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誓いは誰が為に。

 上から降ってきた従兄、ルドベキアは見事なまでの着地を決め、抱えていたゼロを乱暴に床へ投げる。着地の衝撃で少し舞った床の破片が、重力に沿ってゼロの上に落ちてくる。

「いて、いてててて!おっさん、もうちっと考えろよ!」

「喚くな阿呆。せっかく連れて来てやったんだ。感謝される覚えはあっても、噛みつかれる覚えはない」

 傲慢な態度を崩そうとしないルドベキアと、少し疲れた顔をしているゼロ。この2人が一緒にいることに疑問を持つが、揺れ始めた地面がそれを考えている場合ではないと告げている。

「殿下……、来て早々ですが、ここは崩れます。早く地上へ」

 ルエに支えてもらいつつ立ち上がったハヤトが、(スペル)を紡ごうと意識を集中させる。が、ルドベキアが制しそれを止める。

「殿下?」

「なんの為に俺様御自ら来たと思ってんだ?阿呆どもが派手にやってくれたお陰で、やっとここに来れたってのに」

 手をヒラヒラさせつつルドベキアは歩き、そしてアリアの前で立ち止まると、その顔を覗き込むように腰を屈める。アリアは応えるように皮肉めいた笑みを浮かべた。

「久しぶりだな、アリア。最後に会ったのはいつだ?」

「覚えてないわ。興味ないもの」

 澄まし顔で答えるアリアに、ルドベキアは満足げに笑い返し、床に転がる神柱たちに目配せをする。意識があるのかないのか、彼らはもう何も反応しようとしない。

「そろそろ、あのガキを送った2人が来るだろ。そしたら罪人と青いのは先に戻りな。俺様と阿呆は、神柱回収したら行くからよ」

「は!?オレもルーちゃんと戻りてーんだけど!」

「動けるの阿呆しかいないだろう。だから阿呆なんだよ」

 ゼロは何も言い返せず、せめてもと、下からルドベキアを睨みつけた。もちろんルドベキアはそれを気になどしていないのだが。

 ため息と共にゼロは視線を外し、改めてルエの姿を視界に入れ眉を潜める。今すぐハヤトに問い詰めたい、が恐らくルエはそれを望んではいないし、ハヤトも怪我を負っているように見える。ならば早く地上へ向かうべきなのだろう。

「……わかったよ、アホはアホなりに動いてやんよ」

「呑み込みが早くていい。阿呆から呼び名を変えてやりたいくらいだ」

 やはりルドベキアは嫌いだと改めて思う。


 スノウとドロップが上から降ってきたのは割とすぐのことだ。上で穴を覗いていたゼロとスピカは、押し入り調査に来た3人に発見され保護された。先にルドベキアとゼロの2人が降り、スピカと他の子供たちを街まで送った後2人が合流する手筈になっていた。

 ドロップがルエを背負い、スノウがハヤトを背負おうとしたところで、一瞬ハヤトが躊躇う。女性に背負われたくないというプライドがあるが、スノウが半分力任せに背負い出した為、されるがままに背負われて上へ消えていく。

 途中、削れている壁を足場にして、壁から壁へと登っていくらしい。それに気乗りしないながらも手を振り、見えなくなった頃、ゼロは「で?」とルドベキアを見上げた。

「オレを連れてきた意味、教えろよ」

 ルドベキアは意外だと言わんばかりに目を見開き、それから可笑しいとばかりにひとしきり笑う。

「何が可笑しいんだよ」

「いや、阿呆も阿呆ではなかったということかと思ってな。阿呆、いや従弟殿」

 従弟、の言葉にゼロが慌てたように睨みつける。

「ま、待て、それ言ったら皆死ん」

「安心するがいい。神柱たちなら皆気づいている。それにこいつらは半分死んでるも同然だ」

 その言葉にゼロの表情が曇る。確かにそうかもしれない、が、そう冷たく言い放たなくてもいいだろうに。半分ということは、もう半分は生きているも同然なのだから。

 床に転がる神柱たちに跪き、ルドベキアは真剣な瞳で彼らを見つめる。その横顔は、いつも茶化してくる人物と同じとは思えないほどだ。

「従弟殿、昔、父君グロリオサが交わした約束事があってな。こんな神柱(もの)は無くしてみせる、だから最後の神柱になってくれないか。俺様もそれに賛同し、グロリオサが正式に中央(セントラル)へ行ってからは、(イスト)でその方法を探していた。しかし」

「父様も母様も、オレのせいで死んだよ。知ってるだろ?サガレリエット家がどうなったのかくらい」

「従弟殿のせいではない。全く、兄妹揃って自責するのが趣味か?」

 にやりとゼロに笑いかけるが、あの日の記憶が鮮明な彼は、恐らく誰よりも責めているのだろう。ルドベキアに笑い返すその笑みには、いつもの元気が感じられない。

「それはそれとして、だ。オレは何すればいい?」

「誓ってやってくれないか?父君の」

「パス」

 ゼロはルドベキアに手を突き出し、言葉を遮った後、頭の後ろで手を組み宙に視線をやる。その視線の先には、壊れたあの水槽。

「オレはレイガノールであってレイガノールじゃない。ゼロ・ライビッツとして生きる、ただの剣の騎士(シュヴェルトリッター)だ。まぁ、ただ、あれだよ」

「ん?」

「我が主サマは、きっと無くそうとするはずさ。だからオレもその意思のままに動く。それがオレの誓いだ」

 そう言ったゼロの横顔は、在りし日のグロリオサのそれとよく似ていて。ルドベキアは優しい視線をゼロに一瞬送ると、床に転がったままの剣を乱暴にゼロの腰に差してやる。

「ぅおい、何すんだよ!」

「さて阿呆、早く神柱たちを抱えろ。俺様の両手はアリアで塞がってしまうのでな」

「なんでオレが3人でおっさんが1人なんだよ!」

 文句を言いつつも神柱たちを抱えだすゼロに、兄妹揃ってお人好しめ、の言葉は喉の奥に押し込んで。ルドベキアはアリアにわざとらしく手を差し出すが、それを煩わしそうに払われる。

 しかし諦めずにアリアの腰を片手で支え、片手でゼロを抱えてしまう辺り、やはりルドベキアは自分よりも強く、頼もしい存在なのだと嫌でもゼロに痛感させた。



 ※



 地上では、ルドベキアの私兵たちが慌ただしく後処理に追われていた。それにスノウが的確に指示を出していき、ドロップがリンドーの私兵を捕縛していく。ハヤトとルエは、私兵の用意した馬車内でただその慌ただしい光景を眺めていた。ルエの背中の傷は、先程私兵が止血と包帯を巻いてくれた。

「……これで、終わったんです、よね?」

(イスト)の件は終わっただろう。違法神機も、哀しい幽霊騒ぎも次第に収まっていくはずだ」

 それを聞いて胸を撫で降ろすルエを視界の端に入れ、ハヤトはふとその姿から顔を背けてしまう。

「どうしました?」

「いや、暗くて見えなかったが……」

 ルエは自分の身体を見てハッとする。服装だろうか、それとも無数の傷痕だろうか。どちらにしろ見られて気分のいいものではない。隠そうと小さくなるが、羽織の丈もあまり長くない為、胸元を隠そうとすれば嫌でも脚が出てしまう。

 それに困り顔でハヤトを見れば、彼はわざとらしくため息をひとつつき、窓についているカーテンを閉めてしまう。その意図が読めず、ルエはそれを呆然と眺め。

「ハ、ハヤトくん!?」

 流れる動作でルエの後ろの壁に手をついたハヤトは、そのままルエの首筋に舌を這わせ耳元に甘い吐息を吹きかける。

「……ん、だめ、です。恥ずかしい……」

「誰に見られてるわけでもないだろう?」

「でも……っ」

 ルエの首筋にチクリと痛みが走り、思わず身体を震わせる。リンドーからも同じことをされたが、その時には全く感じられなかった甘い疼きが広がっていくのを感じる。

 もう1度拒もうと、ルエはハヤトを真正面から見る。ハヤトの綺麗な空色の瞳がそこにはあり、それはあの日と同じ自分だけを映していた。それに耐えられず思わず目を閉じると、まるで優しい雨のような触れるだけの口づけを送られる。

 再び目を開けたルエは、ハヤトの手が頬に触れるのに少しの焦れったさを感じ身をよじる。それに薄い笑みを零した彼からの、吐息を奪うような深いそれは、ルエの中に甘い疼きを残していった。

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