表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を忘れた君へと紡ぐ。東編  作者: とかげになりたい僕
使える者、仕える者。
17/51

唯一出来る答えを探して。

 ※



 時は少し遡る。



 意識が戻る。

 少し重い身体と瞼は、一瞬自分ではないのかと錯覚するほどには、言うことを聞いてはくれなかった。それでも動かそうとすると、最初に瞼がゆっくりと開いた。

「……ここ、は」

 掠れた声が出、全身に電気が巡るような痛み。それから、どこかすっきりした心。身体は重いが、反対に心は軽いのが腑に落ちない。ルエはゆっくり身体を起こし、自分がどうなっているのか確認していく。

 薄い白の布地だけを着ている状態で、少しそれに恥ずかしさを感じつつも、鮮明になっていく記憶に吐き気を催す。

「私……私……どれだけの人を……?」

「ざっと数えて10人は確実だ」

 質問に答える声に肩を震わせつつも、その声の主に視線をやる。自分と同じ黒髪黒目の、30代半ばほどの男だ。

「まぁ、10ってのは少なく見積もって、だ。それで罪人、話をしよう」

 罪人、の言葉にルエの表情が暗くなる。もちろん言われても仕方のないことだと理解はしている。

「まず俺様は、ルドベキア・シャルド・ピオニー。罪人、お前の従兄だ」

「いと、こ?」

 従兄。つまりそれは、自分とは親族関係に当たるということで。

 理解が追いついていないことを察したのか、ルドベキアは呆れと、そして少しの苦笑いと共にルエの寝ているベッドの縁に座る。大きな手がルエの頭に乗り。

 ルエは反射で目を閉じるが、その手は、ただ優しく頭を撫でるだけで。

「ルド、ベキア様……?」

「辛いだろう。手なんか汚したこともなけりゃ、そんなことさせるつもりもなかったろうに」

 ルエを罪人と罵るも、この従兄は本心で言っているわけではない。それが手の暖かさと、今の言葉だけで十分に伝わってくる。しかし、それでもこの従兄は、自分を罪人と責めなければいけないのだろう。

 そうさせてしまった自分が惨めで、情けなく、ルエは耐えきれず嗚咽を零す。

「ごめんなさい、ごめんなさい……!私、何も考えてなくて。考えられなくて……!」

「そうだな。でも、もうどうしようもねぇんだ、これが。罪人はどうする?何を考える?」

「……」

 シーツに作った涙の跡をぼんやり見つめ、強く強くシーツを握りしめる。きゅっと結んだ口からは、これ以上嗚咽を零さないように、言い訳と逃げを言わないようにしているようで、ルドベキアはただ黙って続きを待った。

「お城……」

「ん?」

 ぽつり、ぽつり。

 一言一言を、ただ自分に言い聞かせるように。

「私は、王族に戻ります。だからお城を……お城と石、それから神使団(しんしだん)、紋……。私は全部全部元に戻して、全て背負って、まとめます」

「罪人は生きるのか?しかも王族として?」

 ルドベキアの、試すような鋭い眼光に気後れしてしまいそうになる。それでもルエは、落ち着くように息を吐き、

「消えるわけじゃない。還ってくるわけでもない。それでも私は、そうして進みます」

 俯いていた顔を上げると、ルドベキアの何かを決めたような視線と混ざり合い、そして彼は緊張していたのを解すかのように一息ついた。

「それなら罪人は、感情を時には殺して生きていく必要がある。それは思うより残酷で、傷つける生き方になるだろう」

 それはかつて、ルドベキアがしてしまったことのように。

「幸せになることは、私にとって罰になります。人を傷つけることも、私への罰、なのでしょう」

 そう悲しげに微笑んだルエの頭をくしゃりと撫でる。自分と同じ黒髪は、絹のようにさらさらと流れ、それはまるで手から幸せが落ちていくような、そんな苦い感情を覚える。

「よし。とりあえずは、罪人の身柄は(イスト)のもんだ。今から剣と盾に会いに行く。来るか?罪人」

 にやりと笑う姿は、ルエの答えなどわかっているとでも言いたげで。こくりと頷くルエに、ルドベキアは外に控えていた兵士に何かを伝える。

 暫く待つと、兵士が何か抱えて戻ってきた。それは綺麗になったルエの服で、それを半ば乱暴に投げ渡すと、ルドベキアはひらひらと手を振り外へと出ていった。

 渡された服をただただ強く抱きしめ。


 ルエは決意を決めたように、ベッドから足をおろした。



 ※



 そして今に戻る。


 スノウに案内されるままついていく中、ハヤトは(イスト)の光景に物珍しさを感じていた。

 先程はあまり見る余裕がなかったが、この屋敷をよく見てみると、中央(セントラル)とは建物の造りから違うことがわかる。木を主体にした柱や手すり、床、さらには中庭とでも言うのか、そこには小さな湖があり、周囲には手入れされた草木が生えている。

 まるでそれは作品のようで、ルエは気づかぬうちに足が止まり、その美しい光景に見惚れていた。少し先を歩くハヤトが、ルエが止まっていることに気づき、スノウに一声かけルエの隣に並ぶ。

「……身体は、大丈夫か?」

「え?あぁ、はい」

 そう笑うルエの表情は固い。

 それはそうだろう、銃口を向けたのは自分なのだから。許されなくても仕方がないことだ。その覚悟もあったし、最初からゼロに負わせるつもりもない役目だった。

 髪に触れようと無意識に手が伸びる。しかしそれは、明らかな拒絶の意思を持ったルエの手によって払われ、行き場の無くなった手は払われた形のまま止まった。

「ごめんなさい。私……」

「いや、すまない」

 何かを言いかけたルエを遮るように謝り、ハヤトは何も言うことなくスノウの元へと戻る。背を向けたハヤトは知らない。

 スノウから見えるルエが、泣きそうな、切な気な、それでいて、ハヤトを想う故に拒否している表情(かお)をしていたことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ