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告げたくない言葉は、

 ※



 ――弾んで消える水鞠


 夕闇と永久(とわ)に続く水郷


 撫でたる夢の水泡


 水府へ(いざな)(うた)詠い――




 それは、船で聴こえた(うた)だ。

 耳に囁きかけてくる声は、とても優しく、甘く、くすぐったい。

 しかしルエは起きることが出来ず、いや正確に言えばここは恐らく夢の中なのだろうか。下に見える光景が、にわかには信じがたいものなのだから。

 ルエは空に浮かぶ形で、幼い青髪の子供と、そして茶髪の男性を見下ろしていた。大分幼いが、あの子供はハヤトだということがわかる。ならばあの男性はジェッタだろうか。


「本当にいいのか?」

 ジェッタが問いかける。しかしそれはハヤトにではなく、暗闇の中にいる誰かにだ。その誰かは何か言ったのか、ジェッタは悲しげにハヤトに目をやり、それから力強く頷いてみせた。

「それが君の願いなら、俺は迷わず叶えてみせる。何、惚れた弱みというやつさ。最初に言っただろう?俺は君を自由にしたいと、願いを叶えたいと。まぁ……結局、自由には出来なかったがな」

 自嘲するジェッタが痛々しく、ルエは胸が苦しくなる。何を言っても、恐らく届かないのだろうが、それでもルエは届けたい衝動に駆られた。しかし声が出ることはなく、延ばした手ももちろん届かず。

 浮遊感は急激に無くなっていき……。



「待ってください!」

「え!?」

 泣きながら延ばした手は、昨日の火で、魚を焼いていたゼロの視線を痛いほど受け止める羽目に。

「えっと、ルーちゃんは生が好み?」

 串に刺さった魚をルエに差し出しつつ、ゼロは苦笑してみせる。生焼けのそれは、お世辞にも美味しそうとは言えなかった。

「生、じゃないほうでお願いします」

「だよなー」

 再び火に炙り出したゼロに一言礼を告げ、ルエはゆっくりと身体を起こした。いつの間に寝たのか覚えがないが、今はそれなりの時間だということはわかる。

 取り囲んでいた壁も綺麗になくなっており、ここにいるのはゼロだけで、後の3人は近くにはいないらしい。探しているルエに気を使ったのか、焼けた魚を突き出しゼロが笑顔を見せる。

「3人なら食料調達。オレは焼く係。こーゆーの、得意だから安心して食いなー」

「あ、ありがとう、ございます」

 受け取ると、ほかほかとした魚が美味しそうで。腹の虫が鳴るのを抑えられず。

「……っ、聞きました?」

 俯き、赤くなりつつもゼロをちらりと見れば、彼は笑うでもなくルエに優しい眼差しを向けていた。

「ゼロ?」

「あー、いや、やっぱ可愛いなーってさ。なんたって、ルーちゃんはオレの自慢の……」

 妹、とは言えず、ゼロは誤魔化すように次の串に魚を刺した。それを黙って焼いていると、食べずに魚を見つめるルエが気になり、ゼロは手を休めることなく「ルーちゃん?」と名前を呼ぶ。

「ねぇ、ゼロ。貴方は、一体どこから来たんですか……?」

「最初に会った時話しただろー?(サウス)の孤児院にいて、ハヤトに会って、騎士ってカッコいいー!って騎士目指したって」

「……ごめんなさい、変なこと聞いちゃいましたね。お魚、いただきます」

 納得はしていない。それでもゼロが話せないのなら、今は聞けない時なのだろう。

 前々から感じていた。過保護なくらいに、彼が自分を守ろうとすること、大事にしてくれること、しかしそれらは、恋人のそれではないのも理解している。そう、これは。

「家族……?」

「ぅえっ!?あっち!」

 零れた言葉に動揺したのか、ゼロが魚ではなく手を炙ってしまった。

「ゼ、ゼロ?」

 慌てて手を取ろうとするが、制されてはそれも出来ずルエは大人しく座り直す。ゼロは手に息を吹きかけ冷やしつつ、少し思案し、

「……育ててくれたおっさんがいてさ」

 ゼロは焼けた魚を頬張り、それを飲み込む。

「両親が死んだのは、まぁ……オレのせい、なんだけど。見つけてくれたおっさんに育てられて、色々教えられてさ。でもある日、おっさんは死んじまった。んで孤児院入った。家族は……もう、いないんだよ」

 ルエに向けられる視線は、とても優しく、そして哀しい。その真意を今のルエには汲み取れず、ただ「ごめんなさい」と呟くことしか出来ない。ゼロはいつもの調子で笑うと、残りの魚を口に放り込み立ち上がった。

「さーて、焼けた魚、食料班に持っていってやろうぜ!まだ川んとこにいるだろうし」

 慌ててルエも魚を食べ終えると、焼けた串を何本か両手に持ち、先を歩くゼロの後を追った。




「もう、つまんなーい。早く2人とも釣ってよー」

 岩の上に座り込み、手鏡で髪型を整えているカストを睨みつけ、ハヤトは嫌味を言いたいのを我慢して糸を垂らしていた。ポルックスはといえば、川に入り、まるで熊のようにして魚を取ろうとしている。

 ちなみに、成果は出ていない。

「早くしたいのはこっちのほうだ。俺だけで全員分釣れるわけがないだろう」

「でも10匹釣ってるし?あと10匹頑張ってー」

 やけに簡単に言うが、ポルックスが魚を取ろうと歩くたびにこちらのほうは逃げていくのだ。それを根気強くやっているのだから、少しは労ってほしいものである。

「みんなー!」

 後ろからゼロの声が聞こえ、焼き魚の香りが鼻をくすぐる。もういいかと竿を上げるよりも先に、カストがゼロに駆け寄り、我先にとばかりに串を受け取った。

「わー、いただきます!」

 川から上がったポルックスも顔を綻ばせ、昨日のハンカチで手足を拭いてから串を受け取る。竿を上げ、ゼロから串を受け取ろうとするが、ゼロは両手を上げ首を横に振った。

「お前らっ……、誰のお陰で」

「まぁまぁ、ルーちゃんのあるからさー」

 ゼロが自分の後ろを示す。苦笑したルエが、おずおずと差し出す串を受け取りそれを口にする。早くまともな飯が食べたいと味わっている間に、カストとポルックスが残りも平らげてしまったのだが。



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