役目を果たすこと。
結局、ハヤトが食べたのは最初の1匹のみで、あとの7匹は姉弟に食べられてしまった。それはゼロとルエも同じな為、それで口論しようとは考えていないが。
満足そうに腹を撫で、気持ちよさげに伸びをするカスト。これまた隣で、幸せそうに笑みを浮かべるポルックス。仕方がないと腹を括り、ハヤトはさてと腕組みをした。
「早く王都に出て、そこから隣の領地に向かいたい。カストは道を知っているのか?」
「ポル」
「わかってるよ、姉さん」
カストに呼ばれ、ポルックスは頷き、近くの竹に優しく触れた。すると、風が通り抜け。
「……!道が……」
驚きでルエが口に手をやる。
まるで風が通った場所を空けるかのように、竹林が左右に別れ、道を作ったのだ。ポルックスはルエに笑いかけ、
「王都に抜ける風は、とても穏やかなんだ。ルドベキアのとこも、穏やかで気持ちがいいけれどね」
「すごいです……」
感心するルエに、なぜかカストが自慢げに胸をはってみせる。
「当たり前でしょー、神官候補なんだから!」
素直にすごいとはしゃぐルエと、嬉しそうに笑う姉弟を、ハヤトは少し後ろから気の毒げに眺めていた。
出来た道を抜けると、教会の敷地内に出たようで、至るところに墓石が立っていた。5人が出ると、竹林は何事もなかったかのように元に戻り、また穏やかに揺れ始める。
「さてと、私たちはここで一旦バイバイかな」
教会の入口で立ち止まったカストに、口を尖らせつつゼロが抗議の声を上げる。
「止めるんじゃなかったのかよ」
「それとこれとは別よ。キミたちと行動する利点がないもーん」
むっとするゼロとカストの間に、ポルックスが苦笑いしつつ入り、申し訳なさげにゼロを見る。
「ゼロさん、ごめんね。僕たち、正式な入国してなくて……司祭様に匿ってもらってて」
「ちょっとポル!勝手なこと言わないで!」
「皆に迷惑かけたくないだけだから。ね?姉さん」
無邪気な笑顔を向けられては何も言えず、カストは悔しげにポルックスを睨みながらもハヤトたちに背を向けた。そのまま教会に入っていく後ろ姿に苦笑し、ポルックスは「またね」と手を振り追いかけていった。
「違法入国って……いいのかよ」
呆れ顔のゼロに、ハヤトは「よくないだろ」と返すも、それで2人を責めるつもりはないらしく、都に出る通りへ向かう。
ゼロも「だよなー」と言いつつも、だからといって何かしようとも思っていない。ルエだけが「違法……?」と呟き、はっとしたものの、誰かの罪を咎めるような人間でもないと思い直し、慌てて通りへと駆けていった。
「姉さん、これでよかったんでしょ?」
扉の隙間から覗いていたポルックスが、長椅子に座るカストを振り返る。カストの手に大事そうに抱えられているのは、1輪の花が飾られた花瓶だ。
「まさか、司祭様までこんな姿だなんて言えないじゃない。特にあの子、ルエにはね……」
「グロリオサ様が崩御されてから、世界は狂い始めた……。あの方なら、神柱制度も無くせるって信じてたのに」
隣に花瓶を静かに置き、鮮やかなステンドグラスを仰ぎ見る。盾に剣が交差する紋が描かれたそれは、中央のそれと同じもの。
「レイガノール様もいないまま。誰がまとめるというの……?」
「姉さん……。僕らに出来るのは、司祭様を元に戻して、神柱を壊して」
「わかってる」
首を振り、強い瞳でポルックスを見つめるカストに、迷いは感じられなかった。
※
通りには、中央では見ない品物を扱う店が並んでいた。着物の柄を模したような櫛、ペン、小物。それらはルエの心をくすぐるが、目的が違うと言い聞かせ、なるべく目移りしないように歩いていく。
ハヤトとしてもゆっくりしてやりたいところだが、生憎、時間を取られてしまった為、そうゆっくりも出来ないことがもどかしい。
「ルーちゃん、全部終わったらゆっくり見ようぜ。それまで頑張ろ、な?」
「は、はい、ゼロ」
気の利いたことを言えるゼロと、何も言ってやれない自分。苛立ちからか、無意識にハヤトは早足になっていたらしい。強く手を引かれ、苛立ちと共に振り返る。
「なんだ」
「はえーよ」
同じく苛立ちを隠そうともしないゼロと視線が合い、ハヤトは立ち止まり視線を真っ直ぐ受け止める。こんなことをしている場合ではないというのに。
「ルーちゃんが追いつけねー。らしくねーぞ、お前」
「言われる筋合いはない。第一、ルエはどこだ」
「どこって、あれ?ルーちゃん?」
ハヤトに追いつく為、ゼロも同じ速さで歩いた為か、ルエの姿がどこにもいない。行き交う人の波に紛れては、あの茶髪では探すのも苦労しそうだ。
元はハヤトが無意識とは言え、早足だったのがいけないのだが、それこそ言っている場合ではない。ゼロは慌てて来た道を戻るが、見慣れた妹の姿は見えず。
「ルーちゃん……」
呆然と立ち尽くすゼロの後ろで、ハヤトが煩わしそうに空を見上げる。
「雨が降る。一旦、屋根のある場所に入ろう」
「は?雨?」
同じように空を見上げるが、鮮やかな空には、それこそ雲ひとつすらない。半信半疑ではあるが、歩き出したハヤトに何か言う暇すらなく、ゼロも仕方なしに屋根を探し歩き出した。




