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孤独な世界と、

 



 少年は足を捻っているとゼロから聞き、ハヤトは仕方なしに術をかけてやっていた。相手の目的もわからないまま回復させるのはどうかと思ったが、ルエも揃ってかけてほしいと言うものだから断れず。

 痛みが引いたのか、少年はやっと泣き止み、ルエが渡したハンカチで鼻水を噛むと、すっきりしたように笑顔を見せた。正直どうかと思ったが、ルエが何も言わないのでハヤトも黙っていることにする。

「で、どうしたのポル」

「どうしたも何もないよ、姉さんが造ってくれた穴に落ちちゃったんだ」

「術使って上がってくればよかったじゃないの!」

「足痛くて、そんなん考えられなかったよ。そしたらゼロさんが助けてくれたんだ」

 少年がゼロに笑いかけると、呆れたように少女がため息をつく。ハヤトも呆れが混じった視線を少年に送り、ゼロが小さく切った何本かの竹を積み火をつける。

「それで、お前たちの目的はなんだ?」

 さりげなくルエを1番暖かい場所に座らせ、火の調節をしながら問う。

「私は姉のカスト、そして弟のポルックスよ。……(イスト)で幽霊が出るって噂、知ってるかな?」

「幽霊!?死んだ奴がなるって噂の?神サマんとこ行けないんだっけ?」

「でも実際は違うの。幽霊とか神霊(しんれい)とか、そんなんじゃない……」

 パキン、と竹が割れる音が薄気味悪く響く。ハヤトの目が細められ、揺れる火を静かに見つめる。

神機(しんき)だな?」

「そう。ハヤトは(サウス)のしきたりをあんま知らないと思うんだけど、村にはそれぞれ神官がいてね。神官は神柱(じんちゅう)を護るのが役目なの」

「それと、今回の幽霊がなんの関係があるんだ?」

 手を火にかざすゼロが首を傾げる。

神柱(じんちゅう)っていうのはね、元素を世界に(たも)たせる為に必要なもので……。100年間、水なら水の中に、火なら火の中に、生きたまま入り祈りを捧げ続けるの」

「ずっと焼かれ続けるってこと、か?意識あるのに?」

 頷くカストを見て、ゼロはうへーと舌を出してみせる。想像もしたくないが、しかしそれをすることで世界に元素が保たれていることを考えると、無闇に否定も出来ない。

「今回、(イスト)はそれを狙ったの。神柱はそれ自体が膨大な力を持っているから、生きた神機に出来ないかってね。既に(くう)以外は持っていかれてしまったわ」

「ん?でも神官が護っているんじゃ……」

「……ゼロは」

 黙って火を眺めていたルエがぽつりと零す。その視線は静かに鳴り続ける竹に向けられたままだ。

「ゼロは、耐えられますか?神官になってしまえば、恐らく、一生を神柱を護ることに捧げるのでしょう。もしくは、自分が神柱になる。私は、嫌です、きっと。世界の為でも、きっと私は、躊躇ってしまいます……」

「ルー、ちゃん……」

 返す言葉もなく、ゼロも同じように火を見つめる。耐えられるだろうか、孤独に、1人で、ずっと。無理だと一瞬でもよぎり、それが神官たちの答えだったのではないかと考えてしまう。神柱がいなくなれば、自由になれると。

 沈黙の後、軽いため息をついたカストが話を続け始める。相変わらず表情は固い。

(イスト)は神柱の代わりに神機を入れればいいと言っていた。確かに私だって神柱なんてなくなればって思ってた。でももっと違う方法があるはず。とりあえずは、連れ出された神柱たちを探して破壊(こわ)さないといけないの」

 パキン。

 竹の割れる音と、まるで雨かと思うような風の()に、少しの不気味さを感じつつ、ルエは寒さで身体を震わせた。気づいたハヤトが火を強くしようとして、カストが「待って」とその手を止める。

「地の(スペル)、2の章。我が声に応え、鉄壁の柱を生み出せ」

 言葉を紡ぎ、地面に手をかざす。するとハヤトたちを囲むように地面が高く盛り上がり、それは風除けとして機能し始める。

「上は開いたままだから雨はダメだけど……。無いよりましでしょー?」

「カストちゃんすげーじゃん!水より万能なんじゃね、これ」

 壁を軽く小突いたゼロが、にやりと挑発的な笑みをハヤトに向ける。もちろん本気でそう思っているわけではなく、普段から嫌味を言われている仕返しもある。

「仕方がないだろう……。創ることに特化した地と比べるな」

 ゼロの言葉が効いたのか、それだけ言うとハヤトは背を向けて横になってしまった。珍しい反応に、謝るタイミングを逃し、仕方なしにゼロも頭を掻いて横になる。

「2人とも……」

「ルエさんも寝なよ。僕見てるから大丈夫だよ」

 ポルックスの無邪気な笑顔に釣れられルエも笑い返し、座ったまま膝を抱え込み俯く。寝るつもりがあるのかないのか、それとも寝られないのか、どちらにしろ動かなくなったルエにまた笑い、ポルックスは足を伸ばし横になる。

「ポル、見てるって言ってたじゃない」

「そう言えばルエさんが安心するし、それに……風が視てるから大丈夫だよ」

 すぐに聞こえてきた寝息に呆れを感じるが、実際風が視ているのは事実なのだろう。ならば自分も休もうとカストも壁にもたれかかると、疲れが溜まっていたのか、すぐに意識を手放した。

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