表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を忘れた君へと紡ぐ。東編  作者: とかげになりたい僕
使える者、仕える者。
18/51

守りたい願いの代償。

 ※



 少し遅れてゼロも部屋を案内される。ハヤトたちと同じ道を辿り、これまた同じように中庭を見ていると。


「おにぃちゃーん!」


 前方から駆けてくる見覚えのある人影に、思わずゼロの頬が緩んだ。屈んでその人影を抱き留めてやると、ふわりと優しい香りが鼻をくすぐった。

「スピカ、大丈夫だったのか?なんともなかったか?」

 抱き留められたスピカは元気に頷き、その純粋な笑顔をゼロに向ける。それに安堵し、ゼロはさらに強くスピカを抱き締めた。

「もぅ、おにぃちゃん、痛いよぉ」

「うおお。ごめんな、スピカ!」

 離してやり、頭を優しく撫でてやる。気持ちよさげに目を細めるスピカに、これ以上怖いことが起こりませんようにと、心の中で強く願う。

 そういえば、とゼロは立ち上がり、辺りを見回す。案の定、少し遅れて追いついてきたミモザの姿を認め、ゼロはスピカを抱き上げるとミモザへと歩いていく。ドロップが早くしろと言わんばかりに睨んできたが、ゼロがそれを気にするわけもなく。

「ミモザも無事だったんだな!ほんとよかったぜー!」

 にかっと笑いスピカを近くに降ろしてやる。しかしミモザからの反応がない。不思議に思い、ゼロがどうしたと聞こうとすると。

「ルエ様のお気持ちを知っていたのに。なのに私は……」

「ミモザ……?」

「でも私は、スピカを連れていかないといけないんです。何を犠牲にしても!あの人と約束したから!」

 困ったように、怯えたように、スピカがゼロの手を握る。それを優しく握り返してやり、縋りつくように言い放ったミモザの言葉を飲み下す。

 自分には、何があってルエがああなったのかわからない。ハヤトの様子を見るに、きっと彼は何か掴んでいたのだろう。しかしそれを自分に知らさなかったということは、自分では役に立たないと判断されたからだろう。

 それも酷く悲しい。そしてミモザの言葉を、否定してやれない自分が惨めだ。

「……哀しい色、か」

 ゼロがぽつりと零す。

「何を犠牲にしても。わかるよそれ。自分が犠牲になっても、全くの赤の他人がどうなっても、守りたい奴がいる」

 涙で濡れた瞳がゼロを捉える。

「でも結局それって、守りたい奴を笑顔にさせること、出来ないんだよ。守られた奴は多分責めるんだ、自分を。自分のせいでって。そしたらそれって、笑顔じゃなくなってるんだよな」

 大きい手でスピカを撫でる。ミモザが守りたいのは、この笑顔のはずなのだ。きっと、スピカの父親もそう願ったはず。ゼロは口元を歪めるように笑い、優しくミモザを見つめた。

「オレはさ、何があったのか知らないし、聞かない。だけど、スピカを笑顔にしたいなら、まずミモザが笑わないとな」

 自分がそうであるように。

 スピカの背中を押してやると、ミモザの足にぎゅっとしがみつき、少しぎこちないが笑顔を浮かべる。それを屈んで抱き締めると、ミモザは静かに涙を流した。

 少し落ち着くのを待ち、ミモザが涙を拭いて立ち上がると、ゼロはいつもの調子で切り出した。

(イスト)で何すんだ、2人とも」

「あまり詳しくは話せないのですが……。(サウス)で会った商人さんが、(イスト)に来れば職を紹介してくれると。娘とはいえ、禁忌を侵した私どもは(サウス)にはいれないので……」

「あー、そっかー」

 白髪はあまりいい目で見られない。特に、(サウス)は神の加護を受け継いだ者が多い。その中で無加護の証は生きづらく、ともすれば裏切りの証だと言われてしまう。

 ゼロ自身もそれはよく知っている。だからあまり深く聞かず、気をつけてなと2人と別れるだけに留まった。

 正直、紹介してくれる職が何か気にならなかったわけではない。しかしそれを言ったとして。ゼロにはどうしようもないことも、事実なのだから。






 案内された部屋に入ると。


 お見合いよろしく、ベッドに並んで座るハヤトとルエの姿が。もちろんゼロがそれを許すはずはなく。

「うおおい、何してんだよハヤト!オレの目が生きた魚の内はやらせねーよ!?」

 2人の間に割り込むようにして入ると、びしりとハヤトに指を突きつけた。相変わらずの溺愛ぶりに、流石のハヤトも呆れ顔である。

「違う、勘違いするな」

「そ、そうですゼロ。私が途中ふらついてしまって……、ハヤトくんが運んでくれただけなんです」

 慌てて弁明するルエの様子を見るに、どうやら嘘ではないらしい。だとすれば、それはそれでルエの体調が気になるところではある。ゼロはルエの額に自分の額を合わせると、

「熱、はないみたいだな。悪かったらちゃんと言うんだぞ?」

 ルエ自身も慣れているようで、特別慌てた様子もなく頷き返す。それに少し苛立ちを感じるが、ハヤトにはそれを言う権利も義務もないことをわかっている。

 ゼロの後に入ってきたドロップの隣にスノウが並び、2人は咳払いを揃ってする。主にドロップがゼロを睨みつけ口を開く。

「今日のところはもう休むといい。詳しい話はまた明日にでもする。邪魔にならない程度であれば、屋敷内を見て回ることも可能だ」

「ではアタシたちはこれで」

 ぴしゃりと閉まった扉をしばらく眺め、はっとしたようにゼロが声をあげる。

「いやいや!ベッドひとつしかねーじゃん!」

 男2人が床で寝ることになるのは、言うまでもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ