唯一出来る答えを探して。
※
時は少し遡る。
意識が戻る。
少し重い身体と瞼は、一瞬自分ではないのかと錯覚するほどには、言うことを聞いてはくれなかった。それでも動かそうとすると、最初に瞼がゆっくりと開いた。
「……ここ、は」
掠れた声が出、全身に電気が巡るような痛み。それから、どこかすっきりした心。身体は重いが、反対に心は軽いのが腑に落ちない。ルエはゆっくり身体を起こし、自分がどうなっているのか確認していく。
薄い白の布地だけを着ている状態で、少しそれに恥ずかしさを感じつつも、鮮明になっていく記憶に吐き気を催す。
「私……私……どれだけの人を……?」
「ざっと数えて10人は確実だ」
質問に答える声に肩を震わせつつも、その声の主に視線をやる。自分と同じ黒髪黒目の、30代半ばほどの男だ。
「まぁ、10ってのは少なく見積もって、だ。それで罪人、話をしよう」
罪人、の言葉にルエの表情が暗くなる。もちろん言われても仕方のないことだと理解はしている。
「まず俺様は、ルドベキア・シャルド・ピオニー。罪人、お前の従兄だ」
「いと、こ?」
従兄。つまりそれは、自分とは親族関係に当たるということで。
理解が追いついていないことを察したのか、ルドベキアは呆れと、そして少しの苦笑いと共にルエの寝ているベッドの縁に座る。大きな手がルエの頭に乗り。
ルエは反射で目を閉じるが、その手は、ただ優しく頭を撫でるだけで。
「ルド、ベキア様……?」
「辛いだろう。手なんか汚したこともなけりゃ、そんなことさせるつもりもなかったろうに」
ルエを罪人と罵るも、この従兄は本心で言っているわけではない。それが手の暖かさと、今の言葉だけで十分に伝わってくる。しかし、それでもこの従兄は、自分を罪人と責めなければいけないのだろう。
そうさせてしまった自分が惨めで、情けなく、ルエは耐えきれず嗚咽を零す。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!私、何も考えてなくて。考えられなくて……!」
「そうだな。でも、もうどうしようもねぇんだ、これが。罪人はどうする?何を考える?」
「……」
シーツに作った涙の跡をぼんやり見つめ、強く強くシーツを握りしめる。きゅっと結んだ口からは、これ以上嗚咽を零さないように、言い訳と逃げを言わないようにしているようで、ルドベキアはただ黙って続きを待った。
「お城……」
「ん?」
ぽつり、ぽつり。
一言一言を、ただ自分に言い聞かせるように。
「私は、王族に戻ります。だからお城を……お城と石、それから神使団、紋……。私は全部全部元に戻して、全て背負って、まとめます」
「罪人は生きるのか?しかも王族として?」
ルドベキアの、試すような鋭い眼光に気後れしてしまいそうになる。それでもルエは、落ち着くように息を吐き、
「消えるわけじゃない。還ってくるわけでもない。それでも私は、そうして進みます」
俯いていた顔を上げると、ルドベキアの何かを決めたような視線と混ざり合い、そして彼は緊張していたのを解すかのように一息ついた。
「それなら罪人は、感情を時には殺して生きていく必要がある。それは思うより残酷で、傷つける生き方になるだろう」
それはかつて、ルドベキアがしてしまったことのように。
「幸せになることは、私にとって罰になります。人を傷つけることも、私への罰、なのでしょう」
そう悲しげに微笑んだルエの頭をくしゃりと撫でる。自分と同じ黒髪は、絹のようにさらさらと流れ、それはまるで手から幸せが落ちていくような、そんな苦い感情を覚える。
「よし。とりあえずは、罪人の身柄は東のもんだ。今から剣と盾に会いに行く。来るか?罪人」
にやりと笑う姿は、ルエの答えなどわかっているとでも言いたげで。こくりと頷くルエに、ルドベキアは外に控えていた兵士に何かを伝える。
暫く待つと、兵士が何か抱えて戻ってきた。それは綺麗になったルエの服で、それを半ば乱暴に投げ渡すと、ルドベキアはひらひらと手を振り外へと出ていった。
渡された服をただただ強く抱きしめ。
ルエは決意を決めたように、ベッドから足をおろした。
※
そして今に戻る。
スノウに案内されるままついていく中、ハヤトは東の光景に物珍しさを感じていた。
先程はあまり見る余裕がなかったが、この屋敷をよく見てみると、中央とは建物の造りから違うことがわかる。木を主体にした柱や手すり、床、さらには中庭とでも言うのか、そこには小さな湖があり、周囲には手入れされた草木が生えている。
まるでそれは作品のようで、ルエは気づかぬうちに足が止まり、その美しい光景に見惚れていた。少し先を歩くハヤトが、ルエが止まっていることに気づき、スノウに一声かけルエの隣に並ぶ。
「……身体は、大丈夫か?」
「え?あぁ、はい」
そう笑うルエの表情は固い。
それはそうだろう、銃口を向けたのは自分なのだから。許されなくても仕方がないことだ。その覚悟もあったし、最初からゼロに負わせるつもりもない役目だった。
髪に触れようと無意識に手が伸びる。しかしそれは、明らかな拒絶の意思を持ったルエの手によって払われ、行き場の無くなった手は払われた形のまま止まった。
「ごめんなさい。私……」
「いや、すまない」
何かを言いかけたルエを遮るように謝り、ハヤトは何も言うことなくスノウの元へと戻る。背を向けたハヤトは知らない。
スノウから見えるルエが、泣きそうな、切な気な、それでいて、ハヤトを想う故に拒否している表情をしていたことに。




