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僕を忘れた君へと紡ぐ。東編  作者: とかげになりたい僕
使える者、仕える者。
22/51

桃の君を抱き締めて、

 ※



 道中、何も言葉を交わさず黙々と歩き続ける3人に、先頭を歩くルドベキアが盛大なため息と共に振り返る。

「しけた面をするな。阿呆は阿呆らしく、踊り狂えば構わん」

「おっさん、いい加減にさ」

「今日から阿呆共は、隣に行ってもらう必要があるのだしな」

 ゼロのことを無視し話を進めると、ルドベキアはにやりと笑い、その視線をハヤトに向ける。意図が掴めないハヤトは、怪訝そうにしながらも、その視線を黙って受け止めるしかない。

中央(セントラル)にもあるだろう?領地ってやつが」

 それで汲み取ったのか、ハヤトは納得したとばかりに頷く。ゼロはわかっていないのか、ルエとお互いの顔を見合わせたまま固まっている。

「……中央(セントラル)には、俺たちウィンチェスターが所有する土地と、違う騎族が治めている土地があるのは知ってるな?」

「あー、そうだったのかー」

 視線を彷徨わせるゼロを見、騎士になる際何を学んでいたのかと声を荒げたくなる。しかし、それをしたところで何も変わらないと諦め、ハヤトはわかりやすくため息をつくだけにする。

「ま、つまりは(ここ)も同じで、俺様のいるここは都のお膝元になるわけだ。だが、(くだん)の……よし、入れ」

 昨日の部屋に案内され、全員が入るのを確認し、ドロップが辺りを注意しつつ扉を閉めた。

「俺様にも兄弟はいる。だが仲良しのサガレリエットんとこと違って、欲望に忠実な奴らばっかりだ。自分らの領地で、何をしてるのか探らせてもくれねぇ」

 サガレリエットと、一瞬ゼロに視線をやるが、それに気づいたのは本人だけで、ルエは悲しげに視線を落とす。

「兄弟で、そんなこと……」

「お手手繋いできた奴には理解できねぇだろうよ。理解してもらうつもりもねぇ。それが俺様たちの在り方だからな」

 その表情からは何も読み取れないが、それが本当ならばなぜ自分を助けようとしてくれるのか。ルエにはその真意がわからず、ただ黙ってルドベキアを見つめ返すしかできない。

 ルドベキアは控えているスノウに示すと、悪戯を思いついたような笑みを浮かべる。スノウは示された通り、隅にあったいくつかの箱をハヤトたちの前に並べていく。

「とりあえず、だ。気づいてるとは思うが、阿呆共の服は目立つからな。いくつか見繕ったから、それ着たらさっさと向かうこったな」

 あまり表情を崩さないスノウが、この時ばかりは少し楽しげに動くのを見て、やはり王族と取り巻きは読めないと改めてゼロは思うのだった。





 襟付きの白いシャツに、薄い水色の服――着物を羽織り、黒いズボン――もちろん袴だ――に身を包んだハヤトは、着慣れない服装に困惑しつつも、部屋の外で後の2人が出てくるのを待った。見える中庭――着替える際、庭園ということを教えてもらった――は、毎日手入れされているのか、雑草の1本すら生えていない。

 大したものだと心の中で称賛していると、力任せに扉を開く音が聞こえた。恐らくゼロだと、少し考えろと苦言を零そうと振り返り、その姿に、正確には髪色を見て何も言えなくなる。

 いつもの白髪ではなく、それは一般的な茶髪であり、服装も自分とは異なり、白の襟付きシャツに黒のズボンという動きやすい格好だ。腰から提げた剣も、これならまぁ違和感はないだろう。

「ゼロ、髪はどうした?」

「ウィッグってやつだとよ。動かないようにしてくれたから、少しくらいならずれないってさ」

 ということは、地毛に被せて固定しているのだろうか。中央(セントラル)では見ないものに感嘆しつつ、ルエも何かしら被るのだろうと、内心楽しみに待つことに。



「お待たせしてすみません」

 先程のゼロとは正反対に、遠慮がちに扉が開かれ、ルエがおずおずと出てくる。

 ルエも茶髪になっており、その髪を纏め上げお団子にしている。挿してある髪飾りが、日光に照らされる度控えめに揺れる。

「ルーちゃんとお揃い!てかルーちゃん可愛い!」

 桃色の、ハヤトの着物と似ているそれは、袖の部分が長く、そして紺色の袴には小さな花の刺繍が入っている。

「ふりそで、っていうお洋服らしいです。皆さんが着ているらしく、違和感なく歩けるかなと」

 少し頬を染めながらくるりと回ってみせたルエに、ゼロは可愛い似合うと興奮している。似合うと言うタイミングを逃し、ハヤトは興味がなさげに背を向けてしまう。

「あ……、ごめんなさい。少しはしゃぎ過ぎてしまいました」

「ハヤトー、ルーちゃん困ってるだろー。全く」

 目を伏せたルエにフォローを入れつつ、ゼロは背を向けたままの親友を見る。本当は何かしら言いたいのだ、この男は。それを知りつつも、妹を泣かせた罰だとばかりにゼロは助け舟を出すつもりはない。3人の後から出てきたルドベキアが満足げに笑い、ドロップに視線をやる。

「外まで送ってやれ。隣には都から馬車が出ている。それに乗って向かうといい。あぁ、それから目は後でドロップになんとかしてもらえ」

 無言で歩き出すドロップと、歩き慣れないルエの手を取ってゼロも歩き出す。ハヤトも追いかけようとして、その肩をルドベキアに掴まれてしまう。

「何を」

「アリア。この名を知っているな?」

 はっとした表情でルドベキアを見、それからハヤトはふいと視線を反らす。

「最近、若い女子供、それから墓荒らしをされている。その際、アリアという女が関わっていると掴んだ」

「……その女なら、15年ほど前に死んでいる」

「なるほど。なら、他人の空似かもしれないなぁ」

 含みのある言い方をするものだ。そこまで掴んでいて、尚も自分を向かわせようとするところが特に嫌らしい。

 ハヤトは面倒くさげに手を払いのけ、ルエたちの後を追い出す。本当にそうなら、片付けるのは自分の役目だ、そう胸の内に決め込んで。

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