どうしてこうも憂鬱な、
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サナの家に向かいながら、憂鬱さを隠しきれていない表情でハヤトは空を仰ぎ見た。最近多くなってきた違法神機の取り締まりは、ここ3日間で10件にものぼっていた。
そのどれもが雑な造りで、西に5年しかいなかったハヤトでさえ、それは西で造られたものではないことくらいわかる。
こぢんまりとした家の前に立ち、門についている鐘を鳴らす。高い音が響き、しばらく待った後、玄関の扉が勢い良く開かれた。
「ライビッツ、遅いやん!待ってたんや、で……って」
出てきた少女は、ゴーグルを頭にかけながら罵声を飛ばしてくる。しかし、立っているのがハヤトだとわかるとすぐに表情を柔らかくし、
「なんや、ハヤトやん!ごめんなぁ、さ、入り?」
「……ゼロじゃなくて悪かった」
「違う違う!まぁ、ほら、入り」
一言「邪魔をする」と告げ扉を閉める。相変わらず、ゼロとサナは仲が悪いままなのだろうかと、ハヤトはそれがよくわからなかった。
サナという少女は、いや、見た目が少女なだけであり、実際彼女はハヤトより少し年上だと聞いた。100センチ程の身長は西の身体的特徴であり、彼女に限らず、西生まれは見た目と実年齢が合っていない。
それもあり、サナは中央ではよく子供扱いされて困っていると、以前相談された記憶がある。もちろん、神機に対する知識量は、その辺りの大人よりも優れているのだが。
案内された席に座り待っていると、トレーを持ったサナが、床に散らかっている資料を踏まないようにしながら歩いてきた。それなら片付ければいいと思うのだが、西の研究者は、基本的にそういったことに無頓着だ。
ふらふらしながらもトレーからカップを置き、サナもハヤトの反対側に座る。カップに口をつけた後、サナはテーブルの上に散らばっていた資料をがさつにまとめ、それをハヤトに「ん」と突き出してきた。
「これや。やっぱり可笑しいでこれ。まず、絶対ついてなあかん認証装置がついてない。それから、循環装置。これは神力を……って、ハヤトはその辺わかってるんだっけ?」
「あぁ、問題ない。聞きたいのは内部についているはずの」
「西の……プリマリィ家の紋がない」
「やはりか」
納得したと資料を受け取り、ざっと目を通す。
神機は造った責任と、扱う責任を取る意味で、内部に西の王族であるプリマリィ家の紋と、最初に扱う者を認証し、登録する必要がある。例えば、ゼロの神機はゼロにしか扱えない。他の者が持っても、それはただの剣にしかならない。
しかし、どうやら違法神機はそれをする必要がなく、誰でも扱うことが出来る。それはつまり、誰にでも、簡単に人を殺せるということだ。
受け取った資料をトントンと形を整え、それを丸めて持つと、ハヤトは「助かった」と立ち上がる。サナも続いて立ち上がると、玄関まで見送ろうとハヤトの後に続く。
「……っ」
いきなりハヤトが振り返り、サナを引き寄せた。
わけがわからずサナはハヤトを見上げ。
バシュッ。
嫌な音と、何かが焼ける臭い。今まで自分が立っていた床が焦げている。サナがその原因は何かと、視線を奥へと探ると。
「なんでや……」
サナが騎士団に頼まれ調査していた神機が、ひとりでに動いていたのだ。傘型のそれは、閉じたままだと剣として、開くと盾に、先端は銃として扱える珍しい物だった。
もちろん、誤作動を起こさないようにと、最初にそういった回路は全て切り、中に溜まっていた神力も抜いたはずだ。動くはずがない。しかしそれはカタカタと嫌な音を立て、サナにその先端に狙いを合わせる。
「水の詞、2の章。我が声に応え、慈悲深き護りと成せ」
ハヤトが手を地面に向け詞を紡ぐと、足元から水が湧き出、それはすぐに壁となって2人を護る。傘の先端から同じように水が吹き出し、それはお互いぶつかり合い弾けていく。
このままでは家を壊してしまう。そうすれば、サナをハヤトたちの家で預からなければならない。それは大変に面倒くさいとハヤトは思い、腕の中で怯えている彼女を抱え外へと飛び出した。
ここが人通りの少ない路地で助かった。
ハヤトは腰から神機の銃を取り出し、扉に銃口を向ける。予め込めておいた神力は確か風だったかとふと考え、あまり相性は良くなさそうだと舌打ちをする。
「ハ、ハヤト……」
「動くな、離れるな、騒ぐな。わかったらそこにいろ」
しがみつこうとしてきたサナに言い放つ。少しむっとするサナを見て、少し言い過ぎたかもしれないと思う。また後で謝ることにする。
傘は勢いをつけて扉から出てくると、その先端から今度は炎を吹き出す。サナを抱えひらりとかわし、ハヤトは傘に向けてトリガーを引いた。
銃口から出た風は竜巻のようにうねりを生み出す。
再び傘から炎が吹き出し、竜巻と混ざり合い、それはまるで炎の竜かの如く辺りに熱を撒き散らした。ハヤトはすぐさま銃から筒を取り出し、それを握って神力を込める。鮮やかな青に染まったそれをまた銃に入れ、うねり続ける竜に向かって撃ち込んだ。
水の力によって炎は消え、残った風と水が混じり、それはお互いを相殺することもなく傘の中心を貫いていく。真ん中から折れた傘は力を無くし、地面に叩きつけられるように落ちていった。
動かなくなった傘に近づき、持ち手の部分を掴んで持ち上げる。気づかなかったが、どうやら神術がかかっていたようで、折れた断面から微かに神力を感じ取ることが出来た。何者かが神機に神術をかけ、まるで西の神機が暴走したかのように見せていたようだ。
どうやら面倒くさいことになりそうだと傘の破片を睨みつけ、ハヤトは座ったままのサナに手を伸ばした。




