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僕を忘れた君へと紡ぐ。東編  作者: とかげになりたい僕
使える者、仕える者。
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ゆずれない、意地。

 



 屋敷内を見て回ればいいとは言われたものの、人様の敷地内を勝手にうろつくのは若干気が引ける。かといって、3人の間の空気は重いままだ。普段なら明るいゼロでさえ何か思うことがあるのか、用意された椅子の背に手を回した状態で座ったまま動かない。

「……あの」

「あのさー」

 ルエとゼロの声が被り、ルエはゼロにどうぞと示す。気まずそうにしながらも、ゼロは頬を掻きつつ話を切り出した。

「オレ、確かに剣として間違ってたかもしんない。それでもオレは、たぶんまた同じことをする」

 隅で壁にもたれかかったままのハヤトからため息が聞こえた。しかし口を挟んでこないところを見ると、とりあえずは聞くつもりらしい。ゼロは床に視線を落としたままで続ける。

「ルーちゃん守りたいのは変わらない。んで、オレはハヤトにもそんなんさせない。それで2人とも守るから。わかったら覚悟しといてほしい」

「覚悟って……」

 ぽかんとするルエとは反対に、ハヤトは壁を力任せに叩く。ルエがびくりとハヤトを見る。明らかに怒りを含んでいるそれは、視線と共にゼロに向けられたものであることは明らかで。

「守る?お前はいつも甘いことばかりだな。俺たちが守れるものなんて、最初から決まっている。肝心な時に覚悟がない奴ほど、そうやって言って、結局何も守れはしない!」

「ハヤトは諦めてばっかだよな!オレは諦めない!オレ自身のことも、オレが望むことも!もう諦めないって今決めたんだ!」

 勢いをつけて立ち上がった反動で、座っていた椅子が床に叩きつけられる。ベッドの縁に座ったままのルエは、ただおろおろと2人の顔を交互に見ることしかできない。

 お互い引かない状況で、先にハヤトが2人に背を向ける。

「……頭を冷やしてくる。夜には戻る」

 返事を聞かずして出ていくハヤトを、ルエが不安げに見送る。彼に伝えないといけない言葉があるのは、ルエだってそうだ。

 それを察したのか、ゼロが倒れた椅子を戻しつつ声をかけてやる。ルエには視線をやらずに。

「……行ってやりなよ。オレもここで頭冷やしてるからさ」

「ゼロ……、ありがとうございます」

 まだ少しふらつく足取りだが、先程よりかは幾分ましになったようで、ルエはゼロに軽く頭を下げて追いかけていく。ゼロはまた椅子の背を抱くようにして座ると、頭をくしゃりと掻いた。






 諦めてばかり。

 ゼロが言い放った言葉は、あながち間違ってはおらず、そしてそれはハヤトにとって昔の日々を思い出す嫌な言葉になっていた。

 いつだったか。自分が8歳になる頃、(サウス)へ仕事に行くと言ったジェッタに連れられ、そこで孤児院にいたゼロと会ったのだ。あの時のゼロは今と違い、どちらかと言えば暗いほうで、あまり人と話すような子供ではなかった。

 聞くところによると、ゼロの面倒を見ていた商人が亡くなったらしく、それを機に孤児院に入ったらしいのだが、いかんせん馴染めず、浮いた存在になっているとのことで。年の近いハヤトなら何か話すかもしれないと、それもあり連れて来られたのが正しい。


 虚ろな目をしていたゼロは、どこか自分に似ていた。

 全てを諦めたような、気力も無くなってしまったような。同じような自分が話しかけて何か変わるのだろうかと、むしろ悪くなるのではないかと不安に感じたが、この為に来たのだしと奮い立たせ、ハヤトはゼロに話しかけたのだ。

 ゼロは最初、ハヤトを見て目を丸くしていた。色々聞かれ話す内、本当のゼロは明るい奴なのだとわかるまでにはなった。しかし、ゼロ自身のことについては余り話さなかった覚えもある。

 その中で、ゼロに言われたのが「諦めてばかり」の一言。確か、あれは……。


「ハヤトくん!」

 急に呼ばれ振り向けば、少し息を切らしたルエの姿。ある程度の距離を保ったまま、ルエは何かを切り出そうとして、しかし言葉が見つからないのか、手を胸の前で組んだまま立ち止まった。

「何か用か?」

 なるべくいつも通りに声をかけてやる。

「用がないなら部屋に戻るといい。いくら殿下が許可したといっても、ここでは余り不用意に歩くものじゃない」

 恐らく、国王陛下は今すぐにでもルエを裁きたいはずなのだ。それを止めているのがルドベキアならば、余り迷惑をかけることもできない。

 何も言わないルエに痺れを切らし、ハヤトはため息と共に背を向ける。自分が離れれば、諦めて戻るだろうと思って。

「……私は、貴方に破壊(こわ)されるつもりはありません」

 零された呟きに足が止まる。

「わざわざそれを言いに来たのか?」

 背を向けたままで問う。なるべく感情がこもらないように。

「だって……」

 微かにルエの声が震えているのは、きっと気のせいではない。気づきながらも、ハヤトは振り向くことができない。

「だって私、貴方のこと……嫌い、ですから……」

「そうか」

「嫌いだから、もう感情が昂ぶることもないです。だから、貴方が私を破壊(こわ)すことなんて、絶対にないですから……」

「そうか」

 背を向けたハヤトからはルエが見えない。後ろからすすり泣く声が聞こえたとしても、向き合うつもりもない。きっと振り向けばまた抱き締める。そして彼女をまた傷つける。

 本当に諦めてばかりだと自嘲し、それでもせめて、彼女の盾として、彼女が決めた道を切り開いていこうと。

「ちゃんと戻る。部屋で待ってろ」

 返事を待たず、ハヤトは歩きだした。適当に歩いて、戻ったらゼロに少しは悪かったと言うのも悪くはないかもしれない。


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