重さは比例しない。
さて、ゼロが辺りを見に行くと言ってから大分経った頃。
肌に当たる風の冷たさからして、そろそろ夕暮れ時ではないかと予想を立てる。相変わらず竹林で空はよく見えず、あくまで予想の範囲だが。
暖まろうにも、掌で火の神術をずっとしているわけにもいかない。何より集中力がそこまで保たない。ならば竹を切ってみるかと考えるが、唯一切れる奴はここにいない。
大事な時にいないのはどっちだと悪態をつきつつも、くしゃみをするルエを放っておくことはできず。仕方ないと、ハヤトは近場にあった竹に手を伸ばし触れる。
「どうしたんですか?」
「いや、これ1本だけ燃やしてみようかと」
「流石の私でも、それは危ないってわかりますよ」
ルエにしては珍しく少し苦笑している。止めないと本当にやりそうではある、そして一面焼け野原にしそうだ。
「私なら大丈夫ですから。ゼロを待ちましょう?」
にこりと笑うルエを見て、確かにそれもそうかと大人しく座ろうとして。
辺りの違和感に気づく。
竹が自分たちを取り囲むような、そんな薄気味悪さを覚え、ハヤトはそっとルエの隣に立つ。神機を手に取り、銃口を正面に向ける。不安な表情を浮かべるルエに、安心させる言葉のひとつでも言えればいいが、生憎とそこまで口が上手くない。
「下……?」
違和感が足元だと気づいた時には遅く、地面は2人を飲み込むかのように崩れ始めた。傍らのルエの腰を引き寄せ、ハヤトは足元に銃口を向けトリガーを引く。
放たれた緑のそれは、2人の足元に円となって広がると、ふわりと浮かせ落ちることを食い止める。完全に空いた穴は暗く底が見えない。ハヤトはルエを横抱きにしようとして、
「……っ」
あまり言いたくはないが、重い。ハヤトが非力なのか、それともゼロが馬鹿力なのか、いや両方かもしれないが、兎にも角にもハヤトにはルエを抱き上げる力がなかった。
「だだだだだ大丈夫です!降りれます!」
ルエも内心、実は自分が重いのかもしれないと焦り、耳まで真っ赤になりながら円から飛び降り、崩れていない足場に着地する。今のハヤトにはわからないが、レイの、つまりはゼロの妹なのだからハヤトより運動神経がいいのは間違いない。ハヤトも降り隣に並ぶと、気まずそうに視線を反らす。
「すまない」
「大丈夫です!私がきっと、ううん絶対重いんですから!」
「そんな」
否定の言葉を口にしようとして、何かに気づいたように視線を竹林の奥へ向ける。
「あーんもう、ダメだったー」
伸びをしつつ姿を現したのは、黄色髪の少女だった。ハヤトと同じ年頃と思われる彼女は、大きめの丸眼鏡を外すと、ポケットから布を取り出し眼鏡を拭くとまたかける。
服装は東のそれだが、彼女が先程の術を紡いだのならば、彼女は南の生まれということになる。彼女は首につけたチョーカーに手をやり、ハヤトを値踏みするように眺めた。
「ねぇ、キミ。ルドベキアの屋敷から来たんでしょー?神機まで持ってさ。でも西の奴じゃない。話、聞かせてくんない?」
「いきなり仕掛けるような奴と話せと?」
「まぁ、それもそーだよね。でもキミ、あの茶髪の子のオトモダチだよね?隠してるけどバレバレだよ?」
茶髪、つまりはゼロのことだろうが、だとすれば彼女はゼロと会っていることになる。ハヤトはいつでも詞を紡ぐ心構えをしつつ、あまり表情を崩さない少女を睨みつける。
「今頃、ポルが殺しちゃってるかも?まだ間に合うかなー?」
腰まである髪を指でくるくると巻きつつ、あまり興味がなさそうに言い放つ。瞳に鋭さを増したハヤトが、話す必要がないと答えようとして。
「あ!ハヤト、ルーちゃん!」
呑気にも、そのゼロはハヤトたちと少女の間からひょこりと顔を出してきたのだ。
「ゼ、ゼロ!」
慌てて駆け寄るルエが、これでもかというようにゼロの身体を触る。どこも怪我をしていないことがわかると、やっと安心したのか触るのをやめた。
「ポルは?ポルはどうしたの……!?」
「あー、ポルックス?来てるぜ、ほれ」
ゼロが親指で自分の後ろを示す。少し遅れて、少女と顔立ちのよく似た、緑髪の少年がよろよろとやってくる。
「姉さん、ごめんー……」
半泣きの少年は、そのまま地面にへたり込んでしまうと、もう歩けないとばかりに泣き出してしまう。
「ポルに何したの!答えによっては……!」
「何ってか……」
困ったように頬をかき、それからゼロは少年の頭を優しく撫でてやりつつ、
「勝手に落とし穴に落ちたんだよ、こいつ」
「姉ざーん、本当にごめんなざいー!」
撫でられたことで、さらに泣き出した少年に冷たい視線を送りつつ、ハヤトは早く竹林から出たいと、既に暗くなった空にため息をついた。




