遠い日の仕草を、
※
本当は違う。
嫌いなわけがない、嫌いになるはずがない。
それでもそう言ったのは、自分の気持ちに嘘をつくため。
誰ももう傷つけたくはない。2人には心配をかけたくない。それなら自分が傷つけばいい。嘘を貫いて、最後までやり遂げたら、自分自身の嘘を解いて消えてしまうのもありかもしれない。
それを打ち明けたら、それこそ止められてしまうだろう。だからこれは、全てが終わるまでの、ルエなりの虚勢でもある。
想い人の青髪の彼は、短い相槌だけ打って何も語ろうとはしない。こちらの声が震えているのを知っていて、振り向きもしない。それを淋しいと感じることこそ、ただの自分の我儘だ。
「ちゃんと戻る。部屋で待ってろ」
きっとその言葉は彼なりの優しさだと、ルエは胸の前で組んだ手をほどき、歩いていく後ろ姿を見送る。これ以上追いかけてはいけないと自制し、ルエも言われた通り部屋へ戻ろうと来た道を戻る。
きっと落ち着いたゼロが、いつも通り笑って出迎えてくれるのだろう。
ハヤトが屋敷内を見て回ると、いくつかわかってきたことがある。
どうやらここは、ルドベキアの私的な屋敷であり、配置された兵士も付き人も最小限しかいない。先程の中庭から塀の向こうに、少し高い木造の建物が見える。遠目で見て高いことがわかるのだから、恐らくそれなりに高い、つまりは東の城なのだろう。
東の民は揃って同じ服を着ているようで、ハヤトたち3人の姿はここでは目立つことも理解できた。ならば、同じような服を明日にでも手配してもらわないといけないと考える。
レイナが似たような服を着ていたが、あれよりももっと礼節があり、質素なそれは少し動きにくそうでもある。かといって、レイナのように短くするのもどうかとは思う。
沈みかけている日を眺め、そういえば昔、南にいた時も同じように日を眺めていた時があったと思い出す。
――かあさん、とうさんはなにをしてるの?――
ハヤトがおっきくなったらわかるわよ?
――とうさんも、おんなじ?――
おんなじ、じゃないかなぁ?おんなじ、なのかなぁ?
そう、水の村は、近くに海岸があって。
そこに夕暮れ時に母親と行くのが好きで。
父親、ジェッタのことを聞くたび、母親は少しはにかんで、どこか淋しそうな目で答えてくれた。
あの時の夕日と似ているそれは、なぜだかハヤトの胸の内をざわつかせ。
ハヤトは早く戻ろうと夕日に背を向けた。
※
「ハヤト!おっせーよ!」
扉を開けてこちらが何か言う前に、ゼロが掴みかかる勢いで飛びついてきた。なんだろう、先程のルエの件だろうか。それならむしろ、振られたのはこちらなのだがと言いたい。
「……煩い。なんだ」
謝ろうと考えていた自分がアホらしく、ハヤトは冷たい視線と共にゼロを見上げる。こういう時、自分より少し高い身長が気に食わないが、まぁ仕方がないので目を瞑る。
「ここってさ、神機整備できねーじゃん!オレどーすればいい?てか神機あんま使うなって言われたんだけど!」
ハヤトの胸倉を掴み揺さぶるゼロには、当たり前だが悪気はない。いや、ないぶんだけ質が悪いとも言う。
「煩い、離せ、座れ。東は神技を使う、神機を使う必要がない。それに」
無理矢理ゼロを引き離し、乱れた首元を整える。
「西と東は基本交流がない。特に南の……あの事件以来、全くといっていいほど、国交は途絶えたままだ。民がお互いを行き来するには、今では中央を経由するしかない」
「あー、ん?でも東で神機が作られてて、でも交流はなくて……」
頭に手をやり考えだしたゼロを押し退け、適当な椅子に座り机に愛銃を静かに置く。少し遅れて、ベッドに座っていたルエが確認するように話し始める。
「誰か、中央で手引きしているんですね?どこも王族が関与していないとなると、反乱が目的……?戦争させたい、とかですか……?」
ハヤトは静かに頷き、
「作られていないはずの神機。持っていないはずの神機。それを以て国内反乱を起こせばどうなる?民はそれを西の侵攻だと思うだろう」
愛銃を手に取り、筒を取り出すと慣れた手つきで神力を込める。それを入れる前に、銃を確認するように色々な角度から眺め、納得したのか筒を入れた。
「しかもそれが、有機物を神機にするという冒涜付きだ。いい餌だろうな」
立ち上がり銃を腰に戻すと、ハヤトは入口の扉近くで座り込む。どうやらそこで寝るらしい。
「そんなん、ルドベキアのおっさんに任せればいーだろ?」
王族をおっさん呼ばわりするのは相変わらずで。
それをハヤトが注意したところで、流されるのもいつものことだ。それなら言うだけ無駄だとハヤトも受け流す。
「そういう奴らが、王族の顔を知らないわけがないだろう。特にルドベキア殿下と、その剣と盾は熟知しているはずだ。だったら尚のこと、俺たちが来たのはいい案配だったんだろう」
それだけ言ってしまうと、疲れが溜まっていたのか、ハヤトからは直ぐに寝息が漏れ出した。それに半分呆れながらも、今度はゼロが代わりに椅子に座りルエに笑いかける。
「ルーちゃんも寝なよ。オレ起きてるからさ。疲れただろ?」
「ゼロは?」
「眠くなったらハヤト叩き起こすし、安心して大丈夫」
いつも通り笑うゼロに少し安心し、ルエもベッドに潜り込むと直ぐに布団が上下し始めた。それを優しく見つめ、ゼロは眠気を飛ばすようにひとつ伸びをした。




