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僕を忘れた君へと紡ぐ。東編  作者: とかげになりたい僕
儚き楽園から死園へ。
35/51

心を決めて、力を持たずに。

 ※



 立派な屋敷の前に着いた瞬間、ルエは目隠しをされ、一体どこをどう通ってきたのかもわからないまま、ある部屋にて目隠しを外された。

「ここは……」

 自分の後ろに立つ2人の男は、ルエが辺りを見渡してもさほど気にしておらず、いやルエぐらいなら力でねじ伏せるつもりなのだろうか、ただ黙って立っているだけだ。

 薄暗い部屋には、不釣り合いなほど明るい巨大な水槽、天井からぶら下げられたいくつものプランターには枯れた植物。恐ろしいほどに、そこには生気がなく、ルエの背筋を凍らせていく。その水槽に目を奪われていると、暗闇から少し興奮気味の声が響く。

「やぁやぁやぁ、君が噂の子かな?我輩がリンドーである、よろしく頼むよ」

 声のほうに視線を向ける。20代ほどの黒髪の男、リンドーは白衣を身に纏い、にたにたと気味の悪い笑みを張りつけてルエの前に現れた。

「貴方が、リンドー様ですね。お聞きしたいことが……」

「煩いな、君」

 ルエが何かを言う前に、リンドーはルエに一瞬で近づくと、口を手で塞ぎ、そのまま床に押し倒す。遠慮のない力は強く背中を床に打ちつけ、ルエは痛みで顔をしかめた。

「ぅ……」

「いいねぇ、その表情(かお)!好きだなぁ、そ、れ!決めたよ決めた!君、我輩の優秀な子種を残す依代になれよ!」

「!?」

 ルエは否定の言葉を口にしようにも、塞がれたこの状態ではどうしようもできず。首を振ろうにも、押さえつけられたままでは身動きも取れない。微かに漏れる息づかいで反抗しようとするが、それは小さな呻きにしかならず、リンドーの嗜虐心を煽る要因になるだけだ。

 それでもルエはせめてもと、リンドーを鋭く睨みつけ、微かに動く腕でリンドーの体を押し返そうと試みる。

「何か言いたそうだな!我輩は優しい奴だからな、聞いてやらなくもない」

 開放された口は、酸素を求める為に何度か息を吸い、そしてルエは狂ったリンドーを改めて睨みつける。

「私は、貴方みたいな生命(いのち)に対して失礼な人は嫌いです!依代にもなりません!」

「くっ……はは」

 可笑しそうに笑い出すリンドーに、ルエは怒りより薄ら寒さを覚え、何も言えなくなってしまう。やがて笑い終えたリンドーは、何かを思いついたかのように冷ややかにルエを見つめ、

「知ってるか?同じ王族でも中央(セントラル)(イスト)では神力が違う。神術の中央(セントラル)、神機の西(ウェス)、そして神技の(イスト)というように。わかってるだろう?混ぜればどうなるか」

 ルエから血の気が引いていく。さらに楽しげに顔を歪めていくリンドーは、最早人とは言えない何かに見えた。

「気づいてないとでも思ったか、サガレリエットの元王女。依代に相応しく、(イスト)の力を分け与えてやろう」

「……っ」

 ルエの唇にリンドーが自分のそれを重ねる。ルエは顔を咄嗟に背け抵抗するが、片手で顎を掴まれ、そのまままた唇を重ねられる。空いた手で押し返そうにも、神技を使っている身体は少しも動かず。

「んっ……」

 ぬるりとした感触と共に口内を犯すそれは、とてつもない吐き気と悪寒を催す。瞳から涙が零れ、ふと頭をよぎったのは空色の彼の姿だ。

 決めたのだ、自分で。何があっても進むと。

 ルエは気持ち悪いそれに思いきり噛みつく。そこは神技を使えないのか柔らかく、リンドーは小さな悲鳴と共にルエから離れた。ルエは口元を拭い忌々しくリンドーを睨みつけ、それでも気丈に振る舞おうと立ち上がる。

「力、でなんでも、手に入るなんて……思わないでくださいっ」

「は……ははっ。貴様ぁ、同じ王族でも許さんぞぉ!」

 距離を詰めたリンドーは、片手でルエの両手をまとめ上げ軽々と持ち上げる。宙にぶら下げる形になったルエは、リンドーの足を思いきり蹴るが、やはり神技の為かそれほど意味がない。

「力で手に入ると思うなだと?いいか、力と知恵は必要なものだ。力で全てを押さえ、知恵によってそれらをまとめあげる。貴様にはわからんのか!」

 空いている片手でルエの着物の合わせに手をかけると、リンドーはそれを力任せに引き裂いていく。破れた箇所から白い肌が露わになり、ルエは羞恥で熱が上がるのを感じた。

「これでも力は無意味だというのか!貴様は何も出来はしないのに!」

「……っ、心を踏みにじる力で、心まで支配できるなんて、思わないで!」

 震える声で、一体どこまで言えたのかわからない。気づけばまた反転した視界は、ぶら下げるプランターと、狂気じみた笑みを浮かべるリンドーで埋め尽くされ。

 胸元に嫌なぬめりを感じつつ、ルエは目を閉じる。船で見た空色の彼の薄く笑う姿と、昨日見た意地悪な姿、どれもが愛しく。零れた涙は、冷たく床へと流れていった。



 ※



「……ん、ここ、は」

 ぼやける視界で最初に見えたのは、自分と同じ白髪の子供だった。それがルドベキアの屋敷で別れたスピカだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

「おにぃちゃん、大丈夫?」

 ゼロは重い手を持ち上げ、スピカの頭を撫でて安心させてやる。少し身体は痛むが、どこか折れたわけではないらしい。

「スピカ、ここは……?」

 起き上がり周囲を確認して、ゼロははっと息を呑む。

 自分と同じ白髪の子供たちが、ざっと数えるだけで10人はいる光景に、ゼロは複雑な気持ちになる。恐らくここは、リンドーの屋敷の、つまりはそういう場所なのだろうと怒りがふつふつと湧き上がる。

 腰にある神機もなく、そういえば宿の近くで落としたのだと舌打ちしそうになるが、スピカが見ている前では出来るわけもなく。

「スピカは、なんでここに?ミモザはどうした?」

 落ち着こうと、とりあえず情報を聞いてみる。スピカは悲しげに目を伏せ、弱々しく首を振った。

「わかんない。ルドベキア様のお屋敷を出て、馬車乗って、ここに来たの。おじちゃんがお話して、おかぁさんを連れて行って、私待っててって……」

 潤んでいく瞳を見ていられず、ゼロはスピカの頭を力強く撫でてやる。髪が乱れるが、スピカは気にしていないようで、むしろ逆に「やめてよー」と笑みを零す。

 ミモザのことも気になる。が、今はルエを探すのが優先だ。しかしそれにはここを出る必要がある。

 窓もないこの部屋は、唯一ある扉は鉄で作られており、神機を持ったゼロならまだしも、丸腰では壊すことは出来ないだろう。万が一出れたとして、神技を使いこなす(イスト)の兵に、今のゼロでは太刀打ち出来ないことは明らかだ。

 なんの力すら持っていない自分に苛立ちを感じ、ゼロはただ、床を軽く殴りつけるしか出来なかった。



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