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清い光を見た君は。

 


「阿呆のことだ。問答無用で開けるかと思ったんだが……」

 ルドベキアはハヤトとルエの2人がいる馬車を背にし、にやりと嫌な笑みでゼロを見る。少しむっと頬を膨らませ、それでもゼロは仕方ないとばかりに馬車に視線をやった。

 ハヤトは恐らく気づいている、自分たちがここにいることを。まぁ、ルドベキアに連れられ、着いたのは今の話なのだが。

「オレだって邪魔したいわけじゃねーし。むしろルーちゃんの幸せを願ってるし。それこそ、その相手がハヤトなら尚更な」

 腕を組み、馬車に背を預け空を見る。今朝とは違う茜色の空は、まるで朝の鮮やかな青に、恋焦がれる赤のそれに近い。綺麗だが物悲しく、ゼロは小さくため息をついた。

 まだまだ私兵たちが走り回る敷地内は、何かとせわしない。だからこそ、馬車のカーテンが閉まってようと、それを気に留める者などいるわけもなく。中から聞こえてくる艶のある声だって、近くにいる2人以外に届くこともないのだが。

「ぁ……そこは、駄目、です……痛っ……」

「少しだけ我慢しろ……」

 痛がっている妹に何をしようというのか。

 ゼロのほうこそ我慢できず、勢いよく扉を叩きつけ、返事が返ってくるのも待たずして扉を開けた。

「ハヤト!ルーちゃんに何やって、んだ……?」

「ゼロ……?」

 潤んだ目で見つめてくるルエは普通に座っており、ハヤトが跪き、ルエの足に薬と包帯を巻いているところだった。

「見てわかる通り、薬を塗っているだけだが?」

 澄まし顔で答えるハヤトは、きっとわかって答えているのだ。本当にこの親友は厭らしい。後ろから聞こえるルドベキアの豪快な笑い声が、ゼロのもやもやする心を嘲笑っているようで、それが更に腹立だしい。

「それは!大変に!もーしわけなかったですね!」

 半ばヤケクソ気味に叫び、ゼロも馬車に乗り込みルエの隣に座る。絶対に隣に座らせてたまるかという、無言の意思表示だ。

 手当ても終わったらしく、ハヤトもルエの正面に座る。報告に来た私兵に何か伝言を伝え、ルドベキアもハヤトの隣に座り扉を閉めると、しばらくの後、馬車はゆっくりと動き出した。



 カーテンを開け、流れていく街並みを眺めていると、布を被せられた人であったものが並べられているのに気づく。その中に、あの店主の履いていた靴が見え、ゼロは顔をしかめハヤトを盗み見た。

 その表情はいつもと変わらず、何を考えているのかさっぱり読めない。いや、そもそもとして、ハヤトがやったのかどうかすらもわからないのだが。

「今回だが」

 ルドベキアの声で我に返る。

「貴殿たちには申し訳ないことをした。弟、リンドーが兄妹のみならず、その子供たちをも使ってあの様なことをしていたのは把握していた。我が父もそれに加担をしていてな、私は目をつけられ自由には動けなかった……」

 ガン、と窓を叩きつけゼロがルドベキアを睨む。結構な力だが、(イスト)製のそれはゼロの力ではビクともしない。

「最初から言えばよかっただろ!?リンドーがあーゆーことしてるって。だから助けてくれって!そしたらルーちゃんがこんな、こんな……」

 ゼロは悔しげに口元を歪める。息を深く吸ったルドベキアは「そうだな」と苦笑してみせ、隣に座るハヤトに視線をやる。

盾の騎士(シルトリッター)殿は気づいているのだろう?」

「……2人が殿下の御子ということでしたら、既に把握しております」

 表情ひとつ変えずにハヤトは答えるが、それにルエとゼロはしばし黙り込み、

「はぁ!?誰が!?誰の!?」

「殿下の剣と(シュヴェルト)盾の騎士(シルトリッター)がだ」

 嘘だろと言わんばかりのゼロに、ルドベキアはしてやったりという顔で笑いかける。ルエは目をぱちくりさせたままだ。

「わざわざ(サウス)で生ませた意図があるだろうとは思っていましたが……。隠す為ですか」

「もちろんそれもある、が。2人は(イスト)の王族に家族を殺されてな、そこを助けに行った俺様が保護した。しかし親父殿は2人に目をつけてて迂闊に動ける状態でもなくてな」

「そこに動かせる都合のいい手駒が来たと」

「まぁ、そう言うな」

 ルドベキアはハヤトの頭を撫で回す。それを鬱陶しいとばかりに払いのけるも、気にせずルドベキアはさらに強く撫で始める。

「屋敷には夜着く予定だ、橋も直してきたしな。親父殿には既にお手紙を送ってある。明日の朝には会わせてやるよ」

「お手紙……?」

 ゼロの疑問には答えず、ルドベキアは「眠い」と一言だけ残し、腕を組んで目を閉じてしまう。同じように目を閉じたハヤトを見て、ゼロは内心、この2人も親子ではないだろうかと思うのだった。



 ※



 屋敷に着いたのは言われた通り夜であり、知らずの内に寝てしまったゼロは、ハヤトに足蹴りされて目を覚ました。痛いと抗議したものの、半分無視に近い形で馬車を降りてしまった。

 隣のルエが気遣ってくれるのが唯一の救いだ。ルエに抱きついて感謝を表すと、小さく「痛いです」と言われたので仕方なく離してやった。

 来た時とは違い、それぞれに部屋を割り当てられ、好きに過ごせばいいと言われる。ゼロは準備されていた布団にダイブすると、そのまま寝てしまった。

「おいゼロ、神機を……寝てるのか」

 床に投げ出されたままの神機と、イビキをかいているゼロに呆れた視線を送り、ハヤトはため息と共に剣を拾い上げた。明日までに手入れくらいはしてやるかと扉を閉め、割り当てられた自室へ戻ろうとして。

 正面から来たルエと鉢合わせてしまう。ルエの手には着換えやらタオルやらがあり、どうやら今から風呂場へ向かうことがわかった。

「えと……傷に効くらしくて、今からお湯もらおうかと……」

「……それなら寝ている馬鹿も連れていってやってくれ。あのまま寝られると汗臭いままだ」

 そうため息をつくハヤトに、ルエはくすりと笑みを零すと、美しい庭園へと目を向ける。ハヤトもそれを追って目をやると、淡い光がふわふわと宙を漂っていた。

「蛍だな」

「ほたる?」

 不思議そうにハヤトを見返し、それからルエはそっと光に手を伸ばす。指先に止まった光は、一定の間隔で輝き、また静かに宙へと戻っていった。

(イスト)でしか見られない……」

 虫、昆虫、飾り気のない言葉しか思い浮かばず、ハヤトがなんと言おうかと考えていると、

「心が清らかな奴にしか見えないんだよ、あれ」

 いつの間に起きてきたのか、ゼロが扉を開けつつ言う。眠そうに欠伸をしているが、寝るつもりはないらしく、ルエと同じように着替えやらタオルやらを適当に引っ掴み部屋から出てくる。

 また適当なことをと内心呟くが、ルエの目が輝いている為口に出さないことにする。信じているならそれでもいいかもしれない。

「ハヤトも部屋から取ってこいよ、神機は後にしてさー」

 能天気に笑うゼロに嫌味たらしく神機を投げつけ、ハヤトは背中を向け歩き出してしまう。

「ハヤトくん……!」

「……神力を回復させるには、休息が1番だからな」

 背中ごしにそれだけ答え、ハヤトはそのまま自室へ戻っていく。後ろからゼロが「迷子になんなよー」と子供扱いする声に、小さく舌打ちしながら。





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