表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/51

君は何も考えず、

 ※




 3ヶ月。

 青髪青目の少年、ハヤトは自身の家へ向かいながら、この長いような短い期間を思い返していた。


 まだ幼い日を全部思い出せたわけではない。

 霞がかかったように、薄くぼやけている部分も多い。

 それでも自分は自分に出来ることをと、3ヶ月やり続けてきたつもりだ。

 それは書類作成だったり、新しく騎士になりたいと入家してくる少年少女の配属だったり、現存する騎士団への指示だったりと、それはまぁ毎日が目まぐるしく過ぎていくほどだ。


 そんなハヤトが、今日は久しぶりに落ち着いて家に帰っていいと言われた。

 ここ2週間ほどは、ウィンチェスター家が保有している、騎士団の宿舎に寝泊まりをしていた。まぁ、つまるところ、宿舎というのは実家である。

 わざわざ、自身の家から通うのも効率が悪いと思いそうしていたが、先日そうはいかない出来事が起こったのだ。




 いつも通り、訓練所にて他の騎士たちと話していた時のこと。

「あの、ハヤトくんはいますか?」

 そう言ってひょこりと顔を覗かせたのは、王族の証である黒髪黒目を持つ少女。150センチほどの身長、絹のように肩からさらりと流れていく髪に、その場にいる誰もが目を奪われた。

「ルエ、なんでここに……」

 誰もが見惚れる中、ハヤトだけが呆れ顔で口から不満を零す。それを知ってか知らずか、黒髪の少女、ルエはハヤトに名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、ふわりと笑うと軽い足取りでハヤトへと歩み寄る。

「最近、帰ってこないから心配してたんですよ?お仕事なのはわかってますが、あまり続くと、少し不安になってしまいます」

 見上げる瞳が微かに揺れるのを見、少し悪いことをした気にはなるが、だからといって、ここに来るのはどうかと思う。第一、あの煩い番犬はどうしたというのだ。ここに来るのを許すはずがないだろうに。

 どうしたものかと考えあぐねていると、入口の扉をこれまた乱暴に開けて入ってくる人影が。その人影は、ルエがいることを確認すると、にんまりと笑ってズカズカと近づいてきた。

「あぁん?んなとこで何してんだぁ?オヒメサマよぉぉおお」

 茶髪に黄の瞳、ハヤトより背が高い彼は、ルエの頭に手を置くと無遠慮に撫で回す。ルエはそれに反抗するも、明らかな身長差では何ら意味をなさない。

「もうっ、ショウやめてください!怒りますよ!?」

「ほぉぉぉ、怒ったらどうなんだぁ?オレにナニしてくれんだぁ?」

 下品な笑みでルエを見下ろすショウは、相変わらず、ルエを都合のいい玩具としか見ていない。いつもならルエの番犬が噛みつくのだが、しばらく待ってみても反応がないあたり、本当に今日は来ていないのだろう。

 ならば面倒くさいことこの上ないが、自分がこれをやめさせるしかない。本当に面倒くさいのだが。

「ショウ、いい加減にしろ。第一お前、今日は座学のはずだが」

「あぁ?いたのか半分野郎」

 半分、の言葉にため息が零れそうになるのを堪え、ハヤトは撫でている手を掴むと、無理矢理頭から下ろさせる。もちろん、ショウは気に食わないとばかりに顔を歪め、自分よりも低い兄を睨みつける。

 ハヤトも慣れたもので、懐から1枚の紙切れを取り出し、それをショウに突きつける。その紙切れをひったくるようにして奪い、ショウは食い入るように読み、そして顔色を変えてハヤトを見返した。

「なんだよ、こりゃあ……」

「団長からだ。早く言って直談判でも好きにするといい」

「あんのクソオヤジ……!オレは中央(セントラル)っつっただろうがよぉぉお!」

 来たときと同じように慌ただしく出ていく背中を見送り、今度こそため息をついた。少しは可愛くなったかと思ったが、どうにもハヤトの前だとあまり変わらない。

 まぁ、昔のように後ろをついてこられても、それはそれで気持ち悪いものがあるのだが。


 ショウがいなくなったことで、少しは静かになるかと思ったが、ハヤトの思い通りにはならず、むしろ先程とは違う賑やかさが訓練所を満たしていく。もちろん、その中心にいるのは黒髪の少女だ。

 誰にでも優しく、分け隔てなく接する彼女は、すぐに民からも愛されるようになり、それは騎士団内でも例外ではなかった。だからこそ、ハヤトは面倒だと頭を抱えたのに。

「ルエ様、お久しぶりです!」

「元気にしていましたか!」

「自分もルエ様の盾の騎士(シルトリッター)に……」

 中心でわらわらと話しかけられ、慌てるルエが可愛らしい。このまま見ていようかとも思うが、助けを求めるように視線を送られては仕方がない。ハヤトは苦笑いをひとつ零し、

「今日はここまでだ。早く散れ」

 少し言葉をきつめに言うと、名残惜しながらも騎士たちは散っていった。ハヤトより年上だろうに、彼らは素直に従い散っていく。

 ぽつんと残されたルエが、少し拗ねているかのようにハヤトを睨みつけてきた。もちろん、それほど怖くはない。

「もう……、皆さんは何も悪くないんですよ?」

「ここにゼロがいたら発狂しそうな光景だったけどな。ゼロはどうした?」

 隅の机から書類の束を取りつつ、ハヤトは背中ごしにルエに尋ねる。

「ゼロなら、今日は行くとこあるからって、朝から出かけて行きましたよ?私1人ですし、ちょっと淋しかったので来ちゃいました」

 イタズラを話すように笑う顔は、どことなくあの番犬に似ている気がしなくもない。束を持ちつつ、ハヤトは「帰ろう」と先を歩きだした。



 とまぁ、色々面倒だったので、ハヤトは反省を生かし帰ることにしたのだ。結局、あの日帰った後も番犬になんやかんや言われ、疲れが取れることもなく次の日を迎えてしまった。

 言われる前に行動。そのほうが楽だと気づいた。実践は、できているかわからない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ