び方で構わないぞ。大事な従妹殿だからな」

 ひらひらと手を振り乗り込んでいく背中を見つめ、ルエは一瞬目を大きく見開き、そして嬉しげにふわりと笑った。

「はい、ルド兄様!」

「は!?ルーちゃん、あいつなんかおっさんで十分だって。ルドのおっさんでいいって!」

「陛下をおっさん呼ばわりするな……。早く乗るぞ」

 騒ぎ続ける声が船へと消え、しばしの後、それぞれの王族船は動き出す。片方は神柱を返す為に(サウス)へ、そしてもう片方はいつもの日常へ戻る為の中央(セントラル)へ。

 遠くなっていく(イスト)の影は次第に小さくなり、そして見慣れた中央(セントラル)が見えてくるのは、また別の話。



 ※



「あーあ、感情を抑えないといけないなんて、中央(セントラル)(イスト)も大変だね。でもとっても興味深いなぁ」

 まだ幼い少年は、手元の書類の束をぱたぱたと扇ぎながらにやりと笑みを深くする。容姿に似合わないその笑みは、見る者の背筋をぞっとさせるようで薄気味悪く。

 目の前の机に足を乗せると、少年はうっとりした表情と共に書類の束を宙に投げ出した。舞っていく白の中、少年の黒髪はやけに映え。

「早く、早く調べたいなぁ。ねぇ、ルエディア?」

 誰もいない部屋に、少年の薄気味悪い笑い声が響いていった。





 ~僕を忘れた君へと紡ぐ。東編。完~


ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

とかげになりたい僕です。


更新の度にお読み頂いた方、連載途中から読み始めた方、そして完結後に読んで下さった方。皆様、本当にありがとうございました。

皆様のおかげで、なんとか東編、完結まで書き終えることが出来ました。この場を借りてのお礼で恐縮ではありますが、本当にありがとうございました。


それとなく最後に出てきたのでわかるとは思いますが、次からは西へ行きたいと思っております。書きたいことはいっぱいありますので、間々に外伝的な何かも書けたらいいなぁと思いつつ、まぁ無理はあかんなと諦めつつ(でも頑張りたい)、やっていこうと思います。


長々とここまでありがとうございました。また違う作品や、続編でも見かけましたら、この人頑張ってんなと笑ってやって下さい。

それでは次回、またお会いしましょう。

ありがとうございました!

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