桃の君を抱き締めて、
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道中、何も言葉を交わさず黙々と歩き続ける3人に、先頭を歩くルドベキアが盛大なため息と共に振り返る。
「しけた面をするな。阿呆は阿呆らしく、踊り狂えば構わん」
「おっさん、いい加減にさ」
「今日から阿呆共は、隣に行ってもらう必要があるのだしな」
ゼロのことを無視し話を進めると、ルドベキアはにやりと笑い、その視線をハヤトに向ける。意図が掴めないハヤトは、怪訝そうにしながらも、その視線を黙って受け止めるしかない。
「中央にもあるだろう?領地ってやつが」
それで汲み取ったのか、ハヤトは納得したとばかりに頷く。ゼロはわかっていないのか、ルエとお互いの顔を見合わせたまま固まっている。
「……中央には、俺たちウィンチェスターが所有する土地と、違う騎族が治めている土地があるのは知ってるな?」
「あー、そうだったのかー」
視線を彷徨わせるゼロを見、騎士になる際何を学んでいたのかと声を荒げたくなる。しかし、それをしたところで何も変わらないと諦め、ハヤトはわかりやすくため息をつくだけにする。
「ま、つまりは東も同じで、俺様のいるここは都のお膝元になるわけだ。だが、件の……よし、入れ」
昨日の部屋に案内され、全員が入るのを確認し、ドロップが辺りを注意しつつ扉を閉めた。
「俺様にも兄弟はいる。だが仲良しのサガレリエットんとこと違って、欲望に忠実な奴らばっかりだ。自分らの領地で、何をしてるのか探らせてもくれねぇ」
サガレリエットと、一瞬ゼロに視線をやるが、それに気づいたのは本人だけで、ルエは悲しげに視線を落とす。
「兄弟で、そんなこと……」
「お手手繋いできた奴には理解できねぇだろうよ。理解してもらうつもりもねぇ。それが俺様たちの在り方だからな」
その表情からは何も読み取れないが、それが本当ならばなぜ自分を助けようとしてくれるのか。ルエにはその真意がわからず、ただ黙ってルドベキアを見つめ返すしかできない。
ルドベキアは控えているスノウに示すと、悪戯を思いついたような笑みを浮かべる。スノウは示された通り、隅にあったいくつかの箱をハヤトたちの前に並べていく。
「とりあえず、だ。気づいてるとは思うが、阿呆共の服は目立つからな。いくつか見繕ったから、それ着たらさっさと向かうこったな」
あまり表情を崩さないスノウが、この時ばかりは少し楽しげに動くのを見て、やはり王族と取り巻きは読めないと改めてゼロは思うのだった。
襟付きの白いシャツに、薄い水色の服――着物を羽織り、黒いズボン――もちろん袴だ――に身を包んだハヤトは、着慣れない服装に困惑しつつも、部屋の外で後の2人が出てくるのを待った。見える中庭――着替える際、庭園ということを教えてもらった――は、毎日手入れされているのか、雑草の1本すら生えていない。
大したものだと心の中で称賛していると、力任せに扉を開く音が聞こえた。恐らくゼロだと、少し考えろと苦言を零そうと振り返り、その姿に、正確には髪色を見て何も言えなくなる。
いつもの白髪ではなく、それは一般的な茶髪であり、服装も自分とは異なり、白の襟付きシャツに黒のズボンという動きやすい格好だ。腰から提げた剣も、これならまぁ違和感はないだろう。
「ゼロ、髪はどうした?」
「ウィッグってやつだとよ。動かないようにしてくれたから、少しくらいならずれないってさ」
ということは、地毛に被せて固定しているのだろうか。中央では見ないものに感嘆しつつ、ルエも何かしら被るのだろうと、内心楽しみに待つことに。
「お待たせしてすみません」
先程のゼロとは正反対に、遠慮がちに扉が開かれ、ルエがおずおずと出てくる。
ルエも茶髪になっており、その髪を纏め上げお団子にしている。挿してある髪飾りが、日光に照らされる度控えめに揺れる。
「ルーちゃんとお揃い!てかルーちゃん可愛い!」
桃色の、ハヤトの着物と似ているそれは、袖の部分が長く、そして紺色の袴には小さな花の刺繍が入っている。
「ふりそで、っていうお洋服らしいです。皆さんが着ているらしく、違和感なく歩けるかなと」
少し頬を染めながらくるりと回ってみせたルエに、ゼロは可愛い似合うと興奮している。似合うと言うタイミングを逃し、ハヤトは興味がなさげに背を向けてしまう。
「あ……、ごめんなさい。少しはしゃぎ過ぎてしまいました」
「ハヤトー、ルーちゃん困ってるだろー。全く」
目を伏せたルエにフォローを入れつつ、ゼロは背を向けたままの親友を見る。本当は何かしら言いたいのだ、この男は。それを知りつつも、妹を泣かせた罰だとばかりにゼロは助け舟を出すつもりはない。3人の後から出てきたルドベキアが満足げに笑い、ドロップに視線をやる。
「外まで送ってやれ。隣には都から馬車が出ている。それに乗って向かうといい。あぁ、それから目は後でドロップになんとかしてもらえ」
無言で歩き出すドロップと、歩き慣れないルエの手を取ってゼロも歩き出す。ハヤトも追いかけようとして、その肩をルドベキアに掴まれてしまう。
「何を」
「アリア。この名を知っているな?」
はっとした表情でルドベキアを見、それからハヤトはふいと視線を反らす。
「最近、若い女子供、それから墓荒らしをされている。その際、アリアという女が関わっていると掴んだ」
「……その女なら、15年ほど前に死んでいる」
「なるほど。なら、他人の空似かもしれないなぁ」
含みのある言い方をするものだ。そこまで掴んでいて、尚も自分を向かわせようとするところが特に嫌らしい。
ハヤトは面倒くさげに手を払いのけ、ルエたちの後を追い出す。本当にそうなら、片付けるのは自分の役目だ、そう胸の内に決め込んで。




