表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

ただ暖かくしていたい。

 ※



 グツグツと煮えるスープをかき回しながら、ハヤトは後ろで話している2人をちらりと振り返る。

 ゼロは何もせずに席に座り、食器を出しているルエにちょっかいをかけている。それをにこやかに返しながらも、たまに止まる手に、並び終える前に出来上がりそうだと内心ため息をつく。


 3人で暮らし始めて、はや2ヶ月。

 元はと言えば、ゼロが「もう限界だ」と喚き散らしたことが原因だ。

 最初こそはウィンチェスター家で暮らしていた。しかし、こんな男臭いところにいつまでもいるのは嫌だと。ルエと2人で暮らすと血迷ったことを言い出したのだ。

 もちろんそれに同意できるはずもなく。しかも2人は家事全般が殆ど出来ず、条件としてハヤトも一緒に住むことが提示された。渋々ながらも了承し、今の生活に至る。


 出来上がったスープをルエが取り分け、テーブルに次々と温かな食事が並べられていく。嬉しげな声をあげるゼロに、早く座れと促し自分も座る。手を合わせてから食事を始めるルエを見て、やはり育ちがいいんだろうなと思う。

「ところでゼロ」

「んぁ?」

 ゼロが口いっぱいに肉を頬張りながら顔を上げる。口にカスがついているのを見て、つい説教をしたくなるが、そこは堪えて話を続ける。

「夕方のあれ、覚えがあるのか?」

「ねーよ」

 水を飲み干し、口を空にしたゼロがフォークを上下にふらふらと振る。

神機(しんき)をまともに使えねー知り合いなんていねーし、第一、オレを見て逃げるなんてあれだろ?未だに、変な噂を信じてる奴」

 ルエがことりとフォークとナイフを置き、不思議そうにハヤトとゼロを見る。それに、気にするなと言わんばかりに笑い、ゼロはカップに水を注いだ。

「白髪と関わると神力(しんりょく)を奪われるって噂。もちろんそんなことねーし、それが本当なら、今頃ハヤトもルーちゃんも真っ白になってんだろーよ」

 水をぐいと飲み干し「ごっそーさん」と席を立とうとするゼロを引き止め、ハヤトは少し考えるようにして言う。

神機(しんき)が決められた者しか持つことが出来ないのは、お前もよくわかっているはずだ。今日、いや……最近それで動き回っていたんじゃないのか?」

 ぴくりとゼロの肩が動き、それから気まずそうにハヤトを見返す。わかっていて聞いていたのなら質が悪い。諦めたようにため息をつき、ゼロは席に座り直すと、頬杖をつき話し始める。

「最近、神機をどっかから仕入れてるっぽくてさ。西(ウェス)かと思ったんだけど、それにしては造りも雑でなー。サナちゃんに見てもらったんだけど、どうやら西(ウェス)ではないっぽい」

「やはりそうか……。西(ウェス)にはなんの利益も得られないと思っていたが、そうなると、(イスト)か……?」

 ハヤトたちが住む中央大地(セントラルガイア)から、海を超えて西に行くと、神力を宿した武器、神機を開発している西大地(ウェスタンガイア)がある。殆どの神機はそこで開発され、そして出回っているが、極稀にそうではないものがある。

 もちろん、そうして出回る神機は違法であり、よく暴走もする為、ハヤトたち騎士団が取り締まっているわけだ。しかし、どうやら今回の問題は違うらしい。

 空の食器を片付けていきながら、ルエが「んー」と考え、何か思いついたように手をぽんと打つ。無邪気な笑顔を2人に向け、

「それなら(イスト)に行きませんか?お城も返してもらいましょう!」

「は?」

 ハヤトとゼロがルエに視線をやる。何を言ってるんだと口から出かけたが、あまりにも綺麗に笑っている為、ハヤトはため息を零す程度で抑える。ゼロは呆れ顔でルエをしばらく見つめた後、これまたため息と共に立ち上がった。

「ルーちゃん、いい?もう王族でないルーちゃんが、簡単に王族と会うことは出来ないの。船もないし」

「民間の船に乗りましょうよ!お願いできなくとも、神機のことで行く価値はありますよね?」

 手をひらひらと振りつつ、ゼロは「ないない」と無愛想に返す。彼にしては珍しく冷たい態度だが、それも一重に、ルエを危険に合わせたくはないからだ。特に最近、(イスト)に対して良い噂も聞かない。

「片付けは俺はするから、ルエは先にお湯をもらうといい」

 腕まくりをしつつ言うと、ルエは少し納得がいかないと顔をしかめがらも、大人しく自室に準備をしに戻っていく。ゼロもポリポリと頭をかきつつ、食器を洗い出したハヤトの隣に並ぶと、台にもたれかかるようにして話をしだす。

「でもあれだろ、(イスト)でほぼ間違いないんだろ?」

「……」

 何も答えないがそれを肯定と受け取り、ゼロは面倒くさげに両手をあげた。行きたくはないが、行くとしたら自分たちだろう。騎士団でも特に所属をしていない自分たちが、1番都合が良いのだろうから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ